11月15日 午後 2時49分 はしゃぎ

ギャグ任侠映画の舞台となった強羅温泉。1番大きなホテルでの試写会と、ついでに行われた着物博覧会。はるかの仕事が全て終わった。しばらく自由行動。


「はるか、おつかれさん」

「昴くん。今日の私の仕事、どうだった?」


 天才美少女女優、なまだしあこと田中はるかが感想を求めることは珍しい。だから俺は、なるべく思った通りに答えた。


「着物姿、とってもよく似合っていたよ」

「ありがとう。それだけ?」


 正直言うと、それだけというわけではない。昨日は偶然にも3つの現場で一緒だった天才アイドル多田野ちえみ。俺の中ではただのアイドルさん。今日も着物博覧会で一緒だった。昨日までの2人は、どこかぎくしゃくしていた。今日は逆に息ぴったり。ただのアイドルさんが自重していたのが大きい。


 昨日まではお互いに張り合おうという気持ちが強かったのに、何故?


「そうだねぇ。ただのアイドルさんがおとなしかった気がするんだ」

「やっぱりそうよね……」


 ただのアイドルさんにどんな心の変化があったのだろう。気になってしかたがない。


「まぁまぁ、反省会なら猿でもできるでしょう」

「そうねぇーっ。そんなことより、麓に降りましょうよ」

「急ぎましょう! 早く車に乗って!」

「7人乗りかいな。昴くん、誰か引っかけて来いや!」


 はははっ。みんな調子がいい。仕事していたはるかに遠慮して、羽を伸ばせなかったみたい。終わった途端にはしゃぎだした。俺もはしゃいだに。


「じゃあ、思い切ってただのアイドルさんにでも声かけてみようか」

「えっ、う、うん……別にいいけど……」


 はるかの許しも得られたので、楽屋に行ってみたが、ただのアイドルさんはすでにいなくなったあとだった。


「ええやん。6人でええやん!」


 言い出しっぺの鈴がそう言ったのでは、俺にはなにもできなかった。


 こうして俺たちは、麓の都市、小田原へと足を運んだ。

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