11月14日 午後 8時12分 ヘタレ
そして迎えた11月14日。夜20時12分。
「あっ、あのさぁ。はるか……」
念願の2ショット。はなしたいことは山ほどある。好きだという気持ちを伝えるのは男の天才になってからって決めている。けど、今だからはなせることだってあるはずだ。
「どうしたの、昴くん」
はるかがほんの少し怪訝そうな顔をした。まずは、たっぷり時間があることを伝えたい。それは、そんなに難しいことではない!
「あっ、あのさぁ。小田原までの経路なんだけど……」
「うん。新宿に行って、ロマンスカーだっけ。私、とっても楽しみ」
無邪気にはしゃぐはるか。あっ、あれ? はるかはロマンスカーがこんなにもご所望なのか。それは意外。
「そうだったんだ。ごめん……」
「えっ? どうして謝るの? まさかっ!」
はるかは言いながら、がっかりした表情になった。ロマンスカーって、そんなに人気なのかなぁ。
「実は……」
「うん……」
どうしたんだ、俺! どうしちまったんだ。言い難い。はるかがロマンスカーを楽しみにしていると知ってしまった。今更新幹線での移動に変えようなんて、言い難い。
「とりあえず、着替えようか……」
「うん。いつもありがとう!」
用意してあるのは、移動時専用の地味な服。便利な服だ。はるかがしあモードで地味な女子を演じれば、誰もなまだしあだとは思わない。便利ではあるが、恨めしい。本当は俺は、はるかモードのはるかとひとときを過ごしたい。
でも、言えない。ロマンスカーに乗るのを楽しみにしているはるか。邪な気持ちでそれを取り上げることなんて、俺にはできない……。
俺って、ヘタレなのかもしれない。
今日はもう、何も起こらなそうだ。
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