11月14日 午後 4時12分 再会

 ウタ番組の公開収録を終え、エタ番組の楽屋に駆け込んだのが午後16時10分。そのわずか2分後。


 挨拶に来たのは……。


「おはようございます! 多田野ちえみです」

「おはようございます……」

「あれっ、おはようございます。また一緒なの!」


 俺は気付いていなかったけど、2人は意識していたみたい。ただのアイドルさんは心なしか張り切って見える。はるかはというと、機嫌が悪い。


「はい。今日は1日中一緒ですよ」

「1日って?」


「ウタ番組・エタ番組・オタ番組! それから、それから。えーっと……」

「そーだったんだ。だったら一緒に移動すれば……」


 そこまで言った瞬間、俺ははるかに耳を引っ張られた。いててててっ!


「多田野さん。今日も明日も、もう挨拶はいいですから」

「はっ、はいっ! んじゃ、よろしくお願いします!」


 ただのアイドルさんは逃げるようにして楽屋をあとにした。俺の耳はまだ痛い。はるかが思いっきり引っ張っているまま。


「はるかっ、耳、痛いって!」

「あっ、ごめんなさい……」


 はるかが暴力的になったのははじめて。どうしてだろう。さっきからおかしくなるのは、ただのアイドルさんが一緒のときだけ。ひょっとして、はるかはただのアイドルさんが嫌いなのかなぁ。


「はるか。多田野さんのこと、嫌いなの?」

「んー、まぁ。苦手かもしれません」


「どうして? 2度も挨拶に来るなんて、礼儀正しいじゃん」

「動機が不純なんですよ!」


 ただのアイドルさんの動機って、何だろう。まだ新人だし売名行為ってやつかな。けど、はるかは今までそういうのを気にしたことがないのに。


「どうする? 共演NGにすることもできると思うけど」


 俺ははるかが心配でそう言った。我慢して仕事をしてほしくない。俺だって、事務所に意見が言える。身のまわり担当だからこその意見であれば。今回は、そういう事案。


「うんん。気にしてくれて、ありがとう」


 はるかは虫が治ったのか、そう言いながらいつものように俺に甘えた。


 この流れ、今日こそものにしてやる! 


 そう。俺が次に行動を起こすのは、オタ番組が終わった20時10分ころだ!

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