目指せ、天才!

 しばらくして、1つの結論が出た。判定方法について。数学教師が言った。


「クックック。どうだろう。最も女らしい天才に判定してもらうというのは」


 男かどうかの判定は女がする。筋が通っている。誰にも異論がない。これで、判定方法は決まった。だが、疑問がある。判定員を誰にするか。


「でも、女らしい天才って誰がいるんだろう」

「はいはいはーい! それ、私がやるーっ!」


 肉、バカなのか? 親子間で評価したらダメだろうってのが、はなしの原点じゃないか。それを忘れて立候補するんじゃないよ。

 俺自ら「却下だ、却下!」とわめいて、周囲の冷たい目をかわす。


 判定員を誰にするか。天才たちが唸る。そんな中、はなしを進めたのはまたもや数学教師。数学教師のくせに中二病かよって思う。ま、うちの学校には中3の年齢なのに校長っていうのがいるくらいだが。


「クックック。いるではないか、適任者がそこに」


 数学教師が指差したその先にいたのは、幾丼を食べている少女、しあ!


「なるほど、それなら異論はないな」

「最も女らしい天才だ!」

「女を2度も使う天才……」

「なまだしあ。天才美少女女優」


 なんか、みんな納得している。しあが俺を評価するって? そんなこと……しあにとっては迷惑だよな。幾丼のことでもめたあとだし、俺としても頼み難い。しかも、相手は国民的大スター。天才美少女女優だ。断ろう。絶対に断ろう。そう思っていると、しあが言った。相変わらず食べながらだ。


「男の天才かどうかなんて(もぐもぐ)、私には分からない(もぐもぐ)」


 でしょうね。俺にだって分からないよ。首を突っ込んできたのがひな板。


「男を感じたら、男の天才ってことでいいんじゃない」


 バカなのか? その方法を考えているんだって! 今度は肉。


「お母さん、そのためには一緒に住むのがベストだと思うの」


 肉、今なんて? さらりとすごいこと言わなかった? しあはしあで、あっさりと受け容れる。


「分かりました(もぐもぐ)。一緒に住んでみます(もぐもぐ)」


 しあ、今なんて? 俺と一緒に住むの? どこに? 食べながら言うこと?


「じゃあ、しあちゃん。家に住んでちょうだい。お母さん、大歓迎よっ!」

「では、明日引越します」


 男の天才を見分ける方法が決まらないまま、俺たちとしあとの同居が決まった。しかも、1LDKの狭い我が家でだ。いいのか、これで? そこへ、ひな板がしゃしゃり出てきた。


「でっ、でも。しあちゃんって、生活力なさすぎるじゃない!」


 そうだそうだ。ひな板、たまにはいいことを言う!


「だから(もぐもぐ)、どうしたっていうの(もぐもぐ)?」

「つまり、生活がままならないんじゃない?」


 そうそうそう。生活、大事だよね! 一緒に住むとか、ハードル高過ぎる!


「なるほど。一理あるわ……」

「たしかに私(もぐもぐ)、生活力(もぐもぐ)、ない(ごっくん)」


 噂によると、自分だけでは時間割も揃えられないらしい。先生が配布したプリントとかお家の人に渡さないらしい。そんなしあが、誰かと同居なんてできるはずがない。


「そこで提案です。私も一緒に住むってことで、いかがでしょう!」


 却下だ! 却下! 俺はそう言おうと思った。しかし……。


「よろしく(もぐもぐ)、お願いいたします(もぐもぐ)」


 いつまで食ってんだ! 何杯目だよっ! って、ちがーう! ダメダメダメ! 俺ん家って、1LDKだから。1は6畳しかない。4人も住めないから! お母さん、なんか言ってやれよ!


「うん。ありよりのありねっ!」


 何じゃそりゃ。言いたかっただけだろ!


 男だったら誰もが憧れる存在。天才美少女女優のなまだしあ。俺が知っている他の天才とは全く違うところがある。中身が空っぽというか、見えない。ミステリアスさがある。

 そのなまだしあが、明日からは俺ん家に住む。俺が男の天才かを判定するために。幼馴染のひな板も一緒。どこか破廉恥な4人暮らしがはじまる。こんなの、無理ゲーじゃん!

 でも待てよ。俺って家事全般は得意。それが男っぽいかどうかは不明だけど、評価をするしあと一緒に暮らすのは、見せ場がたくさんあって有利なんじゃないか? これなら、俺にも天才の仲間入りが出来るかも!

 こうして俺は、俄然張り切るのだった。そしていつか、天才と呼ばれる存在になる。お父さんのような、国を救える天才に!


 パーティは天才同士の親睦が深まり成功裏に終わった。しまいよければ全てよしというが、なまだしあが最後に壇上に立ちスピーチをしたときは、天才ではない俺なんかでも心が動いた。最高のパーティだった。

 幾丼を1杯も食べることができなかったのだけは心残りではあるが。

____________

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

さてここから先、昴くんが男の天才を目指すことになります。


ところで、男の天才って、どんなタイプでしょう?


勇敢な勇者か、それとも優しい優者か。はたまた遊んでばかりの遊者?


気になる方は、是非続きをご覧ください!

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