未来天気予報

「完成したぞ!」

 手元が見える程度の明るさの部屋で、男は叫び声に近い大声を出した。男が生まれたての我が子を見るような感情で、それのテストを始める。

 予想した通りの動きを見せたそれに、男は安堵のため息を漏らす。というのも、この男が完成させたそれはとある機械だった。

 数時間後、男の元にとある人物が訪ねてきた。

「やぁ佐藤君、上がりたまえ」

 男は笑顔で出迎えた。達成感から、佐藤と呼ばれる男が訪ねる前から口元が緩んでいた。

「どうしたのですか? とても機嫌がいいですね」

 男より一回り若い佐藤は、笑顔の絶えない彼を見て思いついた疑問をぶつける。

「ああ、完成したのだよ」

 男は発明家だった。そんな彼が作ったものは、人生を変えるほどの代物だった。何かを言いたげな佐藤を後ろに連れて、とある部屋へと案内する。

「なんですか、これは?」

 佐藤は尋ねた。発明家の男が部屋の電気を点け明るくなると、その機械がよく見えた。

 質問には答えずに、機械へと歩き出す。その足はスキップのようにどこか軽い。佐藤は、部屋に散乱した様々な部品を避けながら、機械の前にたどり着いた。

「……なんですか、これは?」

 同じ質問をした。そこには大きなモニターが一つと、素人には分からないような多くの配線と機械が置かれていた。

「天気を見るものだ」

「はい?」

 答えを聞いた佐藤は驚いた。革新的な発明だったからではなく、聞き覚えのあるものだったからだ。

「天気、ですか? 今頃そんなものを作っても」

 この時代、すでに天気予報の技術はあった。確かに、優れた正確性か聞かれればなんとも言えないが、それでもわざわざ一から作るものでもない。

 佐藤がどこか納得のいっていない様子で機械を眺めていると、発明家の男は機械の電源を入れた。

 モニターにはジリジリと砂嵐が流れ、次に暦が表示された。男が配線の混雑した機械をいじると明日の天気が表示された。

「佐藤君、これは君が知っている天気予報とは比べ物にならない。本当に未来を見ているものだ」

 男は得意げに説明した。地球規模で観察を行い、それを可能にしたと言う。佐藤は男の話を真剣に聞いた。

「天気だけではない。正確な気温も割り出せる。雨や風、雪、そして台風や地震までも予測可能だ。これを上手くビジネスに取り入れれば大金が動くぞ」

 男は説明の通りにいろいろなものを表示させて見せた。それを見た佐藤は居ても立っても居られなかった。

「買い取らせてくれないか? その発明。お金なら一生生活に困らないほどの額を払う」

 佐藤もまた資産家で起業家だった。様々なビジネスを展開しているが、天気を判断材料として利用すればより多くの利益が生まれることを知っていたのだ。

 少し悩んだ男は、その話に乗ることにした。早速佐藤はこの機械を移動する手配を行い、翌日には佐藤の会社へと移された。


「本当にあれは正確だ、素晴らしい。いまだに予報が外れないぞ。本当に感謝している、ありがとう」

 そんな連絡を受けた数日後だった。男が次の発明に明け暮れていると、佐藤が家を訪ねてきた。

「頼みがある」

 そう言われ男は、佐藤とあの機械を設置した会社へと向かった。建物のとある一室に案内されると複数名の部下と、男と同様に技術を持った人間が待機していた。

「あれですが」

 佐藤は機械を指さし不具合を訴えた。機械のモニターには何も表示されていなかったのだ。男は事故にあった息子に駆け寄るがごとく機械の元へ急ぐ。

 数名の技術者と男は機械の点検を行った。しかし、どこにも異常はみつからず、佐藤は使えなくなった機械を返すことにした。

 あれから数日が経ったが、男の発明した天気予報を知らせる機械はいまだに何も表示していない。

「はぁ、なぜこんなことになってしまったのだ。一応電源は入っているようだが」

 男は続ける。

「なんでも、機械が壊れた日に“核兵器”と呼ばれるものが作られたそうだ。まぁ、トラブルとは何の関係もないとは思うが」

 今でも男の家ではあの機械が動いている。いつ壊れるか分からない地球の天気予報を表示できずに。

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