強盗アルバイト

 青年が遠くからとある家を観察していた。辺りはすでに暗くなっている。

 ここは田舎で、人の気配が極端に少ない。そのおかげもあって、青年はとある依頼を引き受けたのだ。

「そろそろ行ってみようか」

 マスクをかぶって顔を隠し、暗さに紛れて目的の家まで歩き出した。音を出さないように慎重に行動し、小さな門を飛び越えて家の扉の前で立ち止まった。

 田舎にも関わらず、綺麗な家だ。当然、誰か住んでいる可能性が非常に高い。それでも青年には関係なかった。ポケットに入ったナイフをズボンの上から触り、玄関の扉に手をかけた。

 ここまでくると気づくだろうが、青年は強盗をしようとしている。とある老人に頼まれたからだ。


『私の作品を盗んだ奴がいる。この家に住んでいることは分かったが、どうも私は体力に自信がない。恐らく、家でそいつと出会うとどうすることもできない。そこで君に私の作品を取り返してほしいのだ』

 老人の言う事に、はじめは話を聞き流した青年だが、報酬の話で考えが変わった。

『君が引き受けるなら、前金としてとりあえずこれを渡そう』

 まとまったお金を見せられて、青年は欲が出てしまった。働いておらずお金を必要としていた青年にとって、こんなにおいしい話はない。老人に作品を届けるとさらに倍のお金を支払うと聞いて、青年は二つ返事で引き受けた。


「やっぱり閉まっているな」

 玄関は閉まっており、青年は別の入り方を探し始めた。家の周りを調べていると鍵のかかっていない窓を発見した。

「よし、ここから入ろう」

 音を立てないように慎重に窓を開け、家の中に侵入することができた。青年は、早速頼まれたものを探すためいろいろ物色し始めた。

「だ、誰だ!」

 青年が引き出しをあさっていると、この家の主と思われる人が現れた。青年は焦ることなく男にナイフを向ける。

「騒ぐな、妙なことをしなければ命は取らない」

 ナイフを向けられて男は怯えて震えだした。それを見た青年は男に尋ねる。

「この家に頑丈な紐はあるか?」

 男は震えた声で返事をしてどこかへ行くと、すぐに太さのある紐を持って戻ってきた。

「よし、ここに座れ。念のためお前を縛っておく」

 青年は男から貰った紐で手足を縛って、そのまま待機させた。男は怯えた様子で青年の行動を見ていた。

「それにしても、一体どこにあるんだ。全く探せないぞ」

 探し物が見当たらず青年は焦り始める。青年は仕方なくこの家の主と思われる男に聞くことにした。

「おい、お前、あの人から盗んだものはどこにある?」

 依頼主のことを聞くのはよくないことだが、青年は焦りのせいで冷静な判断ができずにいた。

「そんなもの知らない。なんの話だ?」

 青年は、しらを切るその男に苛立ったが、怯えた様子だったので本当に何も知らないように感じた。これ以上の質問は控え、青年は盗られたもの再び探し始める。

「あったぞ! これか」

 数分後、ようやく見つけたそれは黒い箱だった。どこにも隙間は無く、開ける場所がよく分からない代物。それでも、言われたものを見つけた青年は中身に興味を抱くことなく玄関へと向かった。

 これで大金が手に入る。青年は、使い道を妄想しながら浮ついた様子で玄関へと向かった。いざ外に出ようと扉の鍵を開ける。しかし、音はしたもののドアノブをひねり押しても引いても開くことはなかった。

「どうなっているんだ」

 青年が扉を開けようと必死になっていると、頭上から何かが吹き出す機械音が聞こえてきた。直後、霧状の何かが青年に降りかかった。

「うっ……」

 煙を浴びた青年の体は自由が利かなくなり、そのまま倒れこんでしまった。すると、頭上から煙を吹き出していた機械も停止した。

 青年が不自由な体で必死に逃げ出そうとすると、先ほど紐で縛り付けられていた男が現れた。その手には自分を縛っていた紐を持っている。青年はそのまま手足を縛られてしまった。

「警察が来るまでおとなしくしてくれ」

 男がそう言った数分後、パトカーのサイレン音が聞こえてきた。どうすることもできなかった青年は、到着した警察に呆気なく捕まってしまった。


「久しぶりだね、と言っても一週間ぶりかな? これが残りの金だ」

 警察が到着してすぐだった。とある老人がこの家に尋ねてきた。その老人は、男にまとまったお金を差し出す。

「ありがとうございます。あなたの言われたとおり数日この家で生活していたら、まさか強盗が来るなんて」

 男は驚いた様子で話した。先ほどまで怯えていたとは思えないほど落ち着いている。

「災難だったね。すまないことをした。でも大丈夫だったろう?」

 老人は謝罪をすると、何かを確かめるように聞いてきた。

「ええ、この家の防犯システムに助けられました。ところでさっきの人はあなたの知り合いですか? パトカーに乗る前にあなたを見て何か言っていましたよ」

 男の質問に少し考え込み、老人はこう答えた。

「知らないな。ところで君に相談なんだが、私の大事にしていたものをある人に盗まれてしまって困っているんだ。そいつが住む家に代わりに忍び込んでくれないか?」

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