灰音のショートショート
灰音
見つからない秘宝
五人の男たちが汗を流しながらたどり着いたのは、石でできた扉の前。
「よし、いくぞ。せーの!」
一人の掛け声とともに、道を遮るその重い扉を力いっぱい押す。地面をこすりながら、なんとかその扉を開けることに成功した。
「やりましたね。この中でしょうか」
息を切らしながら一人が言った。扉の先は真っ暗で、何も見えない空間が広がっている。
「恐らくな」
聞かれた男は確証もなく答えた。しかし、ここに求めている物が眠っていることは、この場の全員が理解していた。
ここに来たこの集団は、宝を探す探検隊だ。その界隈では遺跡の存在は有名で、内部には数多くの宝が眠っていると言われていた。一生遊んで暮らせるほどの宝、そんな秘宝を求めてこの遺跡を訪れる者達は少なくない。
「それにしても、なぜ行方不明になるんでしょうか」
「確かに気になりますね。道中も危険な罠などなかったはずなのに」
先ほど言った通り、この遺跡は有名で宝探しに挑む者も少なくない。それにも関わらず、探しに行った全員がその後姿を消している。
「おい、お前たち、ちゃんと照らせ」
男が隊員たちに呼びかけた。その空間は暗く、光なくして歩くことができない程だった。そして各々がこの空間を調べ始めた。
「うわっ! 人骨だ」
しばらくして一人の隊員が声を出して驚いた。そこにはボロボロになった衣服を身にまとった人骨があった。
隊員は一瞬驚いた後、すぐにしゃがみ込んで冷静に観察を始める。パッと見ただけでは外傷はなかったが、頭蓋骨を拾い上げてすぐに死因が分かった。
「隊長、これを見てください」
立ち上がろうとしたその時、隊員の後頭部に強い衝撃が走った。
「う、なにを……」
隊員は頭を強く打ち、地面に倒れこんだ。地面に広がる血の様子を眺めて男は言った。
「お前で最後だ。これで邪魔者はいない」
この空間には男を除く四人の新しい死体が転がっていた。皆、持ってきていた道具で殴られたために絶命したのだ。男は達成感からきたため息をついた後に、部屋の中央にある棺型の箱の元へと向かった。
「これで宝は私の物だな」
男がヘルメットのライトを頼りながら、木製のような肌触りの箱に手を伸ばす。蓋となっている部分を持ち上げると、背後から大きな音がした。
「なんだ?」
音がする方向を見ると、先ほどまで開いていた扉が閉まり始めていた。
「マズい!」
男は扉に向かって走り出したが、外に出るより先に扉が閉じてしまった。一気に暗くなった空間で、男は石でできた重たい扉を必死に押した。
「くそ! ここまで来て死んでたまるか!」
男の努力もむなしく、五人がかりでようやく開いた扉を、一人の力ではどうすることもできなかった。
途方に暮れた男は、棺型の箱の元へと向かった。殺害した隊員たちを避けて歩き、先ほど殺したばかりの隊員の死体も通り過ぎた。手には、後頭部が砕けた頭蓋骨を持っている。
「一体、何度こんなことがあったのだろうか」
最後に男は、見つからない秘宝を眺めて自らの命を絶った。
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