第十章 聖女暗殺2
妖しいビスチェどもを蹴散らした俺は、民家の屋根の上をひた走っていた。
所々滑りやすい屋根の上を走り続け、俺はようやく聖堂の壁面に飛びつく。
そしてヒゲもじゃの聖人やら守護天使らしき彫刻を次々足蹴にし、一気にバルコニーに飛び移った!
「ッ!!!?!?!?」
そして目にした聖女の姿に、俺は思わず息を呑む!
端的に言ってモロ俺の好みだった!
薄く白抜けした金髪(いわゆるプラチナブロンド)の前髪をパッツンにし、耳の辺りから二束髪を垂らしている。背景に浮かぶ月が消し飛ぶくらい美しい。
それも、ちょっと儚げに微笑んでる様が実にいじらしかった。また寄り添うように身の丈ぐらいの魔法杖を持ってるのもポイント高え。
だが何よりも罪深きはその体!
顔だけ見れば清楚なのに、美少女フィギュアみたいに張り出した乳と尻が、金糸で装飾された厚手の紫紺色ローブを内側から押し上げてしまっているのである!!
本来ボディラインを隠すべき神聖なローブが役目をはたしてない!!
「エエエエエエッチイイイイイイ!!! これだあああああああああ!!!! 聖女おおおおッ!!!! 俺はあんたみたいな女を待っていたああああああ!!!!!」
俺の超絶ド級の雄たけびが聖堂内に響き渡る!!
ビンビンビンビンビンだぜえええええええ!!!
「な、なんだこのキモい奴!?」
「魔王軍の刺客か!?」
「いやどう見てもただの不審者だ!! 恐らく『ビスチェ教団』の手先に違いない!!」
すると護衛の聖騎士たちが口々に叫んで剣を抜いた!!
ビスチェ教団ってなんだ!?
ひょっとしてさっきのキモいオッサン連中の事か!?
なんて思いながらも、俺の足は止まらない!!
次々と襲い来る稲妻のような騎士たちの太刀筋を躱し、聖女の下へとひた走った!!
「こいつ!?」「できるッ!!??」
「くっ、暗殺者か!!! セラ様!! お下がりください!! ここは危険ですッ!!」
すると隊長格らしき金のプレートアーマーを身に着けた、ストロベリーブロンドの髪をポニーテイルに結んだ聖騎士が叫んだ!
そのまま聖女の手を引き、その場から去ろうとする!
させるか!!!
「待てやねーちゃああああああんッ!!!」
俺は両足揃えて飛びかかり、隊長のお胸にフライングクロスパイタッチを決めた!!!
銀色の胸甲の隙間から差し込んだ俺の手のひらに、ちょうどいいサイズのふくらみが2つ収まる!!!
「~~~~~~ッ!!!?!!」
どうやらこの手の攻撃は不慣れらしい。
隊長は泣き黒子のついた目元を真っ赤に潤ませて、両腕で自分の胸元を隠しながらその場に跪いてしまった。
その隣で聖女もまた、驚愕の目付きで俺を見ている!!
今だ!!
俺は聖女の肩を鷲掴むと、そのまま近場の壁に押しつけた。
顔をそむける彼女のアゴに手をやり、無理やり目と目を合わさせる!
「初めまして美しいお嬢さん! 突然だが俺はアナタのゴッドです! とゆーわけで今日から俺を崇め奉れ!!」
「え……ええと……!? わ、わたくしの主神は女神グロリア様であって、初対面の女の子の胸を触ったり突然壁に押しつけて口説き出す不届き者の神様ではないのですが……ッ!?」
俺がニコッとナイスガイスマイルを浮かべ言うと、少女が俺を見上げて答えた。
ふっ。
俺を拒むように細くなったその眼もまた可愛いぜ!!
「本当にそうか?」
「えっ……?」
「聖女さんよ。見た所あんたもまだ10代。年頃の娘さんだ。それがこんな偉そうな場所に囲われて、300万人の信徒だの世界の平和だの荷わされてよ、大変じゃねえか」
「そ、そんなことは……ッ!」
「俺ならその運命、アンタと一緒に荷ってやれるぜ?」
「……!」
俺が真顔でそう言うと、聖女の目にはっきりと俺が映った。
その瞳は僅かに震えている。まるで俺の言葉を待っているかのようだ。
よし!
あと一歩でワールドクラスの清楚系美少女をお持ち帰りできるぜ!!!
「なにセクハラしといて口説いとるんじゃあああああ!!!! この性犯罪者がああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!」
なんて俺があと少しの所まで迫っていると、どこからともなくブッ飛んできたエリシャが俺の背中にスパイラルツインテールロケット頭突きをぶちかましてきた!
「ごべッばあああああああああッ!?!?」
俺はぶっ飛ばされた勢いでバルコニーの壁をぶち破り、更にその先にあった太い柱に後頭部をぶつけてしまう!!!
痛ええええええええええ!??!!?!?
つ、突っ込んだ頭が抜けねええええええ!?
柱ごと抜けて俺の頭が『T』みたいな形になってるうううう!!??
「おいこの頭どおしてくれんだよエリシャあああああ!!?!?」
俺が柱の内部に血をダクダク溜めながらつま先立ちになって、満面の笑顔でチャイコフスキーくるみ割り人形の花のワルツを踊り出していると(たららら~らら~ッ♪ ああああ頭痛ええええ!!??)、
「――おうふっ!?」
柱の端っこで聖女の顔面を思いっきしダイレクトアタックしてしまった!!
聖女の恋する乙女の顔つきが一瞬で『メキョッ』て凹んで、鼻血を噴き出しながらすさまじい勢いで転がっていく!
そのままバルコニーの手すりから聖堂の下に滑り落ちてしまった!!!
「「「「……………………………」」」」
沈黙が場を支配する。
「よーしみんな! そのまま動くなよ!? 俺逃げっから!!!」
「逃げっからじゃねだろおおおおおお!!!!!!!?!?!?」
俺がビシッと親指を立てて爽やかに言うと、エリシャが俺の胸倉と肩を掴んで大外刈りを食らわしてきた!!
ぐぼおッ!?
足を綺麗に狩られ、俺は受け身も取れずに床に倒れ伏す!!
更に倒れた俺を何度もカカトで痛烈に踏みつけてきた!!
いってえええええええええ!!?!?
「せ、セラさまがああああああああ!?!?? 世界で唯一神聖魔法をお使われになるお方が!?!? 人類の希望があああああああ!?!?!?」
なんてやってると、聖騎士たちが頭を抱えてあたふたし始めた。
「俺もう聖女やっちまったし魔王サイドに鞍替えしよっかな!?」
「鞍替えしよっかな! じゃない!! っていうか! それもなんだけどこのままじゃ町がッ!!!」
なんて俺が考えてると、エリシャが頭を抱えて叫んだ!
まさにその時!!
――ギュアアアオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!
突然、雷鳴にも近い咆哮が、空のやけに低い所で聞こえた!
「な、なんだ!?」
腹の底まで響くようなその声を聞いて、俺たちはバルコニーから空を見上げる。
すると、そこに居たのはドラゴン!!
この間見た巨大ハトよりも更にデケえ!!
体長40メートルはあるだろうか、まるでブルーアイズホワイトドラゴン(遊戯王OCG)みたいな、青く輝く流線型の体をしたドラゴンが真っ青な目で俺たちの事を見下ろしてくる!!
「お、おいエリシャ!? なんなんだよあいつ!? あきらかにザコって面してねえぞおおおお!?!?」
「言いながらあたしのツインテールを捩じり上げてんじゃねええええ!!!」
「ハッ!? しまったつい手癖で、ダイヤモンドブリザード(デュエルマスターズ)をエリシャの頭上に編み上げ召喚しちまったぜ!! 世界よ俺に跪け!!!」
「あたしの頭はバトルゾーンか!!! っていうか、だからそんな場合じゃないんだってええええええええ!!!!」
なんて俺たちが互いの髪を掴み合ってギャーギャーやってると、
「グァルルルウル……」
遠雷みてえな泣き声と同時に、一瞬フラッシュみたいのが光った。
見れば、ブルーアイズはその大剣みたいなキバの並んだ口から、時折フッフッと明滅するような青い光を吐いていたのだ!!
「なんか口からなんかヤバげな光線漏れてんぞ!?!?」
俺が思わず叫ぶと、
「あれは……【蒼穹を焦がす
呆然自失といった調子で、隊長が呟いた。
「ぶるば……ブレスって!?」
「最強クラスの【
呟きながら、隊長はガクリと膝を突いてしまった。
オイオイオイ!?
そんなん食らったら全員死んじまうじゃねえか!?
「ええええエリシャこっちこい!! お前を盾にして俺だけは生き残る!!!」
「ざけんなクズ死ね!!!」
俺がなんとか自分だけは助かろうとエリシャを捕まえようとすると、逆にその手を掴まれて俺が盾にされてしまった!!
ば、万事休すうううううッ!?!?
なんて思ったその直後。
――カッ。
体が浮き上がるような妙な浮遊感と同時に、俺の視界を激烈な青色が覆い尽くした。
あれ……?
俺……死んだ……?
「――案ずるには及びません」
だが、俺は死ななかった。
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