第五章 とりあえず町
俺とエリシャはだだっぴろい草原をひたすら歩いていた。
そのちょっと後ろを自称勇者の【窃盗犯】ニーナ・フォルスレイヤー容疑者(20歳ぐらい)がついてくる。
「とりあえず町に行くぞ!! 私たちには装備と仲間が必要だ!!!」
ニーナが俺たちの前に出て言った。
俺たちは立ち止まる。
「とりあえずじゃねえだろ。つうか私たちって、いつお前が俺の仲間に加わった?」
「ハハハ私たちは魔王討伐を誓った仲間じゃないか! そんな冷たい事を言うなよ髪が挟まって痛い痛い痛い痛いいいいッ!??!!」
俺がクソ重い聖剣をニーナの鎧に引っかけてやると、ニーナが慌てて聖剣の柄を掴みながら叫んだ。
ナニコレちょっと面白い。
「なあエリシャ。この聖剣って俺使えねえのか? そしたらこの窃盗犯要らなくなるし」
「うーん。荷物として持ってる分には軽くなってるけど、剣として構えようとしたら途端に重くなるんじゃないかしら? そういうスキルだし」
やっぱそうなのか。
最弱の荷物持ちじゃ勇者にはなれねーって事だな。
ガックシ。
「フフフ! この聖剣の勇者が居なければ魔王を倒すことはできんぞ!!」
胸を張って言うニーナ。
それ以外なんの取り得もない中で、おっぱいだけが無駄に揺れている(Eはありそう)。
「だからお前はちげーっての。ったく……仕方ねえから聖剣持っててやるよ。そんかわりお前今日から俺のハーレム嫁な? まずはその柔らかい胸で俺の劣情を慰めて貰」
「人の弱みに付け込んでるんじゃねえええええええええええ!!!」
俺が言いかけたその時、エリシャが突然俺の担いでいた聖剣をぶんどったかと思うと、バットスイングの要領でその台座部分を俺に叩きつけてきた!
瞬間、カキィン! という金属バットで白球を打った時のような痛烈な打撃音が頭の中に鳴り響き、俺は弾丸ライナーよろしく鋭く体を回転させながら近くにあった巨大な岩石に脳天から突き刺さってしまった!!
痛えええええええええええええ!??!?!?
首があああああ?!!?
首がありえない角度に曲がってるうううううううううううう!?!?!
「もう少しで俺死ぬところだっただろうがああああああああああ!!!!」
「チッ。さすがは【荷物持ち】ね。きっと沢山の荷物運べるように体が頑丈になってるんだわ」
俺が血をダラダラ流しながら戻ってくると、ズズゥン……とエリシャが聖剣を地面に置いて言った。
こいつマジで容赦しねえ!
「な、なんというパワーだ……私の他にも聖剣の勇者がいたのか……!!」
聖剣の窃盗犯ニーナが別の所で驚いている。
驚くなら俺の耐久力に驚け。
「ハア……じゃあニーナ。道案内しろよ」
気を取り直して俺は言った。
「みっ、道案内だと!? 最強の勇者たるこの私が!? イヤだ!!」
「イヤじゃない。アホなお前でも道案内ぐらいはできんだろ? お前の価値はその乳と尻と道案内。わかったか聖剣の【道案内】」
「道……ッ!? ふざけるな私は【勇者】だ!!! 世界に数あるクラスの中でも最高ランクの存在なのだぞ!! それをお前のような最弱最底辺の【村人】にすら劣る劣等クラスの【荷物持ち】如きがどうして……ッ!?」
「あー、なんか言ったか?」
俺が聖剣をちらつかせると、ニーナがぎょっとして黙った。
拳をギュッと握って『ぐぬぬ』みたいな顔で俺を見てくる。
「ハハ。悔しかったら俺以外の【荷物持ち】でも探すんだな」
言われてニーナが「チラッ」エリシャを見る。「な、なによアタシ非力だから持てないわよ?」今さらエリシャが非力ぶっている。
「くっ……聖剣は特別な【
「まあでもとりあえずは町に行くべきよね? あたしたちロクな装備も無ければ食料すらないし、このままだと野宿も危ういわ」
するとエリシャが言った。
今更だけど、俺たちは荷物どころかお金すら持ってない。
着の身着のままで異世界に送られたからだ。
「そうだな。せっかくのハーレム要員がこんな窃盗犯じゃスケベする気にもなれんし」「私は勇者だ」
「とか言って胸ばっか見るの止めなさいよ。フツーにキモいから」「私は勇者」
エリシャに腕を抓られた。
こいつよく見てんな!?
「ま、でも勝手にすれば? どうせあたしはちんちくりんだから、ハーレムができたら用無しなんだろうし」「私は勇者」
「なんだエリシャ不貞腐れてんのか? 大丈夫、お前もちゃんとハーレムに加えてやるから。まああと5年ぐらいは頑張れよ。まずはおっぱい膨らませるところからな」「私は勇者」
「そういう事言ってんじゃないわよ!! 誰がアンタなんかのハーレムに参加するもんですか!?」「私は勇者あああああああああああああ!!!!!」
「「うるせえ!!!!!!」」
俺とエリシャ、2人同時のパンチが体の正中線(急所)に決まって、「ぐごおお……ッ!」やかましい窃盗犯が草原に沈んだ。
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