第三章 エリシャと異世界巨大ハト
「ハッ!?」
ここは……どこだ!?
辺りは見渡す限りの草原!
確実に我が家(築50年木造平屋建て貸家。建物はボロいけど庭付き。住んでるのは俺と母さんとネズミとハクビシン。稀にタヌキ)のご近所とかじゃねえ!
俺の恰好だけは学生服のズボンにワイシャツという現代じみたものだけど、知ってるものはそれだけだ!!
ああ、マジで異世界来ちまったんだな……!
よくアニメとかで見て知ってたから、思ったよりは動揺してねえけど。大抵なんとかなるし。
さて、これからどうすっかな。
せめて町の近くとかに送ってくれてたら助かってたんだが。
「ううっ……ううううっ……うああああああああああああああああ!!!」
なんて具合で俺が色々考えていると、足元で聞きなれた声がした。
見れば青髪吊り目ツインテールのロリビスチェ少女もとい女神エリシャが地面に四つん這いになって涙している。
女神なのにその動揺っぷりは俺以上で、もうこの世の終わりみたいな顔だった。
こいつが元気ないと調子狂うぜ。
「どうした。そんな初めて転生した時のア〇ア様みたいな反応しちゃって。だったらそのダサいツインテールほどいてロングにして、おっぱいとお尻デカくしてくれ。あと頼むから母性発揮しろよな。お前微塵もねえから」
「人が明らかに絶望の淵に沈んでるのに容赦なく追い打ちかけてくんじゃねええええええ!!!」
「いや、ぜんぜん落ち込んでねえじゃん。なんだせっかくトドメ刺してやろうと思ったのに俺ガックシ!」
「じゃかあしいわ誰のせいじゃ!!! っていうかいい加減あたしとアクア様比べんな!! 同じなの青髪と女神ってだけだろうが恐れ多いわ!!!……って、そんな事より……ッ!」
エリシャが必死の形相で俺の胸倉を掴んだかと思うと、またがっくり肩を落とした。そのまま草むらに腰をペタンと降ろしてしまう。
「うぐっうううぅ……うがあああああああああああッ!!!??!? あたしこれからどうすればいいのぉ~~~~~!?!?!!??!?」
そして泣き出してしまった。
まったく頼りにならねえ女神様だな。
「どうすればってなにを今さら。そんなんカンタンだろ? お前女神だし、なんか強いスキル持ってんだろうしさ。それでちゃっちゃと魔王倒してくれよ。それでなんだっけ、天上界とかに戻ればいいじゃん。俺はこっちの世界でハーレムパーティ結成するからさ。というわけでお前が落ち込んでると俺困るんだ早く立ち直れそして俺を助けろ」
「なに全部人任せにしてんのよおおおおおおおお!!? っていうかそれがダメなの!! あたしつい最近女神になったばっかで、まだちゃんとしたスキルとかゼンゼン覚えてないの! 覚えてるのはたった1つだけなの!!!」
俺が容赦なく要求すると、エリシャが両こぶしを握って叫んだ。
「ふーん。そんで? お前が覚えてるスキルって一体なんなんだよ」
「……【不死身】」
「お、いいじゃん。【不死身】の女。いかにも強そうじゃん」
「バカァ! 【不死身】ったって素のステータスそこらの村人と変わらないのよ!? スライム相手だって苦戦するし、万が一ゴブリンにでも捕まった時には、そんときには……!」
「そんときには?」
「く、串に刺されて体を火であぶられ、永久に食べられ続ける運命に……ッ!!」
エリシャが座ったまま、体をガクガク震わせて言った。
「へー。死なないだけじゃなくて体まで再生するのか。そしたらアキバでドネルケバブ屋開けんな」
「なんで自分の体切り分けて他人に食べさせなきゃいけないのよ!? グロいわ!! あたしは〇ンパンマンか!!!」
「いや、〇ンパンマンだって自分の体までは差し出さないと思うぞ?」
「冷静に突っ込んでるんじゃないわよ!!! あたしがボケたみたいでしょうが!?!?」
「ボケたんじゃないのか?」
「うきぃいいいいいいい!!!」
エリシャがちんまい両腕振ってジタバタしてる。
おもろい。
「やれやれ。俺なんか『ニモツモツダケ』だぞ? 【不死身】ですらねえんだ。こんなんガチでなんの役にも立たねえよ。つうわけでさあホラその不死身の体で俺を養ってくれ」
「さらりとクズ発言すんなあああああああ!!!!! お前あたしのヒモになるつもりかああああああああああああ!?!!?!?」
「冗談だって。つうかそんな怒ってばっかいると血圧上がって鼻血噴き出して死ぬぞ?(経験談)」
「うううぅ……もうダメ……こんな奴と魔王倒すとか絶対ムリよ……あたし一生この世界から出られないんだわ……!!」
エリシャがまたグズグズ泣き出した。
「落ち込むなよ。ちゃんとお前もハーレムに加えてやるからさ」
ポン。
俺はエリシャの肩に手を置いて言った。
すると、
ゴゴゴゴゴゴォオオオオオオオオッ!!!!
突然轟音と共に大地が揺れ出した。
「なんだ!? まさか俺に秘められた隠しスキルが発動した!?」
「んなわけないでしょ!? どれだけ自意識過剰なのよ!! それよりアレ、見て!!!」
言いながらエリシャが空を指した。
「なんだ?」
見上げれば、無数の翼竜……っていうのか、俺の背丈ぐらいの小さなドラゴンが飛んでいく。
全部で100匹……いや、200匹はいるぞ!!
「すっげーっ!! モンハンみてえ!!」
「目を輝かせてる場合じゃないわよ!!? ほら、みんな鳴きながら同じ方向に飛んでいくじゃない!! それこそモンハンだったら、こういうパターンって大抵ヤバい奴から逃げてるんじゃ……ッ!?」
エリシャが言いかけたその時だった。
ドッカアアアアアアアンンッ!!!!!
次の瞬間、俺たちを襲ったのは轟音と爆風だった。
背中をどつかれたみたいな凄まじい衝撃を喰らって、俺は悲鳴を上げる事すらできずに草むらの中を転がった。後からちぎれた草やら石ころがシャワーみたいに降り注いでくる。
痛え……! 耳がキーンとする……!
なんとか起き上がって見回したけれど、辺り一面土煙で何も見えない。
なんだコレ、雷でも落ちたのか……!?
「――ギャオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!」
俺がなんとか這いつくばって起き上がろうとすると、背中の方から凄まじい咆哮が聞こえた。
振り返り見れば、巨大な……。
……。
巨大な、ハトがいた。
体長は軽く見積もって10メートル。
4階建てのビルがそのまま動き出したみたいな図体だ。
それ以外は普通に公園とかに居そうなハトで、所々白の混じったグレーの体をしていて、鶏みてえなピンク色の足で捕まえた翼竜の羽を押さえてクチバシでズコズコ突きまくっている。
やけに瞳が円らだし、時々突くのを止めては首を伸ばして俺たちの事をチラチラ見てくるのが非常に腹立たしい。さすが平和の象徴。
つうかどっからギャオオウって声出してんだあいつ!
どう見てもクルッポーって顔してんぞ!!
「は、ハトおおおおおおおおおおお!?!?!? な、なんかヤバイけどヤバくないけどヤバくなくなくない!?!?!?」
「混乱してねえで逃げるぞエリシャ!」
「う、うん! あ痛……ッ!?」
俺がその場から逃げ出そうとすると、俺の隣でエリシャがうめき声を上げた。
見れば手で足首を押さえている。
どうやら転んだ時に軽く捻挫したらしく、立てないらしい。
チッ。このままでは危険か。
あいつ肉食みたいだし、翼竜一匹で満足するようなガタイには見えねえ。
距離取らねえと。
「エリシャ。俺の背中に掴まれ!」
「え?」
「【荷物持ち】最初の仕事だ! 『女神エリシャ』を荷物として担ぐぜ!!!」
「きゃっ!?」
この期に及んでグズグズ言ってるエリシャの前にしゃがむと、俺は華奢なビスチェ周りに手を回して、背負うようにして持ち上げた。
って、おお! 軽い!?
【荷物持ち】のスキルのお陰か、エリシャの体は学生カバンよりも軽かった。まるで発泡スチロールでも背負ってるような感じだ。
それとオタ知識からの直感でやったが、多分『担ぐ』と宣言して持てばスキルが発動するっぽい。
やってみなければわからないが、人間ができるのなら武器や建物などにも応用できるかもしれない。
上級神の言った通り、使い道がありそうなスキルだ。
なお、尻の感触。
「ウソ……背負ってくれるの……? あたしなんか役立たずなのに……!」
エリシャが俺の耳元で呟いた。
やけに弱弱しいその問いに「決まってんだろ?」俺は答える。
「ハッ。なーに信じられねえみてえな顔してんだよ。どんな窮地に陥ったって、お前だけは見捨てねえし」
「え……?」
俺がはっきり『見捨てない』と告げると、エリシャの声が震えたのが解った。
首だけで振り返ると、エリシャの頬が僅かに紅潮しているのが解る。
「だってお前は俺の大事な……!」
「お、俺の大事な……?」
ゴクリ、エリシャが唾を飲み込む。
「『盾』だから!!!」
言いながらエリシャに『グッ』と親指を立てて見せた。
「……は?」
エリシャの整った眉がハの字に曲がった。
「ホラ、【不死身】のお前を担いでいれば、とりあえず背中は大丈夫だろ? 俺は【荷物持ち】のスキルのお陰で、お前を担ぐ分には負担ゼロだしさ。つうわけで思う存分あいつに突かれてくれ。最悪お前を投げ捨てて俺は逃げる」
「死っねえええええええええええ!!!!!」
ポコポコポコポコスカ頭を叩かれる!
痛い痛いけっこう痛え!?
「逃げんだからコラ止めろって!? あ、ハトがこっち見てる!!! 首伸ばして血まみれの口パクパクさせながらアホ面でこっち見てる!!!?」
「うっさい!! ハコブなんかッ!! ハコブなんか大ッ嫌いだあああああ!!!!!!」
「――ギャオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
エリシャが叫んだその時、巨大ハトがその首を天に向かって突き上げ咆哮した。
ホレ見た事か!!
奴はデカい首を前後に激しく動かしながら、千鳥足で左右に大きくS字カーブを切りつつ突進してくる!
あんなのに食われたくねえぞ!!?
「し、死ぬのは嫌だアアアアアアアアアアア!!!!!!」
「あたしもイヤああああああああああああああ!!!!!」
俺たちは叫びながら逃げ出した。
だがハトの方が圧倒的に速い!!
俺はあっという間に追いつかれ、そして……ッ!?!?!?
「――そこまでだ!!!」
食われる、と思ったその時だった(エリシャはゴスゴス食われた)。
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