第二章 上級神さま
次の瞬間、俺とエリシャの傍らに現れたのは、キレイ系のお姉さんだった。
背が高くスラリとしており、ムッチリモッチリしたお胸とお尻が黒色のドレス生地を柔らかに押し上げている。
長い金色の前髪をパッツンにしており、その揃えられた前髪の下で瞬く瞳は優しく垂れ下がって慈愛の笑みを浮かべていた。
「……!!!」
一言で俺のタイプな女神だった!!
おっぱいで巨乳でドレスを脱いだらおっぱいが更に大変な事になりそうな素敵な女神だったのだ!!
「これだあああああああああ!!! アンタみたいな女神を俺は待っていたあああああああああああ!!!!!」
その美しさに俺はたまらず突撃した!
右手で掴んでいたエリシャをソファーに向かってポイッと投げ「ふぎゃッ!?」、床に両手を突いてクラウチングスタイルに入ると即座にロケットスタートを切るッ!!!
コンマ1秒で自分史上最高速度に達すると、そのまま上級神のお胸に掴みかかった!!!
「きゃ~っ!?」
すると上級神が後ろに飛びのく。
流石は女神。
でかいおっぱい(F、いやGはある!!)の持ち主とは思えない反応速度だ。栄光を掴もうとした俺の手はあと一歩のところで空を切ってしまう!
だが逃さん!
俺はすかさず片手を床について切り返し、体を起こしながら上級神との距離を詰めていった。そのまま俺は彼女を追う形で壁に向かって突き進み、その顔の横に手を突いていわゆる壁ドンの姿勢となる。
「はじめまして! 俺の名はハコブ! アンタのフィアンセだ!!」
「そ、そうなの~? 私にフィアンセがいたなんて話、初めて聞いたけど~!?」
俺が片眼をパチリ瞑って言うと、上級神さまがちょっと頬を赤く染めて言った。
きっと女神なんて仕事柄なせいだろう、男には不慣れらしい。
とっさに伏せた目がウルウルしている。
かっ、かわいいぜ!?
そんな具合で俺が真っ向から上級神を口説いていると、
「ふッざけてんじゃねええええええええええッ!!!!」
俺の横っ面を凄まじい衝撃が襲った。
「ぐぼっべええええええええッ!!?!??」
およそ人間らしからぬ奇声を上げながら、俺は錐もみ状態で真横にぶっ飛んでいき、そのまま部屋の壁に頭から突き刺さってしまった!!
ああッ……天使が……ッ!
天使が迎えに来てる……ッ!?
「エ、エリちゃん~!? ソファーで殴るのはダメ~ッ!!」
「フ~~~~~ッ!! フ~~~~~ッ!! よくも上級神さまをおおおおおッ!!!」
ようやく俺が壁から頭を引っこ抜くと、そこには重さ70キロはあろうかというリビングソファーを肩に担ぐ地獄の鬼のような顔のエリシャが居た。
鬼気迫るとはこの事だな!
さすがの俺も死んでなかったら死んでたぜ!
「それよりエリちゃ~ん? これ~、いったいど~ゆうこと~?」
上級神が、アイスの包装をグシャリ握りしめながら言った。
「ひひっ!? あ、あの、すいませ……」
するとエリシャの鬼みたいな顔がみるみる崩れる。
両手で持ち上げていたソファーもズシンと床に落としてしまった。
「あのそのすいませんじゃないの~。仕事中にアイス食べるだなんて~、そんなのずるいじゃない~。私だって食べたいのに~。私仕事帰りにコンビニで買うチョコミントアイスって~、控えめに言って大大大好ぉ物なんですよ~? これないと生きていけないんですからね~?」
どうやら上級神にとってチョコミントアイスの重要性はかなり高いらしい。
ソファーで俺が殴られたことよりもアイスの方が大事なようだ。
アイスに嫉妬しそうである。ぷぅ。
「も~。新人さんだからって勝手なことしちゃダメよ~! じゃないとこっちでも『役立たず』って言われちゃうんだから~。そしたら女神クビよ~?」
「うッ!? すみませんすみませんそれだけは許してください!! でもコイツがががッ!!」
エリシャは床に跪いて三つ指を作り、ペコペコ頭を下げながら俺を指差した。
「コイツがががじゃありません~! そうやってすぐ人様のせいにしないの~!」
そう言うと上級神は「メ~ッ!」垂れた目を吊り上げ(あんまり吊り上がってない)、頬を膨らまして怒った顔を見せた。かわいい。
「ハコブさん~、本当に申し訳ないことをしました~。これも上司である私の落ち度です~。お詫びに一番素敵な異世界にご招待しちゃいましょ~。ず~っとモテなかったハコブさんでも、すぐにモテモテになれちゃう世界ですよ~」
「ま、マジかよ!? そんなの天国以上の天国じゃねえか!! ハーレム異世界冒険譚ここに完結しちまうぜ!!?」
「マジです~。ハコブさん生前まったくと言っていいほどロクな人生歩んでませんでしたけれど~、最後の最後で善行積みましたから~、そのおかげですね~」
「ほうほうほうほうウホッウホッウホホッ!? なんかセリフの一部が気になるが流石は俺! これも女心が解るイケメン紳士として世のため人のため、美しい女性のためにこの身を捧げてきたお陰だな!!?」
「自称イケメン紳士がスケベゴリラに退化してんじゃないの!!! それはともかく上級神さま! コイツ学校で女の子の裸見て鼻血噴き出してそれが原因で死んだんですよ? そんなアホがそんな世界行っていいはずないじゃないですか!」
俺が自己の半生を誇っていると、横からエリシャが余計なことを言ってきた。
「ああでも、そうだ! 俺はあの日、移動教室でたまたま教室を間違えて女子更衣室に入ったら他クラスの女子生徒が生お着換えしている所に偶然遭遇してしまったんだった!!」
「偶然要素どこよ!? 普通に覗きじゃないの!!」
「まあいいから聞けって。それで俺はケンゼンな男子高校生として当然の反応、すなわち鼻から大量の血を噴出しながら廊下にブリッジして倒れ、打ちどころが悪くてそのまま絶命してしまったのだ! むろん股間をビンッビンに立たせたままで!!」
「もう残念とかってレベルの死に方じゃないわね……!? もっとこう女の子とか守ってその腕の中とかで死になさいよ……!!」
俺がギリシア悲劇もかくやと言わんばかりに悲劇的な自分の最期を思い起こしていると、エリシャがため息吐いて言った。
「残念って言えばエリシャ、お前のおっぱいの方が残念だけどな」
「死ね!!!」
ボゴン! とこめかみをグーで殴られる。
「うわ~ん殴られたぁ~! 上級神のママァ~! エリシャがイジメる~ぅ~!!」
「よしよし♪」
「おいコラどさくさ紛れに抱き着くな!! あといつ上級神さまの子供になった!!!」
「だってまだ子供だもんバブゥ~!」
「突然オギャるな!! つうかさっき18歳って言ったばかりだろが!!!!!」
俺がわざとらしくバブゥって頬を膨らませると、エリシャが俺を上級神から引きはがし、今度はビンタで俺の頬を引っぱたこうとした。
だがいつまでもやられている俺ではない!!
俺は片手を上げてエリシャのビンタを封じると、更に相手の細首に腕を回してスリーパーホールドを極めた。
「タッチしても許さんぞギリギリギリぃ~!!」
「ぐ、ぐるじーッ!!!?」
「くすくす~。2人ともはしゃいじゃって仲がいいのね~?」
「「誰がこんな奴と!!」」
「「げっハモっちまった!?」」
「「うげげッ!?」」
三連発!?
「うふふ~。でも~、ハコブさんが派手に倒れてくれたおかげで~、ホントは女の子に見つかって叩き潰されるはずだったアシダカ軍曹(たまに家に出るめっちゃデカくて素早い蜘蛛。ほっとくと害虫退治しまくってくれる)さんが~、無事逃げられたの~。ハコブさんが今回転生者に選ばれたのも~、軍曹の推薦があったおかげなのよ~」
なんてやってると、上級神が優しく俺をフォローしてくれた!
「さっすが俺のママ! 養子縁組して! 週に3回くらい!!!」
「意っ味わかんないわよ!!……っていうか転生者推薦とか蜘蛛の権限すごいわね……今度見かけたら拝んどこ」
俺のスリーパーホールドから逃れたエリシャが言った。
「俺は上級神さんのおっぱいを毎日もみたい!」
「いい加減セクハラ発言やめろ!! ブチ殺すぞ!?!」
「ふっ。残念だったな! 俺は既に死んでいる!!」
「だったら容赦しなくていいわね!?」
再度エリシャがまたソファーを担ぎ上げて叫んだ。
俺も近くに落ちていたモコモコのソファークッションを両手に装備して構える。
龍虎相撃つ! ギャオ~~~~ッ!!
「それで~、ハコブさんの向こう行ってからの
すると場の雰囲気なんか一向気にしないで上級神が言った。
「クラス?」
聞きなれない単語が飛び出したので尋ねる。
いやオタ知識的にはなんとなく解るんだが、いちおう聞いておきたい。
「そ~。向こうの世界では1人につき1つの職業が決められてて~、それによってステータスとか覚えられるスキルとか全部決まるのよ~」
お!?
これが噂のチートってやつか!!
最強の職業に就くことができれば、凡人の俺でもガンガン活躍して、憧れのハーレムパーティが組めるぜ!!
「えっとぉ~、ハコブさんのクラスはですね~」
「おうおうおう~! 最強無敵メチャモテ伝説たる俺ちゃんのクラスちゃんは~!?」
「【荷物持ち】」
「やった!! 荷物持ちだ!!!」
……。
アルェ?
「あー、【荷物持ち】って、どうやって無双すんの?」
「無双ってなんですか~? 荷物持つだけですよ~?」
ニモツモツダケデスヨ~。
ふむ、難しい暗号だな。
だがこれを解けば俺もハーレム王に!
「って!? そんなん中学校ん時と同じじゃねえか!? 俺いっつも帰り道同じ女子のカバン持ってやってたし!?」
「は? アンタ女に荷物持ちさせられてたの? キモ」
俺がそう叫ぶと、エリシャがガチで俺を嘲りながら言った。
持ってやってたっつってんだろうが!!!
「うふふ~、ハコブさんって意外と女の子に優しい所あるのよね~。私よ~く知ってるわ~」
すると上級神がウフウフ笑って言った。
さっすが上級神だぜ!
ちなみにその女の子に優しいハコブさんは現在ちんちくりん女神のツインテールを引っ張って、遊園地とかで風船捩じってワンちゃんとか作る大道芸よろしく氷結界の龍トリシューラ(遊戯王OCG)を作ってあげている最中であった。
「痛い痛い髪の毛抜けるハゲるからやめろコラァ!!??」
「あらあら~、ハコブさんったら意外と手先器用なんですね~♪」
「ふっ。カードの効果で場に存在するちんちくりんの幼女神エリシャのおっぱいを除外!」
「先にキサマを除外してやるわ!!」
エリシャが言いながら俺の髪を逆に掴んだかと思うと、猛烈な勢いで近くの壁に叩きつけた。
ぐごはぁッ!?
血……血となんか脳みその中身噴き出しちゃってるううううううッ!!??
「うふふ~、既に場に存在しないものは除外できないわね~?」
「じょ、上級神さま!?」
エリシャが涙目で上級神の方を振り返って叫ぶ。
ざまあねえな!!
「……あー、いちおう聞いておきたいんだが、【荷物持ち】って実は最強とかそういうオチねえのか?」
出てきたばかりの脳みそを頭の中に押し戻しながら、俺は尋ねた。
「どうかしら~。でも悪いクラスじゃないわよ~。基礎ステータスが全クラスで最弱の【村人】並みだから戦うとかはムリだけど~、でも荷物持つために頑丈だし~、パーティメンバーの荷物だったらどんな重い物でも持てるし~、クラスが上がれば持ち物を小さくしたり、異空間に隠せたりもできるようになるの~。だから【荷物持ち】は今異世界の勇者パーティの間で一番ホットな役職なのよ~! きっとモテモテよ~」
なんだよそれ。聞けば聞くほど悪い職業に思えてくるぞ。
いくら荷物持てたって最弱じゃ無双とかできねえし。
だが、大事なのは無双じゃない。
「そう! 何しろ俺がこれから行くのは美少女だらけの異世界! 女勇者とか聖女とかエルフの賢者とかケモミミ女とかを助けまくって、俺だけのウハモテハーレムパーティを結成できるのであればこの際最弱の荷物持ちでもまあ良し! 戦いは女子に任せてればいいしな!!」
「ホントあんたってクズよね……! 女の子に頼る気マンマンじゃない……!」
俺の心からの発言に、エリシャが溜息吐いて言った。
「よし! とにかくわかったぜ! そしたら上級神さま! さっそく転送たのむ!」
「うん~。任せておいて~! それじゃ~さっそく異世界に転送~!」
上級神さまが両手を掲げると、白い光が地面から天井に向かって吹き上がった。
それは俺の足元に落ちてきて不思議な文様の描かれた魔法陣へと変わる。
能力に差があるのか、さっきのエリシャの3倍ぐらいでっかい奴だ。
「あ~!」
俺の足元に現れた魔法陣を見て、上級神さまが目をパチパチさせた。
「間違えて~、ハコブさんみたいなポンコツばかりの世界に転送路開いちゃいました~」
言いながら上級神が首を軽く傾けて「ごめんなさ~い」をする。
「ここに来て急にディスんなよ!! つうか俺どこに送られんの!?」
「大丈夫~、エリシャもつけてあげるから~!」
「は!? あたしですか!?」
エリシャが自分を指差して言った。
「そ~。これも勝手にアイス食べたバツって事で~。天上界の規定で魔王を倒すまで帰ってこれないから~、ハコブさんや現地の勇者さんたちと協力して魔王を倒すのよ~」
「うえええええええええッ!??!?!!?!?」
エリシャの驚く声が聞こえた次の瞬間、俺の視界はサーチライトでも浴びせられたように真っ白に染まった。
――うふふ。優しいハコブさんならきっと『あの子たち』も救ってくださるわね――。
意識が途切れる最後、上級神のそんな呟きが聞こえた気がした。
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