クッキー
一睡も出来なかったあの日を思い出し、レイジは中庭のベンチに座っていた。風がそよそよと気持ちよく、本来なら目を瞑って季節を感じたいところだ。しかし、レイジには風情を感じでいる余裕は無い。何故ならバレンタインの時期から一ヶ月がたち、そろそろホワイトデーを迎えようとしていたからだ。
「お返し……必要だよな」
ソラリスから貰ったフォンダンショコラは大変美味しく、努力をしたのだろうと思わせた。そう言えば金髪のサンドイッチの人がどうのこうの言っていたことを思い出し、もしかしたらその人に教えて貰ったのかもしれないと予想する。あの時の男性は料理上手だった、可能性はゼロではない。
「二人だったのかな……」
仲良く二人でお菓子作りをする様子を思い浮かべ、レイジは少しモヤっとした気持ちを感じた。もしかしてこれは嫉妬か、そう思うと恥ずかしいようなむず痒いような感覚になり頭を抱える。そういう感情が生まれるなら、もしかして自分もソラリスのことが好きなのではないか。しかし、嫉妬心は別に恋愛感情に限らないし。もやもや、もやもやと悩み倒し頭を抱えていた。
「何か、お困りでしょうか?」
「ああ、まあ──ハッ! サンドイッチの人!」
「はい、サンドイッチの人です」
微笑んだ男性は、一度断ってからレイジの隣に座った。噂をすればなんとやら、例のサンドイッチの男性である。今さっき恐らく嫉妬の対象にした人が隣に居て、レイジはなんだか気まずくなった。しかしそれは気の所為として、一旦置いておく。
「そろそろ名前教えてくれてもいいんじゃないですか」
「そうでございますね、特に秘密にしていた訳では無いのですが。私、レンディエールと申します。皆様にはエルと愛称で呼んでいただいております」
「エルさん、か。この間はありがとうございます。サンドイッチ美味しかったです」
とんでもないですと首を横に振るレンディエールは、レイジの瞳をじっと見つめた。悩んでいる様子を見て、助力したいと思ってくれているのだろう。それを察して、レイジは少し考えたあと口を開く。
「その、多分なんだけど……バレンタインチョコを貰ったから、お返しがしたいんです。だけどこういうの慣れてなくて」
「多分というのが気になる所でございますが──ああ、成程。貴方でしたか」
レンディエールは首を傾げるレイジに向かって微笑むと、嬉しそうにしていた。もしかしてソラリスから何か聞いたのではないかとレイジは思ったが、それを聞くことを躊躇う。ソラリスの気持ちが想像通りだとして、それを他者の口から聞くことをしたくないと思ったのだ。
「そのようなお顔をなさらなくとも、大丈夫でございますよ」
「……今、どんな顔を?」
「ふむ……睨みつけられましたね」
そんなつもりはなかったと慌てて否定すると、レンディエールは可笑しそうに笑う。どうやらからかわれたようだ。気が抜けてため息を吐いていると、不意にレンディエールは寮のある方向を向いた。
「私はそういった事には疎いのですが、詳しい方なら存じていますよ。きっとお力添え頂けるかと思われます」
「……まさか、恋愛マスター?」
「ははっ、残念ながら彼女ではございません」
我慢できずに吹き出した、という様子のレンディエールに意外そうにしたレイジは、その力を貸してくれる人に興味を持った。実は誰かに協力して貰おうかと考えていたので、紹介してくれると言うのなら願ってもないことだ。紳士的な彼の紹介であれば、恐らくまともな人が来るだろう。
「善は急げ、でございます。依頼で外に出ていないのでなら寮にいると思いますので、呼んできますね」
「俺も一緒に行きます」
「いえ、貴方はここでお待ちください」
一人で行くと頑なに断るレンディエールに折れて、レイジはそのままベンチで待つことにした。
…………
暫くすると、一人の翼人の女性がベンチの方へ近づいてきた。遠くからレイジを視認しただろう女性は、こちらへ駆け寄ってくる。その姿に見覚えがあり、レイジは座っていたベンチから立ち上がった。
「え、もしかして君がエルさんの知り合い?」
「ええ。久しぶりね、元気そうでなによりだわ」
レイジの隣に立ったのは、過去に大規模な討伐依頼で行動を共にしたグランであった。彼女は再会を嬉しそうにしながら、そして軽く握手を交わす。知り合いの知り合いを辿るとグランと出会えた。世間の狭さに小さく笑いながら、レイジとグランは一緒にベンチに座った。
「事の経緯は聞いてるか?」
「ええ、確かにあの人に頼まれたわ。私に任せてちょうだい」
「本当は俺も一緒に頼みに行く予定だったんだが……何故か彼に断られてな」
「だってあの人、私に対して態度悪いもの。見られたくなかったのよ」
態度が悪いレンディエールが想像できなくて、レイジはまた意外に思った。丁寧な話し方や微笑みから、そんな様子が想像出来なかった。気を抜いた姿が出るほど仲がいいのかもしれない。
早速と言った様子で立ち上がったグランは、レイジの予定を聞いた。
「今から街に行こうと思ってたから、それに付き合ってくれるとありがたい」
「了解したわ。絶対に相手を射止めるわよ、気合い入れてちょうだい」
「あの……エルさんからどんな状況か聞いた?」
そんな獲物を捉えた猛獣のような目でそう言われてもと、レイジは慌てて訂正しようとする。このままではレイジとグランの温度差で、グッピーが大量殺戮されてしまうだろう。しかし、別にお礼がしたいだけなのだと言う前に彼女はずんずん歩き出してしまった。何やら、お礼がしたい本人よりも熱が入っているようだ。
「どうしたの? 早く行きましょう」
「そ、そうだな……」
まあ道中で説明すればいいだろう。そう思いながら、レイジはグランと共に群の施設の近くにある街まで向かうことになった。
…………
人が行き交う、露店が立ち並ぶ通り。
レイジとグランは、二人でその入口に立っていた。目星をつけてお店に向かうのもいいが、ここなら掘り出し物があるのではとグランの提案で目的地が決まった。早速歩き出して、ソラリスが喜びそうなものを探す。
道中にちゃんとソラリスとの関係やら複雑な感情やらを説明し、グランにはどうにか状況を理解してもらった。それからソラリスのことをより細かく説明する時、グランは「親近感が湧くわね」と微笑んでいたのを思い出す。
「ホワイトデーのお返しで、あげちゃ駄目なものがあるわ」
「え、そうなのか?」
「マシュマロ。あれを贈ると『あなたが嫌い』って意味になるのよ」
他にもクッキーは友達、マカロンは特別な人、キャメルは安心できる人、そしてキャンディーは好きという意味になるらしい。そんな文化一切知らなかっため、レイジは危なかったとグランの話に何度も頷く。やはり着いてきてもらって正解だったらしい。
「まあ、意味は一旦置きましょう。そうね……例え相手にとって外れだったとしても、食べ物なら残らない。逆に自分のことを意識して欲しいなら残るものがいいわね」
「え、えーっと……」
「それらを頭において、適当に見て回りましょうか」
グランはテキパキと段取りを決めてくれる。もしかして案外恋愛経験が豊富で、こういったことに慣れているのかもしれない。見た目はレイジよりも歳下で、十代の後半ぐらいだろうか。恋愛マスターと言うなら彼女の方じゃないか、レイジがそんなことを考えているとグランはスッと目を細めた。
「凄く、悩んでいるみたいね。オーラが濁ってきたけど……。でも大丈夫よ、私がちゃんとサポートするわ」
「あ、ああ。うん、ありがとう」
表情に出ていたのだろうかと、レイジは気まずくなって視線を逸らした。彼女が思う悩みの内容とさっきまで考えていたことは、多分違うだろう。彼女が恋愛マスター(真)だとかはもう忘れて、レイジは露店の方を向いた。
衣服だったりアクセサリーだったり、日用品を売っている露店もあるし、何か怪しい道具を売っている店もある。法に触れてないだろなと思いつつも、自分の用事に集中した。
「手の込んだ食べ物ならここじゃない方がいいけど、お洒落な女性なら珍しいアクセサリーとかもいいんじゃないかしら」
「アクセサリー……あんまり詳しくないんだけど」
「髪留めとか、ネックレスとか。あと、そうね……指輪は流石に重いわね」
あれは良い、これはアウトと色々例を上げて貰いながら、レイジはグランと露店街を歩いた。が、一向にお返しの品は決まらず。レイジは情報を一気に入れすぎて処理落ちしそうになりながら、一旦足を止めた。
「うーん……あの店を見てみようか」
「分かったわ」
レイジは先導して向かい、一つの露店の前に立った。綺麗な色の石がついたアクセサリーや、服が何着か置いてある。ここを選んだ理由は店主が比較的まともそうな見た目、というだけなので、冷やかしになる可能性もあるが。
「いらっしゃい、どうぞゆっくりご覧くださいな」
声をかけてきた店主に軽く会釈をすると、レイジは助けを求めるようにグランを見つめた。何が女性が好みそうな品なのか、全く分からない。グランがいくつか見繕ってくれたら、そう思ったが彼女はじっと店主を見ている。
「グランさん。そのー、どれが綺麗とか、可愛いとか意見欲しい……です」
「そうね。品物には触れても大丈夫かしら」
「勿論です。 ああ、繊細なものなので丁寧にお願いしますね」
店主の許可を取ると、グランはゆっくりと手を伸ばした。そして商品の乗っているテーブルに触れると、手探り、と言った様子で小さな赤い石のついたネックレスに触れた。その行動に、レイジはもしかしてと驚きに目を見開く。
「これは……何色かしら」
「君、目が見えてないのか?」
「ええ。そういえば言っていなかったわね。生物は色で見えるけど、無機物ははっきりとは分からないの」
初めにあった時は忙しくてそんな話は聞かなかったし、なにより杖もなしに普通に歩いて、表情を読まれていると思った事もあり全く気づかなかった。そう言えばオーラがなんとかと言っていたなと思い出し、早めに気づいて良かったと安心する。
「なんで言ってくれないんだよ……」
「日常生活に支障はないわ。それに分からないことがあれば貴方に聞けばいいのだし」
「何かあった時に守れないだろ。知ってれば回避出来ることだってあるのに」
グランはそれを聞いて、こくこくと何度か頷いた。心配しているというのが伝わったようだ。
聞いていたネックレスの色を伝えると、グランはそれをそっとテーブルに戻してから他のものを手に取っていた。優しく指先で触れて、形を確認している。
「彼女は、普段アクセサリーを身につけているのかしら」
「そうだな……髪をまとめる飾りなら付けてるよ」
「そう。ならそういった普段使い出来るものもいいかもしれないわね」
それを聞いて、店主は髪飾りをいくつかレイジに見せた。キラキラした宝石は眩しくて、女性が好みそうだ。しかし、思い浮かべたソラリスの笑顔に、それは似合わないような気がした。あれがいいのか、これがいいのか、一つずつ手に取って観察する。
「これ……可愛いかも、多分」
「どんな形をしているの?」
「花の形。なんの花かは分からないけど」
レイジが手に取ったのは花のチャームがついたチョーカーだった。こちらを向いたグランにそれを渡すと、形を確認するグランを見つめた。すると店主は買ってくれるのだと思ったのか意気揚々と話し始める。
「流石お客様、お目が高い! そのお花はリンドウを象っていますね、女性に大人気の品ですよ!」
「大人気、か」
他の女性を好むものを、必ず彼女が好きというだろうか。レイジの頭の中では、とにかくあの菓子(本命?)に見合うだけの、とめちゃくちゃハードルを上げまくった考えが渦巻いている。あれ本当に本命だったら、どうしたらいいのだろうか。今それを考えるべきでは無いかもしれないが、などと思っているとグランが小さく何かをこちらに言った。
「別に、ここで決めなくてもいいのよ」
「ああ、まあそうしてもいいか……」
こそこそと店主に聞こえないように素早く会話すると、適当にあしらってから次の露店へ向かった。グランはきょろきょろと人の多いところを観察しており、じっと目を凝らしているようだった。もしかしたら人が多いところが苦手なのではないだろうか。忙しい様子にそう思ったレイジは、グランの方へ顔を向ける。
「もしかして人が多いところ苦手か?」
「昔はそうだったかかもしれないけど、今は大丈夫よ。ただ、楽しかったり嬉しかったりしている人を探しているの」
例のオーラというやつで、自分には見えないようなものが見えるのだろう。良い買い物をした人が多いところを探して、そこがより人気の露店なのだと篩にかけているらしい。が、あまり成果はあげられなかったのか、顎に手を当て考え出してしまっていた。
そうこうしている内に、露店街を抜けてしまった。自分が優柔不断なせいで、そう思っていたレイジは大きくため息を吐いた。元々そういった性格では無いはずなのだが、ソラリスが絡むとどうも上手くいかない。グランに戻ろうと声を掛けようとした時、彼女は早足でレイジを置いて何処かへ向かってしまった。
「え? ど、どうした?!」
忍者の如く素早い動きでグランが向かったのは、とある洋菓子店の前だった。匂いを嗅いでいるのか、くんくんと鼻先を店の方へ迎えている。レイジが追いつくと、グランはその洋菓子店を軽く指さした。
「とても美味しそうなアップルパイの匂いがするわ」
「アップルパイ……?」
「ええ、アップルパイよ」
目の色が変わった、といったような様子で店内に入ったグランを追い、レイジも洋菓子店へ入った。よっぽど好きなのだろう、目が見えてないのにも関わらず、真っ直ぐにアップルパイが置かれたショーケースの前に立った。嗅覚が鋭いのかもしれない。
「これだけ美味しそうな匂いのするアップルパイが置いてある、ということは他の品も当たりの可能性があるわね」
「食べ物を貰ったから、食べ物で返すのもありだよな」
「そうね、クッキーなんて無難かもしれないわ」
そう言いながらショーケースの前から離れないグランを置いて、クッキーを探して店内をまわる。棚一列分並んだクッキーの袋を見つけて、自慢の品なのだろうとそれらに近づいた。いくつも味の種類がある個包装されたクッキーが並び、その横にはいくつかの味がチョイスされ可愛らしい籠にまとめられた、プレゼントに最適なパックまである。
「プレーンにチョコ、紅茶の味……クッキーってこんなに種類があるんだな」
選びきれないというのが正直なところだが、幸い八枚入りパックなどがあるため、それが一番喜ばれるのではないだろうか。悩んでいると、手に袋を持ったグランが隣に立ってレイジの視線の先を見た。
「気に入るものはあったかしら」
「そうだな……クッキーの詰め合わせがあるんだけど、それとかどうかなって」
これが失敗しなさそうで、彼女も喜んでくれるだろう。グランもその案に頷いて、レイジはプレゼント用のパックを持ってレジの方へ向かった。脳内のソラリスはクッキーを受け取って嬉しそうに笑っている。それを想像しただけでなんだか心が温かくなった。
それぞれ戦果を挙げ、堂々と言った様子で店を出る。アップルパイが余程嬉しかったのか、グランは袋を指でさすっていた。
「ふう、ちゃんと買えてよかった……」
「それなら失敗しても食べれば無くなるから、なんの問題もないわね」
「嫌なこと言うなぁ」
確かに、彼女にとって微妙な味だったとしても食べれば無くなる。気に入らない形残るものを貰うよりかは遥かにマシだろう。そう思っていたレイジだが、グランがこちらをじっと見つめているのを見て、不意に彼女が少し前に言った言葉を思い出していた。
『意識して欲しいなら残るものを』
その言葉に何故か引っかかって、歩き出そうとした足を止める。お返しは買ったのだから、このまま帰っても問題ない。
しかし、レイジは決意を固めたように真っ直ぐを見据えた。相手が本命を渡してきたか確信がない、自分が彼女に意識してもらいたいかもよく分かっていない。だが、レイジはクッキーを一旦グランに預けると露店街へ視線を向けた。
「ちょっと待ってて、すぐに済ませるから」
「ええ、行ってらっしゃい」
何やら満足したように頷いたグランは、走り出したレイジの背を見送った。
────
心拍数が早すぎて、そのまま心臓が走り出しそうである。
レイジは手に可愛らしいラッピングの袋を持ったまま、ある部屋の前で十数分ウロウロしていた。傍から見たら不審者だし、人を呼ばれてもおかしくないかもしれない。そう理解してから、意を決して目的のドアをノックする。するとすぐに女性の声が聞こえて、扉が開かれた。ひょいと顔を出したソラリスは、レイジの姿を捉えると僅かに跳ねる。
「レ、レイジ君?! どうしたの?」
「いや、そのー、少し用事があって」
「そうなんだ……あ! ここじゃなんだし、入って入って!」
お礼だと手渡してすぐに帰るつもりであったが、ソラリスにぐいぐいと手を引っ張られたレイジは為す術なく彼女の部屋へ招かれた。テキパキと流れるような動きで座らされたレイジの前に、紅茶が注がれたカップが置かれる。
「ありがとう、でも大した用事じゃ──」
「何か食べる? チーズケーキがあるよ」
あれよあれよという間に目の前にはケーキが乗った皿が置かれ、フォークが添えられる。長居ルートが確定してしまった。
レイジは何となく緊張した様子で、ソラリスの部屋を見渡した。白とオレンジ色でまとまった家具で、シンプルな部屋だ。たまに置いてある猫をモチーフにした可愛い置物などが、彼女らしいというか。女性の部屋に居るのだと今更実感が湧いて、肩身が狭い思いである。
なんだかそわついているようなソラリスが、やっとレイジの向かいの椅子に座った。丁度良い間だろうと、レイジは持っていた袋を差し出す。
「これ、この間のお返し」
「え! いいの……? ありがとう、嬉しいなぁ……えへへ」
差し出した袋を優しく受け取ったソラリスは、期待した様子でそれを見つめていた。こちらに向いたソラリスの視線が「開けてもいい?」と聞いているようで、レイジはそれに頷いた。
「わあ! 美味しそうなクッキー!」
「口に合うといいんだけど……」
「私、クッキー大好きだよ。紅茶にも合うし」
これは何味で好き、これは知らない味で美味しそうとパッケージに書かれた味の種類を見て、ソラリスはそれを味わう瞬間を想像しているのか嬉しいそうに微笑んでいた。喜んでもらえてよかった、そう安心する気持ちがありながらも、レイジは今が一番緊張しているだろうと思う。
「ん? あれ、まだ何かある……?」
ソラリスが手に持ったクッキーの詰め合わせをテーブルに置くと、袋の中にまだ何かあることに気づいて手を入れた。そして、小さな箱に触れて、それを出して確認している。
箱に納まっているのは、黒い帯状の布に花のチャームがついた一つのチョーカーだった。その花がリンドウだと、ソラリスは知っている。偶然にも彼女の誕生花であったからだ。宝石なんかよりも、彼女にとってはレイジ贈られたそれが何よりもキラキラと輝いて見えた。
「こんなに貰ってもいいの……?」
「うん、その……受け取ってくれると嬉しい」
「つ、着けてみてもいいかな?」
思いのほか喜んでいるソラリスになんだか恥ずかしく思いながら、レイジはその言葉に「どうぞ」と頷いた。箱からチョーカーを取り出したソラリスは、それを首に回した。しかし、上手く留め金を付けることができないのか、中々苦戦しているようだった。
「俺がやろうか?」
「お願い、します……」
立ち上がってソラリスからチョーカーを受け取ると、彼女の背に回りそれを首に着けてあげた。金具がちゃんと留まったのを確認すると、再び椅子に座る。
目の前には、幸せそうにチャームに触れるソラリスが居た。その姿に思わず固まってしまう。自然と目が離せなくなって、見蕩れてしまった、と言った方がいいのだろうか。それを自覚してまた恥ずかしく思っていると、何故かソラリスは両手で顔を隠してしまった。そして大きくため息を吐いている。その様子に驚き、思わず椅子から立ち上がりそうになった。
「ど、どうした?! 気に入らなかった……?」
「ああ、ごめんね!そうじゃなくて……! な、なんて言うかな、えっと……凄く嬉しくて」
手を膝に下ろしたソラリスは、頬を赤く染めながら微笑んでいた。心から喜んでいてくれているのが、はっきりと伝わる。彼女から受け取ったあのフォンダンショコラは、本当に本命だったのでは。そう思わせるほどに、ソラリスの笑顔は眩しかった。
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