チョコレート

幾人もの乙女の戦場、それが決まってこの日訪れる。

ある食材が町中から消え、甘い匂いが漂う。

それは可愛らしくラッピングされ、意中の男性へと贈られるのだ。



それが──2月11日、バレンタインデーである。


……記憶違いではないか。

誰しもがそう思うだろうが、とある1人の少女にとっては、本来の日付から3日前の今日が真のバレンタインデーだった。




────




ソラリスは自室で思い悩んでいた。

テーブルに突っ伏しながら、大きなため息を吐く。そして、テーブルの上に乗った包装紙を指でつついた。それはピンク色の紙に赤色のハートの模様が印刷された、言ってしまえばガチと丸分かりの物だ。


ルンルン気分のバレンタイングッズショッピング。そんなテンションの中ノリで買ってしまったが、よく良く考えれば想い人にこれでラッピングをしたチョコを渡してしまえば気持ちがバレてしまうだろう。

当然、ソラリスはそれを回避したかった。

確かにレイジにチョコを渡したいが、はっきりと気持ちを伝える勇気は無い。ただそれとなく渡して、自己満足で終わりたかった。そう、乙女心とは複雑なのだ。

頭を捻り、悩みに悩んだ末に思いついたのが、『2月11日作戦』である。


「はぁ……流石に大丈夫だよね……」


当日に渡すと察せられるかもしれないが、3日前の今日なら流石にバレンタインのチョコだとは思われないだろう。そう考えてこうして早起きをしてチョコ作りのための準備をしていた。

しかし、中々行動に移せないでいる。作戦が上手くいかずバレたらどうしよう、流石にそこまで鈍くないのでは、と不安が脳内をぐるぐると回っていた。

が、ソラリスはぎゅっと拳を握りしめる。そして決意したように立ち上がった、自分はここで終わる女では無い、と。


「しっかりするのよソラリス! 私なら出来る!」


ばしっ、と胸元を叩き自身に喝を入れ、早速食堂へ向かうことにした。




…………




ソラリスが食堂に入ると、すぐにチョコレートの匂いが室内に広がっていた。先客がいたようで、金髪の背の高い男性がキッチンの方に居る。当日に向けての練習なのか、それとも自分と同じ作戦なのだろうか。そう考えながら、ソラリスは時間を改めようと食堂から出ようとした。


「お待ちください。ただいま完成しましたので、すぐに片付けを致します」

「あ、いえ! 急がなくても大丈夫ですよ」


ソラリスに気づいていたのか、男性は声をかけ引き止める。後片付けを始めたのを見ながら、ソラリスは彼の言うとおり待つことにした。椅子に座り、カチャカチャと調理器具を洗う音を聞く。

暫くすると、片付けが終わったのか男性はソラリスが居るテーブルの方へ向かってきた。

彼が手に持つトレイには、甘い香りのする菓子がいくつか乗せられている。香りも良いし形も綺麗だ。手馴れているのだろう。


「お待たせしました。お邪魔にならぬよう、私はラッピングが終わり次第すぐに去ります。ご安心を」

「共有スペースですから、そこまで気にしなくても……」

「ですが、貴方の表情から察するに……大事な用なのではありませんか?」


そこまで顔に出ているのかとソラリスを自分の頬を揉むと、男性はそれがおかしかったのか小さく笑った。確かに彼の言うとおり大切な用ではある。しかし恐らくバレンタイン同志である相手の邪魔をしたくないというのは、ソラリスも同じだ。


ソラリスの様子を見て、自分の言葉への肯定と受け取ったのか男性は菓子のラッピングを始めた。マフィンだろうか、カップに入った焼き菓子を丁寧に包んでいる。


「よろしければ1つ貰っていただけませんか? 余ってしまって……」

「え、いいんですか?」

「勿論でございます。フォンダンショコラです、お口に合うと良いのですが」


菓子はマフィンではなく、フォンダンショコラだったらしい。男性はソラリスに手渡すと、ニコリと微笑んだ。そしてまたラッピングの作業に戻っている。入れ物の封をするリボンの形が気に入らないのか、何度も直していた。その熱心な様子を見るに、恐らく彼も意中の女性に贈るのだろう。


「いただきます」


丁度朝食を取っていなかったから有難いと、ソラリスは菓子にかぶりついた。

ふわふわの生地の中かから、ガナッシュがとろりと口の中に広がる。甘さ控えめの味に、相手が彼に見合うような大人な女性なのだろうとソラリスは想像した。

それにしても、ただの一般人が作るレベルの菓子ではない。食べるのが勿体ないと思う程だ。

しかしそう思うものほど、簡単に無くなってしまう。口元を拭きながら、ソラリスは食べきったあとのカップを見つめた。


「気に入って頂けたようで、何よりです」

「凄く美味しかったです! パティシエさんなんですか?」

「ふふ、違いますよ。ただ人に奉仕するのが好きなだけでして、料理はその一環でございます」


ラッピングが終わったらしい男性は、ふうっと一息ついている。あんなに美味しいものを態々手作りして誰に渡すのか、ソラリスは気になってしまった。

脳内では長身の美女が真っ赤な口紅を塗りながら、こちらに手を振っている。多分こんな感じのセクシー美人だ、間違いない。


「あの、恋人にですか? それ」

「いえ、私がお仕えする主に日頃のお礼も兼ねて、お渡ししようかと思いまして」

「主?」

「そうです。武人で逞しく強靭、更には英智もあり、まさに完璧とはあの御方を表す言葉だと思います。自分に厳しい御方で、その己を律する姿を見て私も──」


突然饒舌になった男性は、ペラペラと主への賞賛を語り出した。自分の語彙力をフル稼働させているのような、数々の言葉。暫くして驚きで固まっていたソラリスに気づき、男性は「すみません」と謝ると軽く咳払いをする。


「それに、私のような男は独り身がお似合いですよ。それより……是非、貴女のお相手の話を聞かせて頂きたいです」

「お、お相手とかそんなんじゃ! でも、将来そうなれたらなぁ、なんて……じゃ、じゃなくて!!」

「ふふ、余程気になる殿方なのですね。素敵です」


誤魔化すように両手を振るソラリスは、男性のいいもの見れましたと言わんばかりの微笑みに更に頬を赤くする。顔が火照るのが分かって、熱をとるように両頬に手を当てた。

そして、レイジのことを思い浮かべた時、ふとフォンダンショコラが目に入った。これを贈ればどんな表情をするだろうか、その想像が膨らんだ。


「あ、あの……これの作り方教えてくれませんか?」

「ええ。私でよろしければ、ご協力致しますよ」

「ありがとうございます!」


男性は特に迷う様子もなく頷いてくれる。実は何を作るか案が多くて、ここに来ても決まらなかった。しかし今日は運がいい。それが続くように祈った。


「では準備致しますので……いえ、全て自分がやってからこそ意味があるものになりますよね」

「そうですね! 私、頑張ります!」

「意気込みは十分のようですね。まずは卵を出しておいて……必要なものを用意しましょう」


チョコレート、バター、薄力粉、粉砂糖。

ソラリスは指示されるまま全てを取り出し、男性は調理器具の準備をした。必要な量を分かりやすいように皿に取り分けると、並んだ材料を見る。

案外材料は少ない。もっと色々なものが入っているかと思ったが、確かにシンプルな美味しさだったと味を思い返した。


「では……まず、薄力粉と粉砂糖をふるって下さい。生地を作る時ダマになるのを防ぐための工程です」

「はい!」

「そんなに肩に力を入れなくてもいいですよ。緊張していますか?」


二つをふるいながら、ソラリスは何度も頷いた。流石に失敗したものを渡す訳にはいかないし、教えてもらうのだからちゃんとしないと。そう思い、緊張で動きが錆びたブリキ人形のようになっていた。その様子に男性は笑うと、斜め上を見てなにか考え事をする。


「そうですね……ああ、適当に聞き流しながら作業をして良いですよ。私の友人の話なのですが、なめくじねこを飼っている女性がいまして。案外、あの生き物は可愛らしいですよね」

「そうなんですか? なんか怖くて、あんまり近づいたことないです……」

「確かに分裂したりするらしいので、不思議なねこですね」

「ぶ、分裂?!」


噂に聞いたことがある、なめくじねこ。

本能かなにか分からないが、ソラリスは触ることを極力避けてきた。見かけることはあるが、詳しい生態等は当然知らない。

分裂するとどうなるのか、想像して苦笑いを浮かべる。


「増えた時は、無理やりくっつけて戻すと彼女は言っていました。真顔でなめくじねこを押し付け合って元に戻すその姿があまりにも可笑しくて、笑ってしまいましたよ」

「真顔で……ふふっ、確かに笑うかもしれないです」


ふるう作業がいつの間にか終わり、男性はボウルにチョコレートとバターを入れるとソラリスに渡した。緊張を解すために他愛ない話を挟んだのだろうと、男性の優しさを嬉しく思う。確かに、少し体のこわばりが落ち着いたかもしれない。


「次は湯煎です。火は弱火でお願いします」

「……このぐらいですかね?」

「ええ、丁度良いです」


水の入った鍋を火にかけて、その中にボウルを入れる。ソラリスがヘラで混ぜようとすると、男性は軽く手を添えてそれを止めた。どうやら、湯煎中は混ぜなくてもいいらしい。

彼は奉仕の一環として料理ができると言っていたが、恐らくお菓子作りだけの話では無いのだろう。将来お嫁さんになるのなら料理もできた方がいいよね、なんてふわふわな妄想をしたソラリスは、ハッとして現実に戻る。


「あの、料理って誰に教わったんですか?」

「独学です。苦労しましたが、とても楽しかったですよ」


昔を思い出しているのか、男性は一瞬視線を何処かへ向ける。その表情はどこか悲しげで、楽しかっただけではなかったのだろうとソラリスは思った。何があったのか聞いた方がいいだろうか、そう考えていると男性は鍋を指さす。見ればチョコレートとバターが綺麗に溶けきっていた。


「そろそろ鍋から出しても大丈夫です。混ぜましょうか」

「よいしょ……」

「上手ですね。この調子なら、美味しくできると思いますよ」


褒められ照れているソラリスに微笑んだ男性は、混ぜる時のコツを教えつつ見守った。少し手伝う程度で、本当にソラリスに大体を任せてくれるらしい。

大切な用。彼にそう言われたことを思い出し、改めて気合いを入れ直した。


「次は解きほぐした卵に、先程ふるった粉を混ぜます。ダマになりやすいので数回に分けてくださいね」


ボウルを手渡されたソラリスは頷く。そして言う通りに卵を解き、粉を数回に分けて投入した。泡立て器で混ぜながら、レイジの喜ぶ顔を想像するとぽっと頬を染める。いかんいかんとソラリスが頭を振ると、男性は小さく笑った。


「愛情を込めるほど、お気持ちが伝わると思いますよ」

「そ、そうですかね?」

「ええ、それもより美味しくなるコツだと言えますね」


再び温かい目で見守られ、なんだか恥ずかしくなった。そこから意識をそらすように懸命に混ぜていると、男性は「そろそろ大丈夫ですよ」とチョコレート生地の入ったボウルを傍に寄せる。


チョコレート生地を分けながら加え混ぜると、やっと出来た生地を男性が用意してくれていたカップに均等に流した。予熱していたオーブンにそれを入れると、男性の指示通り八分程度に時間を設定して焼き始める。


「案外焼き時間短いんですね」

「焼き過ぎますと中のチョコレートまでしっかり焼けてしまいますので、あのとろりとした状態では無くなってしまうんです」

「なるほど」


ワクワクとしながらソラリスが待っていると、男性はオーブンを見つめながら「ふふ」と声を漏らした。何事かとソラリスが見上げると、男性は微笑んだまま小さく謝る。


「作っている最中、貴女が百面相をしていらしたので。青春とは良いものでございますね、私も幸せを分けて頂きました」

「百面相って……変な顔してましたか?」

「いいえ、恋に悩む乙女の顔でしたよ」


それはどんな顔なんだとソラリスが顎に手を当て考えていると、それがまた可笑しかったのか男性は笑った。彼の年齢は分からないが、かなり子供に見られているようだ。悔しいような、むず痒い気持ちである。


「それにしても、バレンタインデーはまだ先ございます。今日は練習にいらしたんですか?」

「それが、その……」


そう問われ、ソラリスは少し悩んでから男性に事情を説明した。こうして手伝ってもらったのだ。それに秘密にしておく理由もなかった。

男性は真剣な面持ちで話を聞くと、キョトンとした表情をして「そうですか」と言い不思議そうにしていた。


「想いをお伝えにならないのですか?」

「伝えたいですけど、伝えたくないと言うか……」

「恋心は繊細ございますね」


男性はなにか考え込んでいるようだった。何か力になれないか、そう思っているのだろう。こうして手伝ってくれただけでソラリスからすれば有難かった。


焼き終わったのかオーブンから音がなり、ソラリスは心を弾ませながらそれを開けた。ふわりとチョコレートの香りが鼻をかすめ、すぐにミトンをつけトレイを出す。男性が作ったものと見た目は殆ど同じと言えるだろう、期待する気持ちに口角が上がってしまう。


「中がどうなっているか、ひとつ味見をなさっては如何でしょうか」

「そうですよね、多めに作っておいて良かったです」


後片付けをしてから、味見用に自分のものとお礼として男性にひとつ取り分ける。テーブルの方へ持っていくと、少し冷ましてから男性と味見をした。


「あむっ……ん、美味しい!」

「上手に出来ましたね」

「へへ、ありがとうございます」


食べ終わってから、部屋から持ってきたガチめのラッピングを取り出す。男性に見守られながら、綺麗に包むとそれを軽く掲げた。男性は拍手をしてそれを祝う。


「出来ました! これをぶちかまして来ます……!」

「ぶちかます」

「はい!!」


戸惑う様にオウム返しをした男性に、ソラリスは強く頷いた。もうここまで来たら当たって砕けろ精神だ。三日前に渡すという卑怯な手は使っているが、想いは本物である。


男性はそれを見届けて、主に渡すと言ってた包みを手に取ると椅子から立ち上がった。


「貴女の想いが伝わることを祈っております。これ程想ってくれているのですから、御相手の方も貴女の気持ちを無下にするとは思えませんから」

「ありがとうございます。……頑張ります!」


男性は優しく微笑んでから軽く会釈をすると、そのまま出口の方へ向かった。ソラリスはそう言えば大切なことを聞き忘れていたと、椅子からガタリと立ち上がる。


「あの、私ソラリスって言います! 貴方のお名前、聞いてなかったです」

「名乗る程の者ではありませんよ。ただ貴女の恋を応援したい、それだけですから」


そう言って軽く頭を下げた男性は食堂から出ていった。ソラリスはその言葉どこかで聞いたことがあった気がして、思い出そうと空を見つめた。名乗るほどの者じゃない、食べ物、男の人……そこで、ハッとして体を跳ねさせる。


「あっ! サンドイッチの人!!」


暫く前にレイジにサンドイッチを渡した人が、確かそう言っていたはずだ。ソラリスはすぐに持ち物を全部まとめると、そのまま食堂を飛び出した。ちゃんとお礼をしないといけない人だったと男性を追うため走り出すが、なにかにぶつかりよろける。


「わっ!」

「おっと危ない……!」


ぶつかったのは人で、相手に支えられると慌てて頭を下げる。潰れてないかとフォンダンショコラを確認すると、無事な様子に安堵の息を吐いた。


「急いでて、ぶつかってすみま──ん? レイジ君!?」

「お、おう。そんなびっくりしなくても」

「いや、そのぉ……金髪のサンドイッチの人が、名乗る程の者じゃありませんの人で……!」

「何言ってるんだ?」


唐突なレイジの登場に焦ったソラリスは、どうにか状況を伝えようとする。しかしバレンタインの事を勘づかれてはいないかと気になり、上手く言葉には出来なかった。レイジの言う通り、何言ってるのか自分でも分かっていない。

そう思っていると、不意にレイジが半歩ソラリスに近寄った。ドキリとして何事かと思っていると、彼はある一点に視線を向けている。


「ん、なんかいい匂いするな。こんな朝からお菓子作りか?」


レイジの視線の先には、ソラリスの持つ袋があった。なんと言えばいいのか分からなくなって、顔を逸らしてしまう。しかし、ではなんのためにこれを作ったのか、と思い返し、ソラリスは一度バレないように深呼吸をした。そして「ええい、ままよッ!!」と脳内で叫びながら、ソラリスはそれを無言でレイジに差し出す。


「くれるのか?」

「あの、その〜……美味しく、できたから! それだけ!!」


びゅーんっと効果音が聞こえそうなほどの爆速で去っていったソラリスに、レイジはぽかんとしたまま受け取った菓子の温かみを感じた。彼女の様子がおかしいのはまあたまにある事だ。そのためあまり気にしてはいない。

が、そんなレイジに強い衝撃が襲いかかった。ソラリスから貰った袋から取り出した物は、甘い匂いの通りお菓子のようだ。


「ん? ……んん!?」


だが、よく見るとハート柄の可愛いラッピングである。

それにソラリスはこれ以外に同じものを持っていなかった為、複数人にあげるつもりではなかったはず。用意されたレイジだけのお菓子、そしてチョコレートの匂い。



それから導き出される答えは────



「……いや。バレンタイン、まだ先だしな。よくて義理だろう」


「ちょ〜っと待てぃっ! そこの青春真っ盛りのキミィ!」


急に肩を叩かれたと思えば、いつの前にか隣には胸に薔薇のブローチをつけた女性が立っていた。びくりと体を跳ねさせたが、その姿に見覚えがありレイジは安心する。


「前の丁度この時期にも会ったな、名前は……」

「恋愛マスターと呼んでくれ」

「なんでここの人こんなに名乗らないんだ?」


あの時の金髪の男性と言い、目の前の薔薇の女性と言い、何故ここまでして名乗らないのかとレイジは苦笑いを浮かべた。女性はそれに対してフッとは鼻で笑う。


「私はただの通行人Aでいいからな。カップルの前にして、目立とうだなんて思ってもないさ……」

「十分目立って……って、カップル? 誰が?」

「は〜〜〜〜これだから鈍感男子は!」


呆れたようにため息を吐いた女性は、バシバシとレイジの背を叩く。思ったより力が強い。

変な人に絡まれたかもしれないとレイジが遠くを見つめていると、女性はレイジの持つ包みを指さした。


「This is バレンタインのチョコ」

「でも三日前だぞ?」

「ソラリスが素直に渡すと思うか? 前も言ったがそれらは照れ隠しだ!」


確かにその可能性も考えたが、ソラリスに限ってそんなことはとそれを除外していた。しかし、仮に女性の言うことが本当だとして、自分はどうするのかとレイジは受け取った包みを見つめた。

ソラリスに対して確かに好感を持っているが、これは好きというのだろうか。彼女の言う通り、本当にソラリスは自分が好きなのか。そう思うと確かに自分は鈍いのかもしれないと、レイジはため息を吐いた。


「私の直感からするに、『ガチめのラッピングをノリで買ってしまい、当日にそれで包んだものを渡す勇気は無いが三日前ならOKだろ作戦』だな」

「ピンポイト過ぎやしないか?」

「恋愛マスターの感を信じろ、60%で当たる」

「び、微妙……」


今回はピッタリ当たっていたが、当然それを二人とも知らない。女性はソラリスが去っていった方向を一度むくと、何故か楽しげな表情をして再びレイジの肩をぽんと叩いた。


「まあ、君らのペースで進むといい。私は温かく見守っているぞ」

「貴女は本当にソラリスが、そのー……俺が好きだと?」

「当然だ。恋愛マスターは嘘を言わん」


ふはははと笑い声を響かせながら去っていった女性を見送り、レイジはよろよろとふらついた様子で自室へ歩み出した。訓練場で素振りでもしようと思って外に出たが、それさえ頭から抜けている。


「ソラリスが……? でもチョコ……バレンタイン……?」


ぶつぶつと呟きながら自室へ戻ったレイジは、ゆっくりと包みをテーブルに置くとその場で頭を抱えた。

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