エピローグ
全てが終わった。
私は医務室のベッドに横たわるリオを見て、傍にある椅子に座るとため息を履いた。
「強かったね、群の人。ここまで苦戦したのっていつぶりだろうね?」
まだ傷が癒えておらず眠ったままのリオから返事は帰ってこない。それでも構わず私は彼の手に自らの手を重ねた。
寝てる間はなんでも出来ちゃうぞーっと冗談めかし言うと、リオの寝顔がぴくりと動いた気がして小さく笑う。
嫌な夢でも見ているのだろうかと思ったが、相変わらずの死んでいるかのような寝顔に戻る。
「ふふ、こういうのが見れるのも私だけの特権だからね。だから──」
私は悪くない。
ヴィノスに協力し、情報を流したとしても
「ねぇ、だって首刈さん邪魔だったもん。私は嫌って言ったのに……」
しかし上手くいった。死にはしなかったが、彼女はもう自分達に関わることは無いだろうし、またリオと二人の楽しい日常が戻ってくるのだ。これ以上の喜びはない。
「リオは傷の治りも早いからね。元気になったら甘いものでも食べに行こうよ」
どの店がいいだろうと思い浮かべる私は、リオの手を一度強く握る。手に触れながら、僅かな眠気に逆らわずベッドに顔を伏せるとそのまま眠りについた。
…………
「本当に面倒な子だねぇ」
レンカが寝たのを確認した私は、医務室の天井を見ながらそう呟いた。
全てを知った上で気付かないふりをした自分も、面倒なのだろうなとぼんやり考えると再び目を瞑る。
「私から離れた方が幸せなのに、なんで自分から地獄に突っ走るのかな」
まぁ止めはしないがと、自分の手に触れる彼女の体温を感じながら眠りにつく。
次に目を覚ました時は、何も知らない私で。
────
「かんぱーい!」
猫塚の合図によって皆がグラスを軽く上げる。
現在、首刈の件を解決したメンバーで打ち上げが行われている。
ヴィノスは「何故だ」という顔をしながら椅子に座り酒をあおっていた。
普通依頼をこなしたからと言って打ち上げまでするだろうか。しかし、周りの楽しそうな様子を見て考えるのをやめた。
「チェリスちゃんがここまで成長してるなんて、お姉ちゃん嬉しいわぁ」
「俺だって男だからな!……って、人前で撫でないで欲しぜ姉貴!」
「あらあら、可愛い〜」
ヴィーツェ姉弟は相変わらずである。
ノルにチェリスの活躍を聞いたマリーは弟の成長っぷりにとても喜んでいる。チェリスがマリーとチームを分けると言った時、マリーは本当は心配だったのだ。
「でもノルも凄かったんだぜ!何よりかっこよかったな!」
「いえ、私なんて……。でも嬉しいです」
照れているのかどうか顔からは読み取れないが、嬉しいとういのは本心のようだ。
ノルは仮面をずらしてストローでジュースを飲んでいるが、仮面の下が気になる者も居るようで、注目を集めている。
本人は良くあることの様なので気にしていないが。
「あー、はいはい。カイリがオレンジジュース追加で猫塚さんはフライドポテトが欲しい、と」
「店員みてぇだな。俺様も酒追加で」
「あんたは自分で取ってきなさい」
トルエノは世話を焼きながらヴィノスの茶化しをガンスルーしてキッチンの方へ向かった。
酷い傷を負ったが群に帰って直ぐに治癒を受けたために暫く寝たきり状態にはならずにすんだ。
何よりそんな事になったら周りに心配をかけてしまうと、トルエノは飲み物と適当なツマミを用意してテーブルに戻る。
「厄魔さんはお茶だけでいいんですか?」
「ああ、構わない」
トルエノにそう問われ、厄魔は頷きお茶を啜る。
正直こういう場には慣れていない。カイリに強引に誘われなければ来なかっただろう。何をしていいか分からずに、とりあえず茶をすすりながら周りの話を聞いている。
「厄魔さ〜ん、楽しんでますかぁ〜」
そこに誘った本人であるカイリが顔を赤くして楽しそうに隣に座る。誰がどう見ても酔っている。
陽気に笑いながら厄魔に絡んでいるカイリを見て、トルエノはそれをひっぺがした。
「貴方さっきまでオレンジジュース飲んでませんでした!?」
「ヴィノスさんがー、なんか美味しい飲み物くれたんですぅ〜」
あいつかとヴィノスを睨みつけたトルエノは、猫塚に何かのグラスを渡そうとしているヴィノスにとても手加減した雷を落とす。
「ってぇ!」
「これ以上犠牲者は出させません」
今度はトルエノにマシンガントークを始めたカイリを介抱しながら、トルエノはふうっと息を吐く。
それを見たウィレスはトルエノからカイリを受け取ると話を聞いてあげた。
「それで〜、その時、私は頑張ろうと思ってぇ〜それでぇ〜……なんでしたっけ……?」
「はい、水」
「あ!ありがとうございます〜。それで〜、えっと……」
ウィレスはカイリの話を適当に聞きながら、ひび割れた大鎌の修理はどうしようかと考えていた。
「ウィレスさんもこれ飲みましよぉ〜」
「え、いや。僕まだ未成年──」
「いいからいいからぁ〜」
無理やりウィレスに酒を飲ませようとするカイリを皆で止めて、騒ぎすぎで注意されるまで打ち上げは続いた。
────
「群、ねぇ……」
首刈は与えられた部屋で1人そう呟く。
初めて死に際を体験し、願ったのは生き続けたいという醜い生への執着だった。
ここに来て、牢に入れられたり、拘束されたりなどはなく、舐められているのではないかと言うほど普通の部屋に通された時は呆気に取られたものだ。
すぐにここを抜け出し、今までの生活に戻ることも出来る。
だが、なんだかそんな気にもならずベッドへ横たわり天井を見ていた。
「ここまで来たなら、もう開き直るしかないわね」
そう言ってベッドから起き上がると身だしなみを整え始める。みっともなく生き長らえたのだ、ここでまた新しく生きるのも悪くないのかもしれない。
ならまずは──
「ちょっと誰かと仲良くしてみようかしらぁ」
そう言って扉を開けると、首刈は意気揚々と今晩の相手を探しに行くのだった。
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