短編

最後の雨


ヴィノスの死ネタです。



────



「あぁ゙ぁああ゙ぁぁあああ゙ああッ!!!!」


煩わしい。煩わしい──


「クソがぁッ!!俺様に敵うと思ってんのか!!」


右から来たやつの腹を蹴り内蔵を破裂させ、左から来たやつの頭を拳で粉砕、後ろから来たやつの喉を氷剣で掻き切り、前から来たやつを氷漬けにして破壊する。

いつもなら白く綺麗なコートが返り血や己の血で濡れている。何十、何百....どのぐらいの人を相手にしただろうか。中には俺と同じ魔族もいたが、それすらも葬った。


「があぁああ゙ぁああッっ!!」


周りが俺の放った氷魔法で凍っており、氷像がいくつも出来た。それを中の生命ごと蹴りで粉砕しながら、向かってくるやつを次々殺していく。

何故こうなったのかも今は関係ない。今の俺にあるのは俺を殺そうとするやつを逆に殺すだけ。殺戮だ。



仲間は先に進んだ。一度やってみたかったんだ。ここは俺に任せて先にいけってやつを。俺のしぶとさを知ってるだろとロザリエに言い聞かせ、俺一人この場にとどまった。



「──っぐ、がぁっ!!」


何人かで押さえつけられて、俺は血に伏せた。だが、こんな事で終わりではない。ああ誰だ俺のピアス吹っ飛ばしたの....それは──


「クソがッ!!」


地に手を当てると氷の刃が俺の周りから突き出し、押さえつけていたやつを串刺しにする。周りを見渡し外れたピアスを探すが、すぐに押し寄せてきた軍勢にその場が荒らされる。


「(畜生!あれはエルシュに貰った──)」


ドンッと大きな音がして何かが俺の腹を貫通した。その音は次々と聞こえてきて、嫌な予感がした俺は氷柱を作り上に回避する。


「はっ、強化した銃火器か?効かねぇよ」


しかし、撃たれた腹が酷く痛む。思わず抑えたそこからは大量の血が溢れていた。あの1発だけでこの様という事は魔術でも組み込まれていたのだろう。

銃声を優れた聴覚で瞬時に聞き取ると、弾丸が自分に届く前にそれを凍らせる。その凍った弾を見て相手が驚いているのが愉快で俺は少し笑った。


「(まぁ余裕ぶっこいてる暇はねぇがな....)」


もう何時間もこうして休み無しで戦っている。回復魔術など習得している訳もなく、俺は徐々死に向かっていた。



──分かるのだ。今日ここで、自分が死ぬという事が。



先程の強化した銃を持った奴らが俺の周りを囲む。ふと上空を見れば、同じ物を持った翼人に空さえ占拠されていた。

完全囲まれた。


「....ははっ....お手上げだ....」


俺は手を広げ目を瞑る。逃げ場がない。こんな状況まで追い込まれるなんて、俺もヤキがまわったもんだとため息をついた。そして、ゆっくりと誰かが俺に近づこうとするのを合図に……


「凍れェ……!!」


周りにいた十数人が一度に凍る。幸運にもそれを逃れられたヤツらは凍った者をどうにか救出しようと炎魔法を使ったり治癒魔術を使ったりと忙しい。ああ、残念だが無駄だ。


「残念だな」


俺が手をぐっと握るとまるでその氷像達がその手の内にあったかのように粉砕される。自分の魔力がぐんと減ったのを感じた。まだ何十と敵はいるだろうが、あまり渋ってもいられないのだ。


「油断すんじゃねぇ!殺す気ならもっと本気で来てみろ!」


俺は笑いながらそばに居たやつの頭蓋骨を膝蹴りで潰すと蹴り飛ばし、俺を囲むやつの前に落とした。

その有様を見て少しの怯えがあるのだろうか、1人が1歩後ろに下がるとその恐怖が周りに伝染する。


「情けねぇなァ!」


魔力を練り、氷の大剣を作るとそのまま振りかぶり一気に敵の胴を真っ二つにする。ボトボトと上半身が転がり、下半身がビクビクとぶっ倒れるのを見て俺は大剣の血を払った。

しかし、俺の口から鮮血が流れ胸元を濡らした。


「ゲボッ.....!...さっきの、弾か....」


内部から破壊していく物だったのだろうか、身体中が悲鳴をあげている。ガクガクと震える足をぶっ叩くとしっかりとその地を踏みしめる。


「ぁああっ!手の震えも収まんねぇなぁ....くそっ!!」


精神がどれだけまだ戦えると叫んでも、体の方が言うことを聞けかない。頼む、まだ倒れないでくれ。

また一通り雑魚が片付いたと思ったら、魔族のご登場だ。それも3人。どいつもこいつも枷を外してるのか感じる魔力量は膨大だ。


「やっと本気出したか?舐めすぎなんだよ、最初っからそんぐらいで来てくんねぇとつまらねぇなぁ....」


挑発的に笑うと短気なのかすぐに相手の火がつく。馬鹿で助かった。大きな斧を武器に1人目が突っ込んでくるが、それを凍らせて飛び上がると踏みつけた。

武器から手を離してしまったそいつの頭を掴み地面に叩きつけると、上から勢いよく膝で潰す。ぐちゃっと嫌な音がして服が汚れた


「おいおい、勘弁しろよ。これ高ぇんだぜ?」


ズボンに着いた肉片を手で払うと残り2人に笑いかけた。一瞬の恐怖を、見逃したりはしない。怯えの色が強かったのは杖を持つ恐らく治癒術師の魔族。


「―ぉ、らあぁっ!!」


先程殺したやつの斧を掴むとそれをぶん投げる。尋常じゃないスピードでその治癒術師に向かった斧を、もう1人の魔族が大剣で受け止め弾く。どうやらこの2人は連携ができるらしい。

だが、それがどうした。俺は笑みを絶やさない。


「さぁ、来いよ雑魚....」


大剣を持つ魔族がそれに怒り一気に至近距離まで踏み込んでくる。俺はそれを氷剣で受け止めると、そのままその戦士と睨み合う。....いつかの戦いを思い出す。

それじゃあとその大剣を氷剣から接触した部分から凍らせていき、相手の様子を伺う。

すると、その大剣はバキッと音を立ててヒビが入った。それを見て俺は酷く残念がった。


「つまんねぇ、自分の愛刀ぐらいちゃんとメンテしとけ阿呆」


強く氷剣で押すと、やはり戦士の大剣は真っ二つに折れた。手入れを怠っていたのだろう。脆い。あまりにも脆すぎる。

あいつは違ったのになぁと思いながら呆気に取られている戦士の心臓に深く氷剣を突き刺す。そのまま捻り傷口を広げながら勢いよく引き抜くとそいつは絶命した。


「おい、てめぇは何してんだ?」


あと一人は治癒術師のはずだ。だが先程刺された時治癒を施す様子はなかった。今はもう手遅れだが。

不意に、そいつは杖を離し地に捨てると膝をつく。まさかここまで来てと思ったが、実際目の前にいるそいつは涙を流し俺に命を乞うている。


「....泣くな、助けて欲しいか?」


そいつは何度も首を縦に降る。それを見て俺は笑顔でそいつに近づくと頭に手を置いた。治癒術師は許されたのかと安心したような表情をしたが、それは一瞬で見えなくなる。

それは俺が頭をぶっ飛ばしたからだ。そりゃぁ見えなくなるな。当然だ。


「みっともねぇ真似しやがって....もうここに来た時点で勝って生き残るしか道はねぇんだよ」


遠巻きに見ていた雑魚がまた俺を囲む。また散らしてやる、何度も、何度も、この戦場から生者がいなくなるまで。

ジジッという小さな音を広い、それが通信機だとすぐに理解する。そして聞こえたのは──2万の兵が今到着したという事実だ。


「こっちはさっきフルコース食い終わったんだよ。もう1人前追加ってか?」


さすがに腹いっぱいだとおどけたように笑う俺を、もう数えるのを諦めたくなるほどの敵が囲んだ。そして、隊長格のやつが合図をすると一斉に襲いかかってくる。



光の矢が突き刺さる、鋭い剣が斬り裂く、炎魔法が体を焼く、強化された拳が骨を砕く。



──嗚呼、やっぱ今日死ぬのか



「な、ら....しょう、がねぇ....な....」


もう一度魔術を使って周りにいた者を遠ざけさせると、俺は空を見る。

最後の....空だ。今まで興味はなかったが、不運にも俺の最期の天気は雨。戦いを始めた時は晴れていたがいつの間に雨が降っていた。さっきの降り始めたのか、それとも少し前からなのかも俺には分からなかった。


「....『状況は一転する。この一撃をもって汝らを未来へ導こう。その道が光指すものであらんことを──』」


先に進んだ仲間....そう、仲間と呼べる大切なやつらの所にこいつらが行ってしまっては不味い。


どうか、光を掴んでくれ....





「『〈未来への道〉(フトゥーロ・ストラーダ)』!!」





まず姿を現したのは光の柱。

そして、それを中心に全てが破壊された。


生命が全て消え去る一撃。鏖殺。

それが今の光景に相応しい言葉だ。


その消え去る生命の中には勿論──



ヴィノス・ラージェンも含まれている。








「(──)」



最後に彼が何を思ったのかは、誰も分からない。


彼の最期とは、そういうものだった──。

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