断頭台へ向かうのは

プロローグ


「はー?なんなの氷猟のやつ……。ココ最近仕事来ないと思ったら全部あっちにいってんじゃん!」

「らしいね」

「らしいって、リオ知ってたの!?」


何でもないように「そうだけど」と言ったリオにレンカは大きくため息を吐くと、ムキーッと地団駄を踏み持っていた紙を握りつぶす。


群には依頼できないような法ギリギリの案件を受ける便利屋として、レンカとリオは稼ぎを得て暮らしている。

流れてくる仕事は危険なものも多いが当然報酬金もがっぽり頂いているので、波はあるが今までここまで生活に困ったことはなかった。

しかし同業者である氷猟ことヴィノス・ラージェンの方に最近自分達のお得意様が流れていっている事が分かり焦っているというのが現在である。


「行方不明のペットの捜査ァ?んなもんその辺のヘボ探偵にでも頼んどけバーカ!」

「えっと……んー、私達が動くような金額でもないしねぇ。投げようか」

「ゴートゥーヘル!さらば!」


持っていた用紙をビリビリに破き丸めてゴミ箱にシュートするとレンカはふぅ、と一息付き伸びをした。

久々に来た依頼がこれだ、やってられないと街を歩き始めこれからの事を考える。

傾きは確かに今まであったが、何故ここまで氷猟に仕事が回っているのか分からない。誰かに操作されているのか、単に自分達が見切られてきたのか。


「ほんと意味分からない。これからどーしよ」

「まぁ……ある程度食べなくても生きていけるでしょ」

「私はお腹すいたの!」


ぐーっと丁度なったお腹をレンカが摩るのを見て困った表情をしたリオは適当に食べられそうな魔獣でも殺してきてあげようかと森の方へ視線を向ける。

その一瞬の隙、レンカに向かってキラリと光る何かが襲いかかる。リオは嫌な気配を察知した瞬間レンカを引っ張り自分の後ろに隠した。


「な、何!?」

「ちょっとは気づきなよ、危ないなぁ」


はぁ、とため息を吐いたリオは後ろを振り返る。丁度すれ違った女が薄らと笑ったように見えた、いや、確かに笑っていた。

その女が人通りの少ない道へ自分達を誘うように入っていったのを見てリオはその女の後を迷いなく追った。


「リオ?どうしたの?」

「例のやつかなーって」

「例の?」


うーんとレンカは考え、ある事を思い出す。

裏で動いてる組織があり、その数人が群の面々によって捕らえられたのだとか。保護されたのか拘束されているのかまでは分からなかったが、最近自分達の興味はそこに向いている。


「今レンカ首狙われたでしょ」

「……え、マジ?」

「マジ」


全然気づかなかったなと首を摩るレンカは少し鈍ったかと悔しく思い、眉間にしわを寄せた。そして首を狙われた、という事はここ付近で聞く噂の通り魔に違いないと裏道を進んでいく。


「首刈。コードネームと性別しか分かってないけど多分彼女がそうでしょ」

「私を狙った落とし前つけてもらわなきゃ!」


どんどんと裏通りの奥に進んでいき、気づいた時には行き止まり。そこには深緑のロングヘアに黒い服を纏った女性がたっている。

怒鳴り散らしてやろうとしたレンカより早く、彼女が振り向き不敵に笑った。


「貴方、可愛らしいお顔をしてるのね」

「……は?」


怒っていたレンカは満更でもなさそうに「そーかなぁ」と髪を整え始める。そしてハッとして腰に下げていた剣を抜くとそれを構え女性を睨みつけた。


「その手には乗らないよ!」

「これだからレンカは。ちょろいんだから」

「うるさい!」


二人のやり取りをみて女性は小さく笑うと、降参とでも言うように両腕を軽くあげた。

それでも剣を納めないレンカに不満そうにすると、今度は視線をリオの方へ向ける。


「貴方の方が話が分かりそうね」

「まぁ、彼女よりかは」

「それどういう──」

「はいはい」


リオと女性の言葉に怒ったレンカを軽くあしらうと、リオはそれで、と話を促す。


「私は……もう分かると思うけど、首刈と呼ばれてるわ」

「ああ、やっぱり」

「急だけど、貴方達二人に私を守って欲しいのよねぇ」


なるほどと頷くリオは暫く考え込む。レンカは依頼と言うなら報酬次第で受けたいが正直腹が立つなとリオの答えを待った。


「うーん、私達の実力を測るためにレンカを狙ったんだろうからそれはいいとして……」

「うぐー!もう何も言わない……!」

「そうだなぁ、報酬次第で受けさせてもらうよ。悲しい事ながら懐が寂しくてねぇ」


ふーん、と笑みを湛えたままの首刈はリオの答えに満足そうに頷いた。

首刈の提示する額は予想の3倍、断る理由は無いと二人は首刈の依頼を受けることにした。

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