可愛くない妹

レンディエールは訓練所から出る。

相変わらず主は忙しいし、1つ隣の部屋の少女とも喧嘩することが少し減った。そして愛おしい恋人とも変わらず思いを伝え合う……彼の日常はこのような有り触れたものだった。


──それに、変化が現れる。



「エ〜ルにぃっ!」

「──っ!」


背後から声が聞こえ振り返ると、目の前には刃。何事だと持っていた杖でそれを受け止めそれを防ぎその正体を確認する。それより先にエンジン音が聞こえ、杖が真っ二つに斬られたのを見てそれを捨てるように横に逸れた。

チェンソー、それを持った女がレンディエールに避けられたことにより若干バランスを崩しながら再び武器をレンディエールに向ける。


「あははっ!久しぶり〜っ!」

「……何故お前が」

「そんな顔しないでよぉ、可愛い妹が逢いに来たのに」


レンディエールは女を見て不愉快そうに顔を顰める。いきなりチェンソーで斬りかかってくる妹のどこが可愛いんだと内心悪態をつきながら折れた杖を拾った。


「クリスドゥメール、お前も群に来たのか」

「やだなぁ他人行儀に、メルって呼んでよ」


折れた杖を見て修繕費もそんなに安いものでは無いのだがとため息を吐きながらクリスドゥメールに視線を向けた。

彼女はただただ作り物のような笑みを浮かべてレンディエールを見ている。チェンソーの音が響く中、2人は暫く睨み合っていた。


「……群の所属を辞めさせる権利は私には無い。だが金輪際私に近づくな、もう家とは縁を切った」

「へぇ、まだエクリプスを名乗ってるのにぃ?」


この姓を名乗っているのは唯一自分を人として扱ってくれた祖母が居たからだ。両親ともに酒に溺れろくに働きもせず暴言を吐き、妹は何か起こると直ぐに暴力を振るう。妹だからと抵抗せずにいたが、そのせいで妹の行動もエスカレートしていった。

この家に居場所は無いと分かったレンディエールはある程度の力をつけ18で家を出る。どんな人でも家族は家族だと思っていたのもある一件のせいで限界を迎えた。

それから13年の間、一切エクリプス家とは関わらずに生きてきた。


「お前には関係ない、早く消えてくれ」

「つれないなぁ、こんなにエルにぃのこと好きなの、にっ!」


回転した刃がレンディエールに振るわれ、それを後退して避けていく。白星の加護や秘宝での強化がなければ避けきるのが難しいその猛撃に汗を流しつつ、止めさせる方法を探る。


その時、背後から鋭く風を切る音が聞こえ、それは顔の横を通過しチェンソーの刃に衝突した。

振り返ると遠くに白いアオザイを着た少女が弓をこちらに向けていた。彼女はまた矢を生成するとクリスドゥメールのチェンソーに向かって矢を打ち込む。その衝撃にクリスドゥメールは徐々に後ろに下がり、足元に放たれた矢を避けるように後ろに飛び退いた。


「何?エルにぃの友達?」

「……正解とは言えないな。分かったら早く立ち去れ」

「ふ〜ん…分かった。今日はただの挨拶だから帰る」


渋々といった様子でクリスドゥメールはヒラヒラと手を振りながら去っていく。

その姿が見えなくなるまでレンディエールは視線で追い続けると、視界からきえた瞬間大きくため息をついた。思いがけない人物の登場に、かなり混乱している。


「エクリプス、何をやらかしたの?」

「なんで私がやらかした前提なんですか…」


ふわりとレンディエールの隣に降り立ったグランは呆れたような顔でそう言うと肘で軽く小突く。

どう説明したものかと考えながら、レンディエールはクリスドゥメールとの関わり合いがこれ以上ありませんようにと祈るしかなかった。

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