選択
今日も依頼をこなし、肩を拳でとんとんと叩きながら自室へ向かう。30代になってから体の疲れが取れないなと思いながら、服を探り部屋の鍵を探した。
「おかしいな....あ、あった....──っ!」
どくんと心臓が大きく動き、胸の中心に痛みを感じた私は手に持っていた鍵を落としその場に膝から崩れ落ちた。痛い、苦しい。何度経験しても慣れない痛みに冷や汗をかきながら必死に呼吸をする。
「はっ、はぁ....ぐぁっ....!」
分かる。自分が刻一刻と死に向かっている事が。しかしコレを取り除かないと決めたのは自分だ。
誰かの役に立ちたかった、自己満足だとしてもそうせずにはいられなかった。人を守るためには力が必要だと考えコレと生きることを選んだ。
しかし、愛する人が出来て私の心に迷いが生じている。本当にこの選択が正解なのか、力を失ってでも少しでも長く生きる道を選ぶべきではないのかと。
愛する人と長くいられない悲しさ、主との大切な約束。それらを考えるとこの頃服の上からコレを触れる癖が頻繁に現れた。
分からない、私は自分の行動が私の望んでいる人生の終わりに辿り着けるのかを。悩んで、悩んで、悩みに悩んで....この苦しさは、辛さはこの発作のせいでは無い。
自分の歩むべき道が分からない、私はどうしたら良いのか、
誰か、誰か──
「た、す....け.......」
涙が一筋こぼれる。助けなど来ない。服の胸元を強く握り、私は荒い呼吸のまま意識がぼんやりとしていくのを感じる。
「エクリプス....!?」
声が聞こえ、その方向に目を向ける。
スカイブルーの混じった白髪に、鋭い目付き。白いアオザイを身につけた翼人がそこに立っていた。
「ァ、アー....テル....さ....」
後方に倒れそうになった私をグランが駆け寄り支えた。私が目を瞑りその苦しさに耐えていると、グランは私を優しく撫で汗を拭う。
「大丈夫、ゆっくり息をして」
「はっ、ぁ....ぅ....」
「落ち着いて、私を見て」
荒い息のままグランを見ると、溜まっていた涙を指で掬われて目の下を軽く指でなぞられる。ゆっくりと私に言ったグランを見ながら、彼女の呼吸に合わせるように徐々に、徐々に呼吸が整ってくる。
「ぁ....う....はぁ....お、ちついて、きました....」
「そう、よかった」
「ありがとう、ございます」
無理やり笑みを作ると、グランは顔を顰めた。私を壁に寄りかからせると落ちていた鍵を使い私の部屋の扉を開ける。そして私を起こして支えながら、一緒に部屋に入った。
「........」
「........」
互いに無言のまま、私を雑にベッドに放ったグランは深くため息を吐く。流石に重かっただろうと申し訳なく思っていると、グランは椅子をベッドの横に引き寄せそこに座った。
「助けて頂いてありがとうございます....」
「....いいえ、まだよ」
「何がですか....?」
「....貴方が漏らした『助けて』の言葉はこの発作の事じゃないでしょ?」
私は何も言えずに腕を目元に置くと歯を食いしばる。私はあれだけ強くなろうとした、普通の人間の治癒術師よりは戦闘力があるだろう。しかし、心はあまりにも脆い。涙が出そうになるのを堪えながら、さっきグランが顔を顰めた理由が分かった気がした。
「大丈夫です、あれは本当に発作が辛くてつい零してしまった言葉ですので」
「....ふざけないで、本気で怒るわよ」
「──放っておいて置いてくれ、これは私の問題なんだ!私が....自分でどうにかしないと....!」
勢いよく半身を起こし、心配しているグランに怒鳴った。ガリガリと胸元をかきながら私は彼女を見つめる。グランは怯える様子もなくただただ私を見てた。その瞳は怒りを帯びている。
「馬鹿ね、1人でどうにかしようなんて」
「馬鹿でもなんでもいい。誰かに頼りたくない」
「頼らないで1人でそうやって被害者ぶってる方が周りに迷惑なのよ。分からないの?」
「....私、は....」
グランの言葉に私は何も言い返せなかった。その言葉が胸に刺さり、私は自ら絞めるよう片手を首に当て苦しさに耐えた。グランから目を逸らし、私は目を伏せる。
「なら....どうすればいい....」
「........」
「何が正解なのか分からないんだ。ずっと辛くて、苦しい」
「....胸のソレがなくても、レイゴルトさんは貴方を見捨てたりしない」
心を見透かされたように、グランは私にそう告げる。分かっている、ずっと傍で見てきたのだ。あの御方がそのような人ではないと理解している。
しかし、やはり考えてしまう。昔のように裏切られる日が来るかもしれないと。その時自分はどうなってしまうのかと。だからだろうか、グランの言葉に私は安堵した。
「強くなる事を望んだ、だからコレを破壊する事を拒んだんだ」
「ええ」
「....どちらが正解だったのか、分からない」
それを聞き、グランは立ち上がると不意に私に近づき
ゴッと頭頂部に拳が落ちる。
「った...いきなりなんですか!」
「正解とか、不正解とかまずそこが違う!貴方が選んで進んだ道が正解なの!貴方の心を、自分の意志を信じて進みなさい!」
首を掴んでいた私の手を引き剥がすように掴むと、グランは私の目をしっかりと見てそう言った。自分の選んだ道が正解、そんなこと考えた事もなかった。私は前に進もうとして、結局は後ろばかり見てそこで留まっていただけなのだ。それなのにこんなに荒れて、被害者ぶっているという彼女の言葉はまさにそれだ。
「....貴方の方がよっぽど大人だ」
「そうね。このクソガキ、早く立ち直りなさい」
「言ってくれますね....」
どうでもいいわと私の手を離したグランはまた椅子に座り直した。私はまたベッドに横になると、ため息をつき天井を見つめる。
「自分の意志....私は迷ってばかりだ」
「いいじゃない、沢山迷って選べば」
「....そうかもしれないですね」
私の選んだ道。コレを破壊するか否か....
「私は──」
選択
―彼の結末― END
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