正義の在り方
「まずは、言い訳を聞こうか」
「........」
私は黙ったままソリッドを見つめた。それを見て彼は小さくため息をつくと彼から敵意が感じられ、周りの空気が変わる。彼のその敵意と同調するように私に強い風か浴びせられて兜の飾りが揺れた。
「確かに我らはあの者達を守ろうと契りを交わした。だが──」
数日前、レンディエールがある戦闘に巻き込まれ戦っていた。私達はあくまで死を遠ざける者であり、死の可能性が確認出来るまでは手は出さない。
そして、丁度その場に助太刀をしに来た人がおり戦況は良いと言えるレベルになった。しかし、私は分かっていた。
この助けに来た人物は死ぬだろうと。
レンディエールがどれだけ有能でも、支援している相手が弱くてはそれを上手くいかせない。案の定、助けに来たものは死んだ。私は──それを何もせずに見ていたのだ。
「レンディエールは助かったじゃん」
「そうではない!その助太刀に来た勇気ある者を、貴様は見殺しにただろう!」
「....私は人助けをしたい訳じゃない。私は私の守りたい人を守れれば....あとはどうでもいい」
「貴様ァっ!!」
ソリッドの手には薙刀が握られており、その刃が私に向かってくる。私は腰に下げていた剣を素早く抜き取るとそれを受け止めた。
しかし、大きな金属音と手の痺れと共に私の剣は払われて空を舞った。それが回転しながら地面に突き刺さるの見ながら私は指を鳴らす。
「あのねぇ....あんたがその正義を掲げるのは別にいいよ?」
私の背後から現れた召喚獣、アルビスとクラージェがもう一撃とソリッドの放った突きを刃に噛みつき止めた。しかし、彼の薙刀から放たれる炎に2匹とも怯み口を離す。
私は2匹を左右に従えると手をソリッドに向けた。
「あんたの正義を、私に押し付けるな!!」
私の考えに合わせてアルビスとクラージェはソリッドに飛びかかった。相手は分家と言えど竜族だ。油断してはいけない。まずは防御を薄くしようと彼の右手の鎧を噛み砕けと命令する。
「助けられる者でを助けもせず、自らの守るべき者が守れるのか!」
「守れるよ、私はあんたとは違う!!」
クラージェが狼の形を崩すとソリッドの顔にまとわりつく。その隙にアルビスが彼の鎧に噛み付いた。が、やはり硬いようだ。私は先程飛ばされた剣を拾うとそのままソリッドの腹部を狙い突進した。
「甘いわ!たわけが!」
「──くっ!」
その薙刀の長いリーチのせいで彼に近づくことさえ出来ない。視界を奪われても尚、彼の薙刀はまるで生きているかのように私を正確に追撃した。
戻ってきたアルビスに次の指示を出すと、薙刀の振りかぶりの攻撃を軽く飛び避ける。私は鎧の肩の隙間を狙って剣の突きを放った。利き手を潰せば──
「ぇっ....」
彼は抵抗すること無くその刃を受け止めた。それに一瞬戸惑った私を無視したまま剣を掴み私を蹴り飛ばすと、その剣を左手で抜き取りじっと見る。
アルビスは命令を無視して吹っ飛んだ私のクッションとなるように受け止めた。
「召喚士ごときの剣など....」
ソリッドは不意にその剣を掲げるとベールを少しめくり口元を出した。何をするつもりだと私が次の手を考えていると、彼は口から炎を吐き出し私の剣を溶かす。
ソリッドの顔を覆っていたクラージェは炎を至近距離で浴び、負傷して私の元へ戻った。私は心の中で謝るとまた2匹に指示を出した。
「その獣、消滅させようか?」
「やれるものなら」
アルビスとクラージェが彼に向かった。するとソリッドは薙刀を構えると軽く鼻で笑う。
「我が名は《────》。その力、今解き放たん」
ソリッドの体を業火が包んだと思うと、少年の姿だった彼の姿が変わる。190cm代はあるだろう青年の姿をしたソリッドはそのまま薙刀を振りかぶる。
「後悔するなよ!」
ごうっと燃えた薙刀の一撃が、アルビスとクラージェを襲った。2匹が真っ二つに切れるのを、私は手を伸ばし見ていた。動けない。こんな重要な時に....
「あ、ぁあ....死なないで....!!」
ソリッドの追撃など一切考えずに、やっと動いた足で私はアルビスとクラージェに駆け寄った。2匹はゆらゆらと蠢くと、また狼の形に戻り私に擦り寄った。
「我の持つ技の中でも最弱、そして現在我は枷をはめられた身だ。その一撃で死ぬはずはない」
「だってさっき消滅させるって....」
「貴様を惑わすための偽言だ」
私は片膝を付きアルビスとクラージェを抱き寄せるとソリッドを見上げた。先程までの敵意はない。何故戦闘をやめたのかは分からないが、彼は薙刀を収める。
「貴様には貴様の、我には我の正義がある。我はそれを受け入れる事にした」
「だから最初からそう言ってるじゃん」
「ただ....貴様が救わんと言うなら、我がその者に手を差し伸べれば良いと理解した」
またソリッドの体を業火が包むと、いつもの少年の姿に戻ってた。そしていつもの様にマントを翻すと瞬きの間に消える。
「私の正義、ねぇ....」
そんな大層なものでは無い。私はただ私の大切な人を守る、本当にそれだけだ。その為なら自らの命さえ投げ捨てても良い。私の使命のようなものなのだ。
アルビスとクラージェを私の影に戻すと、溶けた剣の残骸を見て眉間を抑える。
「これ結構高かったんだけど!も〜!」
次会ったら弁償してもらうおうと、私は1人で怒った。
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