不思議なお茶会
やあ、皆さんこんにちは。私はロザリエ・リーベスという者だ。現在私は自分の家で紅茶を入れている。カップは4つ。そうだろうそうだろう、かなり珍しい。勿論1つは私の物だが、他の3つは誰の物だと思う?
「おい、なんか茶に合うもんでも作るか?」
「それなら私もお手伝いしましょう」
「........」
まさかこうやって4人で1つのテーブルにつくなど思っても見なかったなぁ。正直とても嬉しい。''彼女''はどう思うだろう。
「....ロザリエ?聞いてるか?」
「ああ、済まない。菓子ならあるぞ」
「それは....パウンドケーキですか。美味しそうですね」
「........」
──
私がテーブルに切り分けたケーキと紅茶をそれぞれの前に出すと私も席に着く。自分の分だけ3切れだという事に誰も何も言わない。私の胃の容量を知っているのだろう。
「さぁ、グラン・アーテル。遠慮するな」
「........」
先程から一言も喋らずただ座っている彼女に紅茶を勧める。目が見えないのは知っているが、さっきまでの様子を見る限りカップが見えなくて飲めないという可能性はないだろう。
「....私がこの仲に入るのは可笑しいんじゃない?」
「今更何言ってんだてめぇ。つーかロザリエに目ェ付けられた時点でこういう結果になるのは決まってたんだよ」
「む、何だそれは。どういう意味だ」
ヴィノスの言葉にムッとした私を見て、彼とレンディエールが笑う。レンディエールは軽く息を吐くと紅茶を1口飲んだ。そしてその顔が綻ぶ。
「アッサムですね。お嬢様が好きな紅茶だ」
「ああ、彼女の影響で私も気に入ってな」
それを聞いてグランは紅茶に興味が出たのかゆっくりと飲んだ。表情には出ていないが、どうやら美味しかった様子。私はそれが嬉しくてケーキも勧めた。しかしグランは俯くとまた黙り込む。
「どうした?パウンドケーキは嫌いか?」
「....やっぱり、さっきの事が気になるわ」
「だろうなぁ、だが許すっつっただろ」
ヴィノスはそうって一瞬レンディエールの方を見る。しかしレンディエールは特に何も言わずにケーキを口に運んでいる。先程まで殺されそうだったとは思えない。
しかしヴィノスの視線を察知したのか口の中の物を飲み込むとグランの方を向いた。
「....あの御方が貴方を受け入れると言うなら、私は止めはしません。それは主が決めることですから」
「そう....。この間私の気持ちを理解してくれた....と思う。あの人の部屋の隣、私の部屋って知ってた?」
「................は?」
全員が固まる。いや、全員と言うよりグラン以外の私を含めた3人なのだが。そして急にヴィノスが笑いだした。
「ははっ、あははははっ、嘘だろてめぇ!あの怪物の心ミリでも動かしたなら拍手送ってやる!」
「そばに居ていいか聞いたら、いいって言ってたわ」
「はははっ!マジかよ!」
それはすげぇと言いながら、ヴィノスはグランに拍手を送る。私も彼とは会った、というか助けてもらったことはあるが、そこまで気難しい人だったのかと不思議に思った。
そしてそっとレンディエールを見るが、彼はフリーズしたままだ。
「あ、主が....貴方を....?え?....は?」
「別に貴方が考えてるような関係じゃない。例えるなら....小さな子供が大人に恋してるようなもの。私も最初は舞い上がって気づかなかったけど、冷静になれば....理解できるわ」
「そうですか....うーん、嬉しいような、悲しいような、微妙な気持ちですね」
てっきりレンディエールの事だからグランの不幸を飛び跳ねて喜ぶのかと思っていたがそうではないらしい。この数時間で彼の中の何かが変わったのだろうか。私にはそこまでは分からない。
「あ〜おもしれ。この情報は売らないでおいてやるか....」
「売るって....貴方、ぶん殴るわよ」
「売らねぇって、信用しろよ」
ヴィノスはからかうようにグランに笑った。かく言う私はずっとニヤニヤしている。それを疑問に思ったのか視線を向けられているグランは若干引き気味に問う。
「な、何よ。さっきからニヤニヤして」
「いやぁ、恋バナは楽しいなぁ....」
「恋バナ!?別に、私は!!」
「はいはい分かってるぞ。恥ずかしいんだな。大丈夫だ、私は恋愛のエキスパートだからな!なんでも話すがいい」
私の言葉を聞いたヴィノスは顔を歪める。私がどうしたと首を傾げると、ヴィノスは大きなため息を吐いて目元を抑えた。
「何が恋愛のエキスパートだ。お前の恋愛観歪みまくってんだろ」
「....?私と彼はカテゴリで言うと純愛だろ?」
「ばっか....どこがだよ....。いいか、あいつは止めとけ。俺様が許さん」
「なっ!ヴィノスには関係ないだろ!君は私のお父さんか!?」
「せめてお兄ちゃんだろボケ!俺はまだ若い!」
ぎゃーぎゃー言い争っていると、またレンディエールが固まっている。そう言えば彼にはまだ好きなやつがいると言ったことがない。
「あ、あの〜?レンディエールさん?」
「........ハッ!私は何を....というかロザリエ様!何故私には教えてくれなかったのですか!?」
「いやぁ....あまり会う機会もなかったし、別に良いかと」
「よくありませんよ!ああ....ついにロザリエ様が....はぁ....」
ヴィノスもレンディエールも、彼と私についてはよく知らないのだろう。私達は決して交わらない。平行線のまま生きて行くのだと。だが、私は彼の傍に入れるだけで幸せだから、それ以上の幸せなど望まない。
私がぼんやり考えながらケーキを頬張っていると、グランはやっとケーキに手を出した。少しずつ私達を受け入れてくれているのだろうか。
「エクリプス。私はただあの人の帰る場所になるだけ。だから気にしないで」
「そういうものですかねぇ....貴方はそれ以上を望まないのですか?」
「....あの人があの人であり続ける限り、それ以上なんてないわ。それより....貴方はどうなの?」
グランは逆にレンディエールに問うた。しかしレンディエールはどういう意味だと少し考え込み口を開く。
「私が主と恋仲になりたいと....思ってるの....ですか?」
「違う違う!変なこと言わないでよ!」
「レンディエール....お前....」
「ちょっ、違いますよ!私の愛はあくまで敬愛です!」
レンディエールは手をブンブンと振り否定する。私は一瞬そういう人だったのかと勘違いしたがそうではないらしい。そうだった場合彼とグラン、どっちを応援すればいいのか悩んだだろう。
「レンディエールさんは好きな人いないのか?」
「てめぇもう31だろ?そろそろ身ぃ固めろよ」
「そうですねぇ....私に愛する人ができたとしても、もし主とその人を天秤に掛けるとしたら即決で主を選びます。そんなヤツを誰が好きになるんですか?」
「てめぇ....やべぇな」
レンディエールさんの忠誠心は確かなようだ。確かというか....少し怖いぐらいだなと思い、2切れ目のケーキを胃に収めた。恐らく彼が恋することは無いのだろう。出来ればそういう幸せを知って欲しかったが、人によって幸せのあり方は違うものだ。
「さっきの部屋の話に戻りますけど、私の隣の隣がアーテルさんの部屋ってことですか?」
「............え?」
今度はグランが固まる。食べようとしていたケーキがフォークからポロッと落ちた。私はというと、この2人に挟まれている彼に胃薬でも差し入れようかと思案していたところだ。
「私は従者ですから、勿論あの御方のお傍にいますよ。何かあった時すぐに駆けつけられるように」
「ん〜、ん〜?ん〜〜〜?」
グランはかなり混乱しているようだ。まだレンディエールに対する敵意があ若干るのかもしれない。両手で顔を覆って唸って(?)いる。
「いいじゃないか。これを機に仲良くしたらどうだ?」
「う〜ん....まあエクリプスのオーラ、悪い色じゃない」
「オーラがどうかは分かりませんが、私は別にもう貴方を敵だとは思いませんよ。....お嬢様も悲しむでしょうから」
「そうだな、『馬鹿ねぇあんた達!争う暇が合ったら仲良く手を取り合いなさい!』という所か?」
「ロザリエ様、お嬢様の真似がお上手ですね....!」
私は昔から親友の声色を真似るのが得意だ。それを披露できて少し得意げに笑った。しかしヴィノスは笑顔だったが、その笑顔は悲しそうに見える。
「....ヴィノス?」
「ん?....ああ、なんでもねぇよ。心配すんな」
「....ラージェン、無理しない方がいい」
グランは何かを知っているようで、ヴィノスにそう言った。ヴィノスは一瞬目を見開いたが、またいつもの表情に戻る。
「時間はかかるかもしれないけど、いつか受け入れられる日が来ると私は思うわ」
「余計なお世話だ。....まぁ、ありがとな」
今度は私が驚く番だ。ヴィノスがお礼を言うなん滅多にない。それも憎んでいたあのグラン相手に。2人に何があったかは知らないが、仲がいい事にこしたことは無い。
「私達は....エルシュが死んだ時から時が止まったままだったな」
「あいつはそれほど俺達にとって大きい存在だった、つー事だ」
「私達は今、お嬢様の死を受け入れられたのでしょうか....」
「....だから、私がこの場にいるんじゃない?」
グランはそう言いフードと仮面を外すとその素顔を見せた。その鋭い瞳は、温かさを含んでいる。
「もう私は止まったりしない。たまに振り返る事はするかもしれないけど、ずっと飛び続ける」
「それを、お嬢様も望むのでしょうね」
「だろうな。あいつの事だし」
「何故傍で見てきた私達がそれを1番理解出来ていなかったのだろうなぁ....」
『何しんみりしてるのよ!未来は明るいわ、走りなさい!』
──声が聞こえた気がして、私達は周りを見渡した。だが、この部屋には私達しかいない。
「....ロザリエ、またお前エルシュの真似したか?」
「いや、あの空気でする訳なかろう」
「しかし確かにお嬢様のお声に似てらしたような....」
「お、お化け!?やめてよ!怖い事言うの!」
グランが勢いよく立ち上がり、飲みかけの紅茶が彼女の服にかかる。それを見て慌てた私を止め、ヴィノスはグランに駆け寄る。
「あ〜ゴシゴシ擦るな!ロザリエ、中性洗剤とタオル、あとなんか綿棒とか持ってこい!」
「承知した!」
「....ヴィノス、貴方は主婦か何かですか....」
「ガキはすぐに食いもん零すだろ、知識としてあった方がいい」
「私、ガキじゃない」
私はヴィノスに言われた物を用意しながら、自分の顔が笑顔だと気づいた。ああ、そうだ。私は今とても楽しい。
「(エルシュ。先の言葉に私達は応えられそうだ。見守っていてくれ!)」
そして、すっ転んで鼻血を出した私を見て皆が慌てるのは....また別の話だ。
『不思議な茶会』
ー彼らの第1歩ー END
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