真実を知るということ
そこは人気のない森の中。ある1人の男が、人を待っていた。そして翼の羽ばたく音が聞こえ、その人物はやっとかとため息をつく。
「....ヴィノス・ラージェン。ちゃんと来たんだ」
「久々だなぁ、グラン・アーテル。4年ぶりか?」
2人を包む空気は不穏なものだ。それはエルシュという少女と関係している。しかしその話題には触れず、グランはすぐに本題を切り出した。
「必要な情報がある。対価は必ず見合うものを用意するわ」
「はっ、見合うもの?んなのあると思ってんのか、レイゴルト・E・マキシアルティについてだろ?」
「──っ」
何故ヴィノスがそれを知っているかは分からない。それ故、彼の情報収集能力を信用出来る。
「....対価はいらねぇ、その代わり──」
「何?私が渡せるものならなんでも差し出す」
「ロザリエ・リーベス、あいつと仲良くしろ」
「....は?」
グランにはヴィノスの言っていることの意味が分からなかった。勿論ロザリエのことは知っている。自分が殺そうとしていたエルシュの親友であり相棒。そんな彼女とどうやって仲良くしろと言うのか、そしてその目的も分からない。
「エルシュはお前の父親を殺したことをずっと悔やんで、何度も懺悔していた。それをそばで見てきたロザリエはその気持ちを継ごうとしてる」
「──そ、そんなの聞いてないわ!エルシュ・ネルトはいつもの幸せそうに暮らしてた!私は....それが許せない!」
「もう、エルシュは死んだ。いつまでも復讐に囚われてんじゃねぇよ。いや....お前も前に進もうとしてるから、ここ来てんだよな」
ヴィノスは軽く笑う。本当はエルシュの命を狙っていた者など殺したいほどの恨みしかない。しかし、自分の生涯を掛けて守ると決めたロザリエがグランを受け入れようとしている。なら自分もそうするまでだと、そう考えた。
「....約束は守る。私は、あの人のことをもっと知りたいの。貴方に頼りたくはなかったけど....」
「俺の情報の信憑性は確かだぜ?良かったな、俺と知り合いで」
「....」
「無駄話はここまでだ。本題に入る。レイゴルト・E・マキシアルティ、あの男は──」
グランはただただ聞いた。想いを寄せる彼のことを。彼に感じていた違和感、その過去、そして何故彼がそう在るのか。ヴィノスが何故それほど知っているかは分からない。しかし、今はそんな事はどうでもよかった。
「──以上だ。はっきり言うぞ、あいつを想うのは止めておけ」
「何故あなたにそんな事言われなきゃいけないの?」
「今の聞いてて分かっただろ。あいつは人じゃねぇ、ただの化け物だ」
「....そうだったとしても、私は諦めない。必ず勝つ」
勝つという言葉に首を傾げたヴィノスに、グランは弓を取り出しヴィノスに向ける。
「それとも、私の諦めないという意志、体感してみる?」
「冗談じゃねぇ。少しでも俺に敵意があればただ痛てぇだけだろ、それ」
ヴィノスはグランの能力のことを知っている。彼女の武器は、その心にある強い意志だ。相手に敵意、殺意があればその身を貫く矢となるが、それが無ければ自分の意志を相手に伝える矢となる。グランの感情を相手に直接伝えることが出来るのだ。
「お前、いつか自滅するぞ」
「....」
「ずっと気を張って、疲れねぇか?目も見えねぇ、足もねぇ。周りが全部敵に見えるだろ」
「貴方には関係ない」
「いつかお前のその意志は、心は折れる」
グランは矢を作り出しヴィノスに標準を合わせる。その矢の色は濃い赤。ヴィノスはそれを見て笑った。
「やめとけ、お前ごときが俺に適うはずないだろ」
「そんな事分からない。運命は自ら切り開くものよ。不可能なんてないわ」
「....やっぱり脆いな。それが砕けた時、お前は──」
死ぬだろう。そうヴィノスは続けようとしたが、さすがにお節介が過ぎるかと言葉を止めた。別にグランが死んでも、ヴィノスは心を痛めることは無い。
「もう話は終わりだ、早く帰れ」
「言われなくても」
「....それと、レンディエールには絶対会うな」
「....何故?」
「やっぱり、レンディエールがレイゴルトに仕えてることは知らねぇか」
グランは、固まった。あのレンディエール・エクリプスがあの人の従者であるなど、そんな、そんな事は──
「あんな男、あの人には相応しくない」
「....それはてめぇが決めることじゃねぇだろ。俺が言いたいのは、エルシュに気づかれるかもしれないと手加減していたあいつが、エルシュが死んだ今その縛りが無くなった。あいつ、本気で殺しにくるぞ」
「....ご忠告、どうも」
そんな事知ったこっちゃないとグランはヴィノスに背を向ける。もし殺しに来たならばやり返すだけ。負ける気など毛頭ない。その時、グランはふと昔のことを思い出し振り返る。
「....貴方が知っているかどうか分からないけど、私からの情報」
「てめぇから?」
「....エルシュ・ネルトは貴方を異性として愛していた。私はそれを偶然知ったわ」
「──っ!」
ヴィノスの表情からして彼はそれを知らなかったのだろう。彼は心臓でも撃たれたかのような、酷く、辛く悲しい顔をしていた。グランはそれだけと言って飛び去る。
「最後に、とんでもねぇ爆弾投下しやがって....」
胸を強く抑えた。苦しい、苦しい....
ヴィノスは涙を流す。
「早く、伝えるべきだった....今更後悔しても、もうお前はいねぇんだな....」
エルシュが自分のことを想ってくれていたなど、知らなかった。グランが嘘をついているようには見えなかったし、偶然というのは本当だろう。
「ああ、もう....もう全部遅いんだ....」
もし、それを知っていたなら。エルシュが生きている時に気づけたなら。そして、自分にほんの少しの勇気があったなら伝えられただろうか。
「俺も....愛してた....」
その言葉は、誰にも届かなかった。
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