第14話 動き出した恋
コウズはユウコの手を取って、しばらく歩き続けた。
ユウコは自分でも何でか分からないが、その手を振り払うことはしなかった。
ユウコの住んでいるアパート付近の交差点に差し掛かると、急に立ち止まって言った。
「ユウコちゃん、大丈夫?」
コウズはユウコのことを心配していたらしい。
「でも、何で?コウズ君は、3限までだよね?」
「ああ、でもリコ達が心配していたんだ。だから、俺が様子を見るために待ってたってこと。でも、時間になっても出てこないからちょっと焦ったよ。まさか君がいつもと違う門から出るなんて思ってもなかったから。」
そう、ユウコはヤマグチに話しかけられるのが嫌で、念には念といつもと違う門から出た。
その結果、人気のない道でヤマグチに引き止められるはめになったのだ。
「…ありがとう。」
「いやぁ、お安い御用よ。」
しばし沈黙した後、「じゃあ、俺は用があるからここで失礼するね。」と言って、赤になりかけの信号を走って渡って行ってしまった。
コウズが家の近くまで送ってくれたおかげで、ヤマグチから逃げることができた。
次の日、学校へ行く途中、別れた交差点にコウズがいた。
「来た来た。ユウコちゃん、おはよう。」
「おはよう。どうしたの?いつもぎりぎりで来るのに。」
「リコちゃんに、護衛を頼まれてね。」
「ああ、そっか。ありがとう。」
「そういえば、あれから大丈夫だった?あいつ、部屋とかに来てない?」
「うん、大丈夫だったよ。」
「それならよかった。ところで、この間の・・・」
昨晩のユウコに何もなかったか確認した後、コウズの言葉で話しはずれていった。
キャンパスの門をくぐる頃にはユウコとコウズの共通の趣味である、絵画鑑賞の話で盛り上がっていた。
コウズがユウコを助けた一件から数ヶ月経ち、彼らは皆、年次が上がった。
あの一件から数日間は、ヤマグチはユウコに付きまとったが、コウズが何とか守ってくれた。
そのおかげで、学年明けからは付きまとわなくなった。
ユウコはヤマグチのいない、彼が一切関係しない大学生活をスタートさせた。
それでも、ユウコの心にはまだ恋の傷がついたままでいた。
何度も何度も男性に食事に誘われ、声をかけられたがユウコはどの誘いにも乗らなかった。
ユウコはもう、同じようなことが起きないようにしたかったのだ。
次は誰も傷つかないような恋愛をし、誰の心も廃れることのないように恋愛したかった。
そんなことを考え、相手を疑って査定していたら誰とも食事すらいけなくなってしまっていた。
そんなある日、ユウコの青春は動いた。
「ユウコちゃん、今度2人で遊びに行かない?」
優しく声をかけてきたのは、馴染みのコウズである。
そういえば今まではコウズといる時は必ずリコやハルタがついていた。
「そうだね、まだ2人だけで遊びに行ったことなかったね。たまにはリコ達抜きで遊びに行くのもいいかもね。」
ユウコはかなり鈍感だった。
今までコウズがノーマークだったというのもあるだろうが。
「それじゃあ、遊園地でも行っちゃう?」
コウズは『これはデートですよ?』と鈍感なユウコにも分かるようにわざと『遊園地』という場所を提示したが、それでもユウコは分かっていないらしい。
「いいよ、遊園地いいわね。」
それからコウズはデートをすることが分かるように、ユウコに意識させるために色々試したが、ユウコはこれがデートの誘いだと気付くことはなかった。
「なぁ、聞いてくれよ。」
「おいおい、どうした。お前から何か話し出すとは珍しいな。」
コウズはハルタと同じクラスの時間にユウコに何を言っても『デートに誘っている』と気付いてくれないことを話した。
「それなら、俺が一肌脱いでやろう。」
ハルタはそうニヤリと笑い何かを企んでいるようだった。
その日の昼休み、ハルタは話し出した。
「リコ、今度遊園地でも行くか?」
「何よ、いつもカラオケばかり行きたがるくせに。もしかして…」
「デートと言うデートなんか、最近していなかっただろう?」
そこで、ハルタはユウコをちらっと見る。
何かに気付いたか?
気付いたのか?
「遊園地デート?いいじゃない!行ってきなよ。」
いや、気付いていなかった…。
そんな様子を見て、ハルタは諦めていった。
「ユウコちゃん、コウズは君をデートに誘ったんだよ?」
「…?そんな話していないけど?」
それでもなお首を傾げるユウコに、リコは呆れて言った。
「あなたも鈍感にも程があるわよ。コウズはユウコを遊園地デートに誘ったのよ。」
そこでやっとユウコはハッとした顔をし、俯いてしまった。
実はユウコは少しだけ、コウズのことが気になっていたのだ。
しかしもう恋なんて忘れてしまおうと思っていたため、自分の気持ちに素直になれないでいた。
だからユウコはコウズが自分のことを好いているなど感がることすらしなかったのだ。
それが今、コウズがユウコに気があるということが判明した。
そんなことを知ってしまっては、コウズのことなど直視できない。
「ユウコにはまだ早いみたい…?」
リコがユウコの気持ちを察したようにそう言い、その話が終わろとしたその時ユウコはいきなり立ち上がってコウズの眼を見ていった。
「私で、よろしかったらよろしくお願いします!」
醜(しゅう) 玉井冨治 @mo-rusu
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