第13話 「お前は、男失格だ!」
週を開けて月曜日になった。
学校といえば、先週の金曜、なぜノエミは怒っていたのだろうか?
ノエミは普段からあまり怒らない方の人間だ。
そんな彼女があんなに苛立っているのは相当なことが起こったとしか考えられない。
学校へ向かう途中、信号待ちをしている最中、ヤマグチを見つけてしまった。
最悪な朝だ。
そう思ったところで、ヤマグチもユウコに気づいた。
「あ、ユウコ。」
分が悪そうにユウコの名を言ってしばらく、見ていた。
別れた元カノを前に何を考えているのだろうか?
まだ、後ろめたく思っているのだろうか?
信号が蒼に変わるとユウコは歩きだした。
すると、後ろから腕をつかまれた。
「何よ?」
「ごめん、ちょっといいかな?」
「ちょっと無理。急いでいるから。」
そういってその場を逃げるように、ユウコは早歩きでキャンパスまで行った。
丁度、門のところにリコとハルタがいた。
「おはよう。」
何もなかったかのように、ユウコは2人にあいさつした。
でも、感の良いリコのことである。
気付かないはずはなかった。
「ユウコ、なんかあったの?」
「え?何もないけど。」
「ほらまた。それ本当にやめなさいよ。人に甘えることを覚えなさい。」
すると、ハルタも口を出してきた。
「そうそう、我慢しちゃだめだよ。言いたいことがあったら言わないと。この間みたいに爆発しちゃうよ?」
リコとハルタはキャンパス内にある食道の一角にユウコを連れて行くと言った。
「ほら、言っちゃいなよ。何があったの?」
本当は何もなかったことにしたかったが、これは言わないという選択肢がない。
言わないと、更に怒られそうだ。
「分かったわよ、言いますよ。」
ユウコはなぜかそのまま黙ってしまった。
しかし、やはり言わないという選択肢はないようだ。
「何よ、なにがあったの?」
リコが急かす。
「ヤマグチ君に話しかけられたの。ちょっといいか?って。」
「は?何それ、意味わかんないんだけど。どの面下げてユウコに話しかけているのよ。」
「あー、確かにそれは何を考えているのか分からないね。何で話しかけたんだろう?」
「分からない。でも、腕をつかまれて、眼が怖かった。」
「それはちょっと逃げたくもなるね。」
その時はそれで話は終わった。
でも、リコはまだ話し足りないらしかった。
そして恐怖を感じたユウコとは反対に、リコは怒りを感じていたらしく、講義中はずっとヤマグチをにらんでいた。
午後はリコ達とは講義は違うので、ユウコは1人でいた。
今日のノエミとヤマグチはちょっと変だ。
ノエミは何事もなかったかのように過ごしていたが、ヤマグチは違った。
ノエミを見ないようにしているようだった。
そして、ノエミは1人ではなかった。
ヤマグチではない他の男と楽しそうに話している。
午後の講義はコミュニケーション学で、様々な学科の人と交流する場であった。
先週までのヤマグチとノエミならば、ずっと2人で行動をしていたが今日は違う。
ノエミにはまるでヤマグチが見えないようだ。
ヤマグチは友人の1人と行動していたが何だか、居心地が悪そうだ。
そして休憩時間に入ると、たまたま1人でいたユウコにまた声をかけてきた。
「講義が終わったら、いいかな?」
「嫌だ。私、用事があるから。」
これは、ハルタが考えてくれたいいわけだ。
用事があると言えば、嘘だと分かっていてもそれ以上のことは言えまいということである。
「じゃあ、用事が済んだ後でいいんだ。」
「無理。」
「ちょっとでもいいんだ。」
「だから、本当に無理だから。ほら、もう講義始まるし。」
その場は何とか乗り切れたが、ヤマグチはノエミの方を気にしつつ、ユウコのことを見ていた。
ユウコはただただ不快であった。
話しかけられるのも不快。
顔を見るのも不快。
声を聞くのも不快。
何もかも不快。
まるで、黒板を爪でひっかくような。
それと同じくらい不快であった。
そして、全ての講義を終えてキャンパスの門をくぐり1人で歩いているとまたユウコを呼ぶ声が聞こえた。
今度は聞こえないふりをして歩き続けたが、腕をつかまれることで引き止められた。
「なんなのよ。」
「ごめん、ほんのちょっとでいいんだ。」
「本当に、警察呼びましょうか?」
「分かっている。俺が間違っていたんだ。でも、少しだけでも、時間をくれ。」
結局、ユウコは聞いてしまった。
「ノエミのこと見たか?」
「勿論、嫌でも目に入るわよ。」
「俺、振られたんだ。」
その瞬間、ユウコは笑ってしまった。
結局こうなるのだ。
そう、他人にしたことは自分にも返ってくるとはまさにこのことである。
「それで、何で振られたのよ?あんなに楽しそうにしていたのに。」
「俺は、騙されていたんだ。」
「浮気していた女の子に、自分まで浮気されていたとはね。とことん残念ね。」
「なぁ、ユウコは今幸せか?」
なぜ今そんなこと聞くのだろうか?
今は、ヤマグチがふられたという話をしているのに。
「あなたが気にすることではないわ。」
「俺は、君とやり直したいんだ。分かっている。俺が君にしたこと。最低だったってことも。」
「無理よ。あなたを許すつもりはないわ。」
ノエミに振られたと聞いて思わず笑ってしまっていて、少しリラックスしていたがヤマグチの一言でユウコはまた不快に思い始めた。
本当に反省しているならば、そんなことは言わない。
「あなたは、反省なんかしていない。本当に心から悪いと思っていたら、私の眼に映るように行動しないで。」
ユウコはそう言い捨てるとその場を去ろうとした。
しばらく歩いていると、またまた腕をつかまれた。
「俺は、もう恋を諦めたりなんかしない。」
「何言っているのよ。放しなさいよ。」
ヤマグチはなかなか放してはくれなかった。
男性の力だ、ユウコも振りほどくことができない。
困り果てて、助けを呼ぶために声を上げようとした時だ。
ヤマグチのユウコの腕をしっかりとつかんだ手がユウコの腕から離れた。
助かったと、見るとコウズがいた。
「何している?嫌がっているじゃないか。」
「俺はただ…」
「お前は、間違ったことをしていることをまだ自覚していないのか?」
「俺の何が間違っているというんだ?俺は反省して、寂しそうな彼女の心を温めるために、『君の心を温めてあげる』といったんだ。それのどこが間違いなんだ?」
「聞いて呆れるな。」
「どういう意味だよ?」
「お前の言い訳など、聞く価値もないと言っているんだよ。ユウコちゃん、行こう。」
そういうと、コウズはユウコの手を優しくとってすたすたと歩き出した。
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