第12話 「君は悪くない。」
もうすぐ春になる頃で、春一番が吹き荒れる中、ユウコはキャンパスにやってきた。
そのため、髪の毛がぐしゃぐしゃになってしまった。
長くしているユウコの髪は、サラサラでいつも輝きを放っていたが今日は少し濁っている。
外出用に持っている櫛を今日に限って忘れてしまい、しょんぼりしているとリコが来た。
「あら、あんた珍しくボサボサね。」
「櫛忘れたのよ。リコちゃん?私に貸してくれるかしら?」
リコは一つため息をつくと、「いいわよ?そんな髪の毛じゃあ、コウズに会えないでしょうし。」といった。
「何言っているのよ。コウズ君なんて関係ないわ。」
「まぁまぁ、整えに行くわよ。」
そういうと、リコは何も言わなかったかのようにユウコをお手洗いに連れて行った。
リコは普段からお節介な性格をしているが、その日は普段にも増してお節介だった。
ユウコのボサボサニなった髪をとかしてやり、ついでにアイロンまでかけてくれた。
これで、ユウコの髪もいつも通りだ。
そうやってリコがお節介をユウコにも焼くときは、何かあった時だ。
「リコ、何かあったの?」
「何もないわよ?それよりあなた、自分の気持ちに素直になりなさいよ?」
「自分の気持ちに素直にって何よ。」
リコはニヤニヤ笑うと、言った。
「コウズのこと、気になっているんでしょう?」
「何でそうなるのよ。私はもう、しばらくは恋はしないって決めたのよ。」
「ふーん、そかそか。しばらく恋はしないのかー。」
リコはそういうユウコのことを意味ありげに見て、先に行ってしまった。
ユウコが言った「しばらく恋はしない」という言葉は本当である。
コウズのことなど気になっていないと、ユウコの心は言っているような気がしている。
あんなことがあった後に、すぐに恋などしようとなどユウコはとても思えない。
だから、これからどんなに好きな人ができたとしてもユウコはその気持ちには素直にならないつもりでいる。
コロッとその人のもとになど行く気はない。
恋人に裏切られ、友人に裏切られたのに、誰かを信用することなどできない。
ユウコの心の傷はまだ癒えていなかった。
だからまだ、ユウコは誰かを信用することはできなかった。
リコやハルタは別にして。
コウズのことはまだ完全には信用していない。
いい人だとは分かっているが、信用できるまではいかない。
なぜなら彼は、例の男とつるんでいたから。
(そんな理由で人を信用できないなんて、最低な女になったわね。あなた。)
心の中のユウコがユウコ自身に言った。
ユウコが教室に入ると窓際の席にノエミが1人で座っていた。
隣の席には勿論、ヤマグチの荷物が置いてある。
あの筆箱は確実にヤマグチのものである。
ヤマグチは別のテーブルに座っている友人たちと戯れている。
何だか楽しそうだ。
ヤマグチの友人の1人は1人でいるノエミのことを気にかけているようだったが、ヤマグチは見もしない。
少し気まずそうにしている彼は、少し挙動不審だ。
きょろきょろと友人たちと話しながら目を動かしている彼と、ユウコは目が合ってしまった。
その目はやはり、気まずそうだった。
その様子を見て、ユウコはまた少し考えてしまった。
普通、彼女がいる時には彼女をあんな風に放置しないわよね?
ノエミ、可哀そうだわ。
久し振りに、彼女に話しかけてみようかしら。
もともとは友達だったんだし、彼女寂しそうだし。
そもそも彼女たちが私達のことを避け始めたのだけれど、それでそのままにしていた私達も彼女が孤立する原因の1つだったはず。
それならば、私はかなり性格が悪く見えるのではないのか?
私は、思いやりのない、最低な人間になってしまったのか?
本当はすべて私が悪くて、彼と別れたのも、ノエミは1人になっているのもすべて私のせいなのかもしれない。
ユウコはそんな風に思えてきて仕方なかった。
そして罪滅ぼし的な思考で、ノエミに話しかけるためにその場を立った。
しかしその時、後ろからユウコを呼ぶ声がしたためユウコは結局ノエミのところへ行かなかった。
「ユウコちゃん、おはよう。今日も髪の毛綺麗だね。」
「おはよう。そうかな、ありがとう。」
コウズだった。
コウズはノエミのことを見て、そしてヤマグチのことも見てから言った。
「こう見ると、ノエミちゃんが可哀そうだよね。1人にされて。」
「うん。私そう思って、話しかけようかと思っていたところなの。」
コウズは少し考えてから「それはしなくていいよ。どうせ、話しかけに言ったらあいつが邪魔するんだし。」といった。
「それに、ユウコちゃんは悪くないんだから。自分が悪いとでも思っていたんでしょ?」
ユウコは本当の気持ちを言うか迷った。
本当に悪いのは自分自身で、彼女が孤立したのも自分のせいだと思っていることを言うか迷った。
そんなことを言ったらまた、リコ達みたいに「人が良すぎる」と言われると思ったからである。
本当は、本当に思っていることを言わなつもりでユウコは口を開いたが、つい本音が出てしまった。
「あっちが先に私達を避けたとはいえ、私も彼女を無視したの。それで孤立したってことは彼女が孤立した原因に私がいるってことでしょう?それならば、私が悪いんだって思ったの。」
「それは違うよユウコちゃん。君は悪くない。何も悪くない。」
ユウコは混乱していた。
自分が正しいのか、それとも自分は状況に流されているだけなのか、分からなくなっていたのだ。
だから悪くないことも、すべて自分のせいだと思ってしまっていた。
しかし、そんなことも分からないほど、彼女はお人好しなのだ。
そして、それを素直に言えなかったから彼女の中の罪の意識が大きくなっていってしまっていた。
そんなユウコの心の中を理解したかのか、それともたまたまかコウズは言った。
「ユウコちゃんはさ、いい子だから分からないかもしれないけど。ヤマグチもノエミちゃんもかなり性格悪いよ。だって、君を裏切って最初の方は堂々としていなかったのに今はもう、あんなに堂々としている。君のことなどお構いなしだ。あれは心理的な戦術なんだ。なんだってそうだ。悪いことをしたって可哀そうな光景を演出すれば可哀そうだと思われる。あいつは君の良心を利用して誤魔化したんだ。」
「そうよ。ユウコ、あなたは人が良いから分からないでしょうけど、世の中そういう人の方が多いのよ。」
いつの間にかリコがいた。
「そうそう、だからユウコちゃんはそんなに罪の意識に駆られる必要はない。」
そして、ハルタもいた。
「もう、そう思っていたなら言ってくれればよかったのに。でも、本当にユウコは悪くないのよ。」
ユウコは皆に説得されて、自分が悪くないことは分かった。
「…うん。」
その日の夜、ユウコは遅くに下校した。
下校途中、怒ったノエミを見た。
でも、ユウコは話しかけようとはしなかった。
普段のユウコなら、事情を聞いたりしただろうがそうはしなかった。
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