第6話 「本当に、本当だったんだ」
それを確かに見た。
証拠写真も沢山ある。
そして別れも告げた。
それでもユウコはまだ信じ難く思っていた。
あの誠実なヤマグチがそんな下種なことをするとはとても思えなかった。
数日前にみたものをまだ信じたくない気持ちでいた。
だから、その日は学校をさぼろうと心に決めていた。
しかしそんなわけにもいかないことをカレンダーがユウコに教えた。
その日は日本文学の期末考査だった。
そんな大事な日に学校をさぼるなんて、度胸のある学生はいないだろう。
ユウコはあまり真面目な学生ではなかったが、そんな彼女でも流石にそんなことはできない。
特にユウコは大学を卒業したら、文学系の仕事に就きたいと考えているからなおさらである。
この学問だけでも、良い成績を取っておく必要があった。
仕方なしに、だらだらと支度をし、彼女は重いその足を学校へと向けた。
学校について早々に嫌なものを見てしまった。
笑顔のヤマグチとノエミ。
最低だ。
なぜ、神様はこんな仕打ちをするのだろう。
なぜ、その2人はあんな笑顔で学校にいられるのだろう。
その2人の神経が知れないと怒れる気持ちの中にも哀しみがあった。
そんな哀しみの気持ちを、ユウコは知らないふりをした。
1人になったユウコはただ虚しさばかりに心が苛まれていた。
考査は、ユウコは日頃の勉強の甲斐あってよくできた。
そして50分も時間が余るほど、すぐに解き終わってしまった。
考査時間は90分。
途中抜け出しは厳禁だ。
だからユウコは終わってしまった考査の問題用紙を何度も読み返し、ケアレスミスがないか確認した。
それでも30分は余っていた。
その時計の針は一定の速さで進み、ユウコが望んでいるようにそのスピードは速まることはなかった。
ユウコは席順で表すと1番後ろの席であった。
教室の中の全てを見まわせるような席だ。
ユウコはその席をかなり気に入っていたが、今日は違った。
見たくもないのにヤマグチの姿が目に移ってしまうからである。
ヤマグチの席は教室の前の方だが端にある。
真っ直ぐに前を見たら必ず見えてしまうが、反対側の方に目を向ければ見えることはない。
頑張って他の方へ目を向けていても、ちょっと気になってみてしまう。
ユウコは何度も何度も見ないように他へ目を向けるようにしたが、結局考査時間中はほとんどヤマグチのことを見ていた。
もう、忘れよう。
ヤマグチの事など。
そう思えば思う程、ヤマグチの存在が邪魔になっていった。
それでもヤマグチは毎日学校に来る。
そしてわざとユウコの目に映るような席に座り、ノエミと楽しそうに仲良くやっているのであった。
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