第3話 「え…、気は確か?」
秋の晴れた気持ちのいい天気の日。
私はあの一件を忘れかけていた。
しかしそれは彼がしばらく今年の研究のために部屋を開けていたからで、今日はその帰ってきた翌日。
彼と私はまた朝に大学の門の前で待ち合わせをした。
彼の顔を見るとあの日のコトを思い出す。
それを忘れていたとしてもまた、思い出す。
何であんなことに。
何で私はいつもあんなに情けないのだろう。
あの日から彼は私を求めなくなった。
あれで満足したとは到底思えない。
それでも彼は毎日私と連絡を取り、その日の出来事を楽しげに話す。
私は最低だ。
彼が楽しそうに話しながら私の隣を歩いていると、私の顔を覗き込むようにして言った。
「ユウコ?どうかした?」
私はあわてて首を横に振る。
「何でもないよ。それで、コウズ君がどうしたの?」
私は嘘をつくしかなかった。
彼に心配をかけるのは嫌だ。
その原因がたとえ彼であっても。
「あ、そうだ。」
「ん?どうしたの?」
「今日は午後に講義一つも入ってないだろ?俺、今日は予定あるから先帰るな。」
「分かった。何の予定?」
「ちょっとな、買いたいものがあるんだ。」
少し違和感を感じたが私は一応信じるよう自分の心をごまかした。
午前の講義を終えた私はこっそりとヤマグチ君の後をつけた。
彼は歩くのが速い。
その時もいつものように何かに急かされているかのようにせかせかと歩いていた。
でも、それはいつもより余裕がないように見えた。
いや、ヤマグチ君を信じていないわけではないんだけど。
でも気になるものは気になる。
一度、気になったそれは中々ぬぐえるものではない。
途中で「お茶でもしないか」と言うリコの誘いがあったが、私は断ってヤマグチを追った。
キャンパスを少し歩いた所でヤマグチ君は角を曲がった。
私もすかさず角を曲がった。
そこには信じられない光景があった。
街のど真ん中で、同じ学部の女の子、それも私の友人であるノエミと会っていたのだ。
ノエミは私の友人ではあったがヤマグチ君とは接点がほとんどなかった。
いつどこで話して仲良くなったのかは分からないが、あの雰囲気は怪しい。
だが怪しいと言ってもまだ疑うには早い。
しかし私に嘘をついて彼女と会うということは、やはり怪しい。
いや、確信犯か。
私は、本当は彼らが歩く道を先回りしてたまたま会った風を装い、話しかけたかったがそれでは真相を確かめることはできない。
だから我慢してそのまま後を受けることにした。
ユウコはなぜかディープな博物館にいた。
(こんな所カップルでしか行かないよね?普通、カップル以外の男女2人ではいかないよね?)
と疑問と不安を抱えながら、2人の会話を耳の穴をかっぽじって聞いていた。
一言も逃さぬように。
「ねぇ、これ凄いね。」
「ああ、なんかエロイな。」
「私達みたい?」
「そうだな。」
彼らの目線の先のものを見た時、それは確信に変わった。
なぜ博物館にあるのかは分からないがそこにはかつて有名な画家が不倫したときに描いた絵が貼ってあったのだ。
つまり2人はそういう関係。
でも信じられない。
あんなに優しい彼が。
あんなに誠実な彼がそんなことをするようには思えない。
「でも、私悪い気しているの。」
ノエミは可愛い声で言った。
「だって、ユウコは私の友達だもの。だから少しは悪いなって思っているんだよ?」
「だからこの絵の女性とは違うって?」
「うん。キヨタンもだって、こんなに悪そうな顔していないもん。この人、いかにも浮気顔だけど、キヨタンはいかにも誠実だし。」
キヨタン?
キヨタンって、ヤマグチ君のこと?
ユウコは混乱した。
しかし彼のことをそう呼んでいるのには間違いない。
ヤマグチの名前はキヨシなのだから。
もう聞くに堪えないと思ったユウコは自分で始めたことなのだったが中断した。
帰ってお酒でも飲もう。
そうすれば今日のことはもう忘れられるかもしれない。
あわよくば、今日の見たこと、聞いたことは幻想になるのかもしれない。
ヤマグチを信じたい気持ちと友人であるノエミを信じたい気持ちを持って、ユウコは静かにその場を後にするのだった。
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