【後編】私は復讐の為に唄い続ける

会場は熱気に包まれていた。

奇しくも10年前と同じく雪の降る日に、寒さを感じないくらいに会場は盛り上がっていた。ミリオンヒットになったデビュー曲に加え、ストリートライブでつちかった曲などファンの皆は聞き惚れていた。


『ああ・・・最高の夜だな』


私は大勢のファン達の歓声を浴びて思った。あの悪夢の日から私がこんなステージ立つなんて思っていなかった。こんな復讐に身を焼いた私には勿体ない・・かな?少し自虐的に笑う。


長かった・・


本当に長かった・・


あれから10年か・・・


もう少しで叶う!私の復讐が!これが最初で最後のライブになろうとも絶対にやり遂げる!私は再度胸に誓い次の曲を唄うのだった。



パンドラの箱


「泣き出しそうな表情で

深い闇に覆われた現実 枯れ果てた赤い涙が心に落ちて滲んでいく

手を重ね温もりを感じる 貴方の笑顔で救われる


消えないで このこころを離さないで

暗闇に消えていく光 私は道に迷い間違える


この先に希望はない パンドラの箱を開けて


復讐は解き放たれる



泣いている君へ 笑顔を向ける

辛く突き刺さる現実 心が深く沈み暗闇に堕ちていく

貴方に抱き締められた温もりが 私の心に希望を灯す


消えないで このまま私を離さないで

暗闇に灯った小さなきぼう 私は道を歩み続ける

この先に希望はある パンドラの箱を開けて


最後の希望は解き放たれる

大切な人達に包まれて

私は進み続ける」



・・パンドラとは良く言ったものね。今の私にピッタリのうただわ。この世にあらゆる悪意を閉じ込めた箱を開けた罪な女ー

今の私と何が違うのかしら?両親の仇を討つためにあらゆるものを利用して、私に好意を抱いてくれている大切な人達も利用して・・私には救いはない・・・歌詞のように希望なんてあるはずないのだから・・それでも私はー


曲が終わり、観客の声援が終わらないうちに次の準備に入る。ライブももうすぐ終わる


私は終わりが近づき、幼い日の誓いを思い出していた。


ーーーーーーーーーー

10年前、両親を亡くした私は、なかなか捕まらない犯人をどうやったら見付けられるのか、子供なりに考えて実行に移した。それは有名になって犯人に目撃者の私は生きていると、見付けてもらうこと。リサさんお願いして音楽を教えてもらい、事務所での子供向けのモデルの仕事をやらせてもらう事だった。ふさぎがちだった私のお願いにリサさんは嬉しそうに承諾してくれた。何かしら仕事などすることで両親の死の悲しみを、まぎらわせればと思ったようだった。もともと子供向けのモデルの仕事をやっていたので特に問題なくこなす事が出来た。ただ、無邪気に笑う事が出来なくなっていた私は、儚い表情や微笑む顔で名前を売っていった。


何年か経った


いまだに犯人は捕まっていない。いくら子供で人気のあるモデルになった所で、普通の男性が女性ファッション誌など見る可能性は低く、犯人からの接触もない。ただモデルの仕事はある意味、コネクション作りに過ぎない。私の最終目的は歌手になる事だからだ。その為に色々な所に顔を売っている。タレントになりテレビに出る事も考えたがやはり両親と同じ道をたどりたかったのがある。ギターやベース、キーボード(ピアノ)などバンドの楽器を一通り習っている。


小学生6年生の時に同年代のモデルなりたての新人に出会った。それが今の一番の親友である藤原ざくろだ。同じ事務所に所属してる事もあり、先輩でもある私がざくろのイロハを教えるよう一緒に仕事を受ける事多くなった。ざくろは勉強熱心でスタイリストさんにメイクのやり方など真剣に教えて貰っていた。しかし、私にはなつかな・・ゴホン、私には仕事の話と最低限な会話しかなく、なかなか仲良くなれなかった。私も目的があるので馴れ合いは余りしたくなかったが、ギスギスした空気で仕事するよりも仲良くしながら仕事をしたほうがやり易いからね!


ざくろと仲良くなれたのは中学になったばかりの頃に事件があり、劇的に関係が変わった。


ざくろがモデルの仕事を勝手に受けたのがきっかけだった。事務所としては依頼人が余り良い噂の聞かない所だったので断るはずだったが、たまたま事務所に来ていたざくろが強引に受けたのだ。後から知った話だと、私に負けたくないと対抗心があったみたいで、少しでも仕事を多く取りたかったそうだ。

ざくろが仕事先に向かった後、事務所に顔を出した私はざくろの事を相談され、依頼人の資料を確認して目を険しくした。過去に、仕事を依頼したモデルを襲い、写真を撮って脅迫した事があると関係会社から仕事を受けないよう連絡のあったブラック会社だったからだ。

私は事務職の方に、社長のリサさんに連絡してざくろを連れ戻すよう大人の人を呼んでもらうよう伝えると急いでざくろの後を追うのだった。


ーーーーーーーーーー

藤原ざくろ視点


私は瀬川詩音が嫌いだった。私が必死に努力してモデルの仕事をこなしているのに、私より余裕があり、軽く仕事をこなすと私より評価も高く、極め付けは他の誰もいない銀髪の髪!同性の私でも見惚れてしまう美しさがある。持って生まれた特徴、才能、天才。全く嫌になる。私はトップモデルになりパリコレに出ると言う夢がある。それなのに、本気でモデルの仕事をやっていないヤツに負けたくないと思った。だから少しでも詩音より仕事を多く取って見返したかった。努力が、地道な積み重ねが天才を超えてやると!

でも、そんな私の浅はかな嫉妬があんな事になるなんて思わなかった・・・

ーーーーーーーーーー

仕事先に着くと、小さな貸ビルだった。階段を登り2階の扉を開くと小さな事務所だった。奥を見ると撮影用のセッティングがあったので間違ってはいないようだ。私は藤原ざくろと名乗り仕事に来たことを伝えると、相手側も撮影の準備に入った。仕事は特に問題なく終わった。隣の部屋で撮影用の衣装着替えカメラマンやスタッフと打ち合わせをして完了した。スタッフの方は先に帰ったが、私は最後に依頼人から話があるからと残った。事務所には依頼人の他、2人の関係者?がいた。依頼人から丁度出来上がったと写真を渡され、もう?と思ったが特に気にする事なく写真を見ると私は青ざめた。


「これはどういう事ですか!!!」


私は叫んだ!写真は仕事のものではなく私の着替え写真だったからだ。依頼人はこれをばらまかれたくなければ今後も仕事を受ける様に言ってきた。私は警察に訴えてやると事務所を出ようとしたが男達に床に押さえられてしまった。下卑た笑みを浮かべた男の達は、写真これでは弱いならもっと過激な写真を撮ってやると私を床に押さえつけ、私の服を無理やり脱がした。


そんな時ドアがバンッと開くと「何をしている!」と大きな声が響き、その人物はポケットからスプレーを取りだし男の達に吹き掛けた。

辺りに悲鳴が上がる!私も少し刺激に目をヤられて涙が出たが手を捕まれ引っ張られる。


「早く!逃げるよ!」


私を助けに来てくれた人物は私の嫌いな瀬川詩音だった。何であんたがと疑問に思ったが、私はおぼつかない足で入口から一緒に出ようとすると、後ろから目を押さえながらナイフを手にした男が襲って来た。私は詩音にまた引っ張られ、入口から押し出されると地面に倒れこんだ。痛かった私は恨みながら後ろの詩音を見ると悲鳴を上げた!

詩音がナイフで背中を切られて倒れてきたからだ。だが詩音は器用にも倒れながら振り向くとまたスプレーを相手の顔に向かって吹き掛けた。男はナイフを落とし、両手で顔を押さえながら転がった。

私は詩音に肩を貸し、階段を降りると大声で叫んだ!

「助けて!殺される!!!」


幸い、人通りのある場所だったのですぐに人だかりが出来て救急車や警察の連絡をしてくれた。私は詩音の背中に服を当てて止血した。私に知識はなかったが、観ていた人達が協力してくれた。

意外だったのは警察が5分と経たずに来てくれた事だった。どうやら詩音が事務所に入る前に呼んだらしい。本当に準備の良いヤツだよ・・

一緒に救急車に乗ると私は詩音に問い掛けた。


「・・・どうして助けにきたの?」


横になっている詩音は私に視線をやると言った。


「友達を助けるのに理由なんてないわ…」


私は言葉に詰まった。詩音の事を嫌っていたのに友達だと言う。私は何のために!?


「・・ざくろが私を嫌っているのは知っているわ。でも私は貴方の努力を知っている。凄いと思った。私以外の同年代でここまで頑張っている子を他に知らないから・・私は貴方を嫌いになれないわ」


何よそれ!?私は・・私は何のために・・・うぅ…どうして詩音はこんなに強く、私は弱いの?勝手に嫉妬して嫌ってたのに・・・


「私は詩音にどう謝って良いかわからない」

静かに涙を流しながら言った。


「・・ざくろは謝る事はしてないでしょう?それよりも助けて貰ったら別の言葉があるじゃない?」


すぐに察した私は伝える


「ありがとう」


詩音その言葉を聞くと微笑んだ。そして痛みに耐えるように口を閉じた。

病院に着くとあっという間に数日が過ぎて行った。警察の事情聴取や両親の説明など。私は多少落ち着いてから詩音の病室に来ていた。


「怪我の具合はどう?」


詩音は背中を切られていたのでうつ伏せに寝ていた。

「大丈夫よ、一週間ほどすれば退院出来るからそんなに酷くないよ」


詩音はたいした事ないと言うが、出血多量で命の危険があった。更に言えば一週間で退院と言っても、さらに自宅で安静にしないといけないので直ぐには学校へ行けないのだ。顔に出ないよう注意しつつ、良かったと告げる。


「今日はざくろにお願いがあるの」

「お願い?私に出来ることがあるなら何でも言って!」

詩音の為なら出来る限りの事はしようと私は心に誓うと、予想とは違った言葉が出てきた。


「私はモデルの仕事を辞めるから、私の受けている仕事を代わりに引き継いで欲しいの」


「っ!?」


声に鳴らない悲鳴が出掛けた。私は詩音に嫉妬していたが、それは逆に言えば憧れていたのだ。自分も詩音の様になりたい。でもなかなか追い付けないジレンマから詩音を逆恨みして嫌っていたのだ。


「ま、待ってよ!?何で辞めるの!怪我のせいなら私がサポートするからそんな事言わないでよ!?」


実の所、詩音がモデルを辞める理由は分かっていた。でも認めなくなかった。私が詩音のモデルの人生を奪ってしまった事に再度、取り返しの付かない事をしてしまったと思い知らされた。


「ざくろならわかるでしょう?怪我のせいでなく、傷痕が残るからこのままモデルを続ける事は出来ないの」


詩音の背中には肩から斜めに腰までナイフで付けられた傷痕がある。


「わ、私のせいで!本当にごめんなさい!」


ざくろのせいじゃないからと詩音は言うが私の気が収まらなかった。どうして私の事を責めないのかわからない。知らずになみだ目になっていた。


「泣かないで、ざくろ。私はお母さんの意思を引き継いだだけなのよ」


「詩音のお母さん?」


「そう、強盗から命の掛けて護ってくれたお母さんとお父さんの勇気を私は背負っているの、自分を嫌っているからと見過ごす事なんて出来なかったわ」


私は初めて詩音の両親の事を知った。社長の娘と思っていたが実は養女で、両親を殺されていたと・・

私は居たたまれない気持ちになり俯いた。


「ざくろにもう1つお願いがあるの。私は歌手になるのが夢なんだ。」

「歌手に?」


詩音は自分の夢を語った。そして自分のバンドに参加して欲しいと。私は音楽の知識、経験は無かったが詩音が教えてくれると言うので、モデルとの兼用で参加を決めた。其処には贖罪の気持ちもあったが詩音いると楽しそうだと思ったのが大きい。それに社長のリサさんにも実はお願いされているのだ。


病室に運ばれた日、急いで駆けつけた社長ーリサさんは治療室の前で静かに涙を流していた。私は俯き何も言えなかった。両親も私が悪いと説明を受けていたので事務所の社長を責める事は出来なかった。詩音は私の命の恩人であり女の操を護り・・身代わりとなったのだ。こちらが謝る側のため、黙って見ている事しか出来なかった。


リサさんは私に言った。これからも詩音をよろしくと・・今の私に断る理由なんて無かった。こちらからお願いしたかったくらいだ。芸能界では他人を蹴落とすのは当たり前。他人のために自ら危険を起こして助けてくれる人物なんて普通はいない。私は一生涯の親友になると心に誓ったのだった。



ーーーーーーーーーー

詩音視点


ざくろと音楽活動を初めて3年ほど過ぎた。私は高校生になった。高校は芸能学科のある学校で出席日数が少なくても大丈夫な学校だ。ざくろと違い私はストリートライブを中心にライブハウスなどで活動している。一緒に活動する仲間も増えたがデビューはまだしていない。社長のリサさんは贔屓目無しで、実力のある私をデビューさせたがっているが少し待っていて貰っている状態だ。何故ならー


デビュー曲は決まっている。だけど私の両親を殺した犯人を炙り出し、見付けるための曲が出来ていなかったからだ。あの日の出来事をストレートに書いたのでは歌詞にならない。犯人しか解らないように工夫する必要があった。他の人は気付かず、犯人のみ気付いてもらわないといけないのだ。なかなか難しく時間が掛かってしまった。

だけど私には確信があった。直ぐに気付かなくても私のアルビノである銀髪は目立つ。其処に事件の事をほのめかした歌でデビューすれば高い確率で私に会いに来るとー



そして、遂にデビューした。デビュー曲がミリオンヒットを記録した。アイドル全盛期で久々のバラード曲のヒットで世間は沸いた。街中で私の曲「ETERNAL SNOW」が流れている。私も色々な雑誌や歌番組に出るようになった。


そしてー


楽屋にはファンから色々なプレゼントが届いていた。スタッフから普通のプレゼントと誹謗中傷の嫌がらせのプレゼントに分けられた段ボールがあった。私は時間があれば手紙類などの中身を確認していた。

「ふぅ、やっぱりないか・・」


私はため息をついた。いつまで続ければ良いのだろう?

今はデビューしたばかりだから何とかなっている量だが、今後は私1人の手で確認するには無理だろう。


「さて、どうしようかしら」


そんな時スタッフから声が掛かった。


「詩音さんすみません。詩音さんに電話です。何でも詩音さんの両親について話があると」


私は目をこれでもかと大きく開きスタッフに確認した。


「男性の方でした?」

「え、ええ10年前の事に付いて言えばわかるから、繋いで欲しいと言われました。」


間違い無い!


私は直ぐに電話に出ようとしたが、不意に冷静になった。電話に出てどうするか一旦考えてから電話に出た。


「もしもし、詩音さんですか?」

私は答える

「そうです、貴方の名前を聞かせて下さい」


「そうですね~山田太郎とでもいっておきますか」


私は答える気はないと判断し、続けた。


「貴方は私の両親の何を知っているのですか?」

「詩音さんこそinfinityのお子さんですよね?雑誌で読みましたよ」

間違い無い!犯人だ!私は確信したが同時に震えた。

「ふふ、読んでくれてありがとうございます。それに私の銀髪は珍しいでしょう?10年経っても忘れられないくらいに」

震えている事を相手に気付かれないように話す


「さてどうでしょう?私のおかげでinfinityは伝説となったのだから感謝して欲しいですね」


誰がお前なんかに!と必死に飲み込む。


「電話を掛けてきたのだから何のようかしら?」

少しでも情報が欲しい!犯人から何かしら引き出さなければ!

「今回は確認のために電話したのですが・・気が変わりました。貴女も伝説にしたいと思っています」


「10年前の目撃者を殺したいのなら素直に言いなさい!」

遂に私は叫んだ!我慢の限界だった。


「勘違いしては困ります。私の目的はあくまでも貴女を伝説にすることです」

男はさも意外そうに言う

私も少し冷静取り戻し続けた


「・・今度ミリオンヒットを記念してライブをやるわ。事務所には山田太郎言う人物が訪ねて来たら通すように伝えておくわ。貴方が私を伝説にしたいのなら来てみなさい。」


普通なら来ないだろうが、犯人の好きそうなシチュエーションを用意する


「ライブ会場はー10年前の会場よ。日にちは12月24日よ」

電話越しに息を飲む感じが伝わる

「クックック…ハァーハハハ!!!」

狂ったように笑いだす

「フフフ…失礼した。最高の舞台ですね!伝説を作るに最適ですよ!」

上機嫌の犯人に私はニヤリと微笑む

「貴方ならそう言うと思ったわ。ちゃんと準備して来ることね」

「素敵な提案ありがとうございます。ではまたライブ会場で逢いましょう」


ようやく電話が切れて私は汗だくになっていた。


「本当に来るかわからないけど約束は取り付けた」

冷や汗をかきながら、スマホの機能を止める。

実は私は固定電話をスピーカーにしてスマホの録音機能を使い犯人の声を記録していたのだ。

少しでも逮捕に繋がればと・・


「後はやって来た犯人を殺すだけだ!」

私は殺意を込めて呟くのだった。


それからライブの日にちも迫り、慌ただしい日々が続いた。リサさんは忌まわしい会場でのライブに反対したが、私は自分の気持ちを整理し乗り越えるためだと説得した。


【12月24日当日】


「ふぅ~」


この会場に犯人が来てるかと思うと緊張する。10年前、拳銃を持っていたからどこから狙われているのかわからない。

ガチガチに守りを固めたら犯人が出て来ない。程よく手薄にしないといけないのだが・・なかなか難しい。ライブ前だから、常に打ち合わせなどでスタッフ・・・・やメンバーがいるから1人になれない。化粧室に行った帰りにため息を吐く


「緊張してるの?らしく無いわね?これくらいのライブ初めてでもないでしょう」


目の前に居たざくろは体調でも悪いのか聞いて来るが、私は何でもないと言うと一緒に楽屋に戻る。

私は心の中で謝る。


「ざくろごめんね」

私は決意を決めると楽屋へ向かうのだった。



ついにライブが始まる

大きな歓声の下、私はー私達は唄う。大切な親友と夢を一緒に追いかける仲間と心を1つにして。


犯人の当て付けのように【ETERNAL SNOW】を熱唱する。観客のボルテージが最高潮に達する。

冬の寒さを吹き飛ばす熱気が会場を包み込む。


詩音!大丈夫!?

いつも以上に疲れて、憔悴している私にざくろが心配そうに声を掛ける


「ハァハァ、まだイケる!」


私は強がって見るが、想像以上に疲れていた。無理もない。命を狙われている状態で常に気を張っていたのだから。


「詩音、ライブももうすぐ終わるわ。スタッフに言って次の曲の出番を10分ほど遅らせましょう。MCで時間を作るから、その間に少し休んで体力を回復させなさい!」


普段なら大丈夫と言う所を私は反論も出来ないくらい疲れきっていたので素直に頷く。

ここまで襲われる事はなかったが、ここにきておそらくライブ終了後に来ると直感めいた確信があった。ライブ中は大丈夫だと。私はタオルを被りながら椅子にもたれる。


「・・こんなに疲れているとまずいわね。」


ライブ終了後が大事だというのに。

疲れきった身体で闘えるのか心配になった。


「大丈夫。殺す覚悟は出来ている。」


自分に言い聞かせる。

私が殺されても犯人が見付かるよう楽屋などに隠しカメラも設置した。10年前と比べて会場の防犯カメラも多く設置され画質も向上している。必ず逮捕出来るはず・・


まずはライブを成功させなきゃ!

私は少しでも体力が回復するよう身体を休めた。


ワァーワァー!!!


観客の歓声が響き渡る。


時間になり、疲れた体に鞭を打ちステージに上がる。ざくろと他のメンバーを見渡しラストを飾る。この後の事を忘れ、全身全霊で唄い切った。

最後の方は記憶が無かったが割れん限りの歓声のもとざくろに支えられながらライブが終了した。





ライブ終了後、私は疲れきっているので着替えた後、1人になりたいと1人楽屋に残り、他のメンバーは先にあがる帰るよう伝えると1人で犯人を待ち構えた。父と母が殺された場所で。私も相手が拳銃を持っているので防弾服を用意し着こんでいた。冬なので厚着の服を着てわからないようにした。ナイフと痴漢撃退用スプレー、防犯ブザーなど可能な限り用意して、直ぐに使えるようポケットに入れた。


後は犯人が来るのを待つだけだ。本当に来るのかしら?不安は尽きない。


そんな時、スマホにざくろから楽屋に寄ってから帰ると連絡が入った。マズイ!犯人が来たら巻き込んでしまう!急いで返事を返すと同時にドアからノックする音が聞こえた。

私はざくろがきたと思い、直ぐにドアを開けると全身が固まった。スタッフの服を着た男がざくろを抱えて居たからだ。

男は突き飛ばすと楽屋に入り、ざくろを私のそば

に放り投げた。


「ざくろ!大丈夫!?」

「大丈夫。まだ・・何もされていないわ」


力無く答えると、スタッフのジャンパーをきた犯人を睨み付けた。


「どうしてざくろを狙ったの!貴方の狙いは私でしょう!関係の無い人を巻き込まないで!」


男はヤレヤレの仕草で言った。


「10年振りの再会のサプライズですよ。まぁ、貴女も色々準備をしているでしょうから保険も兼ねて・・ね」


ニヤリと嗤う犯人に私は憎しみが沸き上がる


「殺してやる!!!」


怒りに我を忘れて私は犯人に殴り掛かった。

犯人に掴み掛かる寸前で身体に鋭い痛みが走った!

ジッジジーー

スタンガン!?


私の脳裏に浮かんだ武器を見つめその場に倒れこんだ。


気は失わなかったがスタンガンを当てられた所がズキズキと痛む


「ふふふ・・最高の夜にしましょう!10年前貴女の両親を伝説にしたように。また今宵伝説が生まれるです!」

犯人は悦に入った様子で口上を立てる


「詩音!これはどういう事!」


事情を知らないざくろが叫ぶ!


「ごめんなさい・・・貴女だけは絶対に守るから。」

そんな事を聞きたいのでは無いと視線を犯人に移すと睨め付ける


「10年前、詩音の両親を殺したは私なんですよ。クククッ、あれは最高の夜でした」


その一言でざくろは大体の事を察した。


「このクズ野郎が!!!」


男はヤレヤレと言った仕草で答える


「私のおかげでINFINITEが伝説となったですから感謝して欲しいですねぇ~」


男はクックックと再度、歪んだ笑みを浮かべる


それを見たざくろが飛び掛かろうとするとするとパーンッと音がして身体が硬直する


「動かないで下さい。すぐに済みますから」


銃口がざくろに向くと私は痺れる身体に鞭を打ち飛び掛かる!

「わかってますよ!」


男は私に向かって引き金を引き、再度パーンと音がして身体に物凄い振動と痛みが襲った


「イヤーーー!!!詩音!!!」


ざくろが叫ぶ!


「次は貴女の番ですよ!」

倒れた私を無視してざくろに引き金を引こうとした時低いうめき声が響いた。


「グガガッ!!!」

ガチャンと拳銃を落とし膝を着く犯人に追い討ちを掛ける。ジージジッ!詩音が隠し持っていたスタンガンを犯人の首に当てたのだった。


「ハァハァ、スタンガンを持って居たのはあなただけじゃないのよ!」


男は腕をピンッと伸ばしてから完全に倒れて気を失った。


「ハァハァ、呆気ないものね・・私も準備してたのは知っていたのに・・油断し過ぎよ」


「し、詩音!大丈夫なの!?」

ざくろは銃で撃たれた私を見て驚いている。


「防弾服着込んで要るから大丈夫・・それでもかなり痛かったおかげで、痺れと疲れが吹き飛んだわ。」


ざくろは胸を撫で下ろす。


廊下の方から誰かが走ってくる音が聞こえてきた。

部屋に飛び込んできた人はリサさんと警備員の人達だった


「詩音!無事!!!」


倒れている男と部屋の惨状を見て警備員に男を捕まえるよう指示し警察と救急車に連絡をする


「・・詩音。話を聞かせて貰えるわね?」


リサさんは地の底から出しているような低い声で呼び掛ける。私は頷くしか無かった。


警察が着くと私は有無を言わさず救急車に乗せられ運ばれた。



・・・そして数日たった。


私は病院のベッドにいた。そして休養しているのに両方の頬を真っ赤にしてジンジンしている痛みを涙目で堪えていた。

目の前にはリサさんとざくろがいた。


事情を話した所で叩かれたのだ。

ざくろとリサさんは目に涙を浮かべて睨んでいる


「「詩音のバカ!!!」」

二人同時に言われた。解せぬ!


それから半日ほどお小言を受けました。

私も至近距離で銃撃を受けたので防弾服を着込んでいたが打撲になっていた。


「私がいる限り絶対にもう無茶はさせないからね!」

「本当に・・・まさか犯人を見付ける為に有名になろうだなんて思っても見なかったわ」

二人は口を揃えて言う。私には本当に心配してくれる大切な人達がいるとしみじみ思った。


「っ!?詩音!」

ざくろが驚いた顔をする

「えっ?」

私は頬から一筋の雫が落ちる。

「詩音・・笑っているの?」



鏡を見ると私は笑っていた。両親が殺されてから笑えなくなり微笑む事しか出来なくなった私が笑っている。

「私・・ようやく笑えた。ようやく終わったんだ」

咽びムセ泣く私にざくろが言う

「違うわ!これから始まるのよ!」


私はざくろを見上げうんと何度も小さく頷くのだった。



少し時間が経ちーーー


小さなライブハウスを貸し切り、親しい友人や関係者を集めてのライブを開催した。世間から騒がれ音楽活動どころでは無く、私も暫く落ち着く時間が欲しかったので療養中との事で活動を休止していた。


「皆さん!お待たせしました!聞いて下さい。両親からプレゼントされた最愛の曲【夢の翼】」


私は両親が死んでから封印していた最後の誕生日プレゼントの曲を最初に唄うと決めていた。ようやく心の底から笑って歌える。私はざくろやバンドのメンバーを見渡し合図する。

「いっくよー!」


そう、今から私達の音楽が始まるのだ。これからも辛い事や悲しい事もあるけれど、この仲間達や皆が居れば乗り越えられると思えるから・・




私はみんなと一緒に希望の未来の為に唄い続ける


【fin】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私は復讐の為に唄い続ける naturalsoft @naturalsoft

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ