私は復讐の為に唄い続ける

naturalsoft

【前編】幼少期─回想

ワァー!ワァー!


広い会場だが、満員の人で溢れかえった場所で歓声が聞こえる。その声を聞き私は呟いた。


「ようやくここまで来た」


目を閉じて思い返すと、ここまでの困難が次々と溢れるくらい思い出す。私はフゥーと一息入れて気をしっかり持つ。ようやくここまで来たのだから・・・


私の想いの全てを込めて作った最愛のバラード曲。ミリオンセラーになってからの初ライブ。だけど皮肉なものだ。私の身の裂けるような痛みと想い、そして心から愛していた両親の愛情を知って貰いたくて作った曲。そして、その曲を聞いて貰いたい人がいる。・・そう、私が最も憎んでいる相手だ。私の大切なものを奪ったアイツは絶対に許さない!この私の十年間の想いを知るがいい!


ステージに立つ私、曲のイントロが始まるー

曲に合わせて私は唄う。そう歌うのではなく唄うのだ。


【ETERNAL SNOW】


「幸せな日々 家族と過ごした時間

幼い日に手を伸ばした 届かない永遠の距離

母に抱き抱えられ 腕の中で温もりと優しさを知る

本当に大切なもの


どんなに遠くても どこにいても きっと見つけ出す

ETERNAL SNOW 優しく静かに降り続いていく

積み重なる想いのように 永遠に



幸せな日々 不意に終わりを告げる時間

まだ諦めない 私は覚えている・・・・・ 貴方の顔を

静寂が支配する場所で 私は泣き続ける

本当に大切なものをなくして・・・・


どんなに遠くても どこにいても きっと見つけ出す

ETERNAL SNOW 優しく静かに降り続いていく

悲しみを覆い隠して 永久とわ


永遠に降り続く雪でも この想いは隠せないー」



私は唄う。私には唄う事しか出来ないから。でもそれが1番の近道。私には目的がある。どんな事をしても叶えたい夢がある。その夢の為ならどんな嫌がらせや、障害なんて何でもない!

・・ただこの後の事を考えると、私の脳裏に浮かんだのは隣で演奏している親友の悲しむ顔だった。


ごめんなさい。ざくろ!そしてありがとう。これまで私を支えてくれて。


ー私はライブ前の事を思い出した


ーーーーーーーーーー

「詩音ここにいたの?」


不意に後ろから声を掛けられ振り返ると、私の1番大事な親友がそこにいた。


「ざくろ、もう来たのね」


私は声を掛けると顎に手を当て少し考えた。


「貴女を探していたのよ。打ち合わせを兼ねてね」


少し意地悪そうにウインクして言い返す。


「もうそんな時間だったのね?ごめんなさい。すぐに行くわ」


私は少し考えて時間を見ると、思ったより時間が進んでいた事に気付く。確かにそろそろ楽屋に戻らないとマズイ時間だ。しかしー


フゥーともう一度ため息をだす。


「緊張してるの?らしく無いわね?これくらいのライブ初めてでもないでしょう」


ざくろは体調でも悪いのか聞いて来るが、私は何でもないと言うと一緒に楽屋に戻る。


・・・言える訳がない。ライブが終わる時、私は人を殺す・・か殺される事になるのだから・・緊張しない訳がないー


ざくろとリサさんには死んでも言えない・・大切な人だから言いたくても言えない・・


ざくろとは小学校からの知り合いだ。ただ、親密な関係になったのは中学生になってからだけど。彼女のフルネームは【藤原ざくろ】今をときめくトップモデルだ。身長175cmの長身で長いストレートの髪が美しく、良くコンディショナーのCMなどに採用され出ている。私も羨ましいと思うが、前に本人の前で言ったら殴られた。まったくもって酷い!逆に嫌味か!と言われた。理不尽だ。それは、私も芸能界こんなところに居るのだから人並みには綺麗な方だと・・思うが、自分の事はよく分からないもの。


私の名前は【瀬川 詩音】身長172cmの長い髪・・・のストレートヘア・・あれ?キャラ被ってない?いやいや、私には普通の他人とは違う特徴があるのよ?それは髪の色が銀髪な事。アルビノと言う生まれつき身体の色素が薄い病気なのよ。小さい頃はレッツ白髪染めのお世話に良くなったものだ。しみじみ・・普通の生活には不便だが、他人とは違う特徴は芸能界では武器となる。

そして私は、育ての親である【瀬川 リサ】さんの養女だ。リサさんは芸能界事務所の社長で規模は中堅の上と言った所、今はトップアイドルや新人賞を取った人材がいるので景気が良い。養女である私を本当の娘として育ててくれ、好きな音楽活動もさせてくれているリサさんには本当に感謝している。


どうして私がリサさんの養女になったのか、少し思い出話をしよう。

ーーーーーーーーー

私は幼い時に、6歳の誕生日に両親を目の前で殺された・・・・。私の誕生日は皮肉にも12月24日クリスマス、雪の降る夜に私の両親は殺された。その日から私の誕生日は両親の命日となり、祝う事は無くなった・・


そんな私の両親はインディーズバンドで名を上げて、インディーズでは週間トップ10入りを数十年ぶりに達成したことで知名度が上がり熱狂的なファンが凄く多かったらしい。

バンド名は【infinityインフィニティ】無限の可能性を信じてと言う信念の元に、


ボーカル&ギターの父、流詩ルカ(バンド名

ベースの母、音鈴オトネ(バンド名

キーボードのリサさん(本名

ドラムのリサさんの弟でカイさん(本名


この四人で黄金時代を築いたのだった。

元々、父と母でバンド活動を、瀬川兄妹でバンド活動していて、あるバンド大会で父と母が1位、瀬川兄妹が2位になった事で仲良くなったらしい、そんな時に瀬川兄妹のチーム内でいざこざがあり、相談に乗った父と母が引き抜いた感じで infinityが誕生したと聞いた。

父と母は幼馴染で相思相愛、瀬川兄妹がそれぞれ好意を持っていたらしいのは秘密との事。


そんな感じで父と母が18歳の時に私を妊娠、卒業式はお腹が大きな状態で出席したそうだが、当時すでに有名になりつつあった両親はクラスメイト達に祝福されながら卒業した。そして母の妊娠が発覚したところで、進学を考えていたリサさんも丁度良いと受験勉強のため1年程活動休止したのだった。勿論、1年後には活動再開した。



そして月日は流れー6年後



自由な音楽活動を目指したinfinityはインディーズのまま活動を続け、日本では知らない者はいないくらいの知名度になっていた。レーベルに所属しなかったのは小さなライブハウスで勝手に演奏出来なくなるのと、瀬川兄妹の事務所の後ろ楯でテレビ出演やCDの売上で十分お金を稼いでいたからだった。リサさんも実家の後継者としてバンド内での事務担当をして仕事のスケジュールやタイムテーブルなど取り組んでいたので問題無かった。


しかし、急に活動は終わりをつげる。瀬川兄妹の両親が交通事故で他界したため事務所を引き継がなければならなくなったためだ。

年齢は24歳、大学も卒業間近のため単位も問題無かった。父と母もここまで活動出来たのは瀬川兄妹のおかげだと思っていたし、とても感謝していた。バンド内で話し合った結果、infinityは瀬川兄妹の事務所に所属する事になった。元々、すでに半分は所属しているようなものだったが知名度の高いバンドが正式に所属する事で、 ゴタゴタしている事務所内を落ち着かせる狙いがあった。活動は制限されるがこれは瀬川兄妹の今までのお礼もあった。

そして、正式に事務所を引き継いで会社運営のため音楽活動が出来なくなった瀬川兄妹のために、バンドを一時的に解散する事になった。せっかく移籍したのに解散とは矛盾しているかも知れないが、父と母は音楽活動を続けるし、所属アーティストとコラボしたりするので問題無かった。



そして解散ライブの日に惨劇は起こるー



私も6歳になり、多少は身の周りの事がわかってくる年齢になって事務所にいた。

「リサお姉ちゃん久しぶりー」


やって来るリサさんを見付け、トコトコと近寄る。


「キャー(>_<)、詩音ちゃん久しぶりー」


私をぎゅーと抱きしめるリサさん。私は良く事務所に来るのでちょっとしたマスコットになっていた。銀髪の髪を利用したゴスロリファッションのモデルをやったりしていたのもマスコットの一因だった。そしてリサお姉ちゃん・・・・・になついていた。


「ちょっとリサ!決まってる!?締まってるから!緩めなさい」

母が慌てて引き離す。

「もう、久しぶり何だから良いじゃない。ねぇー?」

リサさんは私にねぇーと言い掛ける。


「けほっ、うん大丈夫だよー?」

少し咳き込むが悪い感情は抱いていない。

母は顔を膨らませて言う


「どうしてリサはお姉ちゃんなの!?私と同い年なのに!」

ええっーその事!?

私はリサさんをおばさんなんて呼べなかった。だって若いし美人だし。

「なんかリサがお姉ちゃんで私がママって呼ばれるとへこむのよ~」

母は複雑な顔をしていた。そんな母にリサさんはー

「だったら私が詩音のママになって良いわよ♪こんな娘凄く欲しいし♪」

「こら!お姉ちゃんなんて呼ばれていい気にならないの!あげないから!」

と、対抗して二人で私に抱き付く。本当に仲が良いよね?そんな私は苦笑いしつつ言った。


「今日のライブ凄く楽しみ!でもしばらく聞けなくなるんだよね?」

「そうね、会社経営で忙しくなるから・・あ、でも心配しないで。直ぐには無理だけど行き付けの小さなライブハウスに、仕事の帰りに集まって演奏するぐらいはできるわよ」


「それもそうね!その手があったわ!?」

母もなるほどと手を打った。そして私は持ってきたプレゼントを渡す。どうぞー


「えっ?私に?」

「うん、クリスマスは大切な人にプレゼントを渡すって聞いたから」

「ありがとう!すごく嬉しいわ!?ふふふ、詩音ちゃんもお誕生日おめでとう!私からプレゼント渡す筈だったのに逆になったわね」


リサさんも後ろにあったプレゼントを渡す

「リサお姉ちゃんありがとう!」

キュン♪可愛いーー!!!

ガバッとまた抱き付くリサさん


「まったく飽きないわね」


そう言うと母はそろそろ会場に向かいましょうと言った。

ライブ会場は2000人収容出来る広さで満員だ。もっと大きい会場でも良かったがTV局から朝番で取り上げられるとの事で、世間に解散すると判ればいいと会場は小規模にしたらしい。特にリサさんは事務所の運営でマスコミに追いかけられて仕事の邪魔になるとマズイので、このくらいが良かったとの事。車で会場に着くと裏口から楽屋に入る。父とカイさんが先に来ていた。

「ようやく来たか!詩音!」

父は私を見付けると抱き抱えた。

「おとーさん来たよ!」

良く来たと父は頭を撫でた


楽屋の中で誕生日プレゼントを貰い、誕生日&クリスマスケーキを貰った。

「うぁわ~、大きい過ぎて食べきれないよ!」


「ははは、ここにいる皆でライブ後に食べよう」


「お父さんからはペンダントのプレゼントだ。」

父からはオリンピックメダルぐらいの大きさのペンダントを貰った。軽く押すと二つに割れて、中から少し前に取った父と母、瀬川兄妹と私のみんなの写真が入っていた。


「大切にするね!!!」


喜ぶ私を微笑むように見つめる両親達。

そろそろと周りに目を配り父が言うと早速、ライブのミーティングが始まった。皆で最高のクリスマスライブにしよう!今日で終わりじゃない!ここから始めるんだ!


ワァーワァー!!!


ライブが始まり、会場は熱気に包まれる。

あちこちから解散しないで!と、ファンの声が聴こえる。父を筆頭に瀬川兄妹がまた戻って来るから!と挨拶を叫ぶように伝える。

「みんなーー!!!聞いてくれ!最後に新曲を作った!」


驚くファンと瀬川兄妹!


「ちょっと聞いてないわよ!?」

リサさんが問いかける

「それはそうだ。お前たちに送る感謝の曲だからな。音鈴と二人で作った。聞いて欲しい。これからも一緒に歩んで行く親友達に送る歌を」

ファンや瀬川兄妹は何も言えずに会場は静かになった。

カイさんやリサさんはとんだサプライズだな、クリスマスプレゼントね。とそれぞれ呟いた。


そして、父と母の二人での演奏が始まるー


【夢の翼】


「夢が夢から 目覚めはじめる

いつも不安を抱えていた あの頃の僕たち

幼い日々の経験が 未来と可能性を打ち砕いていく

それでも希望を夢見て 僕らは進み続ける


仲間と共に 心が一つになるよ

さよならは言わない 一緒に歩んでいこう

夢の翼広げて どこまでも


夢を夢で終らせない 今から始まる

いつも上手くいかず 落ち込む心

失敗と言う経験が 進むべき道を暗くする

それでも可能性を信じて 僕らは歩み続ける


仲間と共に 心が一つになるよ

言葉などいらない みんなと一緒にいこう

夢の翼広げて 大空に飛び立とう

仲間といつまでも_ どこまでも」


先程の熱気には何処に言ったのか会場は静かだった。ファンと瀬川兄妹は新曲バラードに耳を傾ける。そう音楽がこの会場支配している。曲が終わると一気に歓声が聞こえた。リサさんは涙ぐんでいてカイさんは父に飛び掛かり、コノヤロー見たいな感じで腕を首に廻してじゃれあう。

そんな父と母が言う


「この曲は大切な仲間と、私達の娘に捧げる誕生日プレゼントです。聞いてくれてありがとう!」

会場が震える


「ちょっと私達のためじゃなく娘の誕生日プレゼント?私達がおまけなの!?」


と、ちゃちゃを入れるが顔は笑っている。わかっているから。大切な思いを。言葉にすると恥ずかしいから歌にした事を。ここまでの付き合いでわかっているから、会場のファン達も笑っている。今この会場は本当の意味で一つになっている。最高のクリスマス!アンコールが聞こえる。よし!今度はみんなで歌おう!


ーそして興奮も冷めぬ内にライブは終了したのだった。




ライブも終わり、私達は楽屋で打ち上げとクリスマスパーティー&詩音の誕生日会をする事になり戻って来た。私は凄かったと大はしゃぎで喜んでいた。


「詩音も喜んでくれて良かったわ」

母も嬉しそうに答える。

父と母、リサさんとカイさんも少し興奮気味で声が高かった。今日のライブは忘れない・・・・ものとなるだろうと。


コンコン、ドアがノックされ女性スタッフが扉を開ける

「お楽しみの所を申し訳ありません。事務所の方に瀬川兄妹の関係者を名乗る方からお電話が入っています。一度事務所の方に来て頂けますか?」


リサさんが首を傾げる。

「誰かしら?緊急の用事なら携帯に掛かって来るはずだけど?」

「姉さん、会社の取引先とかだとマズイし取り合えず行ってみよう。」


カイさんの言う通り、まだ会社を引き継いで日が浅いため何かしらトラブルは避けたいと思っている。


「ごめんね、ちょっと行って来るわ」


そのままスタッフさんと一緒に出て行く瀬川兄妹。


「すぐ戻ってこいよ」

父が声を掛けると勿論よと出て行った。

少し、家族と談笑しているとまたコンコンと扉を叩く音がした。

「また誰か来たのか?アイツらならすぐに開けるだろう」


父が扉を開けると見知らぬ男性がいた。

「初めまして、ここがinfinityの楽屋で間違いないですか?」

男は微笑を浮かべながら聞いてきた


「ああ、そうだがあんたは?」

父も知らないようで相手の男性に尋ねた。


「申し訳ありません。仕事柄、本当に解散するのか聞いておかねばと思いまして来ました。」

どうやらマスコミ関係者みたいだ。


「おいおい、取材は明日でお願いすると言っておいたろう?悪いが帰ってくれ」

父が扉を閉めようとすると男は扉に手を当てもう一度聞いてきた。

「すみません、取材ではありません。本当に解散するのかだけ知りたいのです。教えて下さい」


諦めず聞いて来る男に父は、ライブで言った通り解散する。今後はソロなどで活動していくと言った。すると急にパーンと凄い音がした。男とのやり取りを見ていた私達は驚いた。父がそのまま倒れた・・・からだ。


「あなた!!!」

母は父の元へ駆け寄ろうとしたが、男の手の持っているものに気付き足を止めた。


「あなた達が悪いのですよ!あんなに応援したのに!売れる前から非公認のファンクラブを作り、知名度向上に一役買ったのに!何処にも属さない孤高のバンドだと信じていたのに裏切った!あなた達が悪いのだ!!!」


・・・この男はナニオイッテイルンダ?


血溜まりに倒れる父を見て思考が停止したまま動けなくなる。そして不意に思い出したかのように叫ぶ私がいた。


「おとーさーーーん!!!」


私はお父さんに近寄ろうとすると母が叫ぶ!

「詩音だめ!!!」


父の元へ向かおうとした私を母が抱き抱え、入り口を背にを向け部屋の奥へ逃げようと駆け出す。

パーン!パーン!パーン!

三回、先程の音が聞こえた。母に抱き抱えた私に凄い衝撃が走り、母も倒れ込む

「ぐっ、はぁはぁ。し…おん」


母が苦しそうに私の名を呼ぶ。私も胸に痛みを抱えて声を発する事が出来ない。


「ふふふ、この距離だと玉は貫通するでしょう。全く無意味でしたね。銀髪の娘とは珍しいですが両親と一緒に逝けるのだから感謝してください。」


「し、おん、おとね・・!」

まだ生きていた父は私達の方に倒れながらも顔を上げ必死に手を伸ばすー私も母の腕の中から手を伸ばした


だが男は父のその手を蹴り飛ばした。


私は母の腕の中から父と男の方を見る。歪んだ笑みから狂気が見え隠れする。


「これで infinityは伝説になる!解散ライブの後に非業の死を遂げたと永遠に語り継がれる!俺が伝説を作ったんだ!!!」


自分に酔っている男はブツブツと独り言を呟いている。

廊下の方から騒ぎを駆けつけ足音が聞こえる。すると男はチッと下打ちすると出口に向かって逃げて行った。

私は涙を流しながら男が出て行った入り口を見ていた。

手を伸ばしながらも、蹴りとばされた父は今度こそ動かなくなっていた。そして母もー


「し…おん…ごめんね。愛してい・・るから」


そして母の身体から力が抜ける。


あっあっあぁぁぁぁぁっぁーーーーーーーー!!!!!


ようやく出た声は叫び声だった。そこへリサさん達が戻って来た。リサさん達も何よこれは!!!!と叫んだがカイさんが冷静にすぐに警察と救急車の手配をしてくれた。リサさんは泣き叫んでいる私を母の腕から出すと強く抱き締めてくれた。リサさんも泣いていた。



そこで私は気を失った。

そして本当の意味で忘れない日・・・・・となった。




ーーーーーーーーーー

目が醒めると、知らない白色部屋にいた。外からの音と消毒液の匂いで、ここが病院だと気付くのに時間は掛からなかった。

「お父さん、お母さん・・」


あれは夢だと思いたかった。だけど冷静にあれは現実だと言ってくるもう一人の自分がいる。色々考えている内に部屋の扉が開き、私が目を醒ました事を確認すると私に飛び付いた。

「詩音!無事で良かったわ!」


私に抱き付き泣いている。

ようやくこの人がリサさんだと分かると、どうしても聞きたい事が自然と口から出た。


「お父さんとお母さんは・・・?」


そう呟くとリサさんは一瞬固まったようになったが、私の肩に手を置き、涙を流しながら言った。


「詩音・・気をしっかり持って!・・・ルカとオトネは死んだわ…」


最後の方の声は小さかったが、頭の中にしっかり響いた。


「・・そうですか」


すでに頭の中で理解していたが、心は受け入れられていなかった。またじわりと涙が出て来て嗚咽をはく


「うっく・・うう、どうして…」


リサさんはまた優しく抱く

あの夜は最高の夜になる筈だったのに。どうしてこうなった!みんな幸せだったのに!私達が何をしたというのよ!


「ごめんなさい!あの時、私達が出ていかなければ!」


リサさんは悪く無い。悪いのは犯人だ!絶対に許さない!絶対にコロシテヤル!私は知らず知らずのうちに口に出していたらしい。

「詩音!気持ちはわかるわ。でもダメよ!復讐なんて!」


私はどうして!と叫ぶ!


「私だって憎いわ!犯人が!でも、こんな最低最悪なヤツのために詩音の一生を台無しすることはないわ…せっかくあなたの命を救ってくれた両親に会わせる顔が無くなるから」


リサさんはそう言って、誕生日に父から貰ったペンダントを渡してくれた。ペンダントには丸いへこみがあった。


「貴女の命を救ってくれたのよ」


リサさんは言う、母が背にして私を守り、父がくれたペンダントが銃弾を防いでくれたのよと・・私は両親の愛に深く感謝し涙をまた流した。そして再度、犯人を深く憎むのだった。

そんな私に警察が捕まえてくれるからとリサさんが言い聞かせる。私は納得出来なかったが精神的に参っていたので、言葉を飲み込み俯いた。カイさんも夕方から来てくれた。会社の事や両親の葬儀もあって忙しいのに顔を出してくれたのだ。


「詩音が無事で良かった・・」


カイさんも私を見て泣いて喜んでくれた。瀬川兄妹の気持ちは嬉しかったが、私は笑う事が出来なかった。その後、カイさんは会社に行ったが、リサさんは泊まってくれた。事件の被害者ともあって、一緒の部屋に泊まるのを許可されたのだった。夜になり消灯時間になって私は急に怖くなった。


「ぐすっ、お父さん、お母さん・・」


「詩音・・」


まだ起きていたリサさんが優しく頭を撫でくれた。怖かった恐怖が薄れ、私は眠りに落ちって行った。そんな私の顔を見ながら小さく呟いた。


(詩音は私が育て守るわ。この子が笑顔で暮らせるように・・だから安心して見守ってね)

そう決意する瀬川リサだった。



それからは目まぐるしい日々だった。警察からの事情聴取や両親の葬儀、似顔絵や防犯カメラの映像など公開されたが、いまだ犯人逮捕には至っていない。事件の時に、瀬川兄妹に掛かって来た電話は犯人が掛けた電話で、楽屋から出ていかせる為のものだったらしい。ネットで自分が伝説を作ったと書き込んだ者がいたが、人物特定までたどり着いていないようだ。


そして、色々な手続きを経て私はリサさんに引き取られ【瀬川 詩音】となった。リサさんに言われるまでも無く、親身になってくれるリサさんが好きだったし、まだ1人になるのが怖かったのもある。こうして私は新しい生活を始める事になる。捕まっていない犯人を、どうしたら見付ける事が出来るのか。見付けたらどうやってコロシテヤロウと、表面上は良い子を演じながら、心に暗い闇を宿しながら幼少期を過ごしていくのだった。

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