【異世界】平和を享受する村………平和ってなんだっけ?退屈だよぉ~

naturalsoft

第1話

ここは大きな森の中に作られた開拓の村である。側には運河が流れており水には困らない。村と言っているが、村を取り囲むように城壁が十メートルもの高さで作られていた。

従来の【村】とは明らかに異質であったが、そこに住む【村人】にはそれが普通であり、誰も変とは思わなかった。


「う~ん~!今日も平和だなぁ~!」


うーんと伸びをして、村の外で薬草採集をしていた少女が呟いた。


「シオン、サボるなよ~!」

「もう!サボってないから!ノルマ分終わっているからね!」


同じく薬草採集に来ていた幼馴染にプクーと膨れて言い返す。


「ごめん!ごめん!そろそろ夕飯の肉でも狩って帰ろうぜ?」

「了解だよ!」


シオンと呼ばれた少女は【希少な薬草】を【収納】してしまった。よって手ぶらである。


『グオォォォォォォォォォォオオオオオオオ!!!!!!』


「おっ!ちょうど良い所にやってきたみたいだぜっ!」

「久々だね!キングオーガ♪アイツのお肉、美味しいんだよ~」


通常なら国の騎士団総出で討伐するほどの強力な魔物ではあるが、村人の二人にとってはウサギを狩るぐらいの手軽さだった。


「私が殺るね~」


『グオォォォォォォォォォォオオオオオオオ!!!!!!』


キングオーガが襲ってきたが、シオンは動じず魔法を放った。


「先に焼いちゃうとお肉が硬くなっちゃうから、バラバラに解体しようかな?」


『風滅の一閃!!!』


シオンが刀を横流しで斬る動作をすると、極限まで研ぎ澄まされた風の刄が、キングオーガの首を斬り飛ばした。


斬り飛ばされた首元からブシューと血が噴き出す。


「おいおい………肉が喰えなくなるスプラッターはゴメンだぜ?」


『アクア・ウォッシュ!』


シオンの幼馴染であるガイルは生活魔法を使い、噴き出した血を水で丸めて一緒に血抜きをした。普通は汚れた服装などに使う魔法ではあるが村人達はより便利に狩りをするために創意工夫をして改良したのだった。


「おおっ!ありがとね♪」


シオンはそう言ってポイッ(゜Д゜)ノ⌒・と、キングオーガを収納してしまった。

こうして村の外から帰るのだった。


これがこの名も無き村の日常である。


「おーい!今戻ったのか?」


近所の大工のおじさんが戻ってきたシオン達に手を振っていた。


「やっほー!どうしたの?」

「シオンよ?いい年頃の娘がその挨拶はないんじゃないか?まぁ、良いけどよ~」


ギャルの様に軽いシオンに苦言を残すおじさんであった。


「おっと、そうだった。マーさんが来てるぜ?広場へ行ってみろよ」


おじさんがそう言うと、シオンの目が(☆∀☆)キランッと変わり、ダッシュで広場へ行ってしまった。


「ガイルも大変だなぁ~?」

「ははは、いつもの事だよ!」


そう言ってガイルもシオンの後を追うのだった。


「マーさ~ん!こんにちわー!!!」


走りながら呼ぶ声に、広場で荷物を広げていたマーさんはシオンに手を振って答えた。


「おや?シオン君、そんなに慌ててどうしたのだい?」

「マーさんが来ているって聞いて急いで来たんだよ~!今日は何を持って来てくれたの?」


苦笑いをしているこの人はマ・オウさん、略してマーさんの愛称で親しまれている。この村では唯一と言っても良いくらいの【外部の商人】さんで、定期的に生活物資などを持ってきてくれる良い人である。この辺境の村には滅多に人が来ないのだ。

たまに死にかけの戦士風の人達がくるけどね。多分、新人さんかな?


大樹海では転移系の魔法やアイテムが使えないけど、この村の中なら使えるので村で傷を癒したら、買えるだけの素材とアイテムを買って転移アイテムのキ○ラの翼で帰っていくのよ。


不思議よね?ただのMP全回復のポーションやエリクサー、森で狩れる魔物の素材なんて珍しくもないでしょうに…………


「ふふふ、今日は日持ちするお菓子類をたくさん持ってきたよ。それと、王都で流行っているドレス類とかね」

「別にドレスはいいかなー?だって王都のドレスや衣類って防御力がなくて、付加魔法も掛けにくいんだもん」


この村で製作している服は【芋虫の魔物】から糸を生産している魔糸で作っている。イメージは布地の服なのに鎖帷子並みに強固で、熱や冷気、魔法に耐久性があるのだ。

ちなみに、芋虫の魔物もモ○ラ並みに強い。


「流石はこの【村の村人】だね。ほら、この装飾品などどうだい?素早さ増加の付加が込められているよ?」

「おおっ!綺麗だし効果も十分だね♪これ貰うわ!」

「毎度あり!お会計はお金にする?物々交換にするかい?」


シオンは悩んだが、さっき狩ってきたキングオーガで交換することにした。


「こ、これはキングオーガ!!!?」

『使役できれば、我が四天王に加える事ができるほどの猛者だぞ!?』


そう、何を隠そうこのマーさんの職業は『魔王』である。ある時、この大樹海で配下をヘッドハンティング中に深手を負い、この村人達に助けられた事からの付き合いである。

魔王も最初は尊大な態度であったが、村人の実力を目の当たりにして心が折れてしまったのだ。


『この村やベーよ!村人に勝てねーよ!それが何十人もいるし!?』


よし!怒らせないように友好関係を築こう!

そんな感じでの付き合いになったのでした。


「おい!シオン!俺達の肉を全部売るんじゃねー!」


お腹が空いていたガイルはシオンに待ったを掛けるが、マーさんが割り込んだ。


「ガイル君もこんにちわ。大丈夫だよ。頭部と手足の部分で十分だから身体の部分は持って帰って良いよ」

「マーさんありがとう!」

「はははっ!良いよ良いよ!」


口では良い人を装いながら、冷や汗をダラダラ流していたマーさんだった。


『キングオーガを一撃ってありえねーよ!!!?』


しかし、この村と取引してから魔王軍の強さは跳ね上がったのも事実であった。大樹海(ラスダン)の最上位魔物の素材をこの村から格安で買い付け、最高級の装備を配下の者達に与えたことで勇者達を追い返し、配下からも絶大な忠誠心を買うことが出来たからだ。


魔王としては人間の国を滅ぼせば、この村人達に報復される恐れがあるので魔王軍は、内政に力を入れて、防衛のみしている状態であった。

一部の魔族から進撃すべしと進言するものもいたが魔王はそれを反対し今に至る。


「う~ん♪キングオーガのステーキは最高ね!」


シオンは食堂に肉を卸すと料理を作って貰った。


「久々だけど本当に旨いな!」


塩、胡椒だけでも素材の味で美味しいが、特製のデミグラスソースでも旨いのだ。


「明日は洞窟(ダンジョン)へ行ってみるか?」

「そだね!久々に探検しちゃおう♪」


退屈な日常に潤いをもたらすのは冒険だ!

ドキドキワクワクの探検をしに行こう!


「二人とも、遊びに行くのは良いけど気を付けて行きなさいね?」


食堂のおばさんに心配されてシオンははーい!と元気に返事をしたのだった。


そう、この世界最難関のダンジョンも村人達にとってはキャンプしにいく感覚のちょっとした遊びばに過ぎないのだ。


「平和だなぁ~!」

「そうだな。平和で退屈だよ」


こうして退屈で、平和な日常が過ぎていくのでした。






おわり




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