第2話 変化

翌日、彼は復帰した。

仕事場の人々からは、様子を聞かれるようなことはなかった。

彼のことを気遣ってくれる人間は一人もいなかったからだ。


しかし、彼はある変化を感じていた。

体が軽い。

気分がさっぱりしている。

なんだこの感覚は?


いつもはどんなに晴れていても、灰色にしか見えなかった空の色が今日は虹色のように見える。


体重も1日でなんと10kgも減った。


また、それ以上に彼を驚かせる大きな変化があった。




人の周りの空気に、何か見える。


いや、空気中全体に何か見える。


色はついていない。

透明だ。

気流のように見える。



何なのだこれは。

不可解に思いつつ、仕事につくと、上司がいつも通り嫌味を言ってきた。


「昨日休んだね。体調管理も業務のうちなんだからしっかりしろ」


「・・・すいません」


いつも通り謝るしかなかったのだが、この時も、内山の中では何かが変わっていた。


彼の勤務先は図書館だ。

本の整理というと気楽に聞こえるかもしれないが、比較的大きな図書館で、大量の蔵書の管理と、不得意な同僚とのチームワークで彼はいつもいたたまれない思いをしていた。


しかし、今日はどうだ。


例の透明の気流の通りに体を動かしたところ、自分のすべきことが全てわかるようになった。


蔵書の整理で、今までは硬直して何をすればいいかわからず、叱責されていた内山だが、例の気流に乗って動くと、誰よりもテキパキと動くことができた。


ある時、20代の女のスタッフと本の間に、例の気流が見えた。

彼は言った。

「あ、これ運ぶんですね、やっておきますよ」

女の子は唖然としていた。

それを見ていた例の上司も唖然としていた。


人間とは1日でこれほどまで変わるものなのか。

いや、少なくとも内山の場合は、前日の電流で体に何かしらの変化が起きたのだ。


彼は1日で今まで彼が1週間はかけないとできないくらいの仕事をやってのけた。


彼は思った。


「仕事ができるってなんて素晴らしいのだろう」


帰りの電車で彼は老人に席を譲った。

これも今までの彼にはできない行動であった。


いつものコンビニの店員にも堂々と言った。

「マルボロメンソールライトください!」

その気迫に店員も「は・・・はい(コイツ、本当にいつものアイツか??)」


家に帰ると、彼は布団に大の字に横になった。

「人生は・・・」


「素晴らしい」

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