第55話 放浪編

 ニュークザイ銀河外縁部。


 サンゴウはシンとキチョウと共に2年の歳月を経てラムダミュー銀河の先にあったこの銀河へ到達していた。

 特に目的がある訳ではなかったが、広い宇宙を旅するにしても目的地を設定する事無しにフラフラ彷徨うのもどうかという話になり、サンゴウが行先を決定したのがここであったというだけである。


「MAP魔法と探査魔法で人工的な動きと思われる物は見つけていたから、宇宙へ進出している生命体が居て文明もあるのだろうとは想像していたけど。警告無しで、いきなり撃ってくるのは想定外だったわ!」


 サンゴウは今、3隻の宇宙船と思われる物から攻撃を受けていた。勿論、反撃する事はなく回避に専念しており、万一の被弾に備えてシンがシールドを展開はしているが。


「マスター。やっつけたらダメー?」


「まずは、お話し合いで行きたいからダメ! どーしても話が通じないとなったらその時は任せても良いけどな」


「はーい。大人しく待ってるですー」


 相変わらず、好戦的なペットである。見た目は可愛い子竜ではあるのだけれど。


「艦長。通信波の類と判断される物は出していません。一応、ギアルファ銀河の通信方式とラムダミュー銀河の通信方式で、それぞれの言語を使用して呼びかけは行っていますが、対象からの反応はありません」


「うーん。回避し続けると攻撃の意思が無い事は伝わると思ったりもしたんだが、もう一段対応上げて様子見するしかないか? ま、シールドを貫ける攻撃は出来ないだろうし大丈夫だろう。サンゴウ。適当に停止して攻撃を耐えるだけに切り替えてくれ。防御は俺が受け持つ。それで相手からの交信があれば音声で流してくれ」


「はい。ではそのように」


 停止してもしばらくは攻撃が続いていたが、さすがに30分程も無抵抗で攻撃を受け続け、尚且つダメージらしき物が全く与えられないとなると相手も考える様だ。

 そして、遂に通信回線が開かれた。

 勿論、サンゴウには未知の言語であり、対応はシンが行う事になる。


「所属不明の宇宙船。抵抗の意思は無く、降伏と見なす。バリア展開を解き、臨検と牽引を受け入れよ!」


 散々、撃沈しようと攻撃してたのに、今更でこの言い分? とシンは思ったが、シールドを解けは今は受け入れてはいけない条件だとして拒否するのが先か? まで考えて発言しようとしたところへサンゴウの声が掛かる。


「艦長。周囲の3隻以外で6隻が接近しています。奇襲する配置に展開する行動を見せていると判断します」


「新手の敵対勢力かな? 呑気に通信待ちしてる目の前の相手は気づいてなさそうか。或いはこの3隻の増援か?」


 シンはサンゴウを囲んでいる3隻に返信する事にした。


「こちら宇宙艦サンゴウの艦長シン。職業は傭兵だが、今は何らかの任務中ではない。当方に攻撃の意思は無いが、降伏するつもりも無い。そして、防御の解除は受け入れられない。理由は3つ。無警告での戦闘行動をされた事。解除後に攻撃を受けない保証が無い事。現在接近中の6隻が奇襲態勢と考えられる行動をしている事。以上だ」


「ニュークザイ銀河皇国防衛軍所属第3024隊セレン少佐だ。当宙域は民間船の立ち入り禁止であり、係争中の宙域であるため、防衛軍の識別コードを持っていない船は全て敵軍と見なして攻撃する命令が出ていた。警告無しでの攻撃はそのせいであるが、その点については詫びよう。すまなかった。だが、貴艦にも落ち度はあるぞ」


「あー。外の銀河から来たんで、ここの流儀と情勢は知らないんだ。当艦に不手際が有ったのならこちらも謝罪しよう。すまない。申し訳なかった。だが、幸い双方に損傷被害はないはずだから、不幸な行き違いという事でお互いに無かった事する提案をしたい」


 そこまで話が進んだところでサンゴウから警告が出る。


「艦長。6隻が攻撃して来るまでの猶予は20分を切っていると推測されます」


「貴殿のその提案は受け入れるつもりだが、条件がある。臨検だけは受け入れて欲しい」


 セレン少佐が慌てる事なく平然と返事を返したため、なんとなく大丈夫なんだろうと思い込んでいたシンだったが、放置して攻撃を受けるのも寝覚めは良くない。なので、再度警告をする気になった。


「ああ。それについては、後で余裕が出来てから内容を詰めたい。ところで良いのか? 接近中の6隻は20分程で撃って来る配置に就く様だが」


「貴殿のその主張なのだが、友軍が来る予定は無いし、索敵にその6隻の反応はない。本当に来るのか?」


 彼女の返答から増援でない事は確定した。同時に敵の存在を信じていない事も確定した訳だが。

 彼女は部下と艦の能力を信じているのだろう。この場合は自殺行為に近いけれども。


 そして、セレン少佐は自身の派遣された理由を軽視していた。派遣された理由が3022隊と3023隊がこの宙域で立て続けに消息を絶ったからなのだが、その原因は艦の老朽化と整備不良による事故だろうと決めつけていたからである。

 実際、防衛軍の整備兵の質の低下は著しく、彼女の判断はそうおかしな物とは言い切れない状況ではあった。


「信じなくても構わんが、俺の艦の探知能力は高いんだ。友軍ではないのなら敵という確定で良いか? それなら俺の艦で戦闘行動に入る。但し、俺はどちらの立場が正しいのかなんて知らない。だから、撃沈ではなく行動不能にするのを目的とした戦闘をする。その後に勝手に手出しはしないと約束してくれ」


「ふむ。構わんぞ。約束しよう。それが実現するのならな。時間的にはどの程度待てば良い? さっさと臨検を済ませて、哨戒と捜索の任務に復帰したいのだが」


 彼女は一応話は出来る相手であるので、敵対したくはない。だが、どちらに正当性が有るのかがわからない状態で一方的に肩入れする訳にも行かない。かと言って奇襲を受け入れる訳にも行かない。

 目の前の3隻を破壊される可能性が有る以上は、新手は行動不能になる程度に攻撃せざるを得ないのである。これで新手に正当性があると厄介な事になるんだがなぁとシンは考えはしたものの、成り行きだから仕方がないとそこは割り切る。


「直ぐにでも攻撃したい。当艦の後方へ移動してくれ。移動完了後に撃つ。もう時間が無いので手早く頼む」


 こうして、シンはセレンとの通信を終え、サンゴウへと指示を出す。内容は奇襲態勢に入っている6隻に対しての攻撃準備と通信だ。そしてサンゴウは速やかに指示を熟すのだった。


「攻撃態勢で包囲しようとしている6隻に告げる。当艦は攻撃の意思は無いが、無抵抗で攻撃を受け入れる気も無い。話し合いで解決する気があるのであれば60秒以内に通信で知らせてくれ。もしくは撤退してくれ。60秒を超えて返答が無い場合で撤退する意思も見えない場合は、遺憾ながら行動不能になる様に攻撃する。以上」


 これで通じるのかはわからないが、現時点でシンに出来る事はここまでとなる。そして、敵と思われる6隻から通信がされる事はなかった。勿論、撤退もない。

 故に、サンゴウのエネルギー収束砲が発射される事態は避ける事が出来なかったのだった。


 サンゴウのエネルギー収束砲は的確に6隻のスラスター部分のみを撃ち抜き、破壊した。モニターでそれを見ていたシンは、某アニメの最高に調整された主人公を思い浮かべていたのだが、それは彼だけの秘密である。


 下手な事を言うとサンゴウが不機嫌になるからね!


「セレン少佐。行動不能にした6隻を鹵獲曳航作業に入る。しばらく時間を貰うぞ」


「本当に敵が居たのか。それについては了解する。結果的に助けられたのは間違いない様だ。ありがとう。だが、その艦の攻撃性能はなんだ? 傭兵の艦とは思えん」


 そう言いながらもセレンは、サンゴウの攻撃が自身らの隊に向けられなかった僥倖に感謝していた。何か一つ歯車が狂っていれば、あの6隻と同様の目に遭っていたのは疑いようのない事実なのだから。


 シンはサンゴウへ翻訳作業のための解説をしながら、鹵獲作業の指示を出した。サンゴウの攻撃はスラスター部分のみを狙って破壊したはずであり、敵の被害は最小限に抑えられているはずだった。自爆さえなければ。


 サンゴウが鹵獲のために3隻の集団へ近づいた時、3隻は次々と自爆した。離れていた所に1隻ずつで居た3隻も同様である。


「うーん。捕虜になるのと艦が鹵獲されるのを拒否するために自爆までするのか」


「艦長。外観から判断して、あれはおそらく潜宙艦に類する艦種ですね。索敵に引っ掛からない様に特殊なステルス処理が行われている物です。デルタニア軍では27世代前を最後に廃止されています。索敵性能の上昇に艦の隠ぺいが追いつかなくなり存在価値がなくなったのですよ」


 サンゴウはさらりと旧式の化石艦だと主張を盛り込む。


「あー。なるほど。地球の潜水艦みたいなもんか。セレン少佐の艦では探知出来ない新型で機密兵器って感じなのかもな。もしそうなら鹵獲されて分析されたら大変だって理由の自爆もあるのかな?」


「そんなところでしょうね。勿論、推測であって確定情報ではありませんけれど」


 そこへセレン少佐からの通信が入る。


「おい。鹵獲するんじゃなかったのか? 何故破壊した? もう行動不能だったではないか!」


 無抵抗のサンゴウを攻撃し続けた人間が何を言ってるんだとシンは思ったが、それはそれとしてきっちりと反論をしておかねばならない。


「攻撃して破壊したんじゃない。向こうが自爆したんだ。捕虜になるのも鹵獲されるのも拒否するという意思表示なんだろうよ。こちらの判断ではあれは潜宙艦だ。新型で機密漏洩を避けるために自爆したと考えている」


「潜宙艦だと? その様な艦種は聞いた事も無い。言葉から察するに探知が難しい仕様の艦種なのだとは思うが。貴殿の主張は理解した。臨検を済ませて穏便に終わらせるつもりだったが、攻撃と探知の性能、そして先の回避と防御の性能。それだけ卓越した物を見せつけられると立場上そのまま解放という訳には行かない。悪いが臨検の後、同行して貰いたい。報告も必要なのでな」


 その後、細かな条件のやり取りが行われ、サンゴウの20メートル級子機を使って臨検人員を受け入れる。そして、臨検が終わった後、この星系の主星へ同行する事になったのだった。


「ふむ。異様な艦ではあるが、特に危険な物を積んでいる訳でないのだな? 賊の可能性もなさそうか。乗組員が居ない艦長のみの艦だと言うのは本当なのか? 信じられんがベテラン臨検員の全員が見落とす事はないはずだから事実なのだろうが」


 臨検員達が戻って報告を受けたセレンは、受け入れがたい事実ばかりで頭がおかしくなりそうになっていた。「見た事もないペットが居ました」とか、もうどうでも良い報告まであったのだから仕方がないのかもしれないけれど。


 とにもかくにも当初の目的であった3022隊と3023隊の消息を捜索する件については、おそらく潜宙艦に攻撃を受けたのだろうという事がわかったため報告書を作成せねばならない。しかし、サンゴウの事を避けて報告書を作る事は出来ない。

 彼女自身がそれを見せられる側に立った場合、どう考えても「荒唐無稽な報告書を出すな! 馬鹿者!」と罵倒する想像しか出来ないのだから憂鬱である。セレンがやりそうな事は当然上官がやるだろうから。


「なぁ。サンゴウ。成り行きで連行されてるみたいな感じで同行する事になってるけど、よくよく考えるとぶっちして逃げても良かったよな? 俺らに義務はない訳だし」


「ぶっちするのは悪手だと考えます。この銀河に二度と来る事はしないというなら別ですが。義務がないのは確かにその通りですが、セレン少佐に貸しを作りまくってると解釈しておくのが良いのではないでしょうか? 後々、便宜を図って貰えますよ。きっと。フフフ」


 うわぁ。久々に怖い。実は俺よりサンゴウの方が怒ってるだろ! きっとサンゴウが色々交渉するに違いない。そんなちょっと先の未来を想像したシンはセレンが気の毒に思えて来た。勿論、気に掛ける必要性は欠片も微塵もないのであるが。


 こうして、サンゴウはニュークザイ銀河皇国の支配宙域の主星へと向かう。そして、旧式艦の速度に合わせての移動は面倒なので、艦長にあの3隻を影に入れて貰う理由を探していたりしたのは、他の誰も知る事がない事実である。


 理由がこじ付けられなくてやらなかったけどね!


 係争中の宙域って国同士の領土争いとかだよなー。来て早々に、何でこんな事に巻き込まれているんだろう? 自身の主人公体質に文句を言いたくなるシンなのであった。

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