第44話
ギアルファ銀河外縁部宙域。
サンゴウは帝国軍の軍艦に補給物資を供給していた。メカミーユの失態をカバーするためにシンと共に活動していたのである。
「一応神なんですよね? あの人。失敗というかやらかしが多過ぎませんか?」
「それはその通りだと思うが、そもそもだ。そういう奴じゃなかったらこの宇宙に左遷されてないよな?」
シンとサンゴウのメカミーユへの評価はきつい。当然の結果ではあるのだけれど。
「えーっと。そういうのはせめて私が居ないとこで話して貰えないかなーというのが私の希望なんですけど」
「却下だ! 『助けて~』が年3回以下になったら考えてやる」
「酷い! 私、女神様よ! もっと敬ってくれてもいいじゃない!」
ほんとに残念な駄女神である。残念勇者のシンが言える事ではないのかもしれないけれど。
「はいはい。そういう事は女神らしい事が出来る様になってから言おうな」
「まだまだだけど、力は増して来てるんです~。デリーさんの星から流れ込んで来る力が馬鹿にならなくて。ああいう案件が他にもないかしら?」
「そうそうそんなのばかり有ってたまるか! というか、長期休暇がある学生じゃないんだから有ったとしても無理だろうが!」
「そこはジンが頑張るのよ!」
相変わらずの無茶振りである。色々な能力自体は高いのに何故にこうも残念なのか。こんなのを世界の管理に戻したらダメなんじゃね? まで考えてしまうシンだった。
「ところで、そっちの状況はどうなのよ? 何か色々大変みたいだけど」
「大変だと思ってるなら頼って来るな! こっちは事件調査だ。進展が無くてイラついてる」
「へぇ~。どんな調査なの? 聞いていい?」
「うん? 皇帝殺害のテロ犯の調査だ。聞きたいか?」
「激しく遠慮したくなって来ました~」
危機察知は敏感な様である。腐っても女神なのだろう。腐っている訳じゃないけれど。
「ジンは大変なのねぇ。私なら過去視使えば大抵の事件はあらましが」
そして、敏感に察知したから撤退したはずなのに、飛び込んで行く失言をする所がやはり駄女神なのである。
重要なパワーワードを聞き逃さなかったシンは、最後まで言わせずにメカミーユの肩を掴んで揺さぶる。
「ちょっと待て。その”過去視”の能力について詳しく聞こうか?」
「えっと。犯罪者と捜査機関のアレコレを覗くのは娯楽なのよ。でも事が起こる前に察知して見続けるのは難しいし、ずっと追っかけると時間が長くなるでしょ? だから事件が起こった後に、過去の状況を遡って見るのよ。これなら要らない所は早送り的に飛ばせるし、好きなとこだけ見られるから」
この能力の秀逸な所は、場所ではなく人物や物を固定して追える所にある。視点も俯瞰や当人視点など、いくつか切り替えが出来る所も芸が細かいと言える。
「つまり何か? 任意で特定の人物の過去を覗こうと思えば覗けるって事か? 例えば俺のも?」
「あ、ジンのは無理です。サンゴウさんとキチョウさんのも無理っぽいかな。存在の格が高い相手には使えない能力なので~。でもこの世界では気楽に使えないんですよ。力を消費してしまうので」
「そうかそうか。確認だが、その消費する力ってのは、俺が魔力を譲渡した場合でもそれで賄えるんだろうな?」
もう獲物は逃がさない視線になっているシンである。
「アハハ。一応賄えるけれどそんな膨大な魔力を持ってる訳が。あれ? 転移出来てる距離から考えたら。あれ? 待って。いくら格が高くなっても人間がそんな量の魔力を扱えるはずがないじゃない!」
魔力で補おうとした場合の神力の変換比率は100,000,000:1である。ルーブル王国のあるあの世界で、オルゼー王国筆頭のマーカリンの魔力が約800だ。魔法特化の勇者でもその100倍かそこらの範囲に収まる。
その常識から行くと人間の魔力から補充とかちゃんちゃらおかしいとメカミーユが思っても当然のレベルなのである。
しかし、これが譲渡する側をシンに限定した話になれば当然答えは異なる。シンは瞬時回復の技能がある以上、時間さえ掛ければ無限に供給し続ける事すら出来るのだから。
そして彼女が過去視の能力を使うには発動と維持にそれぞれ神力を消費するけれど、シンの供給能力からすれば何も問題はないレベルの話になってしまうのであった。
「この補給作業が終わったら、俺の調査のお手伝いをさせてやろう。なーに今までの借りがちょっとでも返せると思えば”嬉しい”しかないだろう? それしかないよな?」
シンは絶対に逃がさないマンに進化である。
補給作業を滞りなく終えたサンゴウはシンの影に入り帝都へと戻る。最近は航行する事が少なくなっているため、少しばかり欲求不満気味になりつつあった。調査が終わったら艦長と休暇航行に出ようと考えているサンゴウだった。
「さて、メカミーユ。過去視の件だが、それって自分でしか見れないのか? 他人に見せたりとかは出来ないのか?」
「視覚共有も併用すれば出来なくはないけど。消費が激しくなるから嫌よ」
「そこは俺が受け持つから問題ない。後は時間的な事か。サンゴウ。視覚が共有出来て視認した場合、何倍速でも処理出来るだろうか? 多分だけどサンゴウならメカミーユの早送りの最大速度でも処理出来る気がしてるんだが」
「そうですね。並行処理が絶対条件でないのであれば。並行処理でも問題なく行けると考えていますけどね。フフフ」
「あのー。最大速度の早送りって処理が追い付いたら、最上級神の情報処理レベルなんですけど。あ、いえ。なんでもないです」
こういう時の危機察知能力は無駄に高い駄女神である。そして、サンゴウの情報処理能力は高い。シンの魔力をエネルギーとして長年扱い続けてきた結果、性能が増しているという部分もあるのだけれど。
「え? 嘘。こんな一気に入れたららめぇ。壊れちゃう。私、壊れちゃうからぁ」
シンが魔力の供給を開始した時、彼女は受け入れ限界を超えそうになりパニック状態になって思わず叫んでしまっていた。神同士の力の融通でもこの様な量の受け渡しは過去に例がないからである。
そして、慌てて過去視と視覚共有の能力を使用したのだった。
「艦長。ちょっと問題が発生しました。音声通信のみの映像だと相手を特定するのが難しいです」
「そうか。とりあえずそういう所は保留で飛ばしておいてくれ」
「はい。サンゴウに出来る範囲で補正します」
メカミーユは恐怖していた。ジンが送り込んでくる魔力量、サンゴウの処理能力。自身の今現在の能力ではなく、全盛時の能力と比較しても完全に負けているからである。勿論、特化した部分でという条件が付くかもしれないのは理解していても、部分的に超えられている事は確定なのだった。
サンゴウの指示で関係者への過去視も行われ、メカミーユは3日間”任意の”調査協力という名目でシンに拘束されていた。
シンは軍には問題が起こらない様、皇帝経由で真っ当な手続きを行っていた。持つべきものは皇帝の地位に居る息子である。コネでねじ込む事が真っ当な手続きと言えるのかは議論の余地が有るだろうけれど。
そんなこんなで視覚情報で得られる物は洗い浚いサンゴウによって分析された。
シンは感応波で結果を流し込んで貰い、サンゴウの判断も加わった状況で事件への理解が深まったのだった。
「なぁ。これ。大元の大規模テロは計画者、協力者、実行犯が居て一部逃げ伸びてるのも今は居ると思うけど、ほぼ全員死んでるか捕まってるよな。だが問題は此奴ら2人を唆してやらせた奴が”存在しない”って事だ」
そうなのである。犯罪の計画立案を趣味としていた人間が2人。偶々、大規模テロを行おうとしていた地下組織に接触。地下組織を通じて知り合ったその似た者同士の2人が、意気投合して次々に犯罪計画を練り上げる。それはミステリ小説で完全犯罪を目論む犯人を見て自己投影した者達の末路だったのかもしれない。
そもそも、この2人は思考遊戯の対象として犯罪をテーマにしていただけである。提案して実行させようとした訳でもない。だが、地下組織の人間は自分達では考えつかない方法というか発想というか、そういう物の源泉として、彼らに与えるテーマの中にさり気なく自分達の原案を混ぜ込んで利用していただけなのだった。
彼ら2人は自分達が考えた犯罪の手口がニュースに散見される様になって来て、初期の頃は”世の中には似たような事を考えつく者が居るものだ”とか”俺達の考えが正しかった事が実証された”などと考えていただけだったが、数が増えて来るとさすがにおかしいと感じ始める。
なんやかんやで自分達が利用されていた事に気づいた時、2人は怒った。そして同時に、立案計画した事の実証がされる快感に目覚めてしまった。
ついには、自分達を利用した地下組織への復讐と、過去に例のない宮廷での大虐殺テロ計画の実行への誘惑に抗う事が出来なくなったのである。
結果的に、地下組織の悲願とも言えるギアルファ帝国皇帝の殺害は成った。間接的に凶刃を届かせたという事でもある。只、意図してやった事ではないし、自分達の組織が囮に使われ、全滅する事を望んでいた訳でもなかったのであるが。
「最初から居ない黒幕を探して捜査してたって事か。これ通常の捜査だと普通に迷宮入りだよな。だけどこれどーすりゃいいんだ? 実行犯が真犯人で黒幕は居ませんって発表だけしても誰も信じないだろう?」
「そうですね。何らかの方法を考えなければなりませんね」
「ねぇ。私もう帰って良い? 良いよね? 良いって言って! お願い!」
見ていても自分には理解出来ない速度で過去視を早送りし、視覚の共有である以上理解出来なくても見続けなければならない。これを3日。普通に拷問のレベルである。メカミーユから泣きが入ったのはごく当たり前の結果なのだった。
「ありがとうな。ほんと助かったわ。宿舎に送るからゆっくり休んでくれ。後4日は休暇扱いになるから。あ、そうそう。コレがバレると重大事件の度に協力要請されるようになると思うけど頑張ってな」
メカミーユに追い打ちするシンである。だが、シンよ! メカミーユがそれをするにはシンの魔力供給が必須だ! 自分も巻き込まれる事を忘れているぞ! 残念!
絶望の表情になったメカミーユを送り届けたシンは、サンゴウから「今後も魔力供給するとか艦長も大変ですね」と突っ込まれた。そして、今回の方法をバラす事は自分の首を絞める事だと気づいてしまう。
そして、サンゴウに”なんか良い方法考えて!”と無茶振りする事になるのだった。
「父上。結果はわかりました。父上の仰る様にこのまま発表しただけでは誰も信じないでしょう」
私的な場での密談のため、気軽な感じで話は進む。
「そうね。どう周囲を納得させるのか。策があるのでしょう?」
ローラからは期待の眼差しを向けられるシンである。
「ちょうど良いと言うのはちょっとはばかられるのだが、宮廷の調査員で事件寸前に亡くなっている天涯孤独な人間が居るんだ。大変申し訳ないとは思うが、少しだけ彼に泥をかぶって貰う」
サンゴウがメカミーユからの視覚情報を元に上手く編集した映像データを、その調査員の調査結果の成果物とする事。そして、彼の死後、部屋からそれを発見した事にするというのが策の骨子である。
優秀な調査により確固たる証拠が得られていた。だが、提出される寸前に不幸な偶然で突然死。天涯孤独だった故に発見も遅れた。というストーリーを捏造する。
彼には遺族も居ないため、贈られる勲章に付随する年金は戦争遺族年金基金の予算の増額に組み込まれるという決着で話を纏める。
死者を利用する形でシンとしては何とも心苦しい物があるのだが、他に方法がなかったのである。AIの解決案は非情!
但し、動機の部分だけは地下組織からの教唆に見える形にサンゴウが編集している。これはそのままの犯罪計画の実証実験が動機だと知らしめた場合、模倣犯が続出する事が懸念されたからだ。
ノブナガやローラは寧ろ、是非とも教唆に見える様にしてくれという立場である。真実は権力によって葬り去られるのであった。
そうして、サンゴウに纏められた映像の発表が大々的になされ、皇帝殺害のテロ事件は完全に幕引きとなった。勿論、一部の逃げ伸びたメンバーも全員逮捕したのは言うまでもない。
捕まった人間は”証拠があるはずがない!”と自信を見せ、サンゴウの作った映像データを見せつけられても偽造の映像だと言い張った。
しかし、彼らがそう騒いだ所でノブナガの皇帝決済による裁判無しの死罪に抵抗する事は出来ないのだった。
こうして、シンの管理官としてのお仕事は終了した。
過去の事実を見て来たからそれが”動かぬ証拠だ!”とか推理小説やその手のドラマなら禁じ手だよなぁと思い馳せるシンなのであった。
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