第41話

 ギアルファ銀河外縁部宙域。


 サンゴウはシンの影に入り転移で到着した後、シンの付き添いの元、生存者6人の覚醒作業を開始していた。生存者の状況確認が出来ないまま帝国領内へ連れて行くのは良くないと判断したためである。


 大人は女性4名。そして、4歳から5歳くらいと思われる男の子と1歳児未満くらいの女の子。6名全員の覚醒作業は特に問題なく完了する事が出来たのだった。

 ちなみに、この時のシンは変化の指輪で召喚で若返る前のジンの姿になっていた。子供の姿では艦長としての信用が得られないと思ったからである。


「ふむ。デリーの弟と妹か。それと家臣ね。サンゴウ。このままちょっとここで待機しててくれるか? デリーの所でどうするのが良いかを確認する。わざわざ帝国に連れて行く意味は無いだろ」


「はい。サンゴウもそう考えます。ここで待機していますね」


 こうして、シンはデリーの城に用意された専用の部屋へと転移する。デリーに会うついでに久しぶりにミウの顔も見て来ようなどと気楽な感じのシンなのだった。


「シン。定期的に顔を出してくれるはずだったじゃないか。ご無沙汰過ぎやしないか? 頻度や期間は確かに明確に定めてはいなかったけど、もう少し会いに来てくれていいんじゃないだろうか?」


 ミウはちょっとお怒りモードであった。そして、今は姿を変えているシンしか見ていないから平気だが、子供になっている姿を見たならきっと絶句する事だろう。


「すまん。ちょっと色々あってな。気持ち的に余裕がなかったんだ」


 シンにそう言われると強くも言えないミウは話題を切り替える事にした。


「デリーが待ってるから行こう。あまり長時間彼の側を離れているのは良くないしな」


「うん? そんな危険な状態なのか? 人の受け入れの話を持って来たんだが、まずかったかな」


「うん。シンが排除したあの機械騎士が襲った国は、元々の国民が健在で上が居なくなっただけだから押さえつける力が無くなった今、デリーの派遣した領主の統治が上手く行ってないんだ。反乱とかもあるかもしれなくてね」


 四国と九州は全土壊滅だったから平気でも、北海道は事情が違うのかと納得したシンである。シンという武力の象徴が不在であれば、そういう事になっていても不思議とは言えない。


「お久しぶりです。ジンさん。様子を見に来て下さったのですね。ありがとうございます」


「おう。久しぶり。今日はデリーに弟と妹の情報を持って来た」


「えっ! 発見出来たのですか? 生きているのですよね?」


「ああ。サンゴウが救助信号を受信してな。2人と家臣4名の全員で6名を救助済みだ。只、船体は諦めてくれ。救助時にサンゴウが処分してしまった」


「本当ですか。弟と妹が助かっているのなら船体はどうでもいいです。ありがとうございます」


 嬉しい感情が顔に出ているデリーを見ると、受け答えはしっかりしていても子供の部分もちゃんとあるなと安心してしまうシンである。


「ところで、さっきミウから聞いたんだが統治に問題が出そうだとか」


「はい。力不足です。北の情勢は正直悪いです。彼らを認めて独立させてしまおうかとも考えましたが、この国を恨んでいる事を考えると後々戦争に発展するかもしれなくて。それなら反乱を起こされてから武力制圧を行うほうが対処しやすいのかな? という状況ですね。税などは軽くしているのですが」


「要は抑止力があれば当面の反乱は起こらない。反乱の芽は時間を掛けて統治実績で懐柔って感じの解決策でいいのか?」


「そうですね。それが理想ですけれど実現が困難です」


 圧倒的な武力を見せつけなければならない。だが、それが無い。デリーとしては苦しいところだろう。

 現状の文明的には剣と槍と弓、初期の銃、大砲辺りが武力である。なので、ギアルファ銀河の兵器を供与するだけでも抑止力としては十分かもしれない。

 だが、兵器維持や運用の問題がある以上はそう簡単な話にはならない。そして、戦場での鹵獲からの模倣生産や現物の略奪という問題も付いて回るのである。模倣は技術的に不可能であろうけれど。


「生存者6名全員直ぐに連れて来る事も可能なんだが、デリーが以前そうした様に俺の自宅で過ごさせる事も可能だ。どうするのが良い?」


「今直ぐにこの城で生活させるのは正直なところ危険だと思います。後、弟を担ぎ出して政変を起こそうとする馬鹿者が出て来ないとは言えないでしょうね」


 一旦言葉を切ったデリーは、決断した顔になり言葉を続ける。


「一度こちらに全員連れて来てしまうと付き添う家臣達に迷いが出てしまうでしょう。私と姉を連れて行って貰って会って話した上で、全員をジンさんの自宅にしばらく匿っていただくのが最善だと考えます。お願い出来ますか?」


「ああ。構わないぞ。後、こちらの状況の改善についてもサンゴウとキチョウに知恵を出して貰うとしようか」


 暗に”俺の知恵には期待するなよ!”としっかり主張するシン。頭脳担当が居て本当に良かったね!


 そうして、デリーらを影に入れて転移したシンは、感動の兄弟再会のシーンを経て話し合いを始めた。尚、ミウはシンがデリーらを連れて帰って来るまで、彼らの不在を誤魔化すために城でのお留守番であった事は当然である。

 ちなみに、シンは話し合いに関わる事は無く、その間にキチョウを連れてくるためにサンゴウから自宅へ転移で往復していたのだった。


「なぁ。サンゴウ。それとキチョウ。ざっくりと状況は説明したけど、デリーへの援助は必要だと思うんだ。でも、俺は方法を何も思いつかない。何か良い手はないだろうか?」


「マスター。北の人間全部掃除はダメなのー?」


「最終手段はそれも検討対象にはなるかもしれんが、相手が行動を起こしていない状態でそれを行うのはまずい。大義名分の無い戦いはダメだ。まして、キチョウがそれをやったら戦いと言うよりは虐殺だろうしな」


「そうですかー。人間はムズカシイですねー」


 知能自体は高くとも、知識と経験がキチョウにはまだ足りてはいない。この場合はシンが無茶振りをしたという事になるのだろうけれど。


「艦長。サンゴウとしては水素使用の飛行船の現物提供と運用方法のレクチャー。そして、可能であれば技術供与も合わせて行う事がベストと判断します」


「お? なんか良さげだな。そう判断した理由も教えてくれると嬉しい」


「はい。飛行船はデリー達に扱いが簡単であって、相手には模倣が難しい事。万一略奪されても相手側では一定期間しか運用出来ない事。これは内部骨格をチタンで作るので水素による腐食があるからです。後、元々の耐用年数は3年が限度とする予定です。水素の入手や充填の問題もあります。そして、相手に反撃手段の無い高空からの攻撃は圧倒的な武力に該当すると考えます」


「なるほどな。だが、飛行船って確かヘリウムじゃないと危険だった記憶があるんだが」


 ”地球の西欧ですごい悲惨な爆発事故が、なんか昔あったような? あれ? 米でだっけ?”と曖昧な記憶があるシンである。


「ええ。その通りです。敵に飛行船を奪われた場合、自陣側の運用をヘリウムに切り替えて飛行船同士でやり合う事を想定しています」


「それはえげつないな。相手は1発貰ったらドカンか」


「そうなりますね。フフフ」


 その後のサンゴウとの話し合いで製造技術的な事の提供は難しいだろうという結論になり、現物を製造して渡すのが良いだろうという事になった。

 提供する予定の物は、浮力を水素で得る硬式飛行船を3隻で、船体外皮にフィルム型太陽電池、動力には電気式モーターとバッテリーとプロペラの組み合わせとなる。

 可変プロペラピッチを採用し、舵と合わせて速度と進行方向を調節。バウスラスターとスターンスラスターも装備させる構造である。尚、攻撃手段は高空からの小石のばら撒きを基本とする。


 余談であるが、船の構造に詳しくない方はバウスラスターやスターンスラスターってなんぞ? となるかもしれない。それらは簡単に言えば船首(バウ)と船尾(スターン)に付ける横方向への推進力を生み出すプロペラである。

 宇宙船なら当たり前に付いている姿勢制御用のスラスターだと思って貰えば近いかもしれない。


 デリーらの話し合いが終わり、シンはサンゴウごと全員を影に入れて帝都周辺宙域のやや外側へと飛ぶ。6人の客人の手続きをするためである。ローラへと連絡後、手続きはサンゴウに任せてその間にデリーと姉を城へと送る。

 そして、シンはサンゴウと話し合った結果をデリーに提案するのだった。


「そんな感じで提供する3隻はこれから作るんだが、宇宙空間で作るので俺とサンゴウとキチョウで作れば建造に時間はそんなに必要ない。材料はデブリや岩塊を利用するから問題ないしな。そして、北の領主の居城上空に飛行船を待機させてるだけでも抑止力になりそうだと俺は考えているよ」


「何から何までありがとうございます。お礼となる事が何もないので、私達はどうしたら良いでしょうか?」


 シンはタダはダメだと思っていたが、何かを要求するにはロンダヌール王国の苦し過ぎる内情を知り尽くし過ぎていた。なのでついつい言ってしまう。


「弟と妹の事もモロモロ含めて金銭で貰うが、長期分割で支払い開始に5年の猶予を設けるって事でどうだ? 利子分はそうだな、デリーの姉さんが俺とデートしてくれるって事で」


 そして、即言葉を被せる。


「あ、最後のデートの話は冗談だから本気にするなよ? 利子とか要らんからな」


「あはは、ジンさん。一度言ってしまったらもう遅いですよ。姉はジンさんに惚れてますからね。きっちりとデートする時間を取って貰います。それはそれとして、報酬のお話は善意に甘えさせていただきます」


 そうして、シンはデリーの姉のジト目に耐えながら話を終えて退散するのだった。


 残念勇者は逃げ出した! しかし、精神的には追い込まれてしまった! ゲームじゃないからこの場だけ逃げても終わらないのである。


 慣れないジョークは危険! いいね? わかったね?


 シンは部屋の外で番をしていたミウに声を掛け、ちょっとした雑談をした後に転移でサンゴウに戻る。

 そうして、モロモロの許可申請を全て完了していたサンゴウは、久々に帝都の海上に着水して無事に戻って来ることが出来たのだった。

 尚、出来る子のサンゴウは当然の様に感応波で言語などの知識全般を、赤子以外の5人に流し込んでいる。


 ロウジュら4人の嫁達は「あらあら。まぁまぁ」と赤ん坊の存在に喜び、デリーの弟も歓迎した。

 シンはそれを良い事に、彼らへの対応を全て丸投げしたのは言うまでも無い事である。


「なぁ。メカミーユ。もうじき長期の休暇の時期だが、何か予定はあるのか?」


 もう通う必要はない幼年学校に、何となく通い続けて学生生活を楽しんでいるシンはそう話しかけた。


「寮への滞在は認められているから、勉強と自主訓練とアルバイトかしら。私はお金に余裕が無いのよ」


「そうか。ちょっと内密な話が出来る時間はあるか?」


「良いわよ。授業後に前の談話室の使用許可を取っておくからそこで良いかしら?」


「ああ。それで頼む」


 こうして、シンはメカミーユと話をする時間を持った。確認したい内容は以前聞いた島宇宙の範囲の事だ。”この銀河だけの事を指すのか? この宇宙の全部の銀河を指すのか?”である。


 聞き出した返答はこの銀河だけが対象だが、それ以外で信仰を集めても女神としての力が増すのでプラス面が大きいとの事だった。ならばとシンは本題を切り出す。


「実はな、内乱が発生しそうな星があってな。信頼できる指揮官が欲しいんだ。俺が報酬を出すのと、流れ弾や流れ矢が防げる守りの指輪と変化の指輪を貸し出すから休暇の間だけやってみる気はないか? ああ、期間中に内乱が無い場合は兵の鍛錬と自己鍛錬がお仕事って事でそれでも報酬は出す。下手にその辺でアルバイトするよりも、かなり高額出す用意があるけどどうだろうか?」


「えっと。受けたいんだけど、そのお話だとこの銀河内の惑星じゃないんだよね? 宇宙船での移動で長期拘束されるのはちょっと嫌なんですけど」


「あーそこは問題ない。俺がその点は保証する。送迎はきっちりと面倒見る。何なら、毎晩寮に戻って寝たいとかでも前向きに検討して善処したい」


 最後がいかにも怪しげな胡散臭い発言のシンである。本人は割と真面目に言っているのだけれども。


 こうして、メカミーユはシンに丸め込まれ、高額アルバイト料に釣られてデリーの星で指揮官采配を振るう事を承諾してしまったのである。


 ”ヨシヨシ、飛行船の運用は女神に任せればイケルだろ!”とニンマリしてしまうシンなのだった。

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