第38話

 オルゼー王国のある惑星衛星軌道上。サンゴウは生命反応の大きさで大型種の魔物を選別していた。


 魔力の発生源をシンが回収し尽くしたため、新たな魔物が生まれてくることはないものの、既に居る魔物が居なくなる訳ではないのでアフターサービスというやつとなる。


 そうした魔物も外部からの魔力の供給が無くなる事で、体内魔力を使い切れば能力の一部は制限されていくし、成長や進化が困難になるのだが、人間が魔法無しで倒せる存在かどうかという話になるのである。

 尚、成長や進化が不可能ではなく、困難という表現になるのは魔力を持った存在を襲って食べるという手段が残っているからなのだった。


「キチョウ。魔力の自然回復は無いから適度に補給に戻るんだぞ。後は人里へ近づいて攻撃されない様に注意な。無駄に地域住民に脅威を認識させない様に配慮してやってくれ。後は自由に魔物を駆除していいからな」


「はーい。行ってきまーす」


「サンゴウは引き続き大型種の選別を頼む。見つけたらどんどん情報送ってくれよ。では俺も行って来る」


「はい。お任せください。そして、いってらっしゃい」


 海に山に森にと、シンとキチョウは飛び回り、次々と魔物を退治していく。シンに至っては、収納空間に持っていたギアルファ銀河の食料になる植物の種もばら撒いて、育成促進魔法も掛けていくサービス振りである。

 もっとも、人里から離れているため、これらがこの惑星の住人に利用されるようになるのは先の話にはなるのだろうけれど。

 外来種の持ち込みがどーだこーだについてはシンはガン無視した。

 在来種の変異や進化には関われない遺伝子改良がされている品種ばかりなので、問題はないはずである。ないよね?


 こうして、大型種の駆除は全て完了し、残っているのは雑魚ばかりである。脅威の度合いとしては危険な野生動物のレベルであるので、後はこの世界の住人で対処可能であろう。


「マスター。進化しましたー」


 キチョウの外見はあまり変わっていないが、瞳の色は薄いブルーに。身体からは薄い金色のオーラ? が噴き出して纏われていた。


「おお、ヤサイの人のアレみたいだ。やっぱり怒りが切っ掛けで進化とかしたのか?」


「マスター。なんですかそれー。自然に進化するですよー。種族としては超神龍ですー」


 いやそれ、やっぱりアレじゃね? とシンは思ったがそれ以上の追及はやめておいた。いずれ、2や3も来るに違いない! とワクワク感は止まらないけれど!


「艦長。この後はどうするのですか? 後36時間程で、連絡のインターバル期間を超過しますよ」


「うーん。帰還方法だよなぁ。サンゴウ。何か良い方法思いつかないか?」


「ギャンブル的な方法であれば、1つだけあります。お勧めはしませんが」


 サンゴウがギャンブル的って言う位だとすごく危ないんじゃね? とは思ったシンだが、一応聞いておかないとなとも思うのである。


「怖いけど聞いておく。どんな方法なんだ?」


「艦長にシールド魔法で守って貰った上で、最大出力の超空間砲を0距離で撃ちます。どこかには飛ばされます」


「ギャンブル以外の何物でもないじゃねーか!」


「はい。ですのでお勧めはしません。ですが、何度も繰り返し行えば目的の宇宙へ行ける可能性は0ではないと考えます」


「え、何そのガチャ理論。”確率なんか関係ない。金突っ込んで、出るまで回せば出現率100%だ!”とかそういうやつ?」


 思わず、スマホのソシャゲを思い浮かべたシンである。PCのMMOなども似たようなものか。


「ガチャというのが何かはサンゴウにはわかりませんが、当たりが出るまでくじを引き続けるという意味であるならその通りです」


 確かに確率は0ではない。可能性は有るには有るだろう。そして無尽蔵のエネルギーが使えるシンとサンゴウの組み合わせなら、試せる回数に上限が無い以上いつかは当たるかもしれない。

 溜めに時間が掛かるという点から回数によっては膨大な時間が必要になるという点を無視するのであればだが。


「もうちょっと他の手段を考えてみよう。その方法は最終手段として取りあえず保留な」


「マスター。召喚の魔法陣弄ればなんとかなるかもー」


「お、そうなのか? でも俺、魔法陣の知識はほとんどないぞ?」


 場面はオルゼー王国王宮へと移る。


 キチョウの提案の後、召喚魔法陣の情報を得てみようという話になったため、シンはマーカリンを訪ねてキチョウと共に王宮へとやって来たのである。

 ちなみに、シンの姿は変化の指輪で壮年の年齢に偽装されていたりする。子供じゃ会ってくれないし、勇者として来ると騒ぎになるからね!


「すみません。私はジンと申しまして、筆頭魔導士のマーカリン様にお会いしたいのです。ああ、どこの誰ともわからぬ者にと仰りたい事はわかります。ですので、私の名前を伝えていただき、”ジンが火急で内密にお話したいことがある”とだけ取り次いでいただければいいのです。結果がダメでも構いませんので。些少ですがこれを」


 城門の番兵への必殺の賄賂作戦である。そして、伝えるだけでOKという程度のお願いであれば、この世界の人間は簡単に転んでしまうのだった。


 なんやかんやあったものの、シンはマーカリンに会う事に成功し、魔法陣の資料を得る事に成功した。

 対価として提供したのは、ギアルファ銀河産の荒れ地でも簡単に育って、年3回収穫可能な芋の種芋を3種類各20個である。


 理解力の高いマーカリンは、今のオルゼー王国に取ってこの種芋の価値がどれほどかはシンに説明されるまでも無く気づく事が出来た。

 使い道の無くなった魔法陣の情報に対する対価としては十分すぎると判断され、直ぐに合意に至ったのである。


 こうして、目的を達成したシンとキチョウはサンゴウへと帰還する。


 シンはマーカリンとの別れの際に、魔導士なら”カ”が余分じゃね? てか、お笑い系なら濁点付きだろ? などとどうでもいい事を真剣に考えていたのは、他の誰も知る事のない彼だけの秘密である。


「うーん。勇者時代には持っていなかった技能が魔法陣に対して有効とはな。驚くわ」


 そうなのである。異言語理解は魔法陣の魔法言語にも普通に対応していたのだった。

 しかしながら、”読めて意味がわかる”事と、”書き換えて望んだ効果の別の魔法陣にする”事は全くの別の話であり、魔法陣に対する深い理解や応用力が必要になるのである。

 シンの知能は情報処理のスピードや並行処理といった点では勇者の力で強化されてはいるけれど、純粋に理解力、応用力、創造力という話になって来るとずば抜けた能力はない。

 本人もそれを十分に理解しているため、内容解読後はサンゴウとキチョウへ丸投げである。


 頭脳担当が居て良かったね!


「艦長。サンゴウとキチョウで協力して構築していますからなんとか形になりそうですけど、人の能力で可能な事とはとても考えられません。召喚勇者が帰還する事が前提で、この方法がそれです! というのであれば、実質帰還方法は無いのと同じではないでしょうか?」


「だろうな。この召喚技術自体は人が作り出したものじゃないと俺は思っているからな。そうじゃなきゃ、召喚時に毎回都合よく神っぽい何かが干渉出来るってのがおかしいんだよ。でも、帰還方法はちゃんと用意していない。この技術を提供した存在の悪意を感じるね。俺は」


 実際の所は、帰還に使う送還の魔法陣はちゃんとセットで提供されていた。

 しかし、その魔法陣の発動に莫大な魔力が必要な事と、初代の勇者が帰りたがらず、居座ろうとした事が原因で勇者暗殺という事態へと繋がって行くのである。

 但し、この居残り希望の勇者は無茶な要求を出した訳では無い。それなりの金銭と利便性の良い住む場所の要求をしただけである。

 帰って欲しいが”そこに大量の魔力という経費の使用が認められるのか?”や、帰って欲しいとお願いしても聞く気が無い魔王以上の力を持った存在は”ずっと大人しく生活していてくれるのか?”という2つの疑問を、国の上層部が持つに至るのにそう長い時間は必要とされなかった。


 そうして、勇者暗殺という蛮行に手を染めた国は、その後の政変で分裂と合併を繰り返し、ルーブル王国が誕生する。その過程で、使う事が無かった送還の魔法陣の技術が失われたのだった。

 そういった事情により、勇者召喚の技術のみと、用済みの勇者は暗殺するという悪しき前例が残されたのである。

 当時は総人口が現在よりも少なく、魔王の発生周期も長かったというのも原因の一つではあろうけれど。


 そして、魔法陣を提供した存在は、それが失われた事を知っていながら再提供はしなかったという部分に悪意が有るか無いかとなれば、有るとしか言えない気がするけれども。


「マスター。出来たー。変な干渉の部分はごっそり削ったけどこれで動くはずー」


「術者が陣の内部に居るという部分が難し過ぎましたね。最後の魔力供給をする物が必要で、それだけが送還から取り残されるのですけど、キチョウの話では狩った大型種の魔石1個で十分だとか」


「そうか。沢山狩ったし、1つくらいは必要経費で問題ない。俺かキチョウが残るとかはあり得ん選択だしな」


 ランダム転移ガチャをしなくて済むから良かった良かったとホッと胸を撫で下ろすシンである。そして、優秀な頭脳担当2人? に感謝感謝なのであった。


 魔法陣はキチョウがサンゴウを範囲に収めるように巨大なものを作り出し、シンが魔石をセットし、魔法陣に魔力を注ぐ。

 サンゴウ内部に居たのでは出来ないため、宇宙空間でシールド魔法を展開しての作業となる。

 キチョウは巨大魔法陣の展開と維持で魔力をほぼ使い切っているため、シンに引っ付いて魔力補充を受けていた。


 そして、必要な魔力が注ぎ込まれた瞬間、魔法陣が発動する。


「待ちなさい! 勝手に龍脈の元を異世界に全て持ち出すのは許しま・・・」


 何らかの力の干渉を受けたが、魔法陣が発動した後には魔石のみが残されていたのだった。


 こうして、この世界を管理していた存在は、魔力のある世界という前提が崩れ去り、更に上の存在から管理責任を問われる事になるのであるが、それはシン達には関係のないお話であり、全然全く微塵も一欠けらの責任も無いのである。


 最終段階の瞬間に刹那の干渉を受けた結果、送還に影響が出てしまった。シン達はバラバラの場所に送還されたのであった。


 シンは帝都のある惑星の周辺宙域へ、キチョウはベータシア星系の主星海上へ、そしてサンゴウはなんと、ギアルファ銀河とラムダミュー銀河のほぼ中間点にそれぞれ放り出されたのである。


 シンはMAP魔法と探査魔法で位置を確認した後、サンゴウもキチョウの存在も確認出来なかった事に激しい怒りを感じながらも、この場に留まっても仕方がないため、自宅へと転移した。


 シンの自宅では、いきなり子供が現れて”何事だ?”状態になった。そして、ロウジュとシルクはその子供からシンの面影を感じ取り、隠し子が居たのね! と瞬間湯沸かし器の様に怒りMAX状態へと突入する。

 しかしながら、比較的冷静だったリンジュとランジュは話が出来る状態であったため、なんとか嫁全員にシン自身が変化した姿だと納得させることに成功したのである。


「サンゴウとキチョウとは、はぐれてしまったんだ。魔法陣の性質上、ランダム転移ではないからキチョウはこの宇宙のどこか、サンゴウはこの宇宙か、サンゴウが元々居た宇宙のどちらかには居るはずなんだ」


 色々な感情が入り混じった表情を隠す事無く、シンはロウジュ達に状況を説明したのだった。


 魔法陣は対象者の記憶から場所を特定して飛ぶのだが時間の指定は術者が行う。そして、送還は同じ宇宙内へは出来ない。

 シンは1つ誤解をしており、サンゴウが元々居た宇宙へ飛ばされている可能性は無い。魔法陣の術者はキチョウだからだ。

 キチョウはギアルファ銀河で生まれているため、生きている時間は転移前の宇宙を除くと、この宇宙で全ての時間を過ごしているからである。

 魔法陣への干渉により影響が出る時間範囲の限界は、キチョウが生きていた時間の範囲内が最大であるため、この宇宙に限定されるのだった。


 こうして、シンはサンゴウとキチョウを探す事が当面の目標となった。


 色々な感情が渦巻き、ローラへの定期連絡が遅れて怒られる事になり、ついでにちょっと若返っているどころではないシンの姿を目の当たりにした彼女に、理不尽にも責められる事になったシンなのであった。

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