第29話
ギアルファ星系第4惑星周辺宙域。帝国軍の怒号のような通信が乱れ飛んでいた。
シンとサンゴウが潰した侵攻軍以外の7つの侵攻路から攻め入られたギアルファ銀河は、帝国軍の各星系へ常駐していた守備隊が決死の覚悟でそれらの足止めを行った。侵攻路からほど近い星系全てに避難指示が出され、てんやわんやの大騒ぎとなっていたのである。
ギアルファ銀河の外縁部近くに固まって僅かに残っていた自由民主同盟の星系は真っ先に侵攻軍の攻撃に晒され、完全に消滅させられていた。なりふり構わず、帝国軍への救援要請も出されたが、帝国軍が駆け付ける時間もなく消滅に至ったのだった。
「艦長。後2時間で帝都との通信可能距離に到達します。先行して皇帝陛下からの映像データも届いています」
「了解。後で見るけど、とりあえず内容は?」
先に内容をサンゴウから要約で聞いてしまうシンだった。手抜きではあるのだが合理的でもあるだけになんとも言えない。つまるところ、結果さえちゃんと出せれば問題ないのである。
「はい。自由民主同盟の勢力範囲は全て消滅。帝国軍の5個軍が迎撃に出て殲滅させられています。敵の規模は7つの侵攻軍で1つ1つが1000万隻相当。侵攻速度が速くないため、避難は問題なく進捗。当面は問題ないが年単位で行くと数年後には食料問題が出る。迎撃軍は30個軍と機動要塞20個で限界まで動員。ですね。控え目に言っても帝国存亡の危機です。状況の連絡だけで特に指示、命令、お願いなどはありません」
「えっと。同数で互角のやり合いが出来るとしても、帝国軍の動員兵力じゃ1つの侵攻軍の相手がやっとってことか?」
「兵力で行けばそうなりますね。生体宇宙船が加味されていなくてその状態です。普通の戦争なら降伏でしょうね。宇宙獣相手では降伏なんて出来ませんけど」
完全に詰んでるんじゃね? とシンは思ったが、諦めても全てを失うだけなのでなんとか方法を捻り出さなければとサンゴウに声を掛ける。
「サンゴウ。勝利条件は俺達が生き残って、最悪でもギアルファ帝国が存続する。に設定した場合、達成出来る手段はあるか?」
「はい。勝利条件をギアルファ星系が無傷で残るであれば、敵の侵攻速度から各個撃破は不可能ではありません。但し、手段は選ばずになります」
方法あるんかい! って一瞬思った。が、いやーな予感がヒシヒシとするシンである。
「聞くのが怖いけど、その方法ってどんなのだ?」
「はい。帝国軍には一番近い侵攻軍へ全軍を向けて貰い、戦って貰います。勝てれば良し。勝てなくても時間稼ぎはして貰います。そして後は、艦長頼りです」
そこまで聞いてどうする気だ。おい! と思ったシンは遠い目になっていた。
けれども、サンゴウの言葉は続く。
「一番目に近い侵攻軍に向けて艦長は転移で接近して潰しに行って貰います。生体宇宙船が居た場合は最優先目標で潰して貰って、5割以上の殲滅が目標です。その間にサンゴウはキチョウと二番目に近い侵攻軍に向けて進みます。接敵次第、全力攻撃で遅滞戦術を行い艦長の合流を待ちます。艦長は目標達成後、帝国軍に後を任せて二番目に近い侵攻軍へ転移で向かって貰います」
「なぁ。話の途中で悪いんだがな。それってつまり、転移で俺1人で特攻して頭潰して、ついでに出来るだけ雑魚も掃除してね! 残りの雑魚は帝国軍に押し付けて次行こうね! の繰り返しか?」
「はい。その通りです。この戦力差をひっくり返せる方法は、それ以外にはありません」
あのーそれ、俺が死んじゃいませんか? と思ったが、やれと言われれば出来てしまいそうな気もしなくもないシンなのである。やりたくない! ものすごくやりたくない! とは思っているけれど。
「艦長が最初に500万潰して下されば、帝国軍は3倍以上の兵力で敵に当たれますので、被害が少なく殲滅出来る可能性が高くなります。補給後、移動して同じことを繰り返しても、艦長が二番目以降の殲滅量を増やして、常に帝国軍優位な数的戦力差を作り出せば良いのです」
サンゴウの声を聴きながらも、シンの思考は敵の殲滅方法に移っていた。
魔力量最大で持続時間10秒の光球を、敵のど真ん中に作り出して、その間にばら撒けるだけ魔法トラップばら撒いて逃げる。あるいは超遠距離から広範囲攻撃魔法ぶち込むか? 超長距離転移直後の所に攻撃を受けなければ、問題なさそう。それすらも、子機装備を纏ってシールドも張っていれば、まず危険はないだろう。あれ? よく考えたらイケるんじゃね? 完全殲滅が必須となれば話は違って来るけど、大幅に減らせばOKなら余裕じゃね?
方法を思い付き、心に少しばかり余裕が出て来たシンは、サンゴウに問い掛ける。
「その方法を取ったとして、予想出来る被害ってどのくらいだ?」
「艦長の殲滅速度次第ですけれども、ベータシア星系での殲滅速度から判断すれば、このデータの被害に15星系が壊滅で上乗せといった所でしょうか。但し、避難が順当であれば、人的被害は帝国軍だけに限られると考えます。帝国軍の被害の合計は約4割と予測しています。ただ、問題が1つ、艦長の戦闘力がバレます」
「俺の戦闘力は53万です! 本気を出せば100万以上は確実か!」
「なんですか? それは」
ついついネタを言って見たかっただけのシンなのだった。
「ああ、すまん。ついつい言いたくなる定番の台詞なだけで、特に意味はないんだ」
「そうなのですか。で、バレてしまうのはいいのですか?」
「そこはもうどうしようもないだろう? 誤魔化せる方法は無いよな?」
「はい。すみません。サンゴウには考えつきません」
なるようにしかならんだろうけど、恐れられて追放とかは無しでお願いしたいと切に願ってしまうシンなのだった。
そうこうしているうちに、直接通信が可能な領域に入る。帝国軍からは即座に通信が入り、合流して戦闘への参加要請が来た。内容は懇願レベルの腰の低さであった。だが、「命令系統が違うので、皇帝陛下へ要請してくれ」と返答するしかないシンである。
勝手に仕事受けちゃダメだよね!
続いて皇帝からの通信が入る。
「戻って来るのを待っていた。状況は先に送ったデータの通りだ。帝国軍の動員可能な戦力全てでも対処は無理だ。頼ってばかりですまないが、シンとサンゴウならと期待してしまう。出来るか?」
皇帝は内心では無理だろうと思っている。そして、シンからその言葉が出るのであれば、皇太子以下10数名の皇族を脱出させる命令を出す考えであった。
勿論、自身とローラは逃げるつもりなどない。最後まで抵抗するつもりであるけれど。
「それにお答えする前に、お聞きしてもよろしいですか?」
「なんだ? 構わないぞ」
「はい。ありがとうございます。私は以前、力を発揮して恐れられ、実質殺処分という形で追放されています。此度の件で、仮に私とサンゴウの力を以って解決したとして、『同じことが起こるのではないか?』と疑念を持っています。火中の栗を拾う気にはなれません。皇帝陛下。事後の私の扱いはどうなりますか?」
さも、対処は可能だと言わんばかりの前提での質問を、想定していなかった皇帝は言葉に詰まる。通信の相手は、現時点でも十分に危険な存在であると認識していたのだ。が、実態はその認識を遥かに上回る事がわからされてしまい恐怖を覚えた。
しかし、帝国を統べる身としては立ち止まれない。
背に腹はかえられないのである。
「わかった。追放した側の理由も理屈も理解出来ぬではない。が、それをされる側がどう思うのかがわからぬ程、予は暗愚ではないつもりだ。そうだな。此度の件が全て片付いた後、一からのスタートになるが、対等の同盟国として国を興して貰うという案ではどうだ? 勿論、新たに興した国の運営が軌道に乗るまでの援助付きという条件でだ。元々の帝国貴族の領地を割譲するのであれば問題になるが、此度に滅ぼされた自由民主同盟の星系がある。その外側には未開拓の宙域も広がっておる。シンが予の部下のままでは、身の危険を感じるというのであればその方法くらいしか思いつかぬ」
シンは皇帝の言葉に嘘はなさそうだと感じた。そして、ここまでの案が出せるのであれば、力を見せれば反故にされることはないだろうと判断を下す。
「わかりました。ではその言葉を信じます。私がどんな力を見せたとしてもその言葉を守ってください。さて、敵の排除についてですが、帝国領内に被害皆無とは行きませんし、帝国軍にも、ひょっとしたら、避難中の人達にもそれなりの被害が出るかもしれません。ですが、敵を倒す方法は既に考えてあります」
「出来るのか! 被害は0と行かぬのはやむを得ない。それが理由でシンを責める事はないと確約する。して、どうやるのだ?」
不可能が可能になると知り、俄然その方法が知りたくなった皇帝は、前のめりでシンにそう尋ねるのだった。
「私とサンゴウで、一番近くに居る敵軍から順に敵の数を5割から2割の間にまで減らします。帝国軍は後詰で殲滅戦を行って貰います。一番近くの敵が終わればその次に向かうという感じですね。順や時系列ごとの敵の位置と規模を、随時サンゴウから送りますので、帝国軍で対処をお願いします。一点だけ、皇帝陛下より厳命していただきたいことがあります。それは、帝国軍を分割して運用する事は無いようにという点です。軍を分けると被害が結果的に増えるのは確実ですので」
「わかった。その旨は厳命し必ず守らせる。ではシン。頼んだぞ」
「はい。では行って参ります」
シンはもう遠慮なく力を見せる。転移魔法を発動させ映像通信の画面で消えて見せるパフォーマンスをしたのであった。
ちょっと外に出て戻っただけだけどね!
「艦長用の時系列ごとの敵の予想位置データは作ってあります。直ぐに流し込みますね」
「ああ。頼むよ。受け取ったら直ぐに俺は出る。サンゴウとキチョウは予定通りに動いてくれ。あ、後、帝国軍への随時データ送信も頼むな」
サンゴウからデータを受け取ったシンは直ぐに転移する。しかし、行先は戦場ではなく自宅である。ちゃんと行先とお仕事内容を嫁達と子供達全員に告げ、熱い抱擁を子供達に見せつけた後、ついに戦場へと長距離転移を発動するのだった。
同じ頃、集結中であった帝国軍に皇帝からの命令が総司令官経由で下る。また、サンゴウからの時系列ごとの敵の予想位置データも、帝国軍司令部作戦室経由で各艦及び機動要塞に送信された。そして、準備が整った艦から順次、戦場の集結地点へと進軍が開始されたのである。
シンは最初の戦場となる宙域の外側にやや外れた位置へと転移して来た。そして一瞬で魔力枯渇から回復するのを待って、敵の予想進路へとぐるりと回りを取り囲むように魔法トラップを仕掛けていく。
そうして、シンは「全部倒してしまっても構わんのだろう?」とばかりにこれでもか! という濃密な設置をした後、更に発動時間を設定した範囲攻撃の雷撃魔法を四方八方360度ぐるりと取り囲む様に設置して行く。
仕上げは敵のど真ん中に光球の魔法を発動させ、魔法トラップをばら撒くという、凶悪極まりない攻撃である。
全て計算通りに事を運び、シンが転移で逃げた時には、同時に敵に雷撃魔法が降り注いで行くのであった。
探査魔法で生体宇宙船っぽい反応を探していたシンだったが、それらしい、反応を見つけることは出来なかった。そして、必ず居るという訳ではないのかもしれない。とシンは考え、探すのを止める。この宙域の8割以上の敵を殲滅した事で、とりあえず、後は帝国軍に任せようと決断し、サンゴウとの合流予定時間を確認する。
時間的にはまだ7時間以上が残っていた。そして、この宙域で必要とした時間は1時間足らずだったことから、「先に全部殺ってしまっても構わんのだろう?」と一番遠い侵攻軍の宙域へと長距離転移を発動する。
斯くして、シンは、サンゴウとの合流時間の前に、遠い宙域の順で侵攻軍に次々と攻撃を加えていく。
ベータシア星系で試した魔法トラップが、効果的な攻撃手段とわかっていた事と、初回の攻撃で周囲を取り囲む様に配置する設置方法が見事にハマった事で、短時間で効果的な攻撃が可能となったのだった。
シンは、サンゴウとの合流を待つ事無く、合流後に攻撃予定だった侵攻軍への攻撃を開始した。そして、その攻撃が終了した頃、サンゴウとキチョウが予定の宙域へ到着したのである。
こうして、シンはサンゴウと合流する。キチョウからのジト目の視線に晒されながら、サンゴウにこの宙域の残存している敵の探知をお願いした。
一応全部の侵攻軍だいたい潰したけど、生体宇宙船とは全然遭遇してないんだよなぁ。などと考えながら、ちょっとやり過ぎたか? と引け目を感じ、指示ではなくお願いになってしまったシンなのだった。
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