第30話
ギアルファ銀河旧自由民主同盟支配宙域。サンゴウは、シンと合流した宙域の残存している敵の探知をしていた。生体宇宙船の独特の生命反応を最優先で探していたのである。
「艦長。残存の宇宙獣が180万程度とこの星系の恒星内にモドキの反応が有ります。これは恒星のエネルギーを食い潰して砲撃と防御フィールドにエネルギーを振り向けるつもりなのでしょうね」
「ほう。俺の探査魔法では恒星に潜られていると判別出来ない様だ。モニターに出せるか? だいたいの位置で良い」
「マスター。モドキって馬鹿なの?」
「ああ。魔法の事を理解してないって意味では馬鹿だな。位置がバレたら即終了だ」
1人? 理解が追い付かないサンゴウは、素直に疑問の声を上げる。
「あの。艦長? どういう意味ですか? 攻守共にハイレベルで、サンゴウからすれば悪くない戦術と考えられるのですが。それと、モニターに映像出します。モドキの位置はポインタで示しています」
「ほうほう。この辺りに居るのか。さすがに近くに行けば正確な位置がわかるだろ。では、馬鹿だという理由を見せる。転移魔法発動」
シンはモドキの周辺に転移で飛ぶ。勿論、シールド魔法と子機アーマーで防御は万全である。
「状態異常付与。麻痺。そして、転移魔法発動」
そうして、サンゴウの近くに転移したシンは、サンゴウの中に戻る。
「艦長。お帰りなさい。理解しました。確かに馬鹿ですね。あの位置取りでは艦長が転移で現れても探知は出来ないでしょう。そういう事でしたか」
シンが近くに現れても探知出来ずに、魔法に対して無防備で、状態異常付与による麻痺をさせられればどうなるのか?
その答えは、”防御フィールドが解け、エネルギー吸収も出来ない状態で、恒星の超高温と超重力に晒される事になる”だ。
つまり、モドキは恒星の中心部に向かって、燃え尽きながら落下するしかないのである。
「被弾でやられるのは覚悟のうちですが、ああいう最後は迎えたくないですね」
「だな。俺がやっといてなんだが。あれをやられる側にはなりたくないな」
「マスター? お馬鹿なのが悪いだけだと思うですー」
「まぁそう言ってやるな。魔法の知識も技術も無いんだからな。さて、それはそれとして、後、180万か。帝国軍に任せるか? それとも殲滅して行くか? サンゴウはどう思う?」
とりあえず、話題を変えるシンだった。というか、今は作戦中のはずである!
「時間的に帝国軍はまだ最初の戦場に到達していないはずです。艦長。確認ですが生体宇宙船は何隻潰しましたか? それ次第で変わると考えます」
「ああ。それなぁ。確認出来てるのはさっきの恒星に飲み込まれた奴だけだ」
「そうですか。帝国軍が生体宇宙船と接敵しないことを優先するべきですが、まだ時間に余裕があるので、ここは完全殲滅して帝国軍の担当場所へ向かいましょう」
最初の戦場に生体宇宙船が残っている可能性を、考慮してしまうサンゴウはそう結論を出すのだった。
「なるほどな。じゃ、キチョウ。掃討戦行くか?」
「はい。マスター」
斯くして、またもや龍騎兵シンの無双が始まった。そして、たった小一時間で完全殲滅が成功するのだった。なんだかんだ言っても龍のブレスは強いのである。
「後6か所の戦場か。次は帝国軍の第一目標の所だな? あそこの残りも200万かそこいらのはずだ」
「そうですね。向かいます。帝国軍の到着予定まではまだ、48時間以上ありますから、到着後、最優先目標の生体宇宙船が居ない場合は、次へ急ぎましょう」
「サンゴウで6時間の距離か。俺、ちょっと休ませて貰うな」
「はい。艦長。到着の1時間前には声を掛けます」
さくっとシンの姿が転移で消える。サンゴウは驚いたものの、自宅へ飛んだのだと直ぐに思い至り、艦長デタラメだから! と考えるのを放棄したのだった。
「ロウジュ。一度戻ってきた。後でまた出るが。シルク。ローラ様に直ぐ連絡取れるか?」
熱い抱擁を交わした出発の時から、まだ半日も経っていない。なのに、もう戻って来ているシンに嫁達は驚いていた。ちなみに、子供達はもう寝ている時間である。
シンはシンで、皇帝へ直接話す手続きをするよりも、最短で状況を伝えられそうな方法を選び、シルクに声を掛けたのだった。
シルクはローラへの直通ラインを使って連絡を取った。そして、シンに代わったのである。
「シン! 何故そこに居るの? 戦況はどうなっているの?」
戦場に出たはずのシンが、シルクの居る自宅で通信なのだから、ローラは混乱しており、挨拶もなくいきなりそう切り出した。
「多少戦況に余裕が出来たので、一旦報告に戻りました。方法は転移ですが、それについての説明は拒否させていただきます。戦況の最新情報をお知らせしたいのですが、皇帝陛下への謁見手続きや、通信の手続きの時間が惜しいので、シルク経由でローラ様にお伝えする方法を取ったことはお許し下さい」
「ああ、そんなことはいいのよ。そもそも、貴方達が戦場に向かってまだ半日足らずです。情報が来ることを想定していない時間ですよ。それなのに最前線の最新情報が入るのであれば利の方が遥かに勝ります」
え? 今、戦況に余裕が出来たって言ってたわね? 一体どうなっているの? いくら何でも早過ぎない? と、疑問で頭が埋め尽くされたローラである。そして、ローラは混乱しつつも、シンの報告を聞く姿勢となった。
「7つの侵攻軍で帝都に近い順の侵攻路順に一番から七番まであるという前提でお聞きください。まず、一番に帝国軍が接敵するのがおよそ、48時間後です。私の先制攻撃により、敵は戦力の8割を失っています。が、その戦場で生体宇宙船は確認出来ませんでした。後7時間ほど掛けて探査し、居れば戦闘を仕掛けます。居なければ残りは帝国軍の皆様にお任せします」
「そうなのね。では二番が来るまでの時間には余裕が出来たから戻って来たのね?」
「いえ。二番の殲滅は完了しています。二番の宙域の、生体宇宙船1隻と約1000万の宇宙獣、全ての排除が終わっていますよ」
予想もしないシンの言葉にポカンっとなったローラは、何を言った? この男は。と思考が一瞬止まってしまった。
「へ? 殲滅完了? 1000万の宇宙獣よ? まだ帝国軍は戦ってもいないのに?」
「はい。三番から七番までも、既に概ね残数は各200万まで減らしています。私とサンゴウが最優先目標としている生体宇宙船が、最低でも後1隻は居るはずなので、今は殲滅よりそちらに重点を」
「待って! ちょっと待って」
あまりの報告内容に、ローラは思わずシンの言葉にストップを掛けてしまう。
「シン。二番は殲滅完了。他は総数で6000万相当居たはずの宇宙獣が、今は、1200万。それも、内訳として、各個の集団は200万程度という理解で合っていますか?」
あれ? 帝国存亡の危機だって悲壮な覚悟していた半日前までは一体なんだったのよ! ローラの心の中はそんな感じである。
「はい。合っています。但し、敵の戦力として飛び抜けている生体宇宙船がどのくらい残っているのかがまだ不明です。サンゴウが作成した、最新の時系列ごとの敵の予想位置データは別途送信します」
もう帝国軍に撤収命令を出して、シンとサンゴウだけでいいのでは? とローラは思った。
そして、まだ戦後の心配をするのは早過ぎて、鬼が笑うかもしれないが、戦果が巨大過ぎない? これ、どう報いるのよ? とまでローラの頭を過る。
皇妃の立場のローラとしては、危機回避となりつつある嬉しさより、戦後の調整の困難さが予想出来てしまい、そちらが心配になるのだった。
「報告はわかりました。皇帝陛下には出来る限り早くお伝えします。でも貴方は法衣とはいえ侯爵なのだから、宮廷へ直接出向いて、陛下に緊急謁見要請だって出来るのよ? それを忘れないで」
「はい。それは理解はしているのですが、安易な手段についつい頼ってしまうのです。申し訳ありません」
シンにとっては、全く他意の無い発言なのだが、ローラには”お前らも安易に俺らに頼りまくってるよな?”と言われているように感じてしまうのだった。
こういう意識のすれ違いって怖いよね!
「では、この後また戦場に戻りますので。失礼します」
通信後に少しばかりのんびりするつもりのシンは、”この後=直ぐに戻る”とは言っていない。と心の中で付け足しているのは言うまでもない。嘘ではないが、事実の全てを語っている訳では無いという見本である。
社会人になるとこういうの大事だよね!
子供達が既に寝ている、もう深夜に足が掛かっているこの時間。戦闘をして、アレコレ高ぶっていたシンは、嫁とのご休息のお時間となった。戦争中なのにナニしてるんだ! と怒る人は誰も居ないので、まぁいいのだろう。
勝てば良かろうなのは、いつの時代も変わらない不変の真理なのかもしれない。
そうして、シンは戦場に戻り、サンゴウとキチョウと合流したのだった。
「艦長。お帰りなさい。この宙域には生体宇宙船の反応はありませんね。当たればラッキーの砲撃だけして、次の目標に向かいますね」
「ああ。それでいい。しかし、なんとなく全部の侵攻路に生体宇宙船が居るもんだと最初は思い込んでいたが、意外とそうでは無かったんだなぁ」
「艦長の先制攻撃で気づかぬうちに撃沈した可能性もありますから、居ないのが確定すれば良いのではありませんか?」
「まぁそうだな。次行くか! キチョウもまだ暴れたいだろうしな」
「マスター。大好きですー」
実は、この宙域に居た2号機のコピーは、最初は最も良い戦術と考えられた、恒星に隠れる事を行っていた。しかし、シンが同じく恒星に隠れていた二番のモドキをあっさり潰したことで、1対1はどんな戦術でも勝ち目が無いとの結論に至り、生体宇宙船のみは七番に集結するよう移動を開始していたのだった。
勝ち目が無い相手はサンゴウじゃなく勇者だけどね!
そして、ウミュー銀河の鉱物生命体達にとって、戦況は戦前の予想と明らかに異なっていた。被害が大き過ぎるため、撤退の検討がされてもいたのである。
「フハハ! 勝ったな!」
「艦長。キャラがおかしくなってませんか」
「いいんだよ。『勝ったな』はポーズ付きで言ってみたいセリフの上位に来る奴だから問題ない」
何が問題ないのかはさっぱりわからないが、サンゴウはこの件を理解しようとすることを放棄した。
到着した三番の宙域でも生体宇宙船は見つけられず、しかも、予想位置をかなりずれ込んだ後方に宇宙獣が居たことで、敵の撤退の予兆を感じながらの殲滅戦が終わった後だったからである。
「四番に向かいますね。もしも、四番も当初の予想位置より後方であったなら、撤退中と判断して良いかと考えます。しかし、艦長。敵が撤退して行く場合はどうするのでしょう? 見逃してお帰りいただくのか、追いかけて殲滅するのか」
「うーん。難しい所ではあるけど、害獣でしかないから出来る限り殲滅する方向で、逃げられそうならどの程度追うのかは臨機応変で行こうか」
「はい。ではそのように。サンゴウが四番に到着する頃には、本来は帝国軍も戦闘開始しているはずですが、撤退し始めているとなるとどうなりますかね。ちょっと予測が出来ないです」
四番の宙域で敵の撤退姿勢を確信したサンゴウは、位置の予測データを作り直す。そうして、四・五・六までは追いかけて殲滅に成功する。
しかし、六番の殲滅が終わった頃には、七番の宙域に攻め込んで来ていた侵攻軍は完全にギアルファ銀河を離れていた。
敵の進路が不明であるため、探すとなると宙域の候補が広くなり過ぎる。そのためシンとサンゴウは追撃を断念する事となったのだった。
ちょうどその頃、帝国軍は一番の宙域で撤退中の敵を追いかけていた。殲滅掃討戦が終盤に差し掛かっていたのである。そして、1個軍程度の被害は出たものの敵の殲滅に成功するのであった。
こうして、第一次銀河間戦争は終わる。ウミュー銀河側は8000万隻相当と生体宇宙船9隻をこの戦争に投入し、敗残軍として帰還が叶ったのは200万隻相当足らずと生体宇宙船7隻という悲惨な結果となったのであった。
もっとも、ギアルファ帝国には他所の銀河から攻められたという認識は無いのであるが。
シンへの報酬は、普通だったら罰ゲームとか、追放と変わらないのでは? と思うかもしれない建国が皇帝から事前に約束されている。
それ自体には、援助内容次第ではあるものの、皇帝の可能な限りの譲歩だと捉えて納得はしているシンなのだが、すんなりと履行されるかは疑っている。
はてさてどうなる事か?
帝都で絶対モメるよなぁと憂鬱になりながら、帰路へと指示を出すシンなのであった。
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