第28話

 ベータシア星系外未開拓宙域。サンゴウはシンの指示に従って、航路の無い宙域を迫って来る大量の反応がある方向へと急いでいた。


 シンとサンゴウはベータシア星系へ到着の少し前から、広範囲の探査をしていた。そして、キチョウの勘が働く方向に範囲を絞って、更に、遠方へとシンのMAP魔法と探査魔法を伸ばす。その組み合わせで調べた結果、大量の接近する物体を探知したのである。


 シンは即座にオレガに緊急連絡し、敵の襲来とその規模を、そして、自らは迎撃に出る事を告げた。そして、皇帝と帝国軍へ向けた映像データを送り、その送信を命じたのだった。


 オレガはその通告を受けて、ベータシア星系の領軍に防衛ラインの構築を命じる。更に、シンの撃ち漏らしや流れ弾の処理を、領軍で行う事を併せて命じたのだった。勿論、預かった映像データは帝都に向けて送信している。


「さて、どう戦うかなんだが。サンゴウいい案あるか?」


「艦長が一人で特攻し」


「待て! 今そういう冗談は要らないから!」


 即、言葉を被せて、最後まで言わせないシンだった。


「現実的な方法としては、有効射程ギリギリまで接近してから、後退しながら砲撃し続ける所謂引き撃ちですね。サンゴウの砲撃に艦長の魔法攻撃も加えるといった所でしょうか」


「ふむ。素人考えでアレなんだが、実体弾を最速でサンゴウが撃ち出した場合、弾の生成時間込みでもエネルギー収束砲より連射速度が増すよな? で、この宙域は目標まで重力で弾道に影響を与えるものは無いと思うんだがどうだ?」


「はい。連射に関しては材料があるのであれば、標準的な威力を出すエネルギーの収束時間と、同等の威力が見込めるサイズの弾の生成速度を比べれば、弾の方が早いので、連射性に拘るのであればそこは正しいです。但し、エネルギー収束砲より命中率はかなり低くなりますから、資源の消費とエネルギー効率からお得な方法とは考えません。後、弾道への影響についても艦長の考えで合っています」


 適度なサイズにするだけで、形を整える必要もない生産速度重視の量産弾ならそんなものである。


「では、収納空間に入れてある小惑星を取り出して、曳航しつつ、弾に加工しながら順次撃ち出し続けるってのはどうだ? これならエネルギー収束砲の射程外からでも出来るから、先制攻撃にもなって手数も増えると思うんだが。出来ないだろうか?」


 以前の惑星新造作業の際、余った小惑星をこっそり収納空間に入れていたシンである。ちなみに、シン以外の勇者は、そんな物を入れられるほど大きな収納空間を持っていないのは言うまでもない。


「艦長? 小惑星を持ってるのですか? いつの間に? ほんとデタラメですね。その作戦は可能です。そういった方法なら命中率が低くても、本来の攻撃開始予定地点のかなり手前から攻撃可能な点でメリットが大きいですね。エネルギーについては艦長の供給さえあれば問題ないです」


 命中しなかった流れ弾が、どうなるかは知りませんけどね。とも考えたが、元々、宇宙空間にはそんなものはいっぱいあると切り捨てるサンゴウだった。


「よし。ではそれで行こう。小惑星を適度に刻んで砲弾ばら撒き作戦だ! なーに、命中率がどうとか言っても数撃てばいいんだよ。戦いは数だ! 材料はある!」


 どこかの軍人さんの名言を思い出しながら、そう宣うシンなのだった。だが、シンよ! あの軍人さんの言う数は、兵力とか兵数の事であって、弾数の事ではないと思うぞ。


 斯くして、サンゴウによる実体弾のばら撒き砲撃が開始される。


 サンゴウは、撃つ、撃つ、そして撃つ。それは地球の戦場で見られた、機関銃による面制圧の如く、広範囲の空間制圧をするかのように、ひたすらに膨大な量の弾が撃ち出されて行く。

 当然、敵に居るかもしれない、生体宇宙船の探知範囲外からの攻撃であった。しかし、サンゴウはミスリルを所持しているため、接近自体は鉱物生命体達に気づかれているけれど。


「サンゴウ。これってどのくらいの数を撃ってるんだ?」


「はい。各砲門、毎分600発を84門で撃っています。つまり、毎秒840発ですね。引き撃ちで3日撃ち続けると2億発は楽に超えます。尚、3%程度は当たると予測しています。1発で撃破というのはなかなか厳しいと考えますので、破壊まで至るのは最少で100万、最大で200万と予測しています」


「ふむ。600万発以上は当たるけど撃破はグッと減るのか。敵の総数はざっくりとで1000万ってとこかな? その内の1割は少なくとも減らせる訳だ」


 アウトレンジ攻撃で1割削れるなら十分だなと思うシンである。害虫駆除は安全第一!


「はい。その辺りの数でしょうね。敵の速度がこのままなら、3日後にはベータシア星系を攻撃可能になる距離まで10日の位置に到達します。それと艦長、モドキ1隻の反応があります」


「お、やっぱりまだ居るかぁ。モドキの射程外から当てて潰すのは無理だよな?」


「そうですね。仮に実体弾がまぐれ当たりしたとしても、防御を抜けないでしょうし、防御を抜けるほどのエネルギー収束砲は、モドキの射程外から当てるのは困難でしょう。射程内でも簡単に当たる訳ではないですしね」


 ま、同型艦で戦って一方的にワンパンキルは出来るほうがおかしいか。と納得してしまうシンだった。


「さて、そろそろ最初のに引っ掛かるハズなんだが。どういう結果が出るかな」


「艦長? 何かしていたのですか?」


「ああ、俺が勇者してた時の場所ではよくある魔法トラップをな。引き撃ち始めた時から俺の限界まで、広範囲にばら撒いてたんだわ。万一、不発のまま残ると危ないからちゃんと7日後には消滅するようにしてある!」


 シンが採用したこのやり方は、大元の発想は、機雷、地雷のばら撒きと同じだ。但し、それが魔法であり、物理的実体が存在しないという違いがあるだけである。

 尚、サンゴウの放った弾には反応しない様、対象の大きさで判別し、作動の有無があるという芸の細かさなのであった。


 キチョウは魔力の流れで、シンのしているそれに直ぐに気づき、シンにくっついて魔力を渡して貰って、設置に協力していた。

 神龍に進化した事で、出来ることが格段に増えているキチョウは、自身の姿を子竜時代の物にしている。可愛いペット枠は誰にも譲らないのである!


 シン達が設置しているそれは、ルーブル王国がある世界ではありふれたトラップだが、この世界では発見も解除も、シンとキチョウ以外では出来ないというアブナイものである。

 そして、籠められている魔力量が全く違うので、あの世界での物に比べると破壊力も有効範囲も、比較するのも馬鹿らしい程に高いのだった。超危険!


 地球の戦争に置いて、ばら撒かれた地雷によって作り出された地雷原が、”戦後にどんな悲劇をもたらすのか?”の知識をちゃんと持っているシンは、後日の安全性にちゃんと配慮をしている。尚、キチョウはシンの魔法を理解して同じように設定をしていたのであった。


 非人道的な兵器である地雷や機雷のばら撒きは、地球でも(一部条約批准していない国による例外はある)、ルーブル王国がある世界でも、この世界の帝国軍でも、当然禁止だ。が、今回の場合は、場所が場所であり、相手も相手である。

 そして、それを行ってるシン自体が「フハハッ! どんなド汚い手を使っても勝てば良かろうなのだ!」状態であり、精神的には全く主人公とかヒーローしてないのであった。


 サンゴウの砲撃が着弾し始め、散開と回避行動を始めた鉱物生命体達とモドキは、それがひと段落した頃、突如として謎の爆発攻撃に晒される。

 勿論、シン達が設置しまくったトラップに引っ掛かっただけなのだが、彼らからすれば何もない空間で攻撃の予兆が何もなく、いきなり爆発攻撃されている状態である。

 パニック状態で動き回った彼らには、更にトラップによる被害が増加するという悪循環まで加わり、なんと初撃のそれで、モドキが巻き込まれて撃沈してしまったのであった。


 思考が悪辣なシンは、想定される彼らの進路に対し、厚くそれをばら撒いているゾーンと空白で何もないゾーンを交互に置いている。安心した頃にもう一回という面と、相手が進撃を止めた場合にサンゴウが近寄れなくなるのを防ぐためである。もっとも、その場合は、ばら撒いた物を自爆させる事で対処しても良いのだけれど。


 こうして、侵攻軍の数を5割以上も減らした時点で、サンゴウは艦長に声を掛ける。


「艦長。最初の魔法トラップの時点でモドキの反応は消失しました。指揮官と思われるモドキが居なくなり、現在、戦力も半減しているのに、一向に撤退の気配がありません。この行動は異常です。やはり、当初の予想通り、別動隊が居るのではないでしょうか? こちらは陽動でしょうね」


 ベータシア星系に到着し、敵を探知した時点で、別動隊の存在を予見していたシンとサンゴウは、皇帝と帝国軍へ向けた映像データをオレガに託している。その予想が敵の行動により裏付けられた格好だ。


「だな。キチョウ。勘はどうだ? ここが終わった後について何か感じたら直ぐ教えてくれ」


「はい。マスター。その時は直ぐにお伝えします。ところで、マスター、後で少しお外に出てもいいですか? まだブレスを試した事が無いのでやってみたいですー」


「おう! いいぞ! そうだな。後、10日の地点まで行ったら俺と一緒に出るか。あ、サンゴウは少し下がりながら撃ち漏らしの処理を頼む。モドキ以外なら特に危険は無いよな?」


「はい。エネルギーの問題だけはありますが、小惑星を食いつぶして対処します。もし、足らなくなりそうなら艦長に呼び掛けますがよろしいですか?」


「おう! その時は即、魔力供給に来るさ。あっ! キチョウと出るって事は、俺ひょっとして、竜騎兵になれるのか? いやまて、この場合は龍騎兵か? 胸熱展開じゃねぇか!」


 ルーブル王国でも竜騎兵は伝説の存在であり、憧れの存在であった。まして、その上位となる龍騎兵は過去に存在例が無い。正に史上初の存在となるのである。やったね!


 そうこうして、出撃の時が来た。龍騎兵シンは子機装備も身に纏い、厨二パワー全開である。形から入るシンは、手に入れてから一度も使った事がない、収納空間の肥やしになっていた聖槍を取り出して装備までしていたのだった。

 そしてシンは、もう第6感を通り超えて目覚めちゃってるまであるかも? 等と考えていた。勿論、そんな事はシンの妄想の中だけであり、全然全く微塵もないのが現実だけれど!


 シンとキチョウの無双は始まった。約300万の鉱物生命体VS1騎というあり得ない数の差で戦闘が開始されたのだが、あれよあれよという間に敵は殲滅されて行く。

 ”あれ? 槍の技、俺習得して無いじゃん!”と気づいたシンが、こっそりと聖剣に持ち替えたのはシンとキチョウだけが知る秘密である。


 戦闘中のシンは心に誓った! 心中で呟いた! 「俺、この戦闘が終わったら槍の技の修練するんだ!」と。無駄に死亡フラグっぽい思考に走ってしまったが、問題なく敵の全てを殲滅してこの戦闘は終わる事となる。逃げない相手というのはある意味楽なのであった。


「マスター。ブレス無制限はめっちゃ楽しいですー。また今度やらせて下さい。それとこの方面の危険は無くなったと勘が知らせています。お家に帰りましょう」


「そうか。じゃ、お義父さんに挨拶通信だけ入れて戻るか。サンゴウよろしく」


「はい。艦長。ベータシア星系の主星にまず向かいますね。それはそうと、なんか、宇宙バッタの時より戦闘力上がってませんか?」


 倒した敵の経験値でレベルアップしてるから当然ではある。シンに自身のレベルを知る術は無いので気にもしていないだけだったりするが。


「そうか? ま、身体動かしてるからだんだん鍛えられて強くなるんじゃね?」


 シンの返答を聞いたサンゴウは”違うんじゃないかなー”と考えはしたものの、戦闘力強化原因を明確な根拠で指摘は出来ないため、”艦長デタラメだから!”でいいやと諦めた。諦めちゃダメだよ! そこで試合終了になっちゃうよ!


 こうして、シンはお義父さんの危機を防ぐ事に成功した。そして、ベータシア星系を後にし、帝都へ向かうようにサンゴウへ指示を出す。

 その後、帝都に戻ったシンは、命令権が無いはずの帝国軍から悲鳴の様な出動要請を受ける事になるのだが、それは少し先のお話となる。


 槍の技ってどんなのがあったっけ? と収納空間から武技教本初級編を取り出して読み始めるシンなのだった。

 



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る