第25話

 ギアルファ銀河旧同盟側支配宙域外縁部。サンゴウは宇宙バッタをバッタバッタと薙ぎ倒す様に、元い、発見即攻撃、撃滅を繰り返しており、トノサマを探して航行していた。


「艦長。いつかは、本命に当たるでしょうけど、探知に引っ掛かる反応が多過ぎて見分けがつきません」


「俺の方もだ。特別大きな反応ってのも今の所無いなぁ。あっ!」


「どうされました?」


「ルーブル王国で蝗害(こうがい)ってのがあったなぁと思い出してた。バッタの大量発生で起こる災害。あの時は好んで食う草を成長促進魔法で、指定された場所に大量に用意してな。王都の外側で誘引して火壁に飛び込ませてたなぁ。こんがり焼きあがって死んだのは食料になるってんで、スラムの住人が群がっていたよ。美味くはないってことだったけど」


 日本では発生例が少ないため一般的な知識ではないかもしれないが、蝗害は地球でも発生している。シンが知らないだけである。余談であるが、地球での蝗害はそのバッタを食べるのは危険だったりする。駆除に農薬が使われるので有毒化しているから。


「宇宙バッタに襲われて一時放棄された惑星の緑化でもしてみますか? 上手くおびき寄せれるとは限りませんけれども」


 サンゴウはベータシア星系での食料生産惑星の再生を、新造惑星の緑化を、きちんと記録しており、シンのデタラメさを理解している。それ故の提案発言だったりするが、普通は気軽に緑化しますか? とかあり得ないからね?

 通常であれば、惑星の緑化は為政者にとっての一大事業であり、数年単位の時間を掛けて行われるものである。とても1日2日で終わらせられる様なものではない。


「ダメ元でやってみるか。いい感じの場所にある惑星の選定を頼めるか? あと利用する許可も申請出してみてくれ」


「はい。申請完了しました。申請の可否返信は早くても5日後以降と考えます。それまでは現状維持の続行で良いでしょうか?」


「ああ、それで頼む。っとルーブル王国で使った種をまだ持ってるな。これを試すか。サンゴウ。種の増産も頼みたい」


「はい。ではそのように」


 5日後、申請可の返信を得て、選定した惑星にシンとサンゴウは来ていた。シンは特に後のことを考える事無く、水魔法を大盤振る舞いし、種蒔を行った。そして、成長促進魔法をガンガンかけるおまけ付き。魔力量でのゴリ押しである。水魔法の影響で山岳地帯や丘陵地の一部で土砂崩れ等が起こったりしたのだが、見なかった事にしてガン無視したのは秘密なのだった。禿げ山に雨は危険!


「艦長。緑化に使った種はどうも当たりのようですね。宇宙バッタと思われる反応が続々と集まって来ています。大気圏内突入前の宇宙空間で殲滅してよろしいですか?」


「ああ、俺の方でも探知している。手分けして殲滅戦と行こうか。サンゴウにはこの惑星の南半球部分への侵入阻止を頼む。俺は北半球部分を受け持つ。では行こうか」


 中将さん。あんた正しいよ! アニメの中で、戦いは数だと言い切ったお偉い軍人さんを頭に思い浮かべながら、シンは殲滅作業を続けていた。


 いくら範囲魔法が有効であろうとも、無詠唱で発動出来ようとも、次々と襲い来るバッタの処理速度が、ギリギリ追い付いているだけという状況が丸3日も継続していた。

 サンゴウも苦戦していた。事前に保有していたエネルギーと恒星からの補充分では間に合わず、何度かシンに魔力での補給を受けるほどであった。補給中は隙が出来るためタイミング探しには苦労したのだが、なんとか凌いでいたのである。


「艦長。倒し続けたのが良かったようですね。親玉が近寄って来ていますよ」


「ああ。俺の探査魔法にもそれっぽいのが引っ掛かった。4日間倒し続けて、手駒が尽きて来たようだな! もう少し近寄ってきたら、俺が行って来る。行く前にはサンゴウに魔力供給するから、その後の雑魚処理は任せる。親玉のトノサマとオクガタサマだったか? そいつらと戦闘に入った後なら、少々撃ち漏らしが出て惑星内に侵入されても構わんからな」


 2時間後、シンはサンゴウに魔力でエネルギー供給を行った。そしてトノサマ達が居ると思われる宙域へと急ぐ。


「やっと近寄れたけど、取り巻き多いな! しかし、視認で位置の当たりが付けられれば後はお前らなんか雑魚と同じだ!」


 そしてシンは魔法を発動する。籠める魔力はセーフティが発動しないギリギリまでだ。


「極大雷撃範囲魔法だぁ!」


 雷撃の1発1発の威力が、勇者時代の最強の相手、魔王をも屠れる位。それが無数に豪雨のように降り注ぐ空間制圧となる。

 そうして、雷光で埋め尽くされたその空間が、漆黒の宇宙の闇に戻った時、生きて動いているものは何も居なかったのである。


「死骸が餌になっちゃいかんからな。回収回収っと」


 此奴ら普通に共食いもしやがるからな。と考えながら、取り巻きもトノサマもオクガタサマも収納空間に放り込む。大元は始末したので、後は雑魚の掃討戦へと移行するだけだった。


「艦長。相変わらずのデタラメさですね。SS級の相手でしたのに」


「デタラメ言うな! 俺は勇者だから強いの! それより、後はここで待機して、寄って来るのが皆無になったら、念のために外縁部を1周してから戻るって感じでいいか?」


 シンが召喚されたあの世界で、過去に召喚された勇者達の誰もシンのような事は出来ない。勇者はそんなに便利に出来てはいないのだ。龍脈の元を強引に融合されているシンが特別なだけである。


「あ、この辺の死骸も回収しとかないとな。サンゴウ食べるか?」


「はい。回収して吸収してます。ただ、殲滅優先でしたので、消滅させた個体が多かったのですよね。艦長の方面も同じですよね?」


「だな。ま、可能な限り回収しておくって事で」


 そうこうして、シンとサンゴウは寄せ餌用に緑化した惑星での待機&追加殲滅期間を終える。

 帝国軍が投入していた3個軍は、既に安全は確保されたとして通常任務に復帰していた。


 そしてサンゴウは、念のための外縁部を1周する航行を始めるのだった。


「艦長。急速に接近して来る船があります。これは! フタゴウ?」


「サンゴウ。フタゴウってなんだ?」


 フタゴウとは生体宇宙船試作2号機のことである。AIは通常のコンピューター式であり、電気信号でのリンクで運用を目指して作られた砲撃専用船となっている。制御が不安定であるものの火力は高く、サンゴウの試作中に実戦投入での試験運用が行われていたが、その運用中に暴走。サンゴウが持つデルタニア軍の記録では破壊処分された事になっている。


 サンゴウは自身の持つ、フタゴウに関するデルタニア軍の記録内容を、シンへざっくりと説明する。


「ふむ。破壊されたはずのものか。ってこれ、攻撃態勢に入ってないか?」


「撃って来ました! 回避間に合いません。直撃来ます」


 さっさとサンゴウの外側にシールド魔法を展開していたシンには余裕があった。


「艦長。ありがとうございます。シールド魔法強力過ぎませんか?」


「俺、勇者だもん」


「そうですね。そうでしたね。もういいです」


「で、これ、反撃していいの? まだ撃って来てるけど。味方? なのか?」


 一応、友軍? かもしれないので反撃せずにシールドで防いでいるだけのシンである。


「いえ。デルタニア軍の識別信号は出していませんし、何より意思疎通が出来ません。敵として処分するしかないと判断します。フタゴウの性能は、サンゴウとの比較で火力は2倍、機動力は1.5倍、防御力は0.2倍の攻撃と回避特化なのですけど。全然平気ですね。艦長のシールド魔法」


「昔の俺なら防げなかったかもな。だけど今は、魔力量が違う! んで、攻撃はどうする? サンゴウがやりにくいなら俺がやるけど」


「サンゴウで当てれるかどうかがわかりませんが、やってみます」


 こうしてサンゴウとフタゴウの戦闘が開始された。シンはサンゴウから要請があるまでは見学である。シンが手を出さないのはサンゴウが経験を積むいい機会だと思ったからだった。サンゴウも生物である以上、経験による最適化というものはあるだろうとシンは思っている。そして、部分的にでも格上の相手であれば、学ぶ事も多いだろうと思ったからでもある。万全のシールド魔法で守られているという、余裕から来る舐めプだったりもする訳だが。


「当たりませんね。被弾は減っていますが」


「だなぁ。素早いのもあるだろうけど、攻撃のパターンも予測されてるんじゃないか?」


「そういう事もありますか。もう少しやらせて下さい」


「おう。貴重な経験だ。ヤバくなったら手出すからそれまではいろいろやってみるといい」


 戦闘開始から2時間。サンゴウの回避行動はどんどん精練されて行く。攻撃も当たりそう? なくらいにまではなって来ている。

 そうこうしているうちに、フタゴウからの砲撃回数が減って来る。当たり前である。シンからエネルギーがいくらでも補給できるサンゴウと持久戦で勝てる船はおそらく存在しない。フタゴウはエネルギー残量に余裕が無くなってきたのか、逃げの態勢に入ったのであった。


「おっと。逃がす訳にはいかんよな。この距離なら行けるな。状態異常付与。麻痺」


「艦長! なんですか! それ!」


「いやだから、麻痺。サンゴウもそうだけど生体なんだろ? 効くと思って。魔法防御力なんてないだろうし」


「ホント、艦長はデタラメ過ぎますよ」


 実際の所、フタゴウもサンゴウと同様、生体宇宙船なので、魔力をエネルギーとして一部利用出来る。よって、魔法防御力が皆無という訳ではないのだが、今のシンが相手となるとそんなものは誤差の範囲である。尚、サンゴウの現状は、魔力を纏っている状態と変わらないため、魔法防御力は格段に高くなっている。

 状態異常付与は単体相手でしか使えないので、大群で襲って来る様な相手には不向きな魔法だったりする。今回倒していた宇宙バッタみたいなのが相手だと使いにくいのだった。


「接舷接触します」


「おう。やってくれ」


「これは! 接触部パージ。侵食汚染により切り離します。艦長。ダメです。フタゴウは何かに支配されています」


 このフタゴウは現在、鉱物生命体と融合しており、支配されている状態なのだが、むろんそんな事はサンゴウにはわからない。外部からの解析ではわからず、接触解析すればサンゴウが浸食汚染されてしまうので調べることが出来ないのであった。


「無理に調べる必要はない。危険なら処分だな。一応聞くけど急所的な場所って有ったりするか? そこだけ壊せば死ぬ。みたいな場所。なければ、消滅させる勢いでぶっ殺するけど?」


「艦長の理解範囲で言えば、脳と心臓に当たる部分ですね。フタゴウにはそういう部位はありません。消滅処分でお願いします」


「了解だ。ならちょっと行って来る。少し距離を取って待っててくれ」


 そうして短距離転移で飛び出すシン。徐に収納空間から聖剣を取り出すのである。


「行くぞ! 全消滅スラーッシュ!」


 1発消滅である。こんなんでいいのか? いいのである。この作品はそういうものなのである!(言い切ってるから許して)


 フタゴウに関する事は不明な点ばかりでわからない事だらけだが、お仕事であったトノサマ探し&退治は完了している。なので、とりあえずサンゴウは帝都に向かって発進するのだった。


 帝都に着いたシンはお仕事の報告を上げる。と言っても、報告データはサンゴウが作ってくれるので、実際には提出の承認をサンゴウにするだけだったりするが。


 報酬の口座への振り込みと残高を確認してから久々の自宅へ戻る。ミウが抱きついて出迎えてくれた事に驚き、俺フラグ立てたっけ? などと考え込むシンだった。


 子竜がシンにジャレついてくる。全く成長しないなぁなどとシンは考えながらも、子竜を撫でてやる。しかし、それは当たり前で、この世界には成長に必要な魔力が漂っていないからである。

 子竜は知能が高いのでその事は気づいているが、身体が大きく成長してしまうと居場所の問題が出てくるため、現状維持をしているだけであった。


 いずれサンゴウ内で生活し、成長する時が来るけれど、それは先のお話である。


 尚、子竜は高濃度の魔力を浴び続けると種としての進化もする。竜→老竜→龍→老龍→神龍という段階で進化するのであるが、シンが召喚されたあの世界でも老龍までしか進化到達の例はなかった。


 こうして、シンは自宅でのくつろぎの日々に戻る。

 

 2号機がフタゴウで出て来たという事は、1号機、いや初号機あるか? などと思考の海に浸るシンなのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る