第24話

 ギアルファ銀河未開拓宙域、未登録星系、第4惑星。サンゴウは人目を気にせず地上に着陸待機していた。


 シンは土魔法を使い、住居として短期的に使用に耐える物を59名が必要とする分だけ作り出していた。

 そうしたシンの姿を、子供達は、お兄ちゃん凄い! の尊敬の視線で見つめていた。しかし、年長の若い女性達は畏怖すべき存在と捉えていた。勿論、近くに着陸待機しているサンゴウへも同様である。


 シンは水が使えるように、大き目の貯水タンクを作り出し、水魔法でタンク内を満水にする。共同の炊事場、食堂、風呂、トイレも作り上げ、一先ずこんな所かと、シンは作業を止める。


「飯はこれから食堂で振舞う。好きなだけ食ってくれ。そして全員風呂入って身綺麗にしてくれ。今のままでは衛生上の問題がある。その後は子供は寝る事。なんだかんだと疲労が溜まっているはずだ。年長の者は疲れている所申し訳ないが、今後の相談をするので再度食堂に集まってくれ」


 シンのこの言い様に、年長の者達は、恥ずかしさで顔を赤くする。


 身体を拭くことも儘ならない程、水が足りていなかったとは言え、彼女らは若い女性であるので当然の反応である。

 鈍感残念勇者にはデリカシーなんてものはなかったようだ。幸い、子供達は無邪気にご飯とお風呂! と喜んでいただけだったが。

 ちなみに、年長者は13名であり、子供達は46名。子供の男女比は男11:女35となっており、圧倒的に女性比率が高い。


 シンは取りあえずの間に合わせで、サンゴウに量産して貰った貫頭衣を支給し、風呂の後はそれを身に着けて貰うよう指示を出した。そして、年長者に子供達を寝かし付けて貰った後、食堂に集まって貰ったのだった。


「さてと、今後の話なんだが。今の状況ではこの地で君らが生きて行くのはこのままでは不可能だと俺は思う。だから移住をお勧めしたい。ああ勿論、移住先と移住後の生活手段の確立についても支援させて貰うつもりだ。だがこれは俺の考えの押し付けになりかねないから君らの意見というか考えが知りたい」


 各人は顔を見合わせて困惑の表情を隠せない。そんな中ミウは泣きそうな顔で言葉を紡ぐ。


「移住ってどこに? どんな場所? 今後ここに居られないのは私達もわかってる。水も食料も無しで生きていけるはずがないもの。狩りの獲物だってもう何も居ないんだ! でもね。行先の事を教えて貰わないと安心なんて出来ないよ。シンに頼るしか方法が無いのはたぶん皆わかってる。でも安心が欲しいんだ。少しの安心で良いから」


 不安な気持ちを叩きつけるような、心の叫びのような、ミウの言葉は、おそらくここに居る13人全員に共通する思いではあるだろう。少なくともシンにはそう感じられたのだった。


「そうか。わかった。安心して貰えるように説明するよ。夜空に星が見えるよな? あの星々の中には、そこに行けば草木が生えていて、動物も居て、もちろん人間だって居るという星がいくつもあるんだ。そのうちの1つに君らを連れて行くつもりだ。但し、人間については君らとは種族は違う。言葉だって違うし、きっと風習だって違う。だから、一緒に生活するのはひょっとしたら苦痛かもしれない」


 ここで一旦言葉を切って、シンは理解出来ていなさそうな顔が無いかを見回して確認をする。そして言葉を続ける。


「まずは、俺の義理の父が持つある星へと、君達をあそこの宇宙船に乗せて連れて行くという事を考えている。そこには、殆ど人が居ないからな。だが、今はまだ許可を得ている訳じゃない。もしも、その星がダメだったら、こことは違う外の世界に君達が慣れるまで、俺の家に滞在して貰う事もあるかもしれない。その時はまたその時で、後の事を考える。そんな答えしか言えないんだが、これで判断をしてくれないだろうか?」


 実際に夜空に見えるのは大概が恒星であって、居住可能惑星ではなかったりするのだがそんな事を説明して理解して貰う必要はない。

 仮に細部が間違っていたとしても、ざっくりとイメージ出来るような解説でありさえすればいいのである。少なくとも今この場に置いては。シンはそう割り切っていた。


「あそこにある、あれに乗って行くんだな? 行った先には私達が安心して暮らせる場所が有るんだな?」


「ああ、あそこの宇宙船で行く。暮らせる場所も必ず俺がなんとかする」


「ありがとう。シンの考えに賭けて良いと私は思う。どの道このままでは私達は死んでしまうんだ。皆はどうだ?」


 じっと聞いて考え込んでいたミウ以外の12人は、皆決心した顔つきとなり、「行く」とのみ短く返事をしたのだった。


 話が終わり、解散になった。ミウ達は個々に住居へ戻り眠りに就く。


 シンはサンゴウへ戻り、明日の朝出発という事で話し合いをしていた。


「サンゴウ。言葉の問題があるんだが、帝国へ着くまでに少しでも教えられるか?」


「はい。彼女達の言語解析は、艦長との会話内容の録音を解説していただければ、出発までには終わります。翻訳可能になれば、逆翻訳した知識を、彼女達全員に流し込みますから、直ぐに帝国の共通語が話せるようになるでしょう。帝国の文字の読みや意味、文法なんかも流し込みますから読み書きも可能になると考えます」


「そうか。その手があったんだったな。では言語解析出来るように、録音の会話内容を聞きながら言葉の意味を解説して行く。今からやろうか」


「はい。ではそのように」


 サンゴウ有能過ぎるだろう。と相棒の能力に感謝の念しかないシンであった。


 翌朝になり、全員で朝食をとった後、サンゴウへ乗り込んで貰う。結局一度も使う事がなかった炊事場を眺めたシンは、作ったのは無駄だったなぁと思いながらも、一晩とは言え生活設備が整っていたという安心を提供したと考えて納得することにした。


 サンゴウは大気圏を離脱し、帝都へと航行を開始する。直ぐに、感応波を利用した知識の流し込みが終わり、ミウ達の言語の問題は解決した。


 シンはミウとの出会いで彼女の変身を目撃したので、それについて聞いてみた。そして、あの変身が出来るのは族長の血族のみであり、生き残った中ではミウしか出来ない事なのだと知らされた。そういうものなのか。と納得するしかないシンだった。

 そして、混血の問題はどうなるのかを確認すると、必ず母親の種族として生まれて来ること、子供の性別は男性の割合が少なく女性が多く生まれることもわかった。乗り込んでいる子供達に男の子が少ないのにも納得である。


 サンゴウの検疫時のついでで行われた遺伝子解析によれば、シンや帝国の人間とも子供が望めるとのことである。少なくとも今サンゴウに乗っている4種族については、絶滅の心配はなさそうだと、ホッとするシンであった。

 ちなみに、同種族で固まって暮らしていたのは、交配が可能であっても男性の割合が少ないため、態々別の種族の所で生活しようとする男性がまず居なかったことが原因である。

 同族の女性が囲い込んで、他所の種族に男性を行かせないとも言うが。要は男の取り合いなのだった。


「ミウ。1つ教えて欲しい。とても。とても大事な事なんだ」


「なんだろうか? 私で答えられることなら良いのだけれど」


「俺が居た所では君達の様な獣人族というのは、実在ではなく空想上のものだったんだ。で、だな、その空想上の設定では、耳や尻尾を触らせるのは恋人か結婚している相手のみに許される行為だというのがあったんだが、そこの所はどうなんだ?」


「特にそういった決まり事はないよ。けれど、身体を触らせる事に簡単に同意する訳がないという事はあるから、実質的にはそのルールに近いのかもしれない。女性相手だと特にその傾向は強いと思う。だけど、何故それがとても大事な事なのかがわからないよ」


 やった! 同意さえあれば触れる! 恋人限定縛りはない! などと舞い上がっているシンである。死んでしまえ!


「あー。大事な事である理由な。一部の特殊性癖の持ち主に限られる話ではあるのだが、そのな、耳や尻尾などを触り倒したい、撫で回したいと考える人間が存在するんだ」


 予想もしない理由で、ドン引きするミウ。そして、それは獣人族に限らず、人族相手でもやったらダメな行為ではないのか? と思ってしまった。

 実際の所、人族に尻尾はないが、耳を自由に撫で回して良いと許可する人はそうそう居ないだろう。ミウの想像は全く持って正しい。オタク相手にモフモフを止める理由として出しても、欲望優先で無視されそうだけれど。


「シンもそうなのか? そちら側なのか?」


 怖いけれど確認せずにはいられないミウである。


「理性で押さえてる。だが、要求としてはある。あり過ぎるくらいある」


 本音が隠せないシンだった。ヤバイ! 逃げて!


「そうなんだ? 私なら少しくらいなら我慢するから、耳をちょっと触ってみる?」


「ほんとか? いいのか!」


 こうして、シンは無言のまま入念にミウの耳を撫で回した。そして、ミウは許可するんじゃなかった! と、ちょっと後悔したのであった。シンよ! 入念に撫で回すのは少しじゃないぞ!


 帝都に向かっていたサンゴウは、通信可能距離になった時、シンを呼び帝都へ通信を入れる。未開拓惑星の原住民を保護している事の連絡と、彼女らの入国の許可を得るためだった。

 皇帝陛下にまで根回しをしたため、シンの自宅への受け入れと、帝国の住民登録がすんなりと認められた。やはり世の中、コネと権力! あと金! などとシンが考えていたのは秘密である。


 ミウ達は帝国到着までの期間を、サンゴウ内で生活したことにより、文明水準の違いが問題にならなくなるほど、いろいろな事を学習してしまった。そして、結果的に直ぐに帝国の人間に混ざって生活する事が、困難な話ではなくなってしまう。そのため、当初の予定であったベータシア星系の新造惑星移住案は中止となってしまった。


 獣人族は人族やエルフよりも、身体能力、嗅覚、味覚、聴覚に特に優れている。そのため、それを生かした職業に就くことが出来た。最初はシンの家に客人兼使用人見習いとして逗留していたものの、数年かけて、1人、また1人とだんだんと自立して行くこととなったのである。

 ちなみに最も多かった就職先は、身体能力、嗅覚、聴覚が役に立つ護衛であり、次点が嗅覚が役に立つ食事への毒混入発見役であった。特に護衛では賊や暗殺者の発見面で非常に優れるため重宝される存在となったのである。


 そして、ミウだけはシンの家にずっと残った。残ってしまったのだ。第1夫人から第4夫人までの全員がちょっと怒ってるんだからね! になったのは別のお話であり、少しばかり未来のお話でもある。爆発しろ!


 帝都に戻り、ミウ達を自宅に預けたシンは、最近急に増えている宇宙獣の被害の解決を依頼されていた。

 旧同盟側の外縁部が中心となっており、広範囲に小集団で沢山襲って来るため帝国軍でも手を焼いてるらしい。襲われた惑星は植物全てがやられ、草木一本ない荒野になる。どこかで聞いたような話である。


 サンゴウに戻ったシンは、その宇宙獣の話をすると、おそらく宇宙バッタであり、状況的にトノサマとオクガタサマの発生している可能性が高いことがサンゴウから指摘された。


 末端の宇宙バッタだけを倒しても延々と湧き続けることになるため、大元の発生源を探す必要がある。


「艦長。トノサマは単独でもサンゴウの危険度判定でSです。オクガタサマも同時に相手にする可能性が高く、その場合はSS判定となります。どうなさいますか?」


「帝国軍だけで倒そうとしたらどうなる?」


 自分も帝国軍の一員であることを忘れているかのような発言である。


「はい。サンゴウの計算では5個軍投入で互角。勝率50%で勝っても負けても損耗率70%です。10個軍投入で勝率88%損耗率25%と出ています」


「待て。今の投入戦力って広範囲を3個軍でカバーしてるって話だったぞ?」


「逐次投入される宇宙バッタの小集団への迎撃だけなら、飽和する物量が来るまで持つのではないでしょうか? 餌場として美味しくないとトノサマが判断すれば別の場所に去る可能性があります。期待するには薄い可能性ですけれど」


「という事はつまり?」


 嫌な予感しかしないシンである。


「艦長。出番です!」


「やっぱりかぁ! でも帝国軍だと被害が看過出来んほど出るのが確定の相手ならそれも仕方が無いか」


 こうして、シンは宇宙トノサマバッタを探す&退治のお仕事へと出ることになる。


 たまには、勇者らしく魔物相手に暴れるか! と珍しく殺る気になったシンなのだった。


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