第26話

 ギアルファ星系第4惑星。サンゴウは首都星の海上で待機の日々であった。


 待機中のサンゴウはフタゴウについての記録を調べていた。破壊されたはずの船の出現原因がわからないため、当時の戦闘記録の詳細を当たっていたのであった。


 フタゴウは、試作後の試験中に、AIが瞬間的に明らかにおかしな命令を出し、直後に修正するという行動ログが頻出していた。これは試作機製造後、割と直ぐに判明していた不具合なのだが、直ぐに自ら修正するという事で運用上は問題ないと軍は判断。実戦での試験運用へと移行した。

 1度目と2度目の試験運用の実戦投入は、短時間で想定の3倍以上の撃破スコアを叩き出したため、軍は本格採用に乗り気になり、3度目は最終試験として長時間の投入となった。そして、その試験運用中にフタゴウは暴走したのである。


 敵味方関係なく砲撃を繰り返し、内部の乗組員の全てが死亡するほどの無茶苦茶な高機動で戦場を飛び回る暴走中のフタゴウ。それを受けて、当然のごとく破壊処理命令が出された。

 しかし、そのあまりの戦闘機動に、デルタニア軍ではまともに砲撃を当てることが不可能であった。


 事態を重く見た部隊司令官は、最新式の飛空間ミサイルの大量使用を許可し、集中攻撃命令を出す。この攻撃により、広範囲の空間を全て抉り取ることで、フタゴウの消滅破壊処理についに成功したのである。


 ちなみに、暴走の原因は、生体部分から不規則に発生する逆流信号であり、デルタニア星系の技術陣ではフタゴウタイプのこの原因の克服が出来なかった。そして、機械的なAIでは生体宇宙船の制御が困難であると結論付けられ、3号機は有機AIでの制御で試作が開始されたのだった。


「つまり、記録上は破壊処理となっていたけれど、爆散とか粉砕という意味での破壊ではなかったという訳ですか」


 この記録から、フタゴウはサンゴウ自身と同様に、超空間に飛ばされたと判断した。しかもサンゴウとは違い、部位バラバラにされてである。どうにかしてバラバラにされた部位を集め、超空間から通常空間へ出たらこの宇宙だった。かな? と結論を下したサンゴウである。

 しかし、この推測というか結論は実は間違っている。飛空間ミサイル大量使用で相互干渉した結果、本来超空間へと飛ばされるはずが、何故か偶然、通常空間へと飛ばされた。そうして、フタゴウのAI部分が丸ごと含まれている部位が、直接この宇宙に出現しただけだったりする。そして、その出現場所がギアルファ銀河の隣のウミュー銀河であり、鉱物生命体の目の前だったというだけであった。


 但し、サンゴウの間違った結論であっても別に何かに影響する訳でもなく、割とどうでもいい裏設定だったりするのだが。


 余談ではあるが、フタゴウにはAI部分があるにも拘らず、25話で脳と心臓に当たる部分が無いとサンゴウが言ったのは、船内でどこにでも移動させる事が出来るため、場所の特定が不可能。よって、厳密に言えば有るには有るが、無いのと同等という判断で、シンにはそう伝えただけである。

 ここら辺は阿吽の呼吸で、無駄な説明をしていないだけとも言う。


 フタゴウのAI部分の機械は鉱物生命体に融合侵食され、全機能と保有データを乗っ取られた。その後、生体部分の再生を行いながらデータを検分される。そしてそのデータ内には汎用型3号機と母船型4号機の開発計画案が有ったのだった。尚、4号機は2号機10隻、3号機5隻までを同時搭載出来、それらの運用を目的とした母船となっている。


 フタゴウは試作品特有の制限が安全装置の一環として掛けられており、生体の再生量には製造段階で上限が設定されているのもその内の1つであった。そして乗っ取った鉱物生命体は、自身を艦長扱いとして登録することに成功する。融合してくれる仲間の到着を待ちつつ、融合した生命体は艦長権限を行使して限界まで再生での生体部分を増やしていた。こうして、2号機のコピー4隻、3号機モドキ5隻、4号機モドキ1隻が作り出されたのである。


 これらは自己再生での修理不可という点だけが、本来の生体宇宙船と異なる点となっている。


 ちなみに、鉱物生命体は、元来、他者への攻撃の手段として体当たりと融合侵食しか方法を持っていなかった。そのため、エネルギーで砲撃できる生体宇宙船は、新たな武器として即採用されたのだった。日本の戦国時代に鉄砲が戦に導入されたのと似たようなものだろうか。もっとも当時の鉄砲のように、大量生産する事は出来ないという違いはあるけれど。


 ウミュー銀河はギアルファ銀河の隣の銀河であり、鉱物生命体が覇権を握った銀河でもある。そして、鉱物生命体は、種族特性として、常に知識が共有される不思議生物である。これは、通信による情報伝達は必要ない事を意味する。


 鉱物生命体は、ある時、遥か遠く隣の銀河から、彼らにとって未知の金属である、ミスリルという存在を感知する。そして、フタゴウから得た跳躍航行の技術により、ギアルファ銀河に到達することが、既に出来る様になっていた彼らは、2号機のコピー1隻をギアルファ銀河へと向かわせた。偵察&可能なら採取という目的である。


 ミスリルはサンプルをサンゴウが所持しており、偶々、ウミュー銀河側から一番近くに居たため、2号機のコピー1隻と戦闘になったのが遭遇戦闘へ至った経緯なのだった。


 そして、帝都にいたロウジュ達や、ベータシア星系主星にいるレンジュもミスリルを所持している。が、そこへとコピーが向かわなかったのは、位置的な偶然というか、彼女らが幸運に恵まれただけである。


 サンゴウがフタゴウだと認識していて、シンにより消滅させられた2号機のコピー。

 消滅の瞬間までの融合者? の記憶が共有されているウミュー銀河の鉱物生命体は、当然のように仲間が殺された事に怒りを感じていた。そして、相対したサンゴウの捕獲利用についても魅力を感じていたのである。


 斯くして、当初の未知の金属の採取(奪取?)に加え、サンゴウの捕獲利用というなんとも身勝手な理由で鉱物生命体の派兵が行われる事となる。


 派兵部隊の偵察隊がギアルファ銀河に近づいた時、哨戒任務で航行していた、帝国軍と遭遇する。

 帝国軍側は、その偵察隊をデブリや岩塊の類だと認識しており、何事もなく去って行くのだが、ここで、帝国軍の宇宙艦を確認した彼らは、ギアルファ銀河では、金属を資源として利用していると認識する。

 これは、鉱物生命体にとっては、共存して行くことが不可能であり、殲滅すべき敵であると同義となる。そのため、ウミュー銀河からの派兵目的が、急遽変更となった大事件と言えるべきものである。


 ギアルファ銀河の覇権を握っている有機生命体との生存競争戦争である。しかし、この時点では、ギアルファ銀河側の戦力が全く分からない。

 そういった事情から、サンゴウが出張って来ることも想定に入れた強行偵察隊として、2号機のコピー1隻、3号機モドキ1隻、鉱物生命体2万が編成投入されることとなる。

 それと並行し、ギアルファ銀河の殲滅戦用戦力の集結が行われていた。尚、生存競争戦争へと目的が変化したため、未知の金属の採取は戦争後とすることになっている。


 通常配備で旧同盟支配宙域の防備に付いていた帝国軍の3個軍は、突如現れた多数の岩塊の接近を察知し、それらに対して危険なデブリや小惑星などの排除感覚で半個軍を差し向けた。当然の事ながら帝国軍に取って、未知の相手との戦闘が発生することになる。この時、帝国軍の認識では、岩石タイプの新種の宇宙獣か? となっていた。

 数的不利な帝国軍は、1割の損害を出しつつも撤退に成功する。そして、帝都への緊急通信が行われる事となったのである。


「サンゴウ。出番だってよー」


「はい。相手は動く岩とか鉱物みたいですね。サンゴウのデータには類似の事例はありません。宇宙は広く、謎に満ちているのですね」


「そうだな。俺にとっては最高の相棒のサンゴウ自体が不思議と謎の塊みたいなもんだけどな!」


 冗談っぽく笑い顔で、そう話すシン。


「デタラメの権化の艦長には負けます。ところで艦長。第1次攻撃隊は5個軍が投入される決定が出されましたよ。後、遊撃のサンゴウは艦長の準備出来次第発進し、命令系統は別扱い、戦闘行動に制限はない内容で命令が出ています」


 要するに、シンとサンゴウに対しての「自由に敵をやっつけて来てくれ」という皇帝からの丸投げである。


 信頼が厚いと喜ぶべきか、てきとー過ぎて人使いが荒いと悲しむべきか。

 その辺りは微妙な所と言える。

 そもそも、迎撃自体は作戦目的と言えるが、期間も終わり方も明示されない作戦など本来なら作戦と呼ぶのもおこがましい。

 そんなものは、シンが乗艦中のサンゴウ以外に実行不可能なのである。

 兵站と完全に切り離されているシンとサンゴウのコンビには、端的に言って無茶振りがし易いのだ。


 武器弾薬、燃料、食糧、整備といった通常かかるハズの制約。

 その全てから解放されているこの単独艦の遊撃隊は、帝国軍の兵站を担う者達からみれば、反則そのものである。

 彼らの部署の仕事が減るから、喜ばしいことではあるのだが。


 補給計画とか整備計画とか要らないからね!


 今回の出撃では、キチョウがシンにしがみ付くことで、連れてっておねだりがされていた。竜ならサンゴウ内に居ても、耐えられるだろ。と考えたシンは彼女の自由にさせることにした。子供達も大きくなり、遊び相手として必須の存在ではなくなっていたという理由もあったが。

 但し、特に断わりを入れて連れ出した訳では無かったため、シンの自宅ではキチョウが居なくなったと騒ぎが起こる事になる。後で、嫁達、子供達に、しっかり怒られることになるのは別のお話である。ペットは可愛いよね!


 そんなこんなで、首都星を発進し、戦闘宙域へと到着したサンゴウは、索敵と戦闘の開始となる。当初は敵と小惑星などとの区別がつかず苦労したのだが、だんだんと識別は楽になっていた。帝国軍の被害艦が敵に再利用されていたからである。


 そうして、鉱物生命体相手に無双し続けていたサンゴウは、急速に接近してくる2つの反応に驚いていた。


「艦長。2つの急速接近反応を感知しています。ただこれは、先日消滅させたハズのフタゴウとサンゴウと思われる反応です」


「は? フタゴウって試作機だろ? 何隻も作られたのか? それとサンゴウの同型艦? そんなのあったの?」


「サンゴウの持つデータの中には、そういったものの存在を、肯定するものはありません。ですが、現実に接近して来ている反応がある以上は、存在するのでしょう」


 サンゴウが記録から知る限り、自身の同型船はともかく、フタゴウが2番船以降を製造されることはあり得ない事だった。完全な欠陥品としての結論が出てしまっているのだから。


「ま、居るもんは居る。理由理屈は後でいいか。ところでサンゴウ、2隻相手で勝てそうか?」


「性能がフタゴウ、サンゴウと同じだと仮定した計算では、艦長が乗船しているという条件下で勝率約35%です。ちょっと厳しいですね。相手のエネルギー切れを待つ持久戦ならば、負けはありませんが、勝つことも出来ないでしょう」


「キチョウが来たがったのはコレか? 勘が鋭いからなぁ。キチョウ、サンゴウから魔力を分けて貰えばシールド魔法の展開は出来るな?」


「はい。マスター。マスターほどの強力なものは張れませんが、攻撃には耐えてみせます」


 サンゴウ内では魔力が使えるため、音声の言語化が可能なキチョウである。竜だから魔力さえあれば魔法だって当然使える。ついでにちょっと成長もしている。


「サンゴウ。倒せなくてもいい。キチョウが居ればフタゴウの相手を頼めるな? 俺はサンゴウの、ええい! 区別しにくいからアレはモドキだ。俺は外に出てモドキを潰してくる」


「はい。艦長が戻るまではおちょくって逃げ回ります」


 シンの作戦は決まった。シンは珍しくサンゴウ内で事前に聖剣を収納空間から取り出す。そして、シールド魔法を展開し、短距離転移で飛び出して行くのだった。


 敵の2隻は前回の状態異常付与で懲りたのか麻痺が付与出来るほどの距離には近寄ってこない。遠巻きに砲撃で仕掛けて来る。おまけとばかりに鉱物生命体も体当たり攻撃をしようと接近してくるし、帝国軍の再利用艦からも砲撃が飛んできていた。


 こうして、シンVSサンゴウ(モドキ)とサンゴウ&キチョウVSフタゴウの戦いが始まろうとしていた。


 見た目が丸っきりサンゴウな相手をぶっ殺とか、気分悪いなーなどと考えながらも、苦戦しそうとか負けそうとかは、全く全然欠片もからっきしも頭にないシンなのだった。

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