第22話

 ギアルファ星系第4惑星周辺宙域。サンゴウは衛星軌道上に待機していた。


 宮廷に着いたシンは皇帝の謁見スケジュールの調整で待機となり、控えの間でのんびりとしていた。

 そうしていた所へ、ローラ付きの侍女がシンを呼びにやって来た。ローラから謁見までの間に話があるということであった。


「シルクは連れて来ていないわよね? もし連れて来ているなら直ぐに地上に降ろして。戦場に出すのはやめてよ?」


「はい。連れて来ていませんのでご安心を。それより、私はやはり戦場に出すために呼び出されたのですか?」


 さすがに、ローラの前では俺から私に言葉が変わるシンだった。似合わないけど。


「直ぐにどうこうはさすがに無いわ。でも、このままって訳には当然行かないの。帝国のプライドがあるから。まずは、良い案が無いか? からだと思うけれど、最後はシンとサンゴウに任せることになる気がしているわね」


 つまり、帝国軍には打つ手無しなのかよ! ガンバレよ! 帝国軍! くじけちゃダメだよ! 帝国軍! と思いながらも、俺にお鉢が回ってくるような状況にするんじゃねぇ! などとも考えているシンだった。


「往路での航行中にサンゴウと話し合ったのですが、正直なところ良い案というものはありませんでした。有効性や実現性に疑問がある帝国軍艦艇全力投入の案は一応出たのですが」


「皇帝陛下より先に知るのもどうかとは思いますが、その案の内容を聞いておきましょうか」


「はい。では。案自体は単純です。小惑星などの岩塊を全艦艇に曳航させて加速からの投石による遠距離飽和攻撃です。命中精度、要塞の迎撃能力、要塞自体の防御力での被害軽減といった要素から有効性は不明ですし、そもそも帝国軍艦艇で出来るのか? という問題で実現性に疑問がある案です」


「そういう案ですか。不可能ではないでしょうが、事前に確実に有効だと判断出来る者は誰も居ないでしょうね。やってみないとわからない。ですか」


「はい。費用対効果の観点で考えても、動員兵力に対して効果が未知数というのは問題があり過ぎるというのがサンゴウの判断として出ていました」


 サンゴウの計算では、帝国軍では加速からの命中精度が期待出来ず、飽和攻撃にならない可能性が高いと出ているのは、さすがに言えないシンである。


 ここまで話した所に、謁見の準備が終わったという連絡が入り、シンは謁見することになった。

 そうして、シンは皇帝より案が求められ、現時点での案としてローラへ説明したものを披露することとなった。とりあえず、その案については帝国軍で検討されると決まったのである。

 尚、別途私的に話があるということでこの謁見後、皇帝とローラのみとの話し合いが行われることも決まったのだった。


「以前のプランZなのだがな、あの方法で此度の要塞を排除することも考えておった。だが、帝国軍司令部作戦室から、超長距離射程の砲とエネルギー供給のジェネレーターの開発制作案が出されてな。今から作ったのでは全くお話にならんのだが、プランZからすると砲の部分だけをサンゴウに担当して貰うということは可能であろうか? というのが予とローラの考えだ」


「なるほど。それは可能です。エネルギー調達部分を帝国軍が担当し、サンゴウにそれを以て砲撃させるわけですか。一時的にサンゴウに頼ることにはなっても帝国軍自体で後々実現可能な事であれば問題は少なそうですね」


「可能か! ならばその線でサンゴウと検討してくれ。期待しておるぞ」


 サンゴウに戻ったシンはサンゴウと話し合い、エネルギーの供給方法と供給元が確定されなければならないものの、エネルギーの供給量が十分であれば、超巨大要塞の射程外から攻撃が可能との結論になった。そして、皇帝経由で帝国軍司令部作戦室に知らされ、検討中だった案は保留とし、サンゴウを砲として考える作戦案が立案されることとなる。


 斯くして、空前絶後の帝国軍艦艇が一堂に集結する作戦案が立案され、実行に移された。


 なんと帝国軍の20個軍である400万隻と機動要塞15個が集められ、全ての艦艇が非常用予備エネルギーに切り替え、全ての通常エネルギーをサンゴウに集中させたのである。


 超巨大要塞側は、帝国軍艦艇の集結は察知していたが、完全に射程外であったので何もしなかった。集まっても何もできないだろうと高をくくっていたという事もあるのだが。


「全艦艇及び全機動要塞、エネルギー供給開始! 帝国軍の力を奴らに思い知らせてやれ!」


 帝国軍総司令官は最前線とも言えるこの宙域の総旗艦で吠えていた。


「艦長。エネルギーの供給開始されました。収束開始します。供給終了まで後300秒。広域通信での発射カウントダウンに入ります。発射は供給終了から10秒後です。様式美の発射トリガーは必要ですか?」


「いやいや。そんなんいらんから。照準も発射もサンゴウに任せるよ」


「そうですか? デルタニア軍ではよく有ったのですけれども。ターゲットスコープとトリガーはロマンなのだとか」


 もちろん様式美であって実際の照準はAI任せであり、発射のタイミング指示でトリガーを引くだけである。


「そ、そうか? まぁオタク心に響かないか? と言われれば否定は出来ないがなぁ」


 そこは対閃光防御とか対ショック防御とかも足そうよ! と思ったシンを責めることの出来るオタクなど存在しないであろう。そう信じてる。


 滞りなくカウントダウンが終了し、ついに発射の時が来た。


「発射します。命中。対象の中央部に被弾穴を確認。各艦艇の冷却開始されています。次回発射可能時間は600秒後です」


「おー。お見事。さすがに1発で終わりって訳にはいかんか?」


「いえ。もう対象は沈黙しています。次発は念のためで撃つだけですよ」


 確実に仕留めにいくサンゴウに油断はないのね。と感心するシンだった。


「艦長。対象より、艦艇が発進しています。ですが、こちらへは向かっていません。撤退のようですね。次発の目標対象にしますか?」


「あー。総司令官から指示がない限り、見逃していいんじゃないか? やり過ぎは良くない」


「はい。ではそのように」


 シンは気づいていなかったが、この距離で総旗艦から同盟側艦艇の撤退行動を観測するのは至難の業だった。結果として総司令官はそれを知ることはなかった。そして、知ることがなく攻撃命令が出されなかったことが、終戦へと繋がるのだが、この時はまだ誰もそれを知らない。


 2回目のサンゴウによる砲撃が行われた。その後、総司令官が降伏呼びかけを行ったのだが、超巨大要塞側からの返答は一切なかったのである。帝国軍は仕方なく、偵察艦を出し、おっかなびっくり近寄ったのだが攻撃されることもなかった。

 実はこの時、超巨大要塞は、既に残存人員の全てを駐留艦隊に移乗し、脱出済みだったのである。


 こうして、破壊された超巨大要塞の残骸は帝国軍に占拠された。


 修理には莫大な費用がかかるであろうが、再利用は可能であると判断され、確保されることとなったのだった。


 そしてシン達は次の目標であるもう1つの超巨大要塞へ向かって発進して行く。


 到着して攻撃準備へ入った時、皇帝の新たな命が伝わる。それは、攻撃中止命令であった。帝国に自由民主同盟からの停戦の使者が訪れていたからである。


 帝都では、使者が強気の弁舌を披露し、激しい舌戦が繰り広げられたものの、自由民主同盟側の戦力的不利は明らかだった。そして、最終的には実質、自由民主同盟の降伏とも取れる内容の条件で、使者は停戦交渉を終えることとなったのである。

 尚、この停戦交渉終了後の条約締結時において、超巨大要塞2個の所有権が正式に帝国へと変更されることになるのは、まだ少し未来のお話となる。


 このような経緯で停戦は実現し、長きに渡り続いた戦争はついに終わったのであった。


「艦長。良かったですね。艦長1人で特攻してこい無しに、戦争が勝ちで終わりましたよ」


「ああ。良かったよ。って俺はワンマンアーミーじゃないから! そういうの求めてないからね? フラグ立てに行くのやめて? サンゴウ」


 安心しろシンよ! 君のそういう出番はいつかきっと必ずある。


 停戦交渉終了後、部隊の一部を超巨大要塞への占領部隊として残して撤収する。そして帰還後、帝都では論功行賞が行われることとなる。


 論功行賞の結果、シンは陞爵し、前例が無い法衣侯爵となった。前例が無かった理由は、通常の法衣伯爵は宮廷に出仕している事がほとんどであり、陞爵するような手柄を立てる例が過去に無かったせいであった。


 そして、爵位でお義父さんのオレガを上回ったことにより、ベータシア星系での伯爵の部下や与力的な活動は、皇帝より停止命令が出された。皇室持ちで帝都に邸宅が用意される事となり、シンは強制お引越し決定になったのだった。

 この辺の実現には、シンの陞爵も含めて裏でローラが暗躍しており、皇帝や各所に圧力をかけた結果であるのだが、シンには全く全然欠片も責任は無いのである。


 こうして、シンは皇室に所持されていた帝都にある旧アレフトリア公爵邸を押し付けられる事となる。もっとも、シンはその邸宅が、旧アレフトリア公爵邸だとは知らなかったりするのだが。そしてこれはローラの思惑通りとなっている。


 ちなみに、旧アレフトリア公爵家の領地については、第4皇子が新たな公爵家を立ち上げることで受け継がれている。

 但し、第4皇子がザマルガルト公爵家を立ち上げる条件の1つに、現皇帝の妹を家に引き取る事が決められていたのは関係者のみが知る秘密事項である。


 ベータシア伯爵家の武官という立場が無くなったシンは、日常の仕事が無い立場になった。今のシンは、毎日が休日みたいなものであるので、皇帝に申請を出した上で引っ越しのためにベータシア星系へと向かったのだった。


 ベータシア星系主星に到着したシンは、以前と同様に海上へとサンゴウを着水待機させた。そして20m級で自宅へと向かい、到着する。

 事前連絡により、荷造りが終了していたため、ロウジュら一同は直ぐに20m級へと乗り込む。シンはその間にさっさと荷物と自宅を影魔法に入れる様に見せかけながら、収納空間に放り込んだのだった。

 そして、見送りに来ていたベータシア伯爵夫妻、執事のスチャン、養子に出された我が子に別れの挨拶をして、シンは20m級で飛び立つのであった。


 シルクが身重であるため、通常よりも速度控えめでギアルファ星系へと向かう。速度を落としたことで、貰えるお小遣いが増えたのは些細な事である。お財布が寄って来るのだから仕方ないね!


「サンゴウ。子供達と遊んでいる、あの子竜は何処から出てきたんだ?」


「はい。艦長から以前にいただいた、ドラゴンの中から出てきた石のような物を解析し続けていたのですが、それが今日になってあのように変化しました。言葉も理解できるようなので子供の相手をしてもらっています」


「は?」


「今日になってあのように変化しました」


「いや待て。何を言ってるのかわからない」


 シンが勇者をしていた世界に置ける、魔物が生まれる条件というものは、核となる物が長期間高濃度の魔力に晒されることである。これはダンジョン内では起こりやすく、ダンジョン外でも人が住まない場所ではそれなりに起こる現象となる。

 人が住んでいる場所は、元々魔力が凄く濃い場所は選ばれることが少ない上に、魔力が使われることが多いため、高濃度を保ちにくい。故に魔物が生まれにくいのである。


 そして、サンゴウは今、ほぼ常時シンの魔力供給を受けている。そのサンゴウが解析しているという事は魔石に触れているという事であり、即ちそれは高濃度の魔力に晒される事と同じである。そして核となったのがドラゴンの魔石であったため、子竜となって生まれてしまったのだった。


 竜族は元々の知能が高い上に、勘が鋭い。そして、本能的に実力差を感じ取ることが出来るため、シンとサンゴウを生まれて即座に上位者として認めたことで、そのシンの関係者を襲うようなこともなく、子供と遊んでいるのが今の現状だったりする。

 結果的に、敵意も叛意も感じられない従順な子竜は可愛いものであり、まぁいいかとシンは受け入れてしまうのである。 


 そして、受け入れてしまったシンは、帝国では所有ペットの登録とか必要あるのかを後でロウジュかシルクにでも確認しないとな! もし、あったとしたらドラゴンの登録なんて出来るのかな? などと割とどうでもいい事を考えていた。

  

 こうして、新たなペットを得たシンは、のんびりと帝都へ向かう。


 子竜に名前を付けなければなぁ、どんなのにしようか? と悩んでしまうシンなのだった。

  

  

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