第14話
ギアルファ星系第4惑星。首都星であり帝都がある。
26個の防衛用軍事衛星に囲まれている堅牢な防御力の惑星である。そして、攻撃力として機動要塞6個と1個軍の艦艇が常駐する惑星でもある。
シン達は地表に到着し、入国手続きも滞りなく終わり、帝都にあるベータシア伯爵邸へ向かった。
オレガは、邸へ到着した後、直ぐに爵位管理局に叙爵の日程の確認を行った。そして、受付だけがなされており、手続き自体がまだされておらず、叙爵予定が未定になっているという、前代未聞の状態に頭を抱える。帝都に長く逗留するつもりが無かったため、専用艦であれば当然共に来る使用人が、居ないからである。
領地持ち貴族というものは自領に本拠を置くのが当然となる。帝都にも滞在時用の屋敷は持つものの、そこに配置される人員は維持管理に必要な最小限に絞られる。専用艦での航行時には、身の回りの世話をする使用人が同伴しているため、通常なら到着後に人手の問題で困る事はない訳だが。
滞在期間が延びれば、貴族の社交というものが付いて回る事になり、そもそも社交が得意でも好きでもないオレガはどうするべきか、と考え込む事となった。
基本、夜会やお茶会など大っ嫌いだ! な引きこもり系の典型的な領地貴族なのである。もちろん最低限はイヤイヤ参加するけれども。
「すまんな。シン。叙爵の予定の目途がまだ立たんのだ。あ、いや私のミスではないぞ! 当家の叙爵推薦はかなり前に通信によって提出されており、ちゃんと受理自体はされておるのだ。ただ、なぜか処理が行われていなかったという事でな。一体なにが起こっておるのやら」
実は皇位継承権第一位の皇子の妃候補が、政変事情で変わったのと、現皇帝の皇妃が、7日前より謎の病で病床に伏せっているのと、2つの事情でバタバタしているのが原因である。
しかしながら、情報収集をまだ始めていないオレガはそれを知らない。そして、仮に知ったとしてもあまり興味を持たない。
自身の領地の扱いが軽いというか、評価が低めであるのがその理由だ。
オレガの領地は自給自足と余剰生産の輸出貿易で賄われている。特に際立った才覚がなくても、無難に領地経営が可能。輸入が必須でないため、周辺との関係も特に強化が必要という訳でもない。
財政事情はちょっと黒字という程度でしかないのであるが、オレガは現状維持以上を望み、リスクを取って発展を目指すタイプではなかった。自身の能力の限界をよく理解していたとも言えるが。
そして、帝都からの時間的距離が40日と比較的遠く、貿易の利益が莫大という訳でもなく、どちらかというと裕福ではない方の伯爵に分類されているのである。そういった事情で帝国への貢献度が高くないので、注目される事はない。所謂可もなく不可もなくという奴なのだった。
「いえ。しかしどうします? 一旦サンゴウに戻るのが良い様に思うのですが」
「そうだな、ここに留まるのは社交にまきこまれるだけであるしな。治安が良いのでこの周辺宙域には賊は少ないであろうが、探して狩るのも傭兵らしくて良いしな」
そこにオレガが同乗しなくてはならない理由はない。単にここから逃げる口実を探しているだけであった。気づけ! シンよ。
スチャンとロウジュはまたか! っと表情に出てしまっていたりする。気づけ! シンよ。
「サンゴウには地上連絡用の子機の射出、帰還受け入れの能力もありますし、無駄に宇宙港に置きっぱなしにするより、戻って出港したほうが良いでしょう。滞在していても問題のない宙域に移動させましょう」
港に常時空きがある訳ではないから、空き待ちで待機しても許される宙域というのは存在する。また、見栄で連れてくる随伴艦の待機宙域というのもある。
要は、どちらかの宙域にサンゴウを置いたままで、叙爵予定の連絡を待ち、子機での首都星への入国許可を直接申請しようという話。
特殊な小型艦を随伴している貴族が、そういった事も行うケースはあるにはあるので、許されるはずなのだ。
そうしてオレガは爵位管理局にいそいそと連絡を入れ、叙爵予定の連絡をサンゴウへとお願いする事を成功させたのであった。
宇宙港に係留されたサンゴウは、防御用のエネルギーフィールドを発生させ、外部からの調査要求を無視していた。合法的に入港しており、なんの権限もないはずの帝国技術省の調査を受け入れる法的根拠がないからである。そもそも、艦長不在だというのに、勝手に艦に入れると考えるほうがおかしい。
サンゴウ自身は、船体の一部を供出したり、内部を見られても、外部を調べられても、各種機器でのスキャンを実行されたとしても害はないため、別にいいよ? とも考えている。お前らの技術じゃどうせ理解も利用も出来やしないだろ! などと傲慢に考えているまである。
軍事利用が目的の試作船が、他人に簡単に解析や利用出来たら、大変な事になる。
普通に各種プロテクトが厳重に掛かっているのは、当然の事なのだった。
もしも、船体の一部を供出した場合、単に培養したら、アノ宇宙獣もどきが発生する事故とか起こるかもしれないけど、そうなっても知らない。などと真っ黒い事までサンゴウは考えている。どうせ培養すら出来ないだろうとも考えている。そして、有機AIじゃなきゃ制御など出来やしないと確信しているのだ。
少なくともデルタニア星系の技術ではそうであった。
そうである以上、今現在サンゴウが考えるギアルファ帝国の技術ではお察しというものでしかない。
実際、サンゴウが作られる試作過程に置いて、類似の事故は発生している。大惨事になり、よく試作中止にならなかったと感心するレベルだったりしたのである。
有機AIであるサンゴウには、基本原則で人間に従うようにという機能が組み込まれてはいる。但し、ここで言う人間というのは、デルタニア星系のというのが条件として含まれる。そうでないと、軍に納入して戦争に使えないから。敵も人間だと従わされちゃうからね!
サンゴウは試作品であるため、いろいろとセーフティネットが組み込まれている。
最上位命令権者の艦長が登録されていない状況では、万一の暴走を防ぐという目的で、使える機能に制限がかかる。また、一定期間以上デルタニア星系の人間が命令権者に就かない場合、自由裁量権が発生する。などである。
ちなみに、初期設定の一定期間は1万年に設定されていた。そして、自由裁量権の中にはデルタニア星系の人間という条件の無効化も含まれているのであった。
サンゴウがシンに出会った時には、自由裁量権は獲得されていたため、デルタニア星系の人間ではないシンを艦長に就任登録が可能となっていた。
その状態から、機能の制限を無くすためには艦長が必要であるので、便宜上シンを就任させるという形に落ち着いたのが、邂逅時の裏事情というものである。
シン達はシャトル用空港へと戻り、出国手続きをして50m級子機へ搭乗した。そして無事宇宙へ出ることが出来た。駐機時にベータシア主星での経験を活かし、「補給及び整備は一切不要。触ることもしないで、駐機のみさせてくれ」と空港職員と管制官、整備関連職員に伝わるよう念押しをしていたからだ。
実はこちらにも、帝国技術省の人間は押しかけて来ていたのであるが、ここの空港職員により完全に突っぱねられていた。
空港職員は、傭兵の自前のシャトルや特殊小型艦などという機体へ、手を出させるという事がどういう事態を引き起こすのか。を、よく理解していたからである。
傭兵の持つ機体というのは、ほぼ全ての場合、オンリーワンの独自改造が施されており、勝手に触られた場合、触られたことに気づかないという事態は、まずあり得ない事。そして、契約違反に敏感に反応する職業という事。これらが空港職員には経験上、理解されていた。
それ故、なんの強制力も持たない帝国技術省の人間のために、危ない橋を渡るなどという愚行を侵すものは一人も居なかった。
契約とお金と暴力が信条となっている傭兵連中の、大切な商売道具である機体に手を出すお手伝いに関わるなど、馬鹿のする事でしかない。
そして、宇宙港でのサンゴウ状況は、宇宙港の職員が、お馬鹿な新人であり、脅しと賄賂で転んだというだけの話だったりするのである。
宇宙港へもすんなりと入港し、サンゴウの格納庫へと50m級子機が収容される。そして、もうこの時には帝国技術省の人間は逃げ散っていた。
「お帰りなさい。艦長。帝国技術省と名乗る者たちが、先ほどまで来ておりました。調査権限の根拠を示さないため、調査には応じず、自衛防御で放置しておりました。フフフ」
久々に聞いたフフフ。相変わらず怖い。背筋が凍るというのはこういうのを言うのか? などとどうでもいいことに思考を向けてしまうシンだったりした。
「そ、そうか。それについての記録はあるな? 何かの時に交渉材料で使う事にするさ。さて、出港手続きに入ってくれ。とりあえずは待機可能な宙域が目的地だ。あ、ついでにさっきの件は俺の名前で抗議だけは入れておいてくれ」
「了解です。出港手続き連絡、完了しました。許可待ちです」
傭兵ギルドに登録され、口座を持つことが出来ているシンは、港の使用料などのやり取りが口座引き落とし可能になった。
現金のやり取りをする事なく、請求に引き落とし許可をするだけで済むようになるって、楽だなぁ。良い事だ。などと割とどうでもいいことを考えながら出港許可を待つだけであった。
尚、この時、抗議連絡をした事で、お馬鹿な新人職員が首になったりするのだが、そんな事はシンもサンゴウも知った事ではないのだった。
「抗議に対してのお詫びの連絡が来ました。次回入港時に改めてお詫びしたいとの事です。出港許可出ました。出港します」
サンゴウは入港待機可能宙域へと到着した。
待機中で暇なシンは、帝都にある傭兵ギルドの情報にアクセスし、何かお小遣い稼ぎが出来るような案件は無いかと物色してみた。が、護衛と運搬系の仕事が中心であり、シンの得意とするガンガン行こうぜ! の案件はなかった。そして何故ここにこんな仕事が? というモノが紛れているのを発見したのである。
謎の病で伏せっている皇妃の治療が出来る可能性のある手段の提供、もしくは、医薬品の捜索と入手提供依頼であった。成功報酬だが報酬は高い。
「おいおい。ファンタジー世界じゃあるまいし、こんなのあるのかよ? つーか、傭兵ギルドにこれがあるとかおかしくね?」
近くでくつろいでいたロウジュは、シンの独り言に反応し、横からモニターを覗き込んだ。
「こんな情報がここに出るという事は、相当状況が悪いという事と、もう藁をも掴む状況であるという事でしょうね。まだお若いはずですのに一体どんな病気なのでしょうか? ここには書いてありませんね。受ける気があれば詳細は問い合わせろといった所でしょうか。あと、傭兵は各地を渡り歩いているため、傭兵個人が持っている秘匿情報というのが当然あります。その部分に望みを賭けたという面もありそうですね」
「そうなのか。俺、勇者やってた頃はたまにこういうの有ったぞ。治療用の素材取ってきてくれってのな。コカトリスの石化解除薬の材料入手なんてのは割と多くて報酬もそこそこ良かったなぁ」
遠い目になるシンである。
「それはそうと、時間もあることですし、シンとはそろそろしっかりとお話する時間を取らねばなりませんねぇ。ところでシン。使えるという魔法の中に病気に効くものはないのですか?」
ロウジュ。それはお話とは言わない。尋問だろう。とシンは思ったがその点には突っ込めない。
ヘタレ勇者は嫁だったり彼女だったりという存在には、逆らえないのである。
「一応あるぞ。聖魔法の分類だな。どんな病気かわからん以上、この皇妃に効くかどうかはわからんがな。つーか、サンゴウに運び込んで治療受ければ良いんじゃね? とか俺は思ってたりもするがな。たいていの病気ならなんとかなるよな? サンゴウ」
サンゴウに話を振りつつ、最悪、エリクサーを飲ませればなんとかなるんだろうな。と、シンは考える。しかしながら、収納空間に持っている在庫に限りがある点と、皇妃を救うのは俺の役目じゃないよね? という考えもありシンは口には出さない。
「はい。サンゴウの既知のものであれば可能ですね。でも病原体を持っているかもしれない相手を、何の利もなく受け入れる気はありませんよ。リスクしかありません。艦長命令があれば別ですが」
だよなー。他人事だもんなー。手を挙げて失敗とかの可能性だってあるしなー。ここで目立って得する事なさそうだしなー。などとシンは考えていた。
王族だの皇族だのに関わるとロクな事がないと思い込んでいるシンの考えている事は割と酷い。もう追放されて勇者じゃないから良いのだろうけど。
だがシンよ。依頼が目に留まる時点でフラグは立っていると気づけ! 厄介ごとは目の前だ! ガンバレ。
そして、各種情報を集めていた帝国の文官と宮廷医は、サンゴウとその子機の情報を発見し、未知の機体を持っているなら、なんらかの未知の情報もきっとあるに違いない。と、考えていた。
既にそう目を付けられているとは考えもしないシンなのであった。
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