第15話
ギアルファ星系第4惑星周辺宙域。首都星周辺の宙域であり、艦船は多い。
帝都に一時的に滞在中である領地持ち貴族の随伴艦も多く、その規模により、見栄と見栄がぶつかり合う場でもある。
そんな中、見栄よりも懐具合を優先したオレガは、サンゴウで来た自分の決断を自ら褒めていた。飯は美味い。設備は快適。執務がない。ここより良い艦なんてない! 見栄張らなくて良かった。本気でそう思っていたのである。貴族は見栄も大事だろ!
ロウジュはシンとゆっくりとお話をしようとしていた。お話という名目の、実態は尋問である。しかし、間が悪いというかなんというか、シンへと通信が入り、それが開始されるのは今ではなくなっていた。
「艦長。傭兵ギルドから通信です。繋いでよろしいですか?」
「ああ。繋いでくれ。一体なんだろうな?」
14話で盛大にフラグ立てておいて「なんだろうな?」はない。
「帝都傭兵ギルド、ギルドマスターのマスギル・ドルギルだ。初めまして。よろしくな。『今まで見たこともないような、見慣れないシャトルと艦を持った傭兵と指名依頼前提の話し合いがしたい』という話が来てな。調べたら該当がお前さんくらいだったので連絡をした」
「初めまして。シンです。よろしくお願いします。そうですか。話し合いについてはお断りしたいと思います。断ることは出来るのですよね?」
相手が誰だかわからないけどこういう艦とシャトル持った奴と話がしたい。などと言われて「OK! 話し合おうじゃないか」となる訳がない。
勇者時代で言えばこういう装備やアイテムを持ってる奴紹介してくれ。話があるから。ってのと同じであり、そういう輩は大概がそれら狙いの人間である。
入手手段については、穏便な相手であれば買取、そうでない相手だと権力などを振りかざしての自主的に差し出せ系、あとは強奪系。選ぶ手段には差があるが、話を持ってこられる側としてはどれでも不快であり、大差はないとも言える。
つまるところ、どう転んでもいい話し合いになるハズがないのだからお断り一択である。
「もちろんだ。傭兵ギルドは強制依頼などという物はないからな。では断っておく。あと言葉遣いは普段の感じでいいぞ。そう丁寧になることもないさ。傭兵なんてそんなもんだ。ああ今の話とは関係ないが、せっかく帝都に来たんだ。帝都のギルドの仕事を少しはやってくれよ。もちろんこれも強制じゃない。単なるお願いだ」
「あー。じゃ言葉遣いはそうさせてもらう。実はさっきまで稼ぎがいいのはないかと物色してた。が、得意な賊を狩る系のがなくてね。護衛や運搬は受けてる時間がないんだよ。拘束時間が長くなるからな。ああそうだ。目に留まったのに病気の治療のがあったな。詳細がないからこんなの受ける奴いるのかね? なんて思ったが」
シンよ。そうやってフラグを立てに行くんじゃない。物語的には立てて貰わないと困るが。
「お? アレに興味あるのか? アレは多少なりとも、やれそうな自信がある傭兵か、ギルド側でこいつなら大丈夫だろって判断した傭兵にしか詳細は明かさないって条件が付いてる奴だ。興味あるならシンには開示してもいいぞ」
マスギルはシンと会話しながら、さっきの話し合い相手もこの件の相手なんだが、こいつわかってんのかね? と考えていた。守秘義務があるから言わないけれど。
傭兵ギルドとしては、逆にシンの情報も相手側には渡していない。こういう所の管理はちゃんとしてるのである。
「いや。いい。珍しくて目に留まったってだけだからな」
「そうか。いきなり上級にランク付けされるような実力の傭兵さんなら、こういう特殊なのでも出来るんじゃないかとも思ったんだが。ま、普通は出来ないよな。すまんすまん」
ちょっと煽ってみるマスギルである。
「おっと。煽ってやらせようってか。小細工するねぇ」
「バレたか。ま、最終的には受ける受けないは傭兵側の判断での自己責任だからな。仕事の消化が目的のギルドとしては、『なんとか受けて貰えんか?』位の小細工はするさ」
「なるほどねぇ。そりゃ立場から行けばそうなるよな。傭兵側にだってメリットはあるから持ちつ持たれつってとこか。ところでな、俺が昔居た所にあった娯楽の物語で俺が真似してみたいセリフってのを思い出したわ。煽った相手に乗せられて『で、できらぁ』って言わされちゃうやつな」
話していてちょっと乗っかってやってもいいかと心変わりしたシンである。皇族案件に関わりたくない気持ちはある。すごくある。しかし、こうして「受けて貰えないかなー」な感じで話をされると何とか出来る物ならしてやろうかな? 位に流されてしまうのだ。結局、流され系巻き込まれ体質であり、首を突っ込みたくなるのも勇者の習性なのであろうか。
「という訳で言わせてもらおう。『で、できらぁ!』ってことで詳細情報開示してくれや」
「面白い奴だな。シン。まぁ助かるよ。で、依頼の詳細だな。手と足の先からな、だんだん黒く染まって変質していくんだ。一定以上大きくなると速度が上がるようでな、その、速度を遅くするために染まった部分を切り落としてるらしい。切り落とした部分が人体に直接付着すると癒着して同じ症状なるようでな。最初に癒着された者は手首から先を切り落としたそうだ。今は全て超高温で焼却処分されているよ。あとは報酬。経費については全額負担する気はあるが青天井でも困るため相談で決定。成功報酬は別で1000億エンだ」
聞きたいことは聞けた。シンも見たことも聞いたこともない奇病である。そして、サンゴウに確認を取ることにする。
「ギルドマスター。ちょっとこのまま待ってて欲しい。数分で済むけれど確認したいことがあるんだ。内輪の話なんで、ちょっと音声は切らせて貰う」
サンゴウは艦長の会話内容を受けて通信の音声をカットし、その旨をモニターに表示した。優秀なAIはこういう細かな仕事もさらりと行う。
「サンゴウ聞いてたな? どうだ? なんかわかるか?」
「はい。艦長が殲滅させて駆除したアレの卵に寄生された状態の症状と酷似していると判断しました。心臓の部分に擬態して癒着し、末端から乗っ取る形で成長するのですよ。寄生先から出来るだけ長く栄養というか、エネルギーを得るための習性のようですね。長く生かして搾り取るって奴です。アレは通常分裂で増えるため、滅多に卵を産むことはないのですが、稀にそういう個体が出現するのです。ただおかしいですね。経口摂取でもしない限り寄生されることはないハズですが。治療については、デルタニア軍での成功例が1例。手足完全切断で動脈で血液の体外循環に切り替え、心臓を大出力レーザーで吹き飛ばし人工心臓へ置換。後日再生した心臓を移植。手足については義手義足です。ある意味超乱暴な人工心臓移植手術と言えるでしょうか」
手足無しで生きてるだけ。は、治療したことになるのか疑問ではある。「生きてるからいいじゃん」と言われればそれまでだが。
「なんとも悲惨な成功例だな。で、だ。サンゴウなら可能なのか?」
「はい。出来なくはないです。船内で行う再生治療で1か月ほどかけて良いのであれば可能ですが、お勧めはしません。義手義足にした。と言いましたよね。再生治療は可能なのですけれど、意識がある状態でないと再生が上手くいかないのです。しかし、意識がある状態で手足の再生を行うと精神に異常が出るのです。指くらいならなんとかなるのですけどね。あと再生移植は心臓で自己細胞を使っても3割くらいの成功率でした。失敗なら人工心臓生活ですね。手足については再生移植の成功例はありません」
「つまり、心臓だけ人工心臓で生かすとこまでは出来るってことでいいか? 手足再生は無視で」
「はい。そうです。ですが、艦長の能力なら出来ますよね? デタラメな再生魔法ありますものね」
「だな。そして、デタラメ言うな! 今聞いた限りでは心臓の話だけが問題なんだが、サンゴウなら全部ではなく擬態部分を特定出来たりしないか?」
「出来る可能性はあります。やってみないとわかりません」
方向性は決まった。「できらぁ!」である。条件は付くけれども。そうしてマスギルに話を戻すシンなのである。
「待たせたな。結論から言う。『で、できらぁ!』だ。症状からコレと思われるモノの特定はした。だが、実際に調べてみないと確定情報ではない。そして特定したモノと調べた結果が合致した場合、治療法はある。合致しなかった場合は治療の確約は出来んがやれることは試す。但し、その治療はこの艦内のみでしか行うことは出来ない。そして患者以外の乗艦と治療法の説明は無し。これは、事前だけでなく事後でもだ。提示した条件が守られるならこの件は出来る。あ、調べるのもこの艦でしか出来ないからそこんとこもよろしく」
言って見たかっただけのセリフを再度言ってみるシンである。ポンコツ勇者だから仕方ないね!
「そうか。では依頼主にそのように伝える。ただなぁ、それ、『その艦まで今の皇妃の状態で行けるのか?』と、俺には思えるのだが」
「ああ。その問題があるのか。ならサービスだ。後宮付近で50m級のシャトルが駐機できるスペースさえあれば迎えもこちらでやる。垂直離着するからスペースだけあれば良い。但し、その時点から皇妃のみだ。同乗者はお断りする」
「それはまたすごい性能のシャトル持っているもんだな。それも合わせて伝える。ああついでだ。時間的にはいつ以降なら出来るんだ? あと経費はどの位かかる?」
もう、皇妃側の治療団は丸呑みするしかないだろうと、条件の詰めまで確認するマスギルは、ギルドマスターとして有能なのであろう。
「時間は、”50m級の駐機スペースの場所の連絡を貰ってから”を起点として、こちらの準備と後宮周辺への到着までで余裕を見ても2時間だ。実際はもう少しばかり早くなると思う。経費は最大でも1000億エンは超えない。最大値で覚悟して貰えばその範囲内で納める。で、良いか? あと万一治療不可だった場合は、移動費用の相場分だけで良い」
「そうか。わかった。先方が判断に必要な材料は最低限は揃ったと思う。丸呑みで受けるしかないだろうから、もう準備に入ってくれ。ではまた連絡する」
こうして、マスギルとの通信は終わった。
シンは、関わるとロクなことがないってわかってたハズなのに、”ついついノリと勢いで受けちまったな”と、少しばかり反省もしている。が、”強要されたことではなく、自ら選んでいるのでまぁいいか”とも思っている。
そして、”いざどうしてもとなればロウジュだけでも掻っ攫って逃げる。お義父さんには悪いがな”とまで現時点で考えているシンの内心は、誰にも知られない方が平和であろう。
マスギルとの会話が始まった時点で、そっと艦橋を離れたロウジュとオレガ、スチャン、アルラ、ジルファを集め、皇妃をサンゴウに連れてきて治療する事を伝えた。
特に、アルラとジルファには、「皇妃に随伴が居ないので負担があると思うがよろしく頼む」と頭を下げたシンだった。主はオレガであるので、「必要になったら彼女らの手をお借りします」と、こちらにも頭を下げるシンである。
一連の全てを聞いていたサンゴウは、50m級子機の格納場所の直ぐ近くに、検疫と治療が行える部屋と設備を整えていた。特に指示が出されなくても、さっさと準備が出来るサンゴウは抜けてるところがあるシンには必要な相棒なのであろう。
マスギルから連絡を受けた宮廷側は、「こんな条件を呑めるか!」と一旦はなったものの、他に治療のあてがある訳でもない。そして、条件を受け入れるかどうかの最終判断を皇帝に委ねたのである。
「話はわかった。他に方法がないのならば、条件を受け入れるか、ローラを見殺しにするかしかないではないか! それでローラが助かるというのなら条件は受け入れろ! 但し、軍の監視艦艇は出せ! 監視を出すことはちゃんとその傭兵に伝えるのを忘れるなよ?」
こうして宮廷での話が決まり、マスギル経由でシンに話が伝わった。
監視が来るのは、シンの皇妃を連れての逃亡の可能性を考えれば、拒否するほど相手の心情がわからないシンではない。なのでその件は受け入れるのである。むろん、良い気分はしないけれども。
そして、お迎えドーン! から、サンゴウへ搬送、その後の治療と進んでいって手足の再生も含めて完治させることが出来た。
症状はサンゴウの予想通りであり、寄生部位の特定も出来たため、心臓丸ごと吹き飛ばすなんて事もなかった。
そうして、無事治療が済んだのである。搬送後、僅か30分での出来事であった。
「艦長。デタラメすぎませんか?」
「だから、デタラメ言うなし!」
お約束の会話である。
「生体反応レベルは上昇中。意識の覚醒まで数分といったところでしょうか。ところで艦長。経費の請求ってどうするんです?」
「それは後でゆっくり決める。それはそれとして、治療は完璧だと思うが念のために1日くらいは様子見るか? 直ぐ送り届けても問題はないハズだが」
「そうですね。それくらいは経過観察ということで。その方が無難だと考えます。宮廷側は治療がこんな短い時間で完了するとは想定していないでしょうしね」
こうして、ローラの最低1日の艦内生活は決定された。
皇妃の名前を知ったシンは、日本のとあるゲームを思い出した。そして、「姫じゃないんかい!」と、心の中でツッコミを入れたシンなのであった。
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