第13話

 ベータシア星系の第13惑星。食料生産惑星である。日本人の感覚で言えば穀倉地帯と表現すればそれなりに正しいものであるかもしれない。


 サンゴウのモニターには、荒涼とした砂礫砂漠と表現するような映像が延々と映っていた。


「おいおい。駆除した時は、宇宙空間で集めて殲滅したから、わざわざ惑星の地表のチェックまではしてなかったが、これは」


 シンは絶句状態となっていた。

 なんとなく”植物の種蒔いて成長促進魔法でドーン! からの、緑でいっぱい。夢の国?”を想定して来てみれば、淡水、海水すらない荒野である。


「まぁいいか。ロウジュ。元の状態がどんなだったかの資料ってのはあるのか?」


「惑星内全域地図、様々な動画映像記録、衛星軌道からの衛星写真データ。そういったものは一応用意してあります。それから種子とどの地域にどれを蒔くかを大まかに指定してある資料もありますよ」


 サンゴウはそのデータを受け取るとすぐに情報の取捨選択を始める。シン自身も一応目は通すのだが、後でいい感じに纏めてもらったものをデータとして直接流し込んでもらおうなどと考えている。それは、前にサンゴウの性能を知るために行われたアレなのだった。

 片や、サンゴウの方でも、シンから何も言われなくてもそうするつもりで準備を始めていた。

 二人? の息はバッチリ合っている。阿吽の呼吸なのである。


 生活圏が宇宙に広がり、恒星間航行が当たり前になっている時代、植物への改良は進んでいる。

 シンの感覚だと”受粉用の虫とか必要じゃね?”となるのだが、それは違う。

 勝手に突然変異やら進化やらされては困るので、人工的に作られるクローンのように全く同じ遺伝子のままで、栽培が可能になっているのであった。

 受粉用の虫が必要などという面倒な部分は、とっくの昔に品種改良により克服されていた。

 そして、サンゴウほどの性能はないが、有機物としてある程度成分抽出して、再合成するような工場もあるという技術進度なのである。

 これは、致命的な病気が作物に発生した場合、その場のその種は全滅というリスクもあるような状態なのだが、種類の分散、育成場所の分散でリスク回避を行っているのだった。


 もちろん、局地的に全滅するような事態も過去には起きているのだが、その都度、原因究明と耐性を獲得するような品種改良を行っており、そういった期間が3000年以上の長期に渡って続いている。

 結果的に、今現在は、そう心配するようなことではなくなっているという現状だったりする。

 ”水と適度な肥料と光、もしくは光に代わるものを生み出すエネルギー”さえ豊富にあれば、農地で量産可能なのである。


 サンゴウからデータを流し込まれて受け取ったシンは、”まずは水源の回復からだな”と考えた。そして、衛星軌道上に留まるサンゴウから海と湖、川などの水場にする場所の選定を行っていた。


 格納庫にある50m級には地表出発前に空港で種子が積み込みがされており、現在もそのままとなっている。

 ロウジュは”シンが50m級に乗って地表を目指す”と思い込んでいた。そして、それは間違いだったのである。


「さて、ある程度場所の当たりは付けたから、まずは一度、水を元の状態っぽくしてくる。では行って来るので留守番よろしくな。サンゴウ、ロウジュ、ジルファ」


「はい。艦長。いってらっしゃい」


 そうしてシンは短距離転移の連続で移動し、水魔法使用した。水を生み出し、ばら撒いたのである。

 ”何を言ってるのかわからない”という表情で、ポカンとしているロウジュとジルファを操船艦橋に置き去りにしたままで。


 シンはサンゴウに衛星軌道上から観測してもらい、通信で水量の確認と調整を行うこと2時間。第13惑星は水の星へと変貌した。魔力量に任せた水魔法無双だ。

 但し、そうして作り出された海は、塩分濃度が元の状態よりかなり低い。

 これは宇宙獣が塩分を食べてしまった分があるので、仕方がない。

 ここまでやって、シンはサンゴウに一度戻ったのであった。


「ただいま。サンゴウ。塩分調整はそこらの小惑星から材料を分捕ってきて調整出来るよな?」


「はい。艦長。そうですね。24時間ほどかかりますがよろしいですか?」


 シンはサンゴウの性能についてある程度理解しているので、このような話が流れるように進んでいく。隔離された部屋で恒例の滅菌処理中の会話である。


 操船艦橋に戻ったシンは、ロウジュとジルファからジトっとした視線で出迎えられた。


「シン。あんなことが出来るなんて聞いてないんですけど」


「え? ちゃんと言ったじゃん。俺、勇者だって」


「それって、冗談とか、比喩の話じゃなかったのね。まぁ良いです。時間が取れる時に全て全部まるっとオール丸ごと何が出来るのか教えてもらいますからね?」


 ちょっと混乱して、言葉遣いがおかしくなっているロウジュなのである。


「この後はどうやるのですか?」


「んー。戻る直前に海だったと思われるところで海水舐めてみたんだが、すごい薄いんだよね。その、塩気がさ。だからサンゴウにちょちょいとやって貰うために戻ってきた。で、俺はサンゴウがその作業してる間に、持ってきた種子を蒔いて成長促進の魔法を」


「魔法! 魔法って言った! 魔法使いなんておとぎ話の世界にしか居ませんよ?」


 シンの言葉を遮り、”私ちょっと怒ってるんだからね?”って表情のロウジュであった。

 それを見て、”美人がやると可愛い”などとシンは思ってしまうのだが。


 指摘された魔法については、”前に影魔法使ったり、短距離転移やシールド魔法も披露自体はしているんだけどな”と思ったシンだった。が、そういえば、魔法だと説明した記憶は無かったシン。だって聞かれなかったし!


 ロウジュらはロウジュらで、シンは特殊な技能を持っているが話せないのだろうと思い込んでいたのである。当時、「移動手段と物資の輸送については、俺に一任。でいいか?」と、シンに確認で言われたのがその思い込みの理由であった。


「まぁともかく俺は勇者やってていろんなことが出来る。魔法も使える。OK?」


 結婚するんだし、もういろいろバレるの時間の問題だろうし、と既にシンは開き直ってしまっていたりする。

 そして、サンゴウも主星では隠した大気圏降下能力や離脱能力、大気圏内での飛行能力も自重せずに見せつけるつもりであった。そうしないと塩分調整なんて出来ないので。

 シンから頼まれたということは、見せちゃっていい。サンゴウはそういうことだと考えていたのだった。


 そんなこんなで、その後24時間が経過する。サンゴウは海水の調整を完了し、シンはいい感じに緑化と農地化と成長促進を完了させる。3日後以降からは収穫が出来るレベルである。


 シンは、主星に戻る前に、ロウジュ達にはまだ見せていない格納庫部分で、希少な高価格のインゴットを収納空間から出しておく。これは結納代わり分で伯爵に納品する分となる。

 開き直ったハズであるのに、”収納空間魔法だけはまだ見せちゃいけない”とシンは考えている。

 シンの判断基準は謎であるが、直感的なコトであるのでそういうモノなのである。まぁいずれ明かすし、バレるであろうが。


 そうして、シン達は主星へと戻ってきた。帰路の間にサンゴウの性能申告書をロウジュにダメ出しされながらもいい感じに仕上げ、艦籍コード登録の準備も終えることが出来たのであった。

 登録は船籍コードではなく、艦籍コードである。但し、正式にどこかの軍に所属しているわけではないので、傭兵の艦扱いでの登録となる。少なくとも現時点では。


 今更の話であるが、サンゴウは有機AI生体宇宙船試作3号機である。


 試作品であり軍に納入されるかどうかも不明な状態で、最終的には軍艦の正式量産タイプを目指したモノとして作られた。

 試験航宙において、航路の情報を売り飛ばした裏切り者が居たため、攻撃を受け大破漂流することになった。

 その試験航宙で、デルタニア宇宙軍が艦長を送り込んで仮登録したため、サンゴウの認識では自身は生体宇宙”船”であるのだが、最高責任者登録は船長ではなく、艦長で固定になってしまっているのであった。ほんと割とどうでもいい裏設定である。


 攻撃力的に軍艦であるので、シンからすると心情としては艦扱いなのであり、心の中でサンゴウの事を考えるときは、艦として考えてしまうのである。艦長って呼ばれるしね!

 サンゴウとしては、どちらでもいいことであるので、特にこだわりはしないのだが、傍から見ると”艦”だけど自称”船”というちょっと不思議な状態になってしまっていたりする。が、既に登録で固定されており、変更の必要性がないので放置されているのであった。


 同伴艦を派遣して貰って一旦入港し、手続きを経て、ついに艦籍コードが発行された。コードはBFF9999999Zが割り当てられた。BベータシアFフォース(軍)Fフリー(傭兵)である。将来的に所属が変わる可能性が高いと判断され、欠番登録に切り替わってもいいように末尾の物が当てられることとなった。


 こうして、サンゴウは今後は問題なく単艦で入出港が出来るようになった。ようやくである。


 宇宙港で結納品相当であるインゴットの引き渡しが滞りなく行われた。そして、出港し、衛星軌道でサンゴウは待機に入る。

 シン達は50m級にてシャトル用空港へと向かった。”面倒なので伯爵邸の広い庭にでも着陸したいのだがなぁ”などと不埒なことも考えてしまうシンだったりする。


 伯爵邸で一連の報告を行い、今後の見通しも明るくなったオレガは、感動でシンに抱きつこうとしたほどである。ロウジュがしっかりとガードし、阻止したけれど。


 オレガは第12惑星と第13惑星の復興指示を次々と各所に出し、政務を片付けるのに2日を必要とした。

 それとは別で叙爵推薦の申請手続きは既に済んでおり、オレガは叙爵式への出発準備をしなくてはならなくなったのだった。


 そして、この2日の間に、シンは伯爵からの勲章の受け取りと帝国傭兵ギルドへの登録も済ませている。勲章の受け取りが急がれたのは、傭兵ギルドでの登録免許を見習いから始めず飛び級させるためだ。

 ランク分けは見習い、初級、中級、上級、特級となっており、初級、中級、上級は内部で更に上中下で分けられる。見習いの次は初級の下となり、ランク初級下といった具合になっている。

 シンの場合は勲章を持っていることで、退役軍人扱いとなり、勲章が最上級の物であったため上級下が発行された。身分証もゲットだ。

 

 ギアルファ銀河帝国。ギアルファ銀河の4割ほどを支配領域に置いている帝国である。


 ちなみに、ギアルファ銀河の残り6割のうちの半分、約3割が自由民主同盟という星系国家の集合体。字面通り政治形態が異なるため非常に仲が悪く、ほぼ常時戦争状態でもある。そしてもう半分の約3割が未開拓の領域となっている。


 オレガは推薦人であるので、叙爵式に立ち会わねばならない。したがって、シンを伴って帝国の首都星系である、ギアルファ星系第4惑星へと行くことが必須だ。

 問題は”どうやって行くか?”である。

 通常であれば、護衛の軍を伴って伯爵専用艦で行く。航程として片道40日となる。

 その場合、護衛の軍が所謂随伴艦になるのだが、その数というか規模が権勢を示すこととなり、見栄の部分になる。


 日程の短縮という観点で見れば、サンゴウに乗艦させて貰う選択肢以外はないのだが、それだと”見栄の部分が!”となる訳なのだ。

 ちなみに、シンがサンゴウに確認したところ、ベータシア星系から首都星までは、通常の人間が耐えられる速度で7日、なりふり構わない全速ならその半分程度に短縮される。

 シンはまだ気づいていないし、実験をせずには実行できないことではあるが、シン以外を影魔法に放り込んだ場合、シンのみが乗艦している速度での移動が不可能ではない。

 但し、ここで可能と表現しないのには相応の理由がある。

 影の中で普通の人間が耐えられる時間は、寝ている時間を除くと半日程度で限界に達するからだ。それ以上は精神に異常が発生してしまう。

 睡眠魔法も併用すればいけるのだが、その発想に届くかどうかという問題なのである。


 結局、オレガは悩みに悩んだものの、サンゴウに乗って行く事を決断し、シンへと頼むこととなった。

 最後は金。世の中の真理なんて案外そんなものなのかもしれない。


 同行者はロウジュ、スチャン、アルラ、ジルファである。メイドでジルファばかりが優先されるのはグレタでのあの件があったからだった。ミルファ、キルファも同行希望は提出されたのだが。

 ロウジュが同行するのは、婚約がもう内定しているため、叙爵後すぐに登録を行うからである。


 留守をレンジュに任せて出発となる。通常では考えられない短期間での往復日程の予定であるため、当主代行でも気が楽なレンジュなのだった。

 そして、当主代行を理由に残留できるため、面倒な帝都でのオレガへの同伴を免れたのもラッキー! と思っていたりするのは秘密だ。


 初乗艦となったオレガとスチャンはサンゴウの快適さに驚愕し、オレガに至っては「俺の専用艦にもなんとかしてくれ!」と駄々っ子状態になるまであった。だが、サンゴウにも無理なことであるので諦めてもらうしかないのである。


 そして、首都星系であるギアルファ星系に到達する。道中にはなにも問題はなかった。


 ちょっと賊に襲われること1回。

 それも実態は、賊っぽいのを探知したので襲われに行ったというのが真相であり、瞬殺して鹵獲品漁りという名のお小遣い稼ぎであった。

 それとは別に、艦内では、ロウジュとアレコレしようとしたシンが、オレガにバレて追い掛け回されたり、トレーニングに夢中になっていたら、ロウジュが構ってもらえないと拗ねてしまったり、ジルファが「もうこの艦専属の、常駐メイドにして下さい!」と言いだして、アルラとモメたり、色々有っても問題はなかった。なかったのである! いいね?


 時系列的には、遠距離の連絡であった叙爵推薦の申請が、帝都に届いたのがちょうどこの頃であり、処理日程に余裕があると思って、後回しにした文官が大慌てになるなどは、オレガにもシンにも全く全然責任はない。普通に恨まれたけど。”こういうの知ってる! 逆恨みって言うんだよ!”状態である。


 こうしてシン達は首都星である第4惑星の宇宙港に到着し、自前の50m級子機で地上に降りる。


 係留費がもったいないなどとセコいことを考えてしまうシンなのであった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る