第7話
中立コロニーグレタ宇宙港500m級用バース。
シンはグレタ入国管理局へ通信を入れる。内容は出港予定についてだった。
問題なく上陸が許可された場合、艦長のみは下艦せず、このままサンゴウは出港するということである。
そして、艦籍コードを持たないサンゴウは、合法的にグレタ宇宙港の使用料金を支払って出港したという証明書の発行依頼手続きをする事になる。
これがあれば書類での照会が可能となり、一応他の港でも入港審査が簡易化される可能性が高くなるとの説明を受けた。もちろんどこにも寄港せず、ここに戻った場合も同じとなるが。
港の使用料金以外でお金を落とす事がないため、グレタ側からは当コロニーになにか不満があったのか? という問い合わせまで受ける羽目となった。
緊急で行きたい場所が出来たためで不満などない。時間があれば補給がしたかった。最短で1~2日で戻ってくる可能性があるので、その時によろしく頼む。と、弁明? することでなんとか話を終わらせることが出来たのである。
当然のごとく、乗艦臨検のお話はうやむやになり中止だ。次回入港した時には臨検が復活せずスルーだといいなぁなどと、都合のいい展開を妄想するシンだった。
ジルファの経過観察が無事に終了しそうということで、セバスが下艦の迎えを既にサンゴウの周辺に待機させている。
ファーストコンタクト時の、事前通信し忘れという大ポカをやらかした(と、シンとサンゴウには認識されている)執事セバスだが、今回は良い手配の段取りだ。
実を言えば、あの時セバス自身は、ちゃんと事前連絡の指示自体を艦長経由でお願いしていたのである。
単に乗組員通信士が接近の事前連絡し忘れた。という重大なミスであり、強いて言えば事前連絡がちゃんと行われたかの確認をしていなかったグレタ201号船長にも責任はあるといった所だろうか。というか、船長の責任は重い。
そもそも、事前連絡の指示出し自体も、船長が執事に言われるまでもなく行うべきなのである。よって、執事に、事前連絡がちゃんと行われたかの確認をする所まで。を求めるのは酷であるし、本来の役割からは逸脱しすぎとも言える。
しかしながら、サンゴウとの通信において、セバスが説明と詫びを行っているため、船の主導権を完全に掌握しており、彼のミスだと誤認されるに至っているのだった。
誤認されていることを彼自身は気付いているが、出来る執事は、自身の名誉のために言い訳などはしない! という美学を持っていたりする。
彼は妙な拘りとプライドを持っているだけで、実際は相当に優秀な執事なのである。伊達に伯爵家の執事ではないというところだろうか。
そして、この手配はシンの時間を無駄にさせないためであり、少しでも早く出港させたいがためである。それが理解出来るのでセバスへの評価が少しばかり上がる。名誉挽回? である。
さすがセバスチャン! 出来る執事は違うぜ! などとシンは心の中で褒める。だが、シンよ。セバスはセバスであってセバスチャンじゃないぞ!
「艦長。第12惑星へ全速急行した場合、使用可能エネルギーのうち約7割を消費します。宇宙獣の駆除は、どのようにされるおつもりなのですか? それとサンゴウのエネルギー補給は、どのようにされるのでしょうか? 行くだけなら、その後の第13惑星へもたどり着くこと自体はできますけれども」
「ああ、それな。実はな、子機7体のアレ装着してた時に思いついたんだが、俺の魔力ってさ、サンゴウに直接注ぎ込めるんじゃね? って思ってな。これがもし正しいなら最初のときのパーフェクトヒールはなんだったんだ! アホじゃん俺! 気づけよ! になるんだがな」
「ああ。なるほどあの未知のエネルギーを使うおつもりでしたか。納得です。先に言っておきますが、あのエネルギーは不可解なことに、サンゴウの利用方法においては、貯蔵と放出と駆動系にしか利用出来ませんでした。再生治療は魔法という行為が必要な様です。ですので、あの時の魔法は結果的に正解だったのですよ。むしろエネルギーとして先に吸収って感じで貯蔵だけしていたら、なんで治癒エネルギーとして転用できないの! ってブチ切れてたかもしれませんね。だから、結果オーライでお互いに良かったと思いますよ。しかし、ホント謎エネルギーですよね。なんなんですかアレ」
アレはなんだ? と、魔力について聞かれてもシンは答えを持ち合わせていない。
自身がどのような原理のどんなモノなのかを理解していないのだから!
使えるから使う。ただそれだけである。
そして今更の話だが、この世界に魔法は無い! なんと無いのである! ふぁんたじーならエルフさんにあっていいはずのテンプレ? な精霊魔法も無い!
空間に漂う魔力が無いので当たり前なのであり、無ければ吸収して使うことも無いよねってことなのであった。
そういった意味に置いては、部分的であるにしろエネルギーとして利用出来るだけでもサンゴウはすごい。さすが、生体宇宙船と言える。
ただし、サンゴウ自身は、それがすごいことだと認識することはない。未来永劫ない。残念勇者が艦長に就任すると、残念が影響してくるのだろうか。
ガンバレ! サンゴウ!
ちなみに、この世界のエルフさんというのは、美男美女、やせ型、他種族に比べれば、筋力やや低め、敏捷性やや高め、飛び道具に適性が高い(個人差はあり)長命で病気への耐性も高い。繁殖力はやや弱い。(ロウジュのお父さんお母さんはガンバッタ。しかし息子は生まれなかった! 残念!)という種族として知られている。
この世界のエルフさんは、魔法は使えない! いいね? わかったね?
そしてついに待っていた連絡がくる。ロウジュ以下5名の下艦許可の連絡である。
ここで感動の別れと再会の約束をなんてシーンはない。そして、手を振るお友達に、笑顔で答えちゃったりなんかもしない。
残念勇者にはそんなものはないのである。
シンは操船艦橋にて、いつでも出港出来る様に待機だった。一応モニター越しに別れの挨拶をしてはいるが。
そして滞りなくロウジュ以下5名の下艦は終わり、いざ出港となった。
グレタ港管制官は前回の経験を活かし、計器類がレッドランプ一色にならないよう、過去には訓練でしか使ったことないというマニュアルモードへ切り替えている。
すんなりと出港が完了し、サンゴウが全力を出せる宙域までは、周囲に配慮した航行となる。但し、この周囲に配慮というのは、サンゴウ基準で行われていたため、管制官には、驚愕の暴走行為だと受け止めていたりする。きっと次回の入港時には、怒られることであろう。仮に怒られなくても、最低限注意はされるはずである。
「艦長。最高速での跳躍航行へ移行できる宙域まであと30秒です。ここまでのエネルギーも艦長からの謎エネルギーの供給のおかげで、98%以上の残量があります。そして、ここからは消費量がドカンと増えますので覚悟をお願いします」
「おう。やってくれ」
そうして、跳躍航行へと突入する。やってみて初めてわかったことであるが、シンの魔力の回復の瞬時というものには実は上限があった。ということである。
龍脈の元は確かに莫大な量の魔力を無限に生み出す。生み出すのだがそれは、この場合のサンゴウの瞬時の消費量と比べて、瞬時に生み出される量の関係がどうなのか? という問題が起こる。
そして、結論としてはなんと、(作者のご都合主義により)この両者の関係が全くの同じ量なのである。
その結果なにが起こったのか? シンの魔力量は、実は、残量にセーフティが含まれている。これは瞬時回復の技能の一環に含まれているものであり、一定以下にならず、足りない分は収納空間内から取るという形になっている。
この一定以下というのが曲者で気絶はしないが倦怠感がすごく、まともに動くことは困難になる。という領域に設定されているのだった。
つまり、今回の跳躍航行において、最初の瞬間に、シンの魔力のセーフティ部分以外の全量と足りない分を収納空間から取得。その後は、回復供給量とサンゴウの消費量が完全に一致、ずっとセーフティが発動状態で固定される。という、シンにとっては辛い時間が続くことになってしまったのであった。
収納空間内に余剰魔力の貯まった分があっても、回復分が優先され補充されないのは、技能の欠陥だったりする。これは魔法発動などでの魔力消費発動がキーになって足りない分を取りに行くという機能しかないからである。
そして実際、この時は跳躍前から発動していたシールド魔法分が、どんどんと収納空間内の貯まった魔力を消費していた。
ちなみに、最初の起動段階で収納空間内から不足分を引き出すのが足りなかった場合(そんな状況になること自体が可能性としてはほぼ0であるが)最悪ショック死しかねないという危険な行為でもある。あくまでも現時点では。であるが。
そして、この危険というのは、実はサンゴウが自身のエネルギーも併用で消費を補えば、回避可能であるので、次回の起動時はサンゴウもその点には注意を払うであろう。
現時点でも、最初だけサンゴウがうまく調整すれば、シンは辛い状況のままということにはならない。何事も初めてって怖いよねって見本のようなお話である。
シンの最大魔力量は今も成長し続けており、いずれは最初の大消費の量を上回ることであろう。そして、そうなった時、もしもではあるのだが、魔力全放出するような魔法を放ったとしたなら、瞬時回復は嘘じゃん。一瞬でMP全量回復してないじゃん!という状況になるかもしれない。
だが、これは能力を付与した、神と思しき存在の想定を超えているというだけのことであり、神と思しき存在にも、想定外はあり得るものであり、能力に限界はあるのだということでもある。
神と思しき存在も全知全能じゃないから許してね! ってご都合主義なのである。
第12惑星まで5時間。この時間には跳躍航行以外の通常空間での航行時間が当然含まれている。シンがつら~い状態を強いられたのは4時間弱の間のことであった。そして、通常空間での航行に戻る。
「ふぅ。これはきつかったわ。あと2回はこれやるのかよ」
行き帰りで、総跳躍回数が3回と考えると確かに回数は合っている。
「いえ。艦長。推測ですみませんが、最大スピードの跳躍航行の消費エネルギーと、艦長から供給されるエネルギーは、起動した後は安定していました。これは釣り合っていると考えられるので、初期起動時のエネルギーのみサンゴウからも供給をすれば問題ないかと思われます。今回の件は、お互いに能力を過信して起こった、事故のようなものと考えるのが妥当と判断します。サンゴウの配慮が足りませんでした。すみませんでした」
ここでサンゴウはわざわざ説明していないが、航行開始後はエネルギー供給方法を切り替えられなかったのだ。事前にマクロ登録のように、切り替え条件が設定してあれば不可能ではないのだが、全速航行中は全能力を航行に振り向けるということであるので、今回のケースではできなかったのである。
「いやいや。お互い無事なんだし、謝罪をするような話でもないだろう。想定時間内で到着という目標自体は達成されている訳だしな。俺が無茶して、不可抗力だった。でいいじゃないか。次回からは避けられそうなんだろう?」
「はい。では次回は調整します」
もう次からは起こらない事であるなら、グダグダ引っ張るような話じゃないな! っと、シンはあっさりと思考を切り替えるのだった。
「うん。じゃこの話は終わり。さてと、宇宙獣ってのはどんなのかねぇ。情報じゃなんでも浸食して食う。生き物、有機物大好き。鉱物も時間はかかるが食っちゃうって話だったが」
「それなのですが、艦長。実はサンゴウはこの宙域から感じられるおびただしい数の生命反応の波動に心当たりがあります。コレはサンゴウが作られた際の大元の生物ですよ。サンゴウの制作者達が、宇宙の掃除屋と呼んでいたモノです。コレならサンゴウの感応波の能力で集合指示が出せます。100%害獣で利益になることは何もありません。殲滅推奨です。完全殲滅しないと直ぐに増えるので1匹も残してはいけません」
「サンゴウよ。おま、自分の母体みたいな生物なのにそんなんでいいのかよ?」
「ええ。もちろんですよ。奴らにはサンゴウの知性はありませんから。フフフ」
だからそのフフフは怖いって! と、それだけは正直に指摘することが出来ないシンなのだった。
サンゴウが感応波という能力を使い宇宙獣を呼び集める。どんどん集まる。スラさんが集まって王様なスラさんになるみたいに、合体融合でもしているのか、どんどん大きく固まっていく。
「個別に殲滅しながら減らしても構いませんが、まとめて倒したほうが手間も無くて良いですよね?」
サンゴウ基準では融合前の危険度はC判定。融合後は大きさで判定が変わるのだが、第12惑星周辺宙域で、感応波の影響下における個体の合体サイズは、直径3キロほどの球体と同等と表現してもそう違和感はないモノとなっていた。判定で言えばAAとなる。この上の判定は、AAA、S、SS、SSSと続くのだが、それは今は関係ないお話である。
「なぁ。アレ、サンゴウならどう倒すんだ?」
「はい。サンゴウならあのサイズ全部が範囲に入る超空間砲ですね」
「ああ、あれか。溜めに時間かかるけど範囲内のモノを跳躍航行で使う超空間へ吹っ飛ばすという。でもそんなことして、その超空間内で暴れたりせんの?」
「あの空間では、アレは生きられませんよ。サンゴウのように適応できる遺伝子改良を受けていない限り。フフフ」
だからそのフフフは怖いって! 言いたい。でも言えない。ヘタレ勇者である。
「そうか。だが今回は、俺に初手を任せてもらって良いか? 試してみてダメならサンゴウに任せるけども」
「はい。艦長のお手並み、拝見致します」
「ほいほい。じゃ行って来る」
「えっ?」
シンは短距離転移を使い宇宙空間へと出る。もちろんシールド魔法で防御は万全である。そしておもむろに収納空間から聖剣を取り出す。
「からの~! 全消滅スラーッシュ!」
なんとも馬鹿っぽい、字面からは効果がわかりやすい技である。
「つまらぬものを。あっ! このセリフはやばいかも」
あっさり終了である。こんなんでいいのか? いいのである。残念勇者だからいいのである。いいね?
そうしてサンゴウへと転移で戻る。
「艦長。デタラメすぎませんか」
「俺、勇者だもん」
「なんでしょう。その無敵の言葉に聞こえるのは」
「いいじゃん。済んだのだから。次行こうぜ次!」
こうして、あっさりと第12惑星を救ったシンは、次なる目的地、第13惑星宙域へ向けての出発となる。
今度は苦しくないように頼むぜ相棒!っと、信頼するサンゴウの能力任せのシンなのであった。
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