第6話
中立コロニーグレタ宇宙船用港内。500m級用のバースで係留中のサンゴウは武装封印をされる事無く、待機状態を保っていた。
シンは伯爵との通信後、ベータワンの曳航についてサンゴウと話し合う。
伯爵側からは現時点では、引き渡されれば問題ないという事で、グレタ出港時からの同伴は言われていない。
よって、適当な小惑星帯にでも突っ込んで、そこで収納空間から出してサンゴウで曳航するという、なんともガバガバな計画しか立てられなかった。
まぁまだ時間はある。何か思いつくかもしれんしな! と、一旦それでいいや! でシンは終了とする。
「艦長。ロウジュ様から対面での二人だけでのお話がしたいと申し出がありました。どうされますか?」
「いや、どうされますかも何も、断るって言うのはヤバくない? もちろん断りたいとかないけどな! むしろ全力でずっとお話していたいまであるけどな!」
「ですよね。艦長は美人さんエルフ大好きですもんね。では、いつにしましょう?」
「俺はいつでも大丈夫だから。ロウジュさんに都合の良い時間を設定して貰ってくれ。あ、場所は俺の私室じゃまずいよな? 私室の横にでも談話用の個室作ってもらって良いか? そこにロウジュさんを案内して貰うって事で頼めるか?」
「了解しました。ではそのように」
早ければ、もうお別れまでの残り時間は1日を切っている。このタイミングで二人だけでって何の話なのだろう? 告白? 告白? 俺フラグ立てたっけ? 等とシンは浮足立っている。
安心しろシンよ! そんなフラグは立ってないぞ! という残酷な真実を教えてくれる存在は当然ながら居ないのである。
ロウジュが指定した時間の10分前。シンは既に個室にてロウジュを待っていた。子機にはお茶とお茶菓子を準備して貰っている。
ロウジュから話される内容がわからないので、シンはベータワンの引き渡しが終わったらどこでどう生活していこうか? を考えていた。
特に目的がある訳でもなく、サンゴウでずっと生活するのであれば、小惑星や彗星、デブリ、恒星のエネルギーなどといったものが調達できればお金も必要ない。
暇つぶしも兼ねて、輸送で商売とか傭兵でもやるかなぁ? でもなぁ、お金を稼ぐにしても稼いでそれをどうするの? ということになるよなぁ。何かこう目標が欲しいよなぁ。等と、手持無沙汰に任せて思考が走るシンだった。
目標がなければそういう生活は無味乾燥なものとなりそうではある。
世の中には金額の残高が増えること自体が楽しいという人間も居るには居るが、シンはそういうタイプではないのであった。
そうこうしているうちに、シンは重大な現実に気づく。思考回路がぼっち(厳密に言えば、サンゴウが居るのでぼっちではないとも言えるのだけれども)前提の今後になっている。
彼女作って、結婚して、子供作って。本来なら男として、あっていいはずの方向性の思考をしていないことに気づいたのだった。
「よし! まずは彼女作ろう! というか、嫁が欲しい!(3次元で頼む)」
そう独り言を言った所に、なんとも良いタイミングでロウジュが入って来る。さすが残念勇者である。
「えっと。その。シン艦長?」
顔を真っ赤にしたロウジュが、”どうしたらいいの?”って感じの困惑表情で、開いた扉の前で立ち尽くしている。
シンはシンでテンパってはいるものの、「とりあえず中へどうぞ。座って下さい」と、切り出すことには成功した。
なんとか、なかったことにしよう作戦である。俺、なにか言ってましたっけ? のすっとぼけ作戦なのである。
そんなの上手く行くはずがない! というのがわからないのはシンが童貞勇者だからだ。
「あ。はい。では失礼します」
ロウジュが対面の席に着く。伯爵令嬢だからなのか、エルフだからなのかはわからないが、シンの目から見ると、所作の流れがとても美しく感じられ、品がある。
「この度は、お時間を取っていただき、ありがとうございます」
そうロウジュが切り出す。
「いや。特に急ぎでやる事もなく暇なのでね。何も問題はないよ。むしろ会って話ができて嬉しいまである」
「そうなのですか? それならよかったです。私も艦長とお話できて嬉しいですよ?」
ぐはっ! お話できて嬉しいとか! 言われたら勘違いしてしまうやろ! 惚れてしまうまであるやろ! などと心の中はヤバイことになっているが、なんとか表情と態度は、ロウジュにバレないレベルで取り繕うことに成功するシンなのだった。
「こちらの中立コロニーへ来た理由というのをお話していなくて。その理由に関連するのですけれども、3人のうち2人は用事が済み次第ベータシア星系に戻るのです。ですが、帰りにも使うはずであったベータワンはないのです。艦長はこの後、ベータワンの曳航でベータシア星系へ向かわれますよね? そこに同行で乗艦させていただきたいのです」
「ふむ。その話だと、戻る2人が確定するのに必要になる時間というか、期間にもよるな。同行させること自体には問題ないが、ベータワンを曳航して持って行くのに、期限というものが当然ある。それに、この港に留まり続ければ係留費用が掛かってくる。ただ、伯爵様からは結構な金額をいただくことになっているし、物資の買い付け、補給といった時間は当然必要だから、無茶なほど係留日程が延びるという事でなければ、その件は受けよう。別に旅客として費用を出してくれなどといったケチなことも言わんよ」
シンの内心は、”やべぇ! 問題あるよ! とっても問題あるよ!”である。もし、同行されたら、”ベータワンを取りに行く振りだけして収納空間から出すのがバレるかも?”等と、シンは考えていたりする。
だが、だからといって、同時期に同じ目的地に行くのに、わざわざ、「別便で行け! 俺は知らんよ!」とはとても言えないのであった。
「ありがとうございます。お世話になりっぱなしで、その上厚かましいお願いですみません」
「いやいや。構わないよ。この後、艦籍やら許可証やらを伯爵様に優遇して貰う訳だしな。その程度は全く問題ない。ところでだ。その、1人残る2人帰る事情というのを聞いてもいいか?」
「あっ。はい。えっとその、端的に言うとお見合いです。お隣の星系の男爵子息との」
は? お見合い? 男爵? えっと記憶に間違いがなければ貴族の序列って伯爵、子爵、男爵の順だよな? 2ランク下の貴族に嫁入りって事? あり得なくないか? とシンは混乱するのだった。
「あー。聞いていいか? 2つ下の爵位に嫁ぐというのは普通の事なのか?」
「いえ。普通の事ではありません。お恥ずかしい話なのですが、ベータシア伯爵家は今厳しい状態にあるのです。従来から主力の第12惑星の鉱山惑星と、第13惑星の食糧生産惑星が、宇宙獣に侵略されまして。駆除の目途が立たず、惑星破壊での駆除を検討に入っている段階なのです。現段階で食料と鉱物資源の領内供給、そして輸出による貿易がまずい事になっています。そしてお見合い相手の男爵家はとてもお金持ちなのです。支配領域としては男爵相当の、星1つと衛星が8つだけなのですが、希少鉱物の採掘量がギアルファ銀河の中でもトップクラスの生産量を誇るのです」
つまりなんだ? 人身御供で資金援助引き出す政略結婚ってか? ってちょっと待て。そんな状況でも伯爵様は、俺に報酬支払おうってのかよ? ルーブル王国のバカ王族やアホ貴族どもとは全然違うじゃないか! と、シンは考えた。
そして、シンの怒りボルテージが徐々に上がっていく。
「政略結婚というのは、貴族子女の義務でもありますから仕方ありませんよ。ただ、まさか、人族の男爵子息との結婚前提のお見合いというのは、想定してはおりませんでしたけれども。第5夫人という、実質妾のような立場ですしね」
ここまで聞いた時点で、シンの怒りは頂点に達する。
ロウジュは淡々と語っているし表情に感情は出ていないが、暴露内容から察するに、相当イヤなのであろうことは容易に想像出来る。そして、いくら相手が選ぶとはいえ、おそらく妹達が選ばれることがないように、自分が選ばれるように、と、振舞う覚悟なのではないか。そうシンには伝わってきてしまうのであった。
「サンゴウ! ちょっといいか?」
「はい。なんでしょう? 艦長」
「今の話聞いていたよな? 一つ確認だ。ベータシア星系の該当惑星2つ。なりふり構わず急行したとしてサンゴウの性能なら5時間程で第12惑星へ、そこから2時間程で第13惑星に到達可能だな?」
「はい。搭乗員無しで限界までエネルギーを移動に費やして良いという条件下であれば可能です」
「えっと。艦長。一体なんのお話を」
「ロウジュ。ちょっと黙っててくれ。サンゴウ。その搭乗員無しってのは俺は例外って考えて良いか?」
「はい。試していないので絶対とは言い切れません。ですが、推測でよろしければお伝えします。現状のサンゴウが知っている艦長の能力からの、推測値を入力しての計算によれば、99.999999%の確率で、艦長なら耐えられると出ています」
さすが勇者である。どんなに残念で、ポンコツで、童貞だろうとも、常人とは違うのである。(童貞は関係ないだろ! という苦情は受け付けない)
「ふむ。ならば100%安全だな。俺はまだ全力を出していない」
ちょっとカッコイイこと言ってみた! って感じのキメ顔である。だが、シンよ。残念だがそれが似合うのはイケメンだけだ! せいぜいフツメンのシンには無理があると知れ!
「艦長。やるのですか?」
サンゴウは察したようである。
まだ短い付き合いだが、さすが俺の相棒だ! 最高の有機AIだよ! と、シンは心の中で相棒を褒め称えた。
「ああ。殺るよ。殺ってやるつもりだ!」
「一体なにをなさるおつもりなのですか?」
「ああ。ちょっとばかり暴れてくるってだけの話だ。君らを下した後にな」
「それとな。証拠のある話ではないんだが。ベータワンを襲ってた賊な。その見合い相手の男爵の手引きだと俺は思うぞ」
「えっ!」
ロウジュは驚きの表情で固まってしまう。
「賊の小型機の搭乗員を調べたんだが、人族の男性だった。おそらく当たりだと思うぞ」
これはシンの当てずっぽうではあるのだが、実際のところドンピシャ正解なのであった。支援金を払わずに3姉妹を手に入れた上で、あれやこれやしちゃって、最終的には伯爵家を傀儡にし、ベータシア星系を実効支配するのが、男爵側の計画だったりするのである。
シンにしろロウジュにしろ、それが真実である。と、知ることは出来ないけれども。
「ロウジュ。質問だ。この艦から下りた後、その胸糞悪いお見合いってのが始まるのはいつだ?」
「下りて即日というのはさすがにあり得ないので、最短でも1日は空くでしょう。おそらくですが、こちらが厳重な検疫対象だったという情報は流れていると思います。ですので、最短を選ぶ事はないとは思うのですが」
最短で1日。と考えて行動するのが確実ってか! ちょっとばかり厳しいことになりそうだな。だが、勇者だ! 俺! 全力出せばイケルイケル。と、シンは思考を走らせた。根拠のない自信だが、そう間違ってもいないシンなのである。
「ロウジュ。いいか? よく聞け。俺がロウジュ達の下艦後、1日でその2つの惑星の宇宙獣ってのを駆除してきてやる。それとな、鉱物は後日にはなるが、鉱山が再開できる目途が立つまでの、必要な量を深部側から取り出して用意してやる。そして、食料の生産。これも後日にはなるが、緑化と成長促進を使ってなんとかしてやる」
すごい男前な発言である。全部俺に任せろなのである! 顔はせいぜいフツメン程度だが。
「だからな、俺が戻ってきて吉報を入れるまで待て! そんな胸糞悪いお見合い、俺がぶっ壊してやる! いいな?」
「本当にそんなことが可能なのですか?」
「ああ。可能だ。俺は勇者だからな!」
「プッ! 今時、勇者なんて信じるのは子供くらいなものですよ。でもシン。私は貴方を信じます。もう一度私を。いえ、私達3姉妹全員救い出して下さい」
ロウジュとの話はこの様な展開で終わった。
シンにとっては予想もしない展開の話になったが、内容が重かっただけに最初の彼のやらかしは、ロウジュの記憶から吹き飛んだに違いない。君の勇者はそう信じてる。お願い! 忘れて!
そうしてサンゴウにセバスへと連絡を入れてもらう。伯爵へと話を通すためと、帰還時に入港待ちせずに連絡をつけることが出来るよう、宇宙空間で中継連絡可能な船を待機させて貰うためだった。
もちろん、駆除終了後、伯爵へも即連絡するので、そちら経由でも情報は伝わるはずなのであるが念のためという奴である。
最後の保険で通信機能しかない超ミニマム子機を、イヤリングに擬態した形でサンゴウが制作し、3姉妹それぞれに付けて貰った。尚、極小過ぎて通信距離はこのコロニー周辺宙域が限界となっている。
そして全く関係ないけれど、シンにとっては、初めての女性へのプレゼントとなった。
実質支給品みたいなものであろうとも、お金を一切かけていないサンゴウの生産品であろうとも、誰がなんと言おうとも、アクセサリーを初めて女性にプレゼントしたのである。
こうして勇者シンは、女性へのプレゼントデビューを果たしたのであった。
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