第32話 リタの実力
「うぅ〜〜っもうお嫁にいけない…………てか、こっち見るなぁっ!!! このド変態紳士っ!!!」
「なんで進化してんだよ! つかもう変態紳士言うなっ。助けてもらった分際で」
どうやらあのスライム。何の毒も持っておらず、またスライムは空気中の魔力を食事としているのでリタを食べる意味などなく、結果的に何の害もないスライムに服だけ溶かされただけであった。
そのため、今のリタの身体を隠しているのはわずかに残った服とはもう呼べない布だけだった。両手で必死に際どい場所を隠しているが、蒸れたピンクの髪に隠しきれず押しつぶされた双丘、紅潮した肌と頰、涙目と合間って非常に眼福……………なるべく見ないように白の外套を投げ渡す。
「わっ」と声を漏らしながらリタに外套がかぶさる。もぞもぞと外套から顔を出したかと思えば、涙目でキッとこちらを睨んだ。
「何よ? 憐れな生き物が目の前にいるみたい目で見て」
「憐れというよりかは…………しっかりとガリオスの血を受け継いでいるなぁ〜と」
「お父様ほど残念じゃないしっ!!」
少しは残念だという自覚はあったのか…………というか、娘にも残念と言われる
そんなことは頭の隅っこの隅に置いて置いて、俺は外套をいそいそと羽織るリタを見る。俺のサイズに合わせて用意された物だからぶかぶかだ。裾を頑張って折っている姿はちょっと可愛いと思ってしまったのは言わないでおく。言ったら言ったで魔法が飛んできそうだ。
しかし、今のリタはどこか焦っている気がする。そうでなければ立て続けに助けられたりしないだろう。このままだと本当にコロッと死んでしまいそうだ。
「ちょっと。いやらしい目でジロジロ見ないでくれる? 身の危険を感じるんだけど」
相変わらず憎まれ口を叩くリタ。俺は目の前の少女へ口を開こうとし---リタの腕を掴んで引き寄せた。
「え? ちょっ。まさか本当に襲う--」
突然のことに困惑顔のリタに構わず抜剣。何もない空間へ剣を振り下ろす。
血飛沫が吹き出した。
「キシャァァァっ!?」
「え?」
さっきまでリタが座っていた倒木に鮮血が飛び散る。何もない空間が歪んだと思えば、某恐竜映画に出てくるラプトルのような魔物が頭部を切られ血飛沫をあげながら現れ倒れ伏した。さっきから不自然な魔力の動きを感知していると思ったら、こういうことだったのか!
何が起こったのかわからない様子のリタを怒鳴る。
「ボケっとすんなっ!! 囲まれてんぞ俺らっ!!」
「っ!? 『風運』!」
リタが瞬時に魔法を行使。すると"魔力感知"では曖昧だったラプトルの位置がはっきりとわかった。それどころか息遣いや心臓の鼓動すら聞き取れるように。耳がよくなったとかのレベルじゃない。おそらくリタが行使した魔法の効果だろう。耳から聞き取る限り、数はざっと三十。背中合わせになったリタが動揺の声を上げる。
「いつのまにこんなに数が?」
「さっき見た限りでは姿を周りの景色と同化できる固有スキルを持ってるんだろう。透明化して気配を殺し、獲物に気づかれずに近寄り仕留める。
「え?………え、えぇ。どういたしまして」
「?……………とにかく、話の続きはこいつらを仕留めてからだ。援護頼んだ」
返事を待たず疾走。姿は見えないが、迷うことなく剣を薙ぎ払う。数舜遅れて空間が歪み、頭部を切り落とされたラプトルが倒れた。他のラプトル達の鼓動が激しくなった。どうやら動揺しているみたいだ。
ちらっとリタの方を見たが、彼女はいくつも生成した氷の槍でラプトルが接近してくる前に頭を貫いていた。まさに百発百中の勢いでラプトルの頭に穴が空いていく。
「「「「「キシャァァァァァっっっ!!!!!!」」」」」
どうやら向こうも、俺達に居場所がバレていると気づき、透明化を解いた。無数の鋭利な歯を剥き出して襲いかかってくる。
前脚の鋭い鉤爪を振りかざし襲いかかってくる二体を一気に斬り捨て、死角から迫ってきていた一体に踵落としを放つ。脳天へ向かって落ちてきたそれを回避することは叶わず、グシャッという音とともに地面に沈んだ。
地面に沈んだ死体には目もくれず、身体を回転させる勢いで剣を横薙ぎ。三方向から迫っていたラプトルを両断した。他の階層では見られない巧みな連携に、若干面倒に感じながらリタの方を見た。
いくつもの『氷槍』を連射し、ラプトルの体に穴を開けている。が、ラプトルの連携にやや苦戦しているように見えた。
その時、一体が透明化を用いてリタの背後から接近している足音が聞こえた。とっさに声を張り上げる。
「おい後ろだっ!!!」
「っ!?」
「キシャァッ!!!!」
俺の声に驚きを見せたのと、ラプトルが透明化を解きリタに襲いかかったのは同時だった。俺はすぐに魔法を放てるリタなら対応できるだろうと思った。
---リタは迫るラプトルを前に目を見開いたまま何もしない。薔薇色の目は明らかに恐怖に染まっている。まずい状況と瞬時に判断した俺がリタへ駆け寄るのを阻止するように、透明化で忍び寄っていたラプトルが襲いかかってきた。
「チッ。邪魔だ!!」
鋭い牙で噛み付こうとしてくるラプトルに魔力で身体強化した拳を放つ。頭蓋骨を砕く感触が手から伝わってくるが、御構い無しに振り抜く。後続の仲間を巻き込んで勢いよく飛んで行った。
すぐにリタの方を振り返る。大口を開け飛びかかってくるラプトルを前に、リタは硬直したままなのを"縮地"を発動しながら確認していた。一瞬でリタとラプトルの間に入り剣を開いた大口に挟み込む。
「何してんだこの馬鹿っ!」
「え?…………」
「グルゥァッ!」
リタを一喝し、現実に呼び戻す。獲物を仕留め損なったラプトルが激しく暴れ、前脚の鉤爪に腕を切りつけられ、両肩に鉤爪が深く刺さった。肩に激痛が走る。初めて感じる痛みに思わず発狂しそうになるのを堪える。
「ぐっ! な、めんなっ!!!」
両肩を襲う激痛に耐えながら下から蹴りつける。「グアッ!」と声をあげながら剣から離れた隙に剣を横に振るう。頭を横に両断され絶命したが、仲間の死体に潜んでいたラプトルが飛び出てきた。返す剣で切りつけようとした。が
「〜〜〜〜っ!!」
鉤爪が突き刺さり深い穴が空いた俺の肩は、限界を迎えたかのように激痛を走らせ動けなくなった。
迫るラプトルの光る鉤爪。"縮地"で後退しようとしたが、発動し続けている"魔力感知"と"気配感知"がすでに逃げられないよう囲まれていることを無慈悲に教える。それに、ここで俺が躱せば、後ろにいるリタに鉤爪が振るわれる。
"魔力放射"の全方位放射で動きを止められるかもしれないが、魔力の消費が激しく、急激な魔力減少による疲労と激痛で、意識がシャットダウンしてしまう可能性もある。が、やらなければ確実に致命傷を負う。ならやるしかない。
一秒足らずで結論をだし、いざ"魔力放射"を放とうとした時だった。
「『暴嵐刃』」
たった一言が耳を打った瞬間、目の前にいたラプトルが木っ端微塵となった。血肉とかしたラプトルだったものは、さらに細かく刻まれながら巻き上げられていった。
辺りを見渡すと、俺達を囲んでいたラプトルは不可視の刃によって切り刻まれていた。それはラプトルに限らず、周囲の樹々や草をも巻き込んでいる。さながら台風が直撃したかのようだが、俺が立っている場所はほとんど無風であった。
戦闘前に見ていた景色は消え去るまで時間はかからなかった。
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