第29話 邂逅
あれから迷宮の階層を順調に進んで五十階層にいた。砂時計を見ると半分ほど白い砂が溜まっていたので、三日半が経過したと思う。目を瞑るほど明るい階層もあれば、手先すら見えないほどの暗闇に包まれた階層もあり、それらを行き来することで、すでに時間の感覚が狂ってしまっているのだ。
そしてやはり一つ階層を進むごとに魔物の凶悪さが増していった。
例えば、薄い霧に覆われた階層では、毒を吐く虹色の蛙(綺麗と思ってしまい悔しかった)や幻覚や身体の感覚を麻痺させる鱗粉を出す蛾(見た目モ○ラだった)に襲われた。
蛾の鱗粉をもろに吸い込んでしまった時はもう地獄だった。身体の感覚を失い立てなくなった状態で、目の前に渚と天川が男女の行為をしている幻覚を見てしまったのだ。マガレスに万が一と持たされていた解毒薬がなかったら、とっくに発狂してしたかもしれない。好いていた幼馴染と嫌っている天川が愛し合う幻は、まさに悪夢だった。当然、怒り任せに姿を見せた蛾は全て一瞬で殲滅した。たとえこちらに気づいていなくとも殲滅した。
また、地下迷宮なのに熱帯林のような階層に出たこともあった。物凄く蒸し暑くて鬱蒼としていて今までで一番不快な階層だった。この階層に出てくる魔物は
樹だ。
その樹の魔物はRPGで言うところのトレントそのままだった。樹の枝を飛ばして来たり根を地面に潜らせて下から突いて来たりツルを鞭のようにしならせて襲ってきたり。
しかし、このトレントの最大の特徴はそんな些細な攻撃ではない。この魔物、ピンチになると頭をブンブン思い切り振って赤い果実を飛ばしてくるのだ。当然、その程度の攻撃など痛くも痒くもなく、試しに口に含んでみたのだ。
その後数分、身体が硬直したまま動けなかった。
毒などではない。ただ、めちゃくちゃ美味かったのだ。本当に頰が落ちてしまうくらい、甘くみずみずしい果実は、例えるならスイカだ。
その瞬間、階層の鬱陶しさも迷宮攻略も忘れ、俺は狩人の眼となりトレントを
美味い食材を手にいれてホクホク顔で五十階層まで進んだのだが、俺は今岩陰にて“気配隠蔽”を使い身を潜めている。その理由は、目の前でとてもでかいムカデと戦っている少女のことである。
その少女は白い外套を着ていて分かりにくいが、激しく動いた時に見える艶やかなツインテールがフードがめくれてわずかに露わになる。息を飲むほど整った顔に薔薇色の瞳。
そう、どこからどう見ても、ガリオスとエクタナの娘リタだった。
確かガリオスにリタは候補者にしないのか? と聞いたことがあったが、その時に返ってきた返事は
『何を言っているのだ! そんな危ない場所に娘を近づけさせてはいけないであろう!! そんなことパパが許さぬ!!!』
とバカ親っぷりを発揮していたが…………俺は改めて巨大なムカデと戦っている少女を見る。
艶やかなピンク色のツインテール。現役モデルも裸足で逃げ出すほどの美貌。薔薇のように赤い瞳。揺れる大きな胸。日焼けを知らない白い太腿…………って、俺はどこを見てるんだ! これじゃただの変態じゃないか。
と、とにかくリタであることは間違いない。だが、迷宮選別に参加することはガリオスが許さないだろうし、どうしてここにいるのだろう?
理由を突き止めたい気持ちはあるも、彼女は俺に対して辛辣だったし、今は魔王を目指すライバル。姿を見せた瞬間魔法をぶっぱなされそうだからこうして隠れているのだ。
「『風刃』」
リタが巨大ムカデに風を圧縮した刃をいくつも放つ。無詠唱で魔法を発動したのは見事だが、巨大ムカデは体をくねらせ躱し、仰け反ると口から黄色の息をあたり一面に撒き散らした。
「うわっ、何よこ、れ………」
今まで空中にいたリタが急にゆらゆらと落下した。そしてピクリとも動かなくなった。死んではいないらしいが、どうやらさっきのは麻痺毒らしく動けなくなったみたいだ。
「ギィ〜〜〜っ!!!!」
巨大ムカデがまるで勝ち誇ったかのように鳴く。そして頭部をリタに近づけていく。なに冷静に見てんだよ俺!
俺は岩陰から“縮地”で巨大ムカデの頭まで来ると、その勢いのまま蹴り飛ばす。
虫を蹴ったとは思えない甲高い音が響き、巨大ムカデが吹き飛んだ。俺は地面に着地する。
「ギギギィィっ!!」
巨大ムカデが俺を見て誰に蹴り飛ばされたかわかったのだろう。怒りのこもった耳を擘く鳴き声をあげながら、ムカデ特有の動きで俺の周りをぐるぐると回る。
俺は“縮地”を使い巨大ムカデの頭の上に乗った。巨大ムカデが驚いた声を出し振り落とそうと激しく暴れる。俺はリタの苦悶の表情が視界に入りさっさと終わらせたかった。剣に“纏い”を発動。鋭さをあげ巨大ムカデの頭に突き刺す。
頭を突き刺したらビクッと巨大ムカデの身体が痙攣し動かなくなった。俺は剣を引き抜き、付着した体液を振り払い鞘に収めた。
倒した感傷に浸ることもせずにすぐに倒れているリタのところに向かう。
リタはやはり身体が麻痺しているのか、全く動いていなかった。顔が苦しそうに歪んでいる。
俺はすぐに解毒薬を取り出し、リタの口元に持っていきゆっくりと流し込んでいく。
しかし麻痺毒を食らったせいで、思うように飲むことができないらしい。しかも気管に入ったのかむせてしまう。思わず焦る俺。どうすれば飲ませられる?…………アニメとかだと定番だが、さすがに…………ええいっ。今は優先すべきはこいつだ。羞恥心なんて捨てろ俺!!!
残った解毒薬を呷り口に含むと、リタの唇に自分の唇を押し当てた。
「ッ!?」
リタが目を見開き、必死の抵抗を試みるが麻痺している身体では何もできなかった。
そのまま俺は舌を強引に押し込み、リタの舌を絡めとり、無理やり流し込む。
俺は羞恥心と煩悩を無理やりねじ伏せ、今はリタに薬を飲ませ助けることだけを考える。
やがて、口に含んだ薬をリタがコクンと飲み込んだのを確認して、ぷはぁっと唇を離した。銀の橋がかかりお互いの唇が離れる。
俺は顔が赤くなるのをなんとか堪え、リタの様子を見ようと顔を覗き込む。
そこには、真っ赤になって目を回している美少女の姿が。
「あ〜ひとまず、大丈夫そうだな。…………は〜〜〜」
ひとまず、このまま放置はできないので移動する。
俺の脳裏には、唇や舌の意外な柔らかさと恥ずかしさが離れなかった。ここまで中継されてなくてよかったぁ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
今更だけど短編小説を書きました。よければそちらもどうぞ。
『クリスマスソング』
https://kakuyomu.jp/works/1177354055180580934
タイトル通りラブコメです
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