第20話 お説教?

「う〜〜ん…………」


 身体がポカポカとした温もりを感じ、意識が微睡みから浮上し始める。


 確か、悪魔---ディアブロと使い魔契約を済ませたら疲労感と睡魔が重なって眠ってしまったんだった。思い出すと頭にずきりと痛みが走った。


 あれ? 俺、いつの間に部屋に戻ったんだ? 疑問に思ったが身体の怠さを感じ思考を止める。まぁいいか。この枕めっちゃいい匂いするし、柔らかくてスベスベで気持ちいいし。今日はこのまま二度寝を決め込もう。身体を横向きに寝返りを打つ。本当にこの枕気持ちいいな。思わず頰を擦り付ける。


「……レ、レン様………」


 ああ〜〜すべすべで気持ちい〜〜。思わすツーっと指を滑らせる。柔らかくてすべすべで、それでいて適度な弾力で吸い付くような感触。病みつきになりそう。


「ぁ……んっ……んぁ………レン様ぁ…………」

「……………………ん〜?」

 

 何か聞こえた気がするけど、気のせいだろう。多分寝ぼけて空耳でも聞こえたんだろう。今はこの魔性の柔らかさを堪能しよう。指だけではなく掌全体で枕を堪能。少し温かいな。まるで人肌みたいだ。フニフニと揉んでみる。柔らかくも掌を押し返す弾力。ピクッと動いた? 寝ぼけてるから気のせいだろう。


 指を奥に滑らせると、ヒラヒラした軽い布の感触を感じた。この先にもまだ感触が続いている。俺は布の奥へと手を滑らせ


「そこは………駄目です、レン様ぁ………」

「ヘぁ?」


 今度は空耳なんかじゃない、聞き慣れた声が間近で聞こえ、思わず変な声が出た。


「レン様の………ばか」


 瞼を開けると、頰が上気したユーグと目が合った。若干息が荒い。潤んだ琥珀色の瞳が俺を見下ろしている。頭が現状を理解しようとフル稼働。

 つまり…………ユーグは俺に膝枕をしてくれていて、俺は寝ぼけてユーグの太腿を上質な枕(いや確かにこれ以上にない贅沢な枕だけど)と勘違いして無遠慮に弄っていて、危うくユーグのスカートの中へ触れようとした変態?


 状況を理解した俺は、生き残るための最善を瞬時に導き出す。それはつまり……………土下座をするしかない!!

 鉛のように疲れが重なっている身体を起こし土下座へと移行しようとし…………ユーグの膝に戻される。花のように甘い匂いが広がり、柔らかくスベスベの感触がさらに強まる。身体が一瞬にして熱を持つのが分かった。


「…………お疲れなのでしょう? しばらくこのままで構いません」

「い、いやユーグ。もう十分寝たから。そ、それに。お前だってこのままは嫌だろ?」

「………………………別に、レン様になら、どれだけ触れられても構いません」

「へっ?」

「っ〜〜〜〜〜!!!!! と、とにかくっ!! このままお説教です!!」

「は、はいっ!!」

 

 頰どころか耳まで真っ赤にしてユーグが声を荒げる。あまりにも消え入った声だったのでなんて言ったのか聞き取れなかったが、俺が性犯罪者として牢屋にぶち込まれるかどうかは彼女にかかっているので言う通りになる。


「こほんっ。………レン様。昨夜、あの時の悪魔を使い魔にしましたね」

「ええっと……」

「返事」

「はいそうです」

「はぁ。…………分かってるんですか? 悪魔を使い魔にした事例なんてありませんし、下手したら悪魔に身体を乗っ取られていたかもしれないんですよ?」

「……………ごめん」


 実際、危ないところだったのだろう。もし悪魔が俺を上回っていたら、俺は悪魔に乗っ取られて、目の前で心配してくれるユーグ、ここにいる人達を全員危険にさらしていたかもしれなかったのだ。


 俺は多分、焦っていたんだと思う。どれだけ読み漁っても、どれだけ調べても、魔法への対抗手段を見つけられなくて。その心の焦りが、俺を突き動かした


「ユーグ、ごめん。俺が悪かった。反省してる。ユーグのこと全然考えられてなかった。…………本当に、ごめんなさい」


 ユーグの瞳を真っ直ぐ見る。ユーグの視線から逃げることはしたくなかったから。


 ユーグはあの時、悪魔相手に俺が無茶した時、ユーグは俺に過去を話してくれた。身内を失い、辛かったと話してくれた。俺が大切だと言ってくれた。俺を失うのが怖いと教えてくれた。

 その時に俺はユーグと約束した。俺の傍で見ていてほしいと。間違いを正してほしいと。


 それなのに俺は何をやった? ユーグのいないところで自分勝手に突っ走っただけじゃないか。ユーグとの約束を自分から破っただけじゃないか。そりゃ怒るのも当然だ。

 ユーグの手が俺の頰を優しく抓った。


「お仕置きです。反省してください」


 そうは言っているが、頰を抓る手は優しくて全く痛みは感じない。ユーグはなぜか頰が緩んでいるし、お仕置きなのか?

 しばらくユーグが俺の頰を堪能した後、パッと手を離された。ユーグが言葉を紡ぐ。


「これ以上言ってもレン様は必要とあらばこれからも無茶の一つもするでしょう。それなら事前に伝えてもらって私が付いていくなりした方がいいです」

「俺が自重する選択肢はないのかよ」

「自重するのですか?」

「する……と思う…………」

「そう言うことです」


 何だろう。ユーグに少し理解されて嬉しい反面、ダメな奴と言われている気持ち両方が混ざって何とも言えなくなる。いや、ダメ人間なのは事実だけど。


「言っておきますが怒っているのですからね。しっかりと反省してください」

「分かってるよ。ユーグに心配かけたのは事実だ。反省もするし、次からはちゃんと伝える」

「分かればいいのです」


 そう言ってクスクスとユーグは笑う。それに安堵した俺はもう一つ謝らなければならない事案を思い出した。思わず目がマグロ並みに泳ぐ。ユーグは目敏く俺の様子に気づく。


「どうかしましたか?」

「あ、いや。なんと言うか、もう一つ、謝らないといけないと思って…………」

「? まだ何かしたんですか?」

「…………その、俺がユーグの太腿を無遠慮に触ってしまったこと」

「…………」

「わ、悪かった! いくら寝ぼけていたからって無闇に触られて嫌だったよな。すぐに離れるから………」


 身体を起こし、離れようとした。が、ユーグにガシッと頭部を掴まれた。そのままユーグの膝に押し付けられる。またいい匂いと、今度は強くユーグの膝に押し付けられるので、その柔らかさと弾力が否応に女を感じてしまい。どことは言わないが熱が集まり始める。

 社会的に危険な状態になりながら、俺はユーグに聞く。 


「…何してる?」

「……………レン様は寝ぼけていたので仕方ないと思います。それに近衛にとって護衛対象は主人とも言います。なので、主人に身を捧げるのは当然のこと。…………ですので、レン様が私に触れても、何も問題はありません」

「いや、そういう意味じゃなくてだな」

「レン様は私の膝枕がお嫌いですか?」


 ユーグが瞳を濡らして聞いてくる。くっ、可愛いい。そんな聞かれ方せれたらYESとしか言えなくなる。


「嫌じゃない。しばらくこのままでいいか?」

「はい。なんでしたら、また太腿を触ってもいいですよ?」

「…………………からかうのはやめろ」

「ふふふ。すみません。レン様の反応が可愛かったものですから」


 そう言ってすぐに笑顔になり俺の頭を優しく撫でてくれる。俺の髪に触れる細い指がくすぐったく、集まっていた熱が落ち着きを取り戻す。



----そう言ったユーグの頰が紅潮しているのに気づくはずがなかった。


『けっ。いちゃつきやがって』

「「……………」」

 

 穴があったら入りたくなったのは言うまでもない。


〜〜〜〜〜

おまけ 蓮に膝枕をしているときのユーグの心情


「う〜〜ん…………」

(か、可愛い〜〜〜っ!!! え? なんですかこの反則的な可愛さは!!! レン様が朝弱いのは聞いていましたが、こうも可愛くなるとは思いませんでした!! 普段のカッコよさが嘘みたいです!!)


「スリスリ(頰をこすりつけている)」

(あぁぁぁ〜〜〜〜っ可愛いぃぃ!!! 猫みたいにすり寄ってきてますっ!!! 早起きしてよかった〜〜〜っ!!!!)

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