第13話 魔法

 迷路のような魔王城を歩き、ついた部屋は大学の講義を行うような部屋だった。

 先客が声を上げる。


「お待ちしておりましたレン殿」

「いや、こっちこそ付き合わせて悪い」

「はっはっ。何を言いますか。レン殿は魔王陛下に期待されているのですから、これくらい当然です。それに私みたいな老いぼれは、もう戦場に立てませんから、他のことで役に立てることが嬉しいのです」


 分厚い本を片手に老人が笑う姿は、なんだか近所のおじいさんのような親しさを感じた。


「と、無駄話もここまでにして早速始めましょうか。誰かに教えるのは久方ぶりで、不慣れなものですがよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしく頼む」


 マガレスが教卓に立ち、俺がその正面に座って魔法の授業が始まった。


「まず、魔法には大きく分けて『詠唱魔法』『スキル』『精霊魔法』の三つに分けられます。一つづつ説明していきましょう」


 詠唱魔法とはアニメや漫画に出てくるような魔法らしい。詠唱を唱え体内の魔力を魔法陣に注いで発動させる。魔力を直接操作することはできず、どのような効果の魔法を使うかによって正しい詠唱と魔法陣を構築しなければならないらしい。

 もちろんテンプレ通り属性があり、それぞれ火、水、土、風、雷、氷、光、闇の八つ。この八つの属性のどれかに適性があれば、その属性の魔法陣を素早く展開出来たり、少ない詠唱で発動できたりと、魔法の扱いやすさがぐんっと向上する。

 『勇者』が強い理由の一つがこれだ。『勇者』は高い魔法適正を持っているため、訓練を積んだ魔法使いより魔法の扱いが上手いのだと。特に『黒髪の大賢者』なんて呼ばれている女勇者は規格外だという。


「『詠唱魔法』は我々魔族や、エルフやドワーフといった亜人族は魔力の操作が生まれつき得意なので、適性がない属性でも十分に行使できます」


 この世界の人族は、元から身に宿っている魔力が少ないため、冒険者や騎士が体を少し強化できるくらいで、魔法を扱える者は極わずからしい。

 獣人族という種族もいるが、この種族は身に宿る魔力は多いが、魔力の操作が得意ではなく、出来たとしても体を強化することしかできないらしい。それでも元々の身体能力は人族よりも上なので、ただの冒険者や騎士相手に遅れは取らないとのこと。

 二属性以上の適正は珍しく、基本一属性だけに適正があることしかないのだと。その点『勇者』はほとんど詠唱いらず、または省略して複数属性の魔法をポンポン出すらしく、いかにこの異世界でチートか分かる。


「次に『スキル』と呼ばれていますが、これは詠唱魔法の上位互換と言えるでしょう」


 スキルは詠唱魔法と違って無詠唱無陣で発動が可能らしい。スキルは全ての種族が会得できるらしい。

 生まれながらにスキルを持っていたり、戦いの最中や些細なきっかけで習得することもあるらしく、その中には固有スキルつまり、その個体だけの特別なスキルなんてものまである。


「最後は『精霊魔法』ですな。この魔法は精霊を媒介に魔法を行使します」


 精霊とは魔力生命体という実態を持たず魔力のみで身体が構成されている生き物らしい。これも八つの属性を持つ精霊と契約してその精霊に魔法を行使してもらい、自分はその魔法に必要な分の魔力を消費するってことらしい。契約する精霊の種類や精霊の強さによって、魔法の種類や威力、効果範囲なども変化するらしい。


「ただ、この魔法は精霊に愛されているものしか行使できません。精霊に愛されていないということは、契約することもできませんからな」


 マガレスが言うには、精霊魔法を行使するためにはこの世界の裏側、別次元のような場所にいる精霊を召喚魔法で呼び出さないといけないのだが、精霊に愛されていないといくら呼んでも出てこないのだとか。仮に出て来たとしても、契約することができなかったり、無理やり契約しようとすると殺されたりするらしい。

 亜人族はとても精霊に愛されやすく、その次に愛されているのは人族らしい。なので人族によっては精霊使いといった者もいるみたいだ。

 逆に獣人族はあまり愛されておらず、魔族に至ってはとても嫌われているらしい。なので精霊魔法を扱える者がいないんだとか。


「その、適正とかはどうやって分かるんだ?」

「こちらに、自身の適性が判明する水晶を用意してあります。これに触れるだけで、水晶が触れた者の魔力を吸収して読み取り、自身の適正だけでなく、どのようなスキルを習得しているかも判明します。………………この水晶を作るのに、私がどれだけ苦労したか。寝る時間を減らし、食事も最低限。我が身を削る思いで妻と愛し合う時間も減らし、やっと完成した試作品は『勇者』の騒動で試すことが出来ず、ようやく実験に入れることの喜」

「ちょっと待てマガレス。それはつまり、今まで誰も試したことはないって意味だよな?…………いきなり使って大丈夫かそれ?」

「大丈夫でしょう。レン殿は『勇者』と同じ異世界人ですから」

「そう思うなら俺の目を見て言え」

「……………水晶を持ってきますゆえ、少々お待ちを」

「あ、おいっ」


 脱兎のごとく別室へ消えていったマガレス。その姿を見て不安に駆られる。試作品ほど怖いものはない。だが、今はそれに頼らざるを得ないので仕方ない。

 そう言えば、ユーグはどうなのだろう? ふと気になったので聞いてみる。


「ユーグはどの属性に適性があるんだ?」

「あまり知られるのはよくありませんが………。」

「あ、そっか。よく考えたらそうだよな。悪い」


 どの属性に適性があるのか知られるのは、手の内が知られるのと同じだろう。そう思い至ったからそう謝った。


「いえ。レン様は私の護衛対象ですので、知っておいた方が何かと都合がいいと思いますので、あらかじめ教えておきます。私の適性は風のみです」


 と、あっさり教えてくれた。いや確かに知っておいた方がいざって時に連携とか取りやすいかもしれないけど………そんなにあっさり教えていいの?


「はい。レン様は信用に値しますので」

「いや、何故心読めたし!」

「レン様は、ご自分が思っているより、わかりやすいです。」


 と、からかい混じりの笑みでユーグは言う。よく渚や深雪にも考えてることが読まれるが、そんなにわかりやすいの? 俺。


「はい。わかりやすいです」

「またかよっ!」


 そしてユーグがくすくすと笑う。その表情に俺はなんとも言えない気持ちになる。


 そうこうしている内にマガレスが戻ってきた。俺とユーグが親しげなのを見てニヤニヤしている。ユーグは恥ずかしかったのか、頰を赤らめている。可愛い。


「これが私の知恵と努力を振り絞り作り上げた、鑑定水晶です。これに触れ“我が力を記せ”と詠唱することで、水晶に適正属性、スキルが表示されます。さぁどうぞ!!!」


 マガレスが少し興奮しているのか、鼻息が荒い。力強く机の前に出された水晶を見る。

 まぁ俺も、ファンタジーの醍醐味である魔法を使えることに憧れがあるので、少し興奮している。一体どんな魔法が使えるのか、楽しみだ。水晶に手を乗せ詠唱する。


「“我が力を記せ”」


 すると、水晶に触れている部分から、何かが流れ出る感覚を覚えた。何だろう、この感覚を表す言葉が見るからない。おそらくこれが魔力なのだろう。この感覚には早く慣れるようにならないと。これからの戦闘で役に立ちそうだ。

 そう思っていると、ついに水晶に文字が表示された。


=====

黒鉄蓮 十七歳

性別:男 

称号:異世界人

魔法適正:なし

スキル:言語翻訳・魔力操作

=====


「……………はっ?」


 目を擦る。深呼吸してもう一度見ても、水晶に表示された文字は何も変わらず。思わず後ろで硬直しているマガレスに尋ねる。


「マガレス? これ壊れてるんじゃ?」

「いえ、そんなはずはありませんぞ。それに、試作品といえど、すでに一度私が使い、しっかりと適正属性、スキルも表示されました」

「…………つまり?」

「……………………レン殿には魔法適正がないとしか…………」

「……あ、あんまりだろぉぉ……」


 

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